患者・国民の医療への主体的な参加を促す患者つながりサポートシステムの構築

文献情報

文献番号
201922016A
報告書区分
総括
研究課題名
患者・国民の医療への主体的な参加を促す患者つながりサポートシステムの構築
課題番号
19IA1001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
中島 和江(国立大学法人 大阪大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 北村 温美 (国立大学法人 大阪大学 医学部附属病院)
  • 徳永 あゆみ(国立大学法人 大阪大学 医学部附属病院 )
  • 田中 晃司(国立大学法人 大阪大学 医学部附属病院 )
  • 中川 慧(国立大学法人 大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 清水 健太郎(国立大学法人 大阪大学 医学部附属病院)
  • 猪阪 善隆(国立大学法人 大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 池田 学(国立大学法人 大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 橋本 重厚(福島県立医科大学 会津医療センター)
  • 坂村 健(東洋大学 情報連携学部)
  • 加藤 雅志(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策情報センター がん医療支援部)
  • 蓮 行(国立大学法人 大阪大学 大学院人間科学研究科)
  • 岡田 浩(国立大学法人 京都大学 大学院医学系研究科)
  • 安部 猛(横浜市立大学 附属市民総合医療センター)
  • 滝沢 牧子(国立大学法人 群馬大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
2,310,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
第3回閣僚級世界患者安全サミットにおいて、「統合的で患者中心の医療(integrated, patient-centered care)」を提供する一環として、「患者参加の支援(patient engagement)」を通じて、医療の質・安全の向上に取り組む必要があることが宣言された。本研究は、患者・国民の医療への主体的参加を通じて安全で質の高い医療を実現するために、現在の患者参加の取組み状況、特徴、促進・阻害要因について明らかにし、共同行動の計画立案に資する知見を得ることを目的として行った。
研究方法
2名の海外講師の講義(患者参加の国際的潮流、Shared Decision Makingの全国展開)等により患者参加の世界的動向を把握するとともに、国内の14の患者参加支援の取り組みについてその特徴、課題、促進要因等を分析した。具体的には、①がん対策における患者協働型医療の推進、②患者・家族と医療者との対話推進(NPO架け橋)、③大阪慢性腎臓病対策協議会による腎臓病予防啓発活動、④病院での医療安全への患者参加支援プログラム(阪大病院いろはうた)、⑤膜透析医療におけるShared Decision Makingの推進、⑥薬局薬剤師による生活習慣改善のナッジ、⑦CBR matrixを用いた慢性循環器疾患患者への社会的処方、⑧劇場型の医療者教育、⑨地域医療における血糖値双方向モニタリング、⑩抗がん剤副作用気づきアプリ、⑪がん患者等の支援(特定NPOマギーズ東京)、⑫認知症カフェ、⑬腹膜透析患者によるピアサポート、⑭患者会のピアサポート(阪喉会)の取り組みである。
 さらに、患者参加に関する医事紛争からの教訓(患者側弁護士)及びオープンなデータ連携による患者参加の促進についても分析した。さらに、大阪大学医学部附属病院で治療中の30代~90代のがん(婦人科、消化器外科)、糖尿病、慢性腎不全患者111名を対象として、病気の受容段階や治療の目標設定、患者同士の交流の経験やその有用性等について調査した。
結果と考察
対象とした14の取り組みでは、さまざまなステークホルダーが関わり、多様な患者参加の支援が展開されていた。これらは、①方針決定への参画/対話推進ハブモデル、②健康への関心芽生え促進モデル、③プロフェッショナルとの協働モデル、④ICTによる自己管理支援モデル、⑤地域での専門職や患者との緩いつながりモデル、⑥ピアサポートモデルの6つに類型化された。患者を医療に巻き込むアプローチとしては、従来より知られている「patient activation(患者の活性化)」、「shared decision making (共同意思決定)」に加え、「自己効力感の向上」が見られself-efficacy boostと名付けた。
 阪大病院の患者アンケート調査では、同じ病気の患者同士の交流(ピアサポート)は、患者の不安を軽減し、治療や生活への活力を与える効果があり、また患者はピサポートを求めていることが明らかになった。ピアサポートは、今後の患者参加の支援のあり方を大きく変える潜在能力を有していると考えられた。
結論
このような患者参加を支援する取り組みを推進し持続するためには、①医療者の時間の確保と効率的実施方法の開発、②患者参加の支援に携わる人々の教育と人材育成、③ICTの利活用、④新たなつながり(連携)を形成するためのリーダーシップ、⑤経済的インセンティブや財政的支援、⑥患者参加の支援に携わる人々のモチベーション向上、⑦エビデンスの構築、⑧ボトムアップ活動を支援する制度設計、⑨ピアサポートの発展、⑩情報共有のためのプラットフォームの構築などが必要であることが明らかになった。今後、患者参加の支援の取り組みをヘルスケアシステムの様々な領域において一層推進するには、国や自治体の施策による後押し、第三者機関(認証機関等)の取り組み、学術団体の取り組み、産業界との連携によるイノベーションなどが必要であると考えられた。
 安全で質の高い患者中心の医療の実現のためには患者参加が不可欠である。そのためには、患者参加を支援する多様な「患者つながりサポートシステム」を、さまざまなステークホルダーの協力と連携を得て構築する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2023-09-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-09-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201922016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
従来の患者参加は、病院内の医療安全と医療者患者関係の改善を目指すものであった(患者価値観を反映した治療方針決定、委員会への患者参画等)。本研究は、より統合的にperson-centered careを支援するための多角的な取り組みを初めて体系的に整理し、国、自治体、医療、学術、企業、国民が枠を越え、政策立案、地域ベースの住民啓発、医療者教育、ピアサポート、情報技術の5つの観点から「暮らし」の中で協働することが、住民・患者の求める医療・健康管理への主体的な関わりの促進、継続につながることを示した。
臨床的観点からの成果
各地域・施設の個別性、自律性を重視しつつ、本研究成果で示した具体的で効率的、効果的なノウハウを全国で共有、発展させることで、患者-医療者間の双方向での情報共有と協働型意思決定、病院内だけでなく在宅での医療の質向上と再入院予防、市民の健康管理への意識付けと早期介入による重症化予防、医療と情報へのアクセスが全国で格差なく容易となる環境の実現が促進されると期待される。これらは入院期間減少、合併症予防、ADL維持をもたらし、生命予後改善とQOL改善、医療者のモチベーション向上につながると考えられる。
ガイドライン等の開発
本研究は、医療と自身の健康管理への主体的な関わりを促すための5つの視点(理念)を実装するための具体的なグッドプラクティス例を収集したものであり、単一手法の有効性を検討しガイドラインの作成を目指すものとは性質が異なる。今後、ノウハウが蓄積されることで、より効率的、効果的な住民・患者サポートシステム構築のための指針や多面的な効果指標を示すことが可能となってくると考える。
その他行政的観点からの成果
一部の疾患群や地域に限局した取り組みを拡大するには、枠組みを越えた連携を推進する施策が必要である。具体的には、①診療報酬、認証制度、学会指針等による強い推進力の創造 ②大学と自治体・地域医療の連携による重症化予防を推進するインセンティブの設置 ③住民啓発や技術開発における企業との柔軟な連携 ④住民・患者間のつながりの場作りとその情報プラットフォームの構築 ⑤教育、情報工学を含めた学際的研究支援等である。これらは健康寿命延伸、医療費削減、医療訴訟の減少、全国格差の縮小等に貢献しうると考える。
その他のインパクト
世界的潮流として求められているperson-centered healthcareの具現化のためには、病院の中のみでなく、住民・患者の「暮らし」の中で主体的に健康管理や自身の医療に関わることを可能とする仕組みを5つの視点から構築する必要があること、および、その具体的手法例、取り組み拡大のために必要な支援について示すことができた。これらの新しい住民・患者協働の考え方について、大阪大学医学部附属病院中央クオリティマネジメント部のホームページに掲載し、今後セミナー等で発信していく予定である。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
31件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
28件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
23件
講演23件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Okada H, Johnston K,Nakayama T, et al.
Economic Evaluation of Pharmacists Tackling the Burden of Hypertension in Japan.
Hypertension , 74 , 54-55  (2019)
原著論文2
北村温美, 中島和江.
透析医療におけるSafety-ⅠとSafety-Ⅱ
日本透析医会雑誌 , 34 (3) , 359-367  (2019)
原著論文3
蓮行, 川島裕子, 平田オリザ他
国立大学看護学教育分野に於ける「演劇的手法」の導入に関する実態調査と設計指針の提案
協同と教育 , 16 , 57-70  (2021)

公開日・更新日

公開日
2023-09-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
201922016Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,000,000円
(2)補助金確定額
3,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 987,702円
人件費・謝金 46,500円
旅費 949,348円
その他 326,450円
間接経費 690,000円
合計 3,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2021-11-17
更新日
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