文献情報
文献番号
201926003A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの吸入曝露によるヒト健康影響の評価手法に関する研究- 生体内マクロファージの機能に着目した有害性カテゴリー評価基盤の構築-
課題番号
H29-化学-一般-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
相磯 成敏(独立行政法人 労働者健康安全機構 日本バイオアッセイ研究センター 病理検査部)
研究分担者(所属機関)
- 大西 誠(独立行政法人労働者健康安全機構 日本バイオアッセイ研究センター)
- 高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
- 石丸 直澄(徳島大学大学院 医歯薬学研究部 口腔分子病態学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
10,754,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
工業的ナノマテリアルの開発と産業応用が急速に進む中、製造者、使用者の健康被害を防止するための規制決定に必要となる基礎的かつ定量的有害性情報が得られる評価法の構築が必要とされており、国際的に通用する高効率な有害性スクリーニング手法を開発に繋げる目的で、マクロファージ(Mφ)の胞体内でのナノマテリアル蓄積様式と、それによって誘発される肺病変を関連付けたナノマテリアルのカテゴリー評価の基盤整備に資する情報の収集をおこなった。
研究方法
肺胞Mφよるナノマテリアルの貪食において、Mφの胞体内で想定される異物の蓄積様式を「長繊維貫通型(長繊維がMφの胞体を貫く)」、「毛玉状凝集型(繊維がMφの胞体内で毛玉状に凝集)」及び「粒状凝集型(Mφの胞体内で粒状に凝集)」の3つに分類すると、それぞれの蓄積様式によってFrustrated phagocytosisの程度が異なると予測した。
そこで、3種類の異物の蓄積様式のモデルナノマテリアルを吸入曝露したマウスの肺を、肺負荷量、免疫機能及び病理組織学的に解析して、ナノマテリアルの有害性カテゴリー評価に資する情報を収集した。モデルナノマテリアルとして「長繊維貫通型」にMWNT-7、「毛玉状凝集型」にMWCNT-N、「粒状凝集型」にTiO2(AMT600)を選定した。TiO2は粒状、MWNT-7とMWCNT-Nはともに繊維状の多層カーボンナノチューブ(MWCNT)で、吸入曝露実験には原体を分散処理したものをエアロゾル化して用いた。TiO2(AMT600)は粒子径約30nmの一次粒子と、一次粒子が凝集した二次粒子が混在する。分散化処理したMWNT-7は繊維の長さは長短様々で、繊維幅もナノサイズのものからサブミクロンサイズのものまで様々で、単離繊維とそれらが密に絡まった粗大な凝集体が混在する。MWCNT-NはMWNT-7よりも細い長繊維で、単離繊維とそれらが緩やかに絡まった凝集体が混在する。吸入曝露実験は、C57BL/NcrSlc雄性12週齢マウスに、2hr/day/week、5週間(合計10時間)の間歇全身吸入曝露で行い、曝露終了日(0週)、1、4週及び8週後に解剖を行って得たサンプルを、組織負荷量の測定、免疫機能評価、病理組織学的評価の各分担研究で解析した。組織負荷量の測定では肺と縦隔組織中に含まれる検体量を測定した。MWNT-7とMWCNT-Nについては、Benzo[ghi]perylene(BgP)をマーカーとした蛍光強度を高速液体クロマトグラフ(HPLC)で、TiO2は冷凍保存した組織を強酸で溶解して原子吸光で測定して、いずれも検量線から検体の組織内沈着量を求めた。免疫機能評価では、BALFリンパ球表面マーカーのフローサイトメトリー解析、BALF細胞と肺組織をセットにした遺伝子発現解析、BALF中の各種サイトカインのマルチプレックス解析を行った。病理組織学的評価では、気道内に吸引された検体の人為的移動を避けた灌流固定と、気道を介し肺内に固定液を注入した浸漬固定の二通りの方法で固定した肺について病理組学的検査行った。また、BALF塗抹細胞と肺組織の詳細観察(油浸対物レンズ100x)で撮影した画像をデジタル拡大してサブミクロンレベルの形態学的検索を行った。さらに肺から縦隔への検体の移行を形態学的に検索した。
そこで、3種類の異物の蓄積様式のモデルナノマテリアルを吸入曝露したマウスの肺を、肺負荷量、免疫機能及び病理組織学的に解析して、ナノマテリアルの有害性カテゴリー評価に資する情報を収集した。モデルナノマテリアルとして「長繊維貫通型」にMWNT-7、「毛玉状凝集型」にMWCNT-N、「粒状凝集型」にTiO2(AMT600)を選定した。TiO2は粒状、MWNT-7とMWCNT-Nはともに繊維状の多層カーボンナノチューブ(MWCNT)で、吸入曝露実験には原体を分散処理したものをエアロゾル化して用いた。TiO2(AMT600)は粒子径約30nmの一次粒子と、一次粒子が凝集した二次粒子が混在する。分散化処理したMWNT-7は繊維の長さは長短様々で、繊維幅もナノサイズのものからサブミクロンサイズのものまで様々で、単離繊維とそれらが密に絡まった粗大な凝集体が混在する。MWCNT-NはMWNT-7よりも細い長繊維で、単離繊維とそれらが緩やかに絡まった凝集体が混在する。吸入曝露実験は、C57BL/NcrSlc雄性12週齢マウスに、2hr/day/week、5週間(合計10時間)の間歇全身吸入曝露で行い、曝露終了日(0週)、1、4週及び8週後に解剖を行って得たサンプルを、組織負荷量の測定、免疫機能評価、病理組織学的評価の各分担研究で解析した。組織負荷量の測定では肺と縦隔組織中に含まれる検体量を測定した。MWNT-7とMWCNT-Nについては、Benzo[ghi]perylene(BgP)をマーカーとした蛍光強度を高速液体クロマトグラフ(HPLC)で、TiO2は冷凍保存した組織を強酸で溶解して原子吸光で測定して、いずれも検量線から検体の組織内沈着量を求めた。免疫機能評価では、BALFリンパ球表面マーカーのフローサイトメトリー解析、BALF細胞と肺組織をセットにした遺伝子発現解析、BALF中の各種サイトカインのマルチプレックス解析を行った。病理組織学的評価では、気道内に吸引された検体の人為的移動を避けた灌流固定と、気道を介し肺内に固定液を注入した浸漬固定の二通りの方法で固定した肺について病理組学的検査行った。また、BALF塗抹細胞と肺組織の詳細観察(油浸対物レンズ100x)で撮影した画像をデジタル拡大してサブミクロンレベルの形態学的検索を行った。さらに肺から縦隔への検体の移行を形態学的に検索した。
結果と考察
肺負荷量と病理組織学的な解析結果から各モデルナノマテリアルの吸入曝露実験では肺に急性炎症を惹起させない低負荷量域の曝露が行われたことが示された。肺負荷量の測定、免疫機能評価、病理組織学的評価及びBALF塗抹細胞形態学的検索の多面的な解析によって、肺胞Mφによる異物処理は、これまで想定されていたMφ単独での処理とは異なり、処理の対象となる異物の形状や大きさ等の物理学的性状に応じて肺胞Mφが効率的な集団を行い、粒子状のものが曝露されるTiO2と、分散した単離繊維とその凝集体が曝露されるMWNT-7やMWCNT-Nでは肺内での肺胞Mφによる処理様式が異なること、さらに、繊維状のMWNT-7とMWCNT-N においても、“太さ”や“柔軟性”の違いによって肺胞Mφによる処理方式が異なる様子を捉えることができた。本研究は低負荷量域の曝露で行ったものであるが、肺毒性発現量まで肺負荷量を増やした曝露や、ナノマテリアル以外の粉塵の曝露での肺胞Mφの挙動と、それによる肺組織の反応を考える上での基礎的な情報になると考えられる。
結論
本研究では、3種類の異なる物理化学的性状を示すナノマテリアルについて肺に炎症性変化を起こさない低負荷量域での有害性のカテゴリー評価の基盤となる情報を収集することができた。今後、吸入曝露による毒性発現量における研究での情報収集が必要と考える。
公開日・更新日
公開日
2020-11-19
更新日
2020-12-14