診療施設間医療情報交換の実装に関する研究

文献情報

文献番号
199900059A
報告書区分
総括
研究課題名
診療施設間医療情報交換の実装に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
木村 通男(浜松医科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成11年4月に、診療録の電子保存に関する通達が出て、今後、診療録内容を電子的に保持する施設が増加すると考えられる。その状態で、各施設バラバラな形式での処理が行なわれると、バベルの塔の如き状態となり、情報の交換が困難になってしまう恐れがある。幸い本邦にも、HL7、DICOMといった医療用規格が定着しつつあるので、これらの利点を目に見える形で実現する。患者紹介時の診療情報交換は、定められた様式により行われている。まれに 検査結果、出力票が沿えられていることもあるが、ほとんどの場合、手書きで詳細まで記入されている。診療中の手作業であるから、必然的に、その情報量は十分なものにはなりにくい。病院情報システムには処方内容、検査結果が電子的に保存されているので、これを電子的に交換できるようにする。画像を含む逆紹介などでは、患者が紹介状とともにフィルムを運ぶことも多く、患者の負担となっているとともに、診療施設におけるフィルムの散逸の原因ともなっており、画像データについても電子的に交換できるようにする。これらの電子的な診療情報の交換において、データの書式だけでなく情報の粒度の整合性についても留意することで、受け側での単なる表示だけではなく、データベースへの入力を可能とし、患者の一貫した病歴の蓄積の基盤となるようにする。
研究方法
診療情報提供紹介状・逆紹介状を基本に置き、付随する検査結果、処方歴、画像、各種レポートなどとともに、診療施設間で電子的情報交換を行うための方式を開発した。まずは、上記各要素を表現するためのデータ形式において、HL7、DICOM等の普及している規格についてはその利用のガイドラインを示し、専用の規格が適切と考えられるものについては、独自に定義を行った。次に、上記データ形式の有効性を検証するため、実際の病院情報システムを使って業務の流れの中で、簡単に電子化紹介状を作成するためのエディタを開発した。一方、作成された電子化紹介状を、受け取った診療施設側で表示するためのパソコン上で動作するブラウザを開発した。また、本研究は、個人情報を含む保健医療福祉情報のプライバシー保護等を確保することも含めた情報伝達(情報交換)の方法を目的として行った。研究推進に当たって人や動物等を直接対象とすることは、無かったため、倫理面における新たな問題を発生することはなかった。
結果と考察
まず、診療情報提供紹介状を電子的に作成するシステムを、NEC社製病院情報システムPC-ORDERING97に作成することができた。具体的には、臨床検査結果と処方内容とは病院情報システムから得て、どの部分を添付するかを定め、HL7形式でファイルを作成した。画像は、放射線画像機器からデータをDICOM形式で受ける、病院情報システム上の画像ブラウザから DICOM形式でファイルを作成した。紹介状の他の項目については、患者名など病院情報システムが持っているものは当然自動でインポートされ、残余のもの、例えば「紹介目的」などはキーボード入力を必要とする。次に、この形式に準拠した電子的紹介状を見るブラウザも作成した。OSがWindowsであってもMacintoshであってもよいように、プログラム言語Tclでほとんどの部分は書かれ、不足部分はC++によった。プログラムのサイズは200KB程度であり、大きい画像がない限り、紹介状データとともに1枚のフロッピーに入る。平成11年11月の医療情報学連合大会のデモセッションにおいて、これらの間での情報交換の実験がなされ、問題なく情報が伝達された。病院情報システム側では、画像を含まないものはフロッピー上に数秒で作成され、画像を含む場合は、CDをその場で書き込んだので、2分ほどかかった。そのデモセッションでは、同じMERIT-9形式による、東京大学製
のブラウザにも情報を伝達した。これはJavaで書かれたもので、画像は扱えないものであるが、150KB程度のものであり、問題なく紹介状書面、検査結果、処方内容を表示した。実装実験にあたって、興味深い問題が浮き彫りになった。病院情報システムは当然初診当初からの検査結果、処方内容を持っている。さてこの処方内容を電子媒体で渡すとき、処方内容全履歴を渡すべきか、やはり何らかのサマリーにして渡すべきかということである。前者は紙媒体では不可能であったことであり、これを見やすくするのはブラウザの機能による、という考え方である。一方後者は、紹介状作成者が何らかの考えに基づいてサマリーとしたものを、そのまま渡すという考え方である。臨床運用で考えるならば、状況によって、どちらも有用と考えられるので、それを受け入れると、この紹介状に記された処方内容は、全履歴なのかサマリーなのか、という情報を別途渡さなければならない。
結論
クライアント-サーバ化されているため、また、HL7などが普及してきたため、病院情報システムにMERIT-9形式紹介状作成機能を持たせることが可能であった。また、その紹介状を見るブラウザも作成され、問題なく診療情報が伝達された。大きな画像がなければ、ブラウザと込みで1枚のフロッピーディスクに入るが、そのことは病院と診療所との連携を考えた時に有用である。折しも、厚生省から(財)医療情報システム開発センターへの委託事業として、診療情報交換データ項目セットの開発が同時におこなわれていた。今後はこの基盤が広がっていくと考えられるため、 MERIT-9紹介状形式もこの項目セットに使われている名称とすり合せていく必要があるであろう。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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