エビデンスに基づいた転倒予防体操の開発およびその検証

文献情報

文献番号
201923006A
報告書区分
総括
研究課題名
エビデンスに基づいた転倒予防体操の開発およびその検証
課題番号
H30-労働-一般-002
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
松平 浩(東京大学医学部附属病院22世紀医療センター 運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座)
研究分担者(所属機関)
  • 岡崎 裕司 (独立行政法人労働者健康安全機構 関東労災病院)
  • 高野 賢一郎(独立行政法人労働者健康安全機構 関西労災病院 治療就労両立支援センター)
  • 藤井 朋子(東京大学医学部附属病院22世紀医療センター 運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
2,282,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生労働省の統計によると労働災害中、転倒災害の割合が最も多く、設備改善、教育、転倒等災害リスク評価が進められてきた。しかし、加齢に伴う筋力やバランス機能の低下は転倒のリスク要因であり、人口の高齢化が進む中、転倒災害の特に高年齢労働者の占める割合が増してきており、個人の身体機能にアプローチする転倒対策は重要であると考えられる。しかし、転倒予防体操に関しては、どのようなメニューが適切なのか明確化されておらず、転倒予防も念頭に置いた現場での体操実践は浸透していない。本研究は、産業衛生や整形外科、リハビリテーション分野の専門家が文献的エビデンスもふまえて転倒予防体操を開発、普及することを目的とした。
研究方法
本年度は転倒予防体操プログラムの確定、効果検証、普及・啓発を行った。
 体操のメニューは、肩関節、肘関節、手関節、股関節、足関節の可動域向上のための動き、腸腰筋、アキレス腱ストレッチのためのランジ、体重移動のための4方向へのランジ、猫背改善のための胸郭やハムストリングのストレッチ、下肢筋力強化のためのスロースクワット、腰痛予防のためのこれだけ体操、バランス能力向上のためのつま先立ちと片足立ち、骨粗鬆対策として踵骨への刺激のための踵おとしとした。実施しやすいよう動作の順序を決め、体操を完成させた。オリジナルの楽曲を制作し、デモンストレーション動画と解説書を作成した。動画を企業の健保組合職員や一般市民の方などに観てもらい、その感想を考慮して動画の修正を行った。
 複数の企業で転倒予防体操を3ヶ月間実施し、前後でアンケート調査と身体機能テストを行った。アンケートの項目は過去1か月の転倒歴とつまずきの経験、自覚的腰痛、肩こり、膝痛などである。身体機能テストの内容は2ステップテスト、閉眼片足立ち時間、立位体前屈、座位ステッピング、片脚立ち上がりである。実施後のアンケートでは体操への参加率、体操の難易度、体操に対する感想も聞いた。
結果と考察
覚えやすいように各動作に名前をつけ、動作のポイントや注意点を4分間の動画の画面に加えた。各動作の実施方法と注意点についての詳細な解説書を作成した。動画のテロップの文字数や大きさ、画面全体の明るさ、動作が分かり難い箇所などについての感想を参考に動画の再撮影を行い、修正を加えた。
 前後評価の両方が終了した2社の従業員23名(男性13名:50.7±10.5歳、女性10名:42.2±9.0歳)で、体操実施前後で1か月間に転倒のヒヤリハットがあったのは78%から70%、転倒は9%から17%であったが有意差はなかった。身体機能テストの5段階の判定が2ステップテストは平均2.32から2.82(p=0.045)、片脚立ち上がりテストは平均3.86から4.55(p=0.010)と統計的有意に改善した。参加者の約78%が「体操継続を希望する」と回答した。また、製造業の従業員27名(45.0 ±10.2歳、女性7名)でも体操実施前後で2ステップテスト(3.3 ±1.2→3.9 ±1.0, p=0.003)と片脚立ち上がり(3.6 ±1.6→4.1 ±1.3, p=0.023)の5段階判定に統計的に有意な改善を認めた。
 新型コロナウイルスの感染拡大により、テレワークによる運動不足や長時間の不良姿勢による影響が予想されたため、体操動画のインターネット上での公開を開始した。
 体操実施前後に評価を行うことが出来た人数は多くは無いが、一貫して2ステップテストと片脚立ち上がりテストに改善がみられた。2ステップテストは、運動器症候群のチェックにも用いられており、歩行速度との相関も報告されている。転倒予防体操を行うことにより下肢の関節可動域や下肢、体幹の筋力が向上することが示唆された。転倒やつまずき事象については、今後より長期間の観察による検討が必要である。
 体操の難易度についても、回答者のほとんどが「ちょうどよい」か「やや簡単」、「やや難しい」と答え、8-9割の参加者が体操を今後も継続したいと回答した。本体操プログラムの難易度はおおむね適当で、受け入れもよいと考えられた。しかし運動による介入は継続が大きな障壁であり、職場体操として一貫して継続できるか、身体機能、身体症状、転倒事象や労働生産性に変化があるか、より長期的な検討が必要である。
結論
文献的エビデンスと専門家との協議に基づき、腰痛対策も加味した転倒予防体操を開発し普及のためのツールを作成した。体操実施により2ステップテストと片脚立ち上がりテストの結果が改善し、下肢の関節可動域向上や筋力強化につながったと考えられた。労働者の転倒の個人要因への介入を目的とした転倒予防体操の普及が、身体機能の向上に有効である可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2020-05-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-05-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201923006B
報告書区分
総合
研究課題名
エビデンスに基づいた転倒予防体操の開発およびその検証
課題番号
H30-労働-一般-002
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
松平 浩(東京大学医学部附属病院22世紀医療センター 運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座)
研究分担者(所属機関)
  • 岡崎 裕司 (独立行政法人労働者健康安全機構 関東労災病院)
  • 高野 賢一郎(独立行政法人労働者健康安全機構 関西労災病院 治療就労両立支援センター)
  • 藤井 朋子(東京大学医学部附属病院22世紀医療センター 運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生労働省の統計によると労働災害中、転倒災害の割合が最も多く、設備改善、教育、転倒等災害リスク評価が進められてきた。しかし、加齢に伴う筋力やバランス機能の低下は転倒のリスク要因であり、人口の高齢化が進む中、転倒災害の特に高年齢労働者の占める割合が増しており、個人の身体機能にアプローチする転倒対策は重要であると考えられる。しかし、転倒予防体操に関しては、どのようなメニューが適切か明確化されておらず、現場での体操実践も浸透していない。本研究は、産業衛生や整形外科、リハビリテーション分野の専門家が文献的エビデンスもふまえて転倒予防体操の新プログラムを開発、普及することを目的とした。
研究方法
1) 転倒対策としての職場での体操の実施状況について、建設業(n=11)、小売業(n=10)、保健衛生業(n=18)の39の事業所および、製造業に従事する950人を対象に調査を行った。JFEスチール西日本製鉄所での体操の実施状況、転倒予防効果について調べた。
2) 労働者の転倒リスクの個人要因、介入研究や職場での体操等による介入事例について文献検索を行った。
3) 専門家の協議により、腰痛予防も加味した転倒予防体操の新プログラムと普及のためのツールを作成した。
4) 体操を労働者に3か月行ってもらい、新プログラムの実行可能性や効果を検討するために、前後でアンケートと身体機能テストを行った。

結果と考察
1) 転倒防止を目的とした体操の実施率は事業所レベルでの調査で5%、製造業の個人レベルでの調査でも5%以下と低かった。JFEスチールでは職場体操導入以降、腰痛が減少し、50歳以上の転倒も減少傾向がみられていた。
2) 労働者の転倒リスク要因としてはバランス能力や歩行機能の重要性が報告されていた。介入研究の内容は、片足立ち、つぎ足、スクワット、カーフレイズなどで、介入後バランス能力や歩行速度の改善が見られていた。職場での体操メニューは、肩の可動域運動、四肢のストレッチ、片足立ち、腿上げ、つま先立ち、踵立ち、スロースクワットなどであり、転倒やヒヤリハットが減少したと報告されていた。
3) 転倒予防体操のメニューは、肩関節、肘関節、手関節、股関節、足関節の可動域向上のための動き、腸腰筋、アキレス腱ストレッチのためのランジ、体重移動のための4方向へのランジ、猫背改善のための胸郭やハムストリングのストレッチ、下肢筋力強化のためのスロースクワット、腰痛予防のためのこれだけ体操、バランス能力向上のためのつま先立ちと片足立ち、骨粗鬆対策として踵骨を刺激する踵おとしとした。実施しやすいよう動作の順番を決め、プログラムを完成させた。オリジナルの曲をつけた4分間のデモンストレーション動画と詳細な解説書を作成した。新型コロナウイルスの感染拡大により、テレワークによる運動不足や長時間の不良姿勢による影響が想定されたため、動画のインターネット上での公開を開始した。
4) 前後評価の両方が終了した2社の従業員23名(男性13名:50.7±10.5歳、女性10名:42.2±9.0歳)で、体操実施前後で1か月間に転倒のヒヤリハットがあったのは78%から70%、転倒は9%から17%であったが有意差はなかった。身体機能テストの5段階の判定が2ステップテストは平均2.32から2.82(p=0.045)、片脚立ち上がりテストは平均3.86から4.55(p=0.010)と統計的有意に改善した。製造業に従事する従業員27名(45.0 ±10.2歳、女性7名)でも体操実施前後で2ステップテスト(3.3 ±1.2から3.9 ±1.0, p=0.003)と片脚立ち上がり(3.6 ±1.6から4.1 ±1.3, p=0.023)に統計的に有意な改善を認めた。
転倒予防体操を行うことで下肢の関節可動域や下肢、体幹の筋力が向上することが示唆された。転倒やつまずき事象については、今後より長期間の観察による検討が必要である。
体操の難易度についても、回答者のほとんどが「ちょうどよい」か「やや簡単」、「やや難しい」と答え、8-9割の参加者が今後も継続したいと回答した。本体操の難易度はおおむね適当で、受け入れもよいと考えられた。しかし運動による介入は継続が障壁であり、職場体操として一貫して継続できるか、身体機能、身体症状、転倒事象や労働生産性に変化があるか、より長期的な検討が必要である。
結論
文献的エビデンスと専門家との協議に基づき、腰痛対策も加味した転倒予防体操を開発し、普及のためのツールを作成した。体操実施により2ステップテストと片脚立ち上がりテストの結果が改善し、下肢の関節可動域向上や筋力強化につながったと考えられた。労働者の転倒の個人要因への介入を目的とした転倒予防体操の普及が、身体機能の向上に有効である可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2020-05-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-05-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201923006C

収支報告書

文献番号
201923006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,966,000円
(2)補助金確定額
2,966,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 98,746円
人件費・謝金 0円
旅費 283,600円
その他 1,899,654円
間接経費 684,000円
合計 2,966,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2020-05-20
更新日
-