パンデミー・間パンデミーインフルエンザのサーベイランスに関する調査研究

文献情報

文献番号
199900460A
報告書区分
総括
研究課題名
パンデミー・間パンデミーインフルエンザのサーベイランスに関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
根路銘 国昭(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 吉川堯(北里大学)
  • 冨樫武弘(札幌市立札幌病院)
  • 稲松孝思(東京都老人医療センター)
  • 鈴木重任(東京都立衛生研究所)
  • 杉田繁夫(日本中央競馬会総合研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
インフルエンザ疾患は、多角的な視点からの研究活動の着手が最も求められている重要な課題である。新型ウイルス対策は、本格的な流行の前にウイルスを先行捕捉し、ワクチン生産への道のりを短縮することが重要で、その為のサーベイランス活動と、ヒトとトリウイルスの遺伝子再集合の確認が大切である。本研究はインフルエンザ対策のあり方を血清情報、ウイルス流行状況調査、遺伝子構造の解明、ウイルス進化機構の解明、ウイルス変異と脳症・脳炎との関係、流行被害の実体並びにインフルエンザワクチンの利用についての情報と知見を総合的研究結果から収集し、より実効ある方法によって確立する為に実施する。
研究方法
血清疫学的調査は各年齢層の血清を集め、A/ソ連、 A/香港、B型各3株計9株の抗原を用いて10地研で実施した。ウイルスサーベイランスは各地研でウイルス分離及び初期の抗原同定を実施した。遺伝子構造の解明はRT-PCR法で塩基配列を調べた。インフルエンザ脳炎モデル系を利用した脳炎発症機構の解明はH7N2ウイルスをマウスの鼻腔内に自然感染させ、各臓器についての病理学的調査も行った。高齢者におけるワクチンの効果は東京都老人医療センターで実施し、超過死亡等の調査はインフルエンザ及び肺炎死インフルエンザ様患者数等をウイルス分離数と比較解析し、更にインターネット上で利用できる進化ソフトの開発を行った。
結果と考察
①抗体分布調査はA/ソ連型:A/北京、変異株のA/石川に対し全体的に極めて低い結果が出た。A/香港型:A/シドニーに対する全年齢層の高い抗体水準の推移は過去2シーズンの実績を反映した。B型はB/山梨、B/ 高知に対し5-19才の年齢層が30-50%の割合で予防水準抗体を持っていたが、ワクチン株B/山東に対しては全年齢層で抗体保有者が少なかった。②1999年10月にA/香港型ウイルスの分離でスタートした1999/2000シーズンは、A/ソ連とA/香港型が混合流行しA/ソ連型が主役になる珍しいパターンを示した。A/ソ連型の抗原性はA/北京とA/New Caledoniaと高く反応するものが多くを占めた。A/香港型は圧倒的にA/シドニー株に高く反応するものが多かった。B型はB/Yamanashi様のもの、国際標準株のいづれとも低く反応する株も国内外で分離された。③A/ソ連型は遺伝学的に多様性を特徴とし、B型は更に大きく分化した。④重症度を指標にした場合H3N2、B、H1N1という順にリスクが高かった。⑤B型ウイルスの変異機構は約40年を周期にHA分子の安定化を計りNA、M、NS遺伝子間の激しい遺伝子交換に特徴づけられ、1940-98年の20株の3つのポリメラーゼ遺伝子の塩基配列を決定しその進化機構を明らかにした。⑥H5N1ウイルス6株の48本の遺伝子配列を決定し、HAとNA遺伝子は2グループに分かれ、6本の内部遺伝子において2-3の系統に分かれていることを明らかにし、6ウイルスのPB2、PA、NP、Mタンパクの中に人間特有のアミノ酸が含まれていることも明らかにした。⑦H7N3ウイルスはマウス鼻腔内感染で気管支粘膜の壊死、気管支周辺に細胞逡巡とウイルス抗原の分布が確認され、早期の血清療法は肺炎と脳炎の発生を阻止した。⑧HK156ウイルスは継代をMDCK細胞から発育鶏卵へ変えると急に病原性が低下する。脳炎の発症は、HAの211、PB1の456と712、PAの631、NPの127、NS1の101番目のアミノ酸の変化に関係していた。⑨1994-99年の北海道における脳症発生の追跡調査で64例が発生し、その内死亡者28
例、後遺症が13例とハイリスクが明らかとなり、血管内細胞の障害と脳炎との関係も示唆した。⑩ウイルス進化系統樹と抗原分析成績を相同させたソフトが作られた。⑪日本におけるインフルエンザ危害を1964-65シーズンに遡り1997年までのデーターを解析しその死亡人口の発生を明らかにした。⑫インフルエンザワクチンの老人への接種は1回で予防水準の抗体産生が得られ、特養施設等の接種率が50%を超えた時その効果が認められた。
結論
1999年4-8月に採取した血清の年齢別抗体分布調査は次シーズンの予測に有効な手法である。1999-2000シーズンの主流行ウイルスはA/ソ連型のA/北京様あるいはA/New Caledonia様株、随伴してA/香港型のA/シドニー様株が流行した。A/ソ連型の進化学的解析はA/北京/95から大きく進化し、A/香港ではA/シドニーから変異したA/Moscow/10/98様変異株が多数分離された。ウイルスの型による重症化の比較調査ではA/香港、 B、A/ソ連型の順になっていた。B型ウイルスの特徴的進化機構が解明され、HA分子に加え3つのポリメラ-ゼ遺伝子の機能的制約に関連した協調進化並びにNP、M、NS遺伝子間の遺伝子再集合が解明された。H5N1ウイルスは進化学的に多様性を示すウイルス群が18名のヒトに感染し、PB2、PB1、PA、NP、M、NS遺伝子は2-3の進化系統に区分され、ウイルス間で激しい遺伝子交雑を起こしていた。H7N3ウイルスはマウスで間質性肺炎を示し鼻腔からの自然感染で脳炎像を起こし、早期の血清療法はこれを救い、ワクチン接種は脳炎発生を食い止めた。H5N1ウイルスの脳炎誘導はHAの211、PB1の456と712、PAの631、NPの127又はNS1の101番目のアミノ酸の全てか一部の変異によって支配されていた。小児におけるインフルエンザ脳症の発生は、北海道における調査で死亡率43.8%、後遺症発生率20.3%であった。アミノ酸置換に伴う立体分子機構変化と抗原変異との関係が追跡できるソフトを開発した。日本における超過死亡の実体像を解明し、約12,000人が1シーズンの冬期に死亡していた。特老養護施設におけるインフルエンザの流行は高死亡発生率につながり、同施設等のワクチン接種率50%あたりから有意義な効果が認められ、接種回数は、一回で十分であることが初めて明らかとなった。

公開日・更新日

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