タバコ含有物質による 健康増進に及ぼす影響に関する研究

文献情報

文献番号
199800751A
報告書区分
総括
研究課題名
タバコ含有物質による 健康増進に及ぼす影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
佐竹 元吉(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 西川秋桂(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 川島邦夫(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 山田隆(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
タバコの健康障害に与える影響に関して、これをめぐるWHOの禁煙運動を始め、多くの健康と喫煙に関する考え方がある。これの考え方には科学的成果に基づくものと、研究成果が未だ充分でない部分とがある。近年、問題となっている点は主流煙よりは副流煙による非喫煙者にの健康被害に及ぼす影響である。
タバコの歴史はE.C.Conte Corti のHistory of Smoking (1931) に詳しく書かれている。タバコ属は世界に60から70種あり、主な分布地は南米熱帯地方で、そのほか北米、オーストラリアである。タバコの起源植物は南米で、この種がヨーロッパに持ち込まれて多くの改良品種ができた。成分に関する研究は1763年にタバコからnicotineが単離されてから、多くの成分が分離されている。アルカロイドとしてはacotine, nornicotine, anabasineが主で、その他、anatabine, anatalline, 2.3'-bipyridine,myossmine, nicotelline, nicotyrine,ステロイドアルカロイドとしてnornicotinamide,ジピリジンアルカロイドとして5-methyl-2,3'-bipyridine類がある。クマリン、トリテルペン類、炭化水素、樹脂成分糖類が含まれる。また、タバコ煙の成分として3,000から4,000種の化合物が含有されていると言われているが、その詳細については定かではない。そこで、文献検索により報告されている化合物名の確認を行う。含有成分の生合成に関してはニコチン類のアルカロイドについて研究がなされている。
本研究では、タバコ煙害に関して、未検討のタバコ品種による特異成分や、栽培条件下で混入する恐れのある農薬及び環境汚染物質、加工過程での添加する物質に関して、成分面からの分析を行い、現在の市場品の成分を精査し、これらの成分が喫煙によりどのように変化するかを明らかにすることを目的に研究を行った。
また、喫煙により、これらの化合物が人体に吸収されどのような作用を示すかを検討するためにラットやハムスターなどの実験動物におけるタバコ煙の生体影響を主として生殖毒性及び病理学的な検索を行った。喫煙付加したハムスター及びラットで健康に及ぼす影響を検索する動物実験系を作成するために、5週齢の雄性のラット及びハムスターにハンブルーグⅡ型喫煙曝露装置を用いて、タバコ煙を付加し、血液生化学的及び病理組織学的にする。細胞増殖活性CYP酵素などについて免疫組織科学的に検討する。また、動物に種々の発癌物質を投与しDNA障害性または発癌性に対するタバコ煙の修飾影響について検索する。さらに、WBN/Kobラットの自然発生膵炎に対するタバコ煙の影響を検討する。
今年度はタバコ葉の含有成分の比較及び製品タバコの主成分、タール、添加物の分析を行った。病理学的研究では5週齢の雄性のラット及びハムスターにハンブルーグⅡ型喫煙曝露装置を用いて、細胞増殖活性CYP酵素などについて免疫組織科学的に検討を行った。
研究方法
(タバコ煙の成分)
1)煙の採取
商品名ショートピース及びマイルドセブンの2種類の日本製タバコを用い、4週齢のラット10匹にハンブルーグⅡ型喫煙曝露装置を用いて1日30本ずつ2回に分けて10日間曝露させる。その際、ハンブルーグⅡ型喫煙曝露装置に直径10cm厚さ0.5mmのフィルターをつけて煙を採取した。
2)成分分析
抽出及び分離は主流煙を採取したフィルター1枚をエーテルで抽出した後、1N HCl及び 1N NaOHとCHCl3で分配した。また、主流煙を包縮したフィルターをメタノールで2回室温抽出した後、CHCl3と水で分配し、得られたCHCl3エキスをCHCl3/MeOH系の溶媒を用いシリカゲルクロマトグラフィーを行った結果8個の分画を得た。この8分画を用いてGC-Mass分析をした。
(妊娠と胎児への影響)
妊娠2日のシリアン・ハムスターを購入し、交尾確認日を妊娠0日とした。妊娠ハムスターは固形資料及び水道水を自由摂取させ、プラスチック製飼育ゲージにて個別に飼育した。
ハムスターの妊娠4日から13日まで、午前及び午後の1日2回、ハンブルーグⅡ型喫煙曝露装置を用いてマイルドセブンの喫煙曝露を行った。対照群のハムスターは喫煙群と同時間喫煙曝露装置に保定のみを行った。妊娠14日にハムスターをエーテル麻酔した後、放血致死させ、開腹して胎児に対する影響を調べた。着床数、吸収胚数、生存胎児数及び死亡胎児数を記録した。生存胎児については外表奇形を調べ、体重測定を行った。約半数の生存胎児は骨格検査用にアルコールに固定し、残りの半数の生存胎児は、内部器官の検査用にブアン液に固定して保存した。
両群の生存胎児について外表異常を調べた。喫煙群の3母胎に3例及び対照群の6母胎6例の外表異常を有する胎児が観察された。喫煙群では口蓋裂、内反足、全身性浮腫、肩部血腫を有する胎児がそれぞれ1例認められた。対照群には口蓋裂、外脳症を有する胎児がそれぞれ1例、全身性浮腫、肩部血腫を有する胎児がそれぞれ2例観察され、矮小胎児が2例認められた。これらの異常胎児の発現率には喫煙群と対照群との間に差は認められなかった。
(発癌への影響)
MeIQxおよびフィルターなしの紙巻きタバコ(ショートピース)を用い、3週齢のF344ラットを、1週間順化の後、実験を開始した。MeIQxを基本食オリエンタルMFに300ppmの濃度で混ぜ、MeIQx食とした。喫煙(CS)曝露は、ハンブルーグⅡ型喫煙曝露装置を用いて、1日1回、1回につき曝露時間6分で1週間に7日連続して行った。曝露条件は以前の実験に合わせてタバコ30本、吸入容量35ml、吸入速度17.5ml/秒、CSの希釈率1/7とした。Sham smoking (SS)処置として、実際にはCS曝露をせずに動物を喫煙装置のチャンバー内で同様に6分間拘束した。実験開始から16週後にすべての生存動物を剖検し、病理組織学的に検索するとともに、胎盤型グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST-P)陽性肝細胞巣を定量評価する。
結果と考察
(成分の研究)
(1)GC-Mass
タバコの煙をガラスフィルターに捕集し、メタノールで抽出したエキスをシリカゲルクロマトグラフィーを行い、得られた8検体に対してGC-Mass分析を行った。その結果、主成分であるニコチンを始めメンソール、バニリンなどの香料成分、及び含窒素化合物など167の化合物が検出された。
(2)クロマトグラフィー
HP-20カラムクロマトグラフィー及び1N1N HClとCHCl3にて分配しジエチルアミンを加えたCHCl3/MeOH系の溶媒を用いシリカゲルカラムクロマトグラフィーをおこなったところ、L-ニコチンが単離された。これはNMRにて確認した。
今回発癌性のN-nitirosamines類は検出されなかったものの、カラムや検出方法について検討を行う。
(3)文献による含有化合物の確認
官能基別分類によりタバコ煙中の成分として3696化合物が報告されている。これらの内、同定並びに構造決定された化合物は1000種弱であることが明らかとなった。
(妊娠と胎児にへの影響)
妊娠14日に妊娠ハムスターを開腹し着床数、子宮内胚/胎児死亡率、生存胎児数に喫煙群と対照群との間の差は認められなかった。
妊娠ハムスターの胎児器官形成期に喫煙曝露を行って、タバコ喫煙の次世代の発生に及ぼす影響を検討した。胚/胎児の子宮内死亡数及び死亡率、生存胎児数、生存胎児体重には喫煙群と同時保定のみを行った対照群と差は検出されず、喫煙によると考えられる影響は認められなかった。さらに、外表異常を有する胎児数及び、その発言頻度にも喫煙群と対照群との間に差は見られなかった。以上結果から、今回の実験条件下では妊娠ハムスターの次世代の発生に及ぼす喫煙曝露の影響はなかったものと結論される。
(発癌への影響)
ラットを喫煙させて、実験開始より現在6週間経過したが、死亡例は見られていない。4週後までは各群間に平均体重の差はなく、それ以降CS付加群で若干の体重増加抑制の傾向が見られたが、各群間に有意差は認められていない。摂餌量の推移はCS負荷群で若干の摂餌料低下の傾向が見られたが、各群間に有意差は認められていない。
現在、実験は開始後6週経過後の時点であり、終了まであと10週間を残している。実験終了後に、病理組織学的検索およびGST-P陽性肝細胞巣の解析を行い、MeIQxによる肝発癌性に対するタバコ煙の修飾影響を最終評価する。
結論
成分の研究に関しては3,000種類といわれる煙の成分の中で化合物として構造が確認されたものは約1/3である。未確認化合物の検索と現在の市販タバコ2種の成分検索を行っていて、健康に影響のある成分(ニコチン等)及び含有量の多い成分に関して、測定を行ったところ167種類を検出した。タバコの固有成分のみならず、添加物の喫煙による化学的変化物の同定が不十分であるところから新たな分析方法を検討し、次年度は煙成分以外に市販タバコの含有成分分析を行う。また、室内環境に及ぼす煙成分の分析も実施する。
発癌性に関しては、継続的に喫煙中のため次年度に成果を報告したい。

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