若年成人への栄養・食教育の診断と評価の指標に関する総合的研究

文献情報

文献番号
199800758A
報告書区分
総括
研究課題名
若年成人への栄養・食教育の診断と評価の指標に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
武見 ゆかり(女子栄養大学)
研究分担者(所属機関)
  • 丸山千寿子(日本女子大学)
  • 山本妙子(神奈川県立栄養短期大学)
  • 朝倉隆司(東京学芸大学)
  • 吉田亨(群馬大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣病予防を目的として、20代から40代の若年成人への栄養・食教育にお
ける診断・評価の総合的指標の開発を目的とし、今年度は、身体面(栄養状態)、食物摂
取面、食行動・食態度の面、ライフスタイルとQOL、生活の自己管理能力の形成といっ
た多側面の個別指標(第1案)について、指標間の関連を横断的に検討し、必要性と妥当
性を検討すること。
研究方法
1. 個別指標(第1案)作成:分担班毎に関連文献の収集と分析、既存データの
再解析、地域や職域におけるグループインタビュー等による検討を行い、個別指標(第1
案)を作成した。2. パイロット調査の実施と解析:各分担班から出された個別指標(第
1案)の項目を、グリーンのプリシード/プロシードモデルと足立の「地域の食活動・環
境との関わり」のモデルを基に作成した本研究の枠組みに当てはめ、それぞれの関係を確
認した上で、全班共通でパイロット調査用調査票を作成。その調査票を用いて、東京、神
奈川の2企業の職員、並びに三重県度会郡紀勢町住民検診参加者を対象に、1998年11月
~12月、男性194名、女性117名、計311名を対象にパイロット調査を実施した。身体状況
調査として、東京、三重では、身体計測、血圧、血液生化学検査(総コレステロール、H
DLコレステロール、中性脂肪、総タンパク、アルブミン、ヘモグロビン、AST、AL
T、インスリン、血漿レプチン等)を実施した。神奈川の対象者については、当該事業所
で実施された健康診断データを用いた。
データ入力は主任研究者の下で行い、完成したデータベースを用いて各分担研究者が解析
を実施した。
結果と考察
1.身体面・栄養状態の指標について:身体面で所見がみられた者は、全体の
70%近くに達し、年代が上がるにつれて高い出現率を示した。男性では過栄養性所見を
有する者が3地域とも多く、50~70%を占めた。女性では過栄養性所見と低栄養性所見
の両方がみられた。男性では、BMIは3地域とも、総コレステロール、トリグリセライド
濃度、AST、ALTとの間に高い相関を示した。血漿レプチン濃度は東京、三重で測定した
が、男性で空腹時インスリン濃度、AST、ALT、γ-GTP濃度、トリグリセライド濃度との
間に正相関或いは正相関傾向がみられた。以上から男性では、過栄養性疾患の指標との関
連性を示す肥満の指標として、血漿レプチン濃度を反映するものとしてBMIが適している
と考えられた。女性では、BMIが身体面の他指標と一定の相関を示さず、男女で異なる指
標を用いるべきことが示唆された。
精神健康・主観的健康指標について:QOLの下位尺度の1つとして、精神健康の指標に
GHQ-12(General Health Questionnaire 12項目)を用いたところ、何らかの精神健康
上の問題があると思われる者は38.1%であった。精神健康と主観的健康感(健康度自己
評価)の間には有意な関連がみられた。また、将来の健康不安を有する者は約7割を占め
たが、現在の生活の中での重視項目に「自分の健康」を位置づける者は約5割に過ぎず、
本対象世代の多様なライフスタイル、価値観が明らかになった。精神健康の指標は、QOL
指標の下位尺度としてのみでなく、教育的介入が精神的ストレスにならず、受け入れやす
いものであったか、十分な心理的サポートを伴った介入であったかなど、介入の適切さを
評価する指標としての可能性があることが示唆された。
食物摂取と供給面の指標について:既存データ(1995神奈川県民栄養調査結果)の再解
析の結果、朝食の欠食、昼食のスタイル等によって栄養素摂取バランスが異なり、朝食を
食べる者、有職者では職場給食利用者が良好な傾向を示した。パイロット調査結果でも同
様に、東京、神奈川の職域集団では、昼食が職場給食または自家製弁当の者で、朝食を摂
取しており、食物摂取頻度からみた摂取状況が良好、望ましい食行動に関するセルフエフ
ィカシーが高く、健康度自己評価も良好で、将来の健康不安が少なく、健康問題発生時の
生活調整能力が高いという特徴がみられた。以上から、職域集団においては、昼食のスタ
イル、特に職場給食に注目した評価指標の有効性が示唆された。
食行動・食態度の面の指標について:個別指標(第1案)作成のため実施した東京並びに
埼玉県におけるグループインタビュー(男女別、既婚・未婚別に16グループ、計119名対
象)の結果、本対象世代が生活の中での重視する項目は「健康」よりも「友人や家族との
交流」「仕事」「趣味やレジャー」であり、食行動・食態度の規定要因は、未婚女性であ
れば「美容」、既婚男女にとっては「家族との関わり」が大きいことが明らかになった。
この結果をふまえ、食事満足度、食事づくり、食事の共有、食や健康情報の交換等14項
目からなる「食行動・食態度の積極性尺度(若年成人版)」と、朝食の毎日の摂取、多量
の野菜の摂取、脂肪控える、深夜の飲食控える、栄養表示の利用等13項目からなる「望
ましい食行動に関するセルフ・エフィカシー尺度(以下、食SE尺度)」を考案した。パ
イロット調査の結果、それぞれクロンバックのα係数、0.85、0.80と高い信頼性が得ら
れた。身体所見の有無、主観的健康状態、食事パタン・食物摂取頻度、生活の自己管理能
力の他側面との関連を検討した結果、食行動・食態度の積極性が高い者、食SE得点が高
い者は、他側面においても良好な状態の者が有意に多いことが明らかになり、基準関連妥
当性が示された。以上から、栄養・食教育の診断・評価指標として、食SE尺度は介入直
後の影響評価の指標として、食行動・食態度の積極性尺度は中長期的な態度や行動変容の
指標として有効であるととらえられた。
生活の自己管理能力の指標について:予備調査等をもとに、生活の自己管理能力を測定す
る指標として、個人レベル7指標、家族・帰属集団レベル3指標、職場・地域レベル1指標
を設定し、パイロット調査に盛り込んだ。各指標の妥当性を基本属性、健康、食生活の項
目との関係を検討することで検討し、以下の結果を得た。個人レベルの指標では、「クリ
ティカル・シンキング能力尺度」は介入直後の意識的な実施期の状況を探る指標として利
用可能である。健康問題が生じたときの「生活調整能力」と「問題対処能力」は、基本属
性による影響を受けず、対象者が自信を持って行動変容していることと関連しており、生
活の自己管理能力の包括的な指標として最も利用価値がある。「マスコミ情報接触頻度」
は健康への関心と関連しており、また、「学習参加意欲(教室・活動)」は、健康行動の
実施状況と密接な関連があり、それぞれ生活の自己管理能力の一面を測定できる。家族・
帰属集団レベルの指標として設定した「家族サポート」は、家族との関係を通じて食生活
満足度を高める指標として、「友人サポート」は、友人・仲間からのサポートを得て、健
康不安を弱める能力を測定する指標としてとらえられた。以上から、「生活調整能力」と
「問題対処能力」が、生活の自己管理能力の包括的な指標として最も利用価値があること
が明らかになった。
結論
生活習慣病予防を目的として、20代から40代の若年成人への栄養・食教育におけ
る診断・評価の総合的指標の開発を目的とし、初年度は、身体面(栄養状態)、食物摂取
面、食行動・食態度の面、ライフスタイルとQOL、生活の自己管理能力の形成といった
多側面の個別指標(第1案)について、指標間の関連を横断的に検討し、必要性と妥当性
を検討することを目的とし、分担班毎に個別指標(第1案)を作成し、東京、神奈川、三
重で、1998年11月~12月、男性194名、女性117名、計311名を対象に質問紙調査と身体状
況調査からなるパイロット調査を実施し、以下の結果を得た。
身体面で所見がみられた者は全体の70%近くに達し、年代が上がるにつれて高い出現率
を示し、早期からの栄養・食教育の必要性が確認された。しかし、有所見者の約8割が健
康度自己評価では「健康」と回答、有所見者、未所見者を問わず、将来の健康不安を有す
る者は約7割を占めるにもかかわらず、現在の生活の中での「自分の健康」の位置づけは
低く、本対象世代の多様なライフスタイル、価値観が明らかになった、個別指標としてと
りあげた、精神健康(GHQ-12)、主観的健康感、食物摂取状況(食事パターンと食物摂取
頻度)、食行動・食態度(その積極性やセルフエフィカシー)、生活の自己管理能力(健
康問題対処能力や生活調整能力等)の各側面の指標間には多くの有意な関連がみられ、1
つの側面で良好な状態を示す者は、他の側面でも良好な者が多かった。
従って、栄養・食教育を有効に進めるには、対象者のライフスタイルや価値観との関わり
で、最も変容可能性の高い側面の診断をしてから、個人へのアプローチを進める必要性が
確認された。さらに、個人の行動変容に加えて、食物供給・食物アクセス面等の環境づく
り(ヘルスプロモーション)を含めた、新しい枠組みでの診断・評価の指標の必要性が確
認された。
次年度は、職域において介入を実施し、今年度の結果をふまえて修正した個別指標(第2
案)の有効性と妥当性を縦断的に検討し、多側面の個別指標を下位指標として有する総合
指標の開発を目指す。

公開日・更新日

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