成人眼科検診による眼科疾患の重症化予防効果及び医療経済学的評価のための研究

文献情報

文献番号
201909026A
報告書区分
総括
研究課題名
成人眼科検診による眼科疾患の重症化予防効果及び医療経済学的評価のための研究
課題番号
19FA1010
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
山田 昌和(杏林大学医学部 眼科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 平塚 義宗(順天堂大学医学部 眼科学教室)
  • 川崎 良(大阪大学医学系研究科 脳神経感覚器外科学(眼科学)視覚情報制御学寄附講座)
  • 田村 寛(京都大学 国際高等教育院附属データ科学イノベーション教育研究センター)
  • 中野 匡(東京慈恵会医科大学 眼科学講座)
  • 横山 徹爾(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
  • 高野 繁(公益社団法人日本眼科医会)
  • 後藤 励(慶應義塾大学大学院 経営管理研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
6,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 視覚障害の原因疾患として、緑内障、糖尿病網膜症、黄斑変性、白内障が主要なものであるが、これらは年齢と共に有病率と重症度が増加する慢性変性疾患である。特に緑内障は有病率が高く、初期から中期までは自覚症状に乏しいが、不可逆的に徐々に進行して視覚障害に至る。健康寿命の延伸のために視覚の維持は必須であり、視覚障害の予防、減少のためには緑内障を中心とした慢性眼疾患を早期に発見するための成人眼科検診プログラムが重要と考えられるが、現状では成人を対象とした眼科検診を実施している自治体はごく少数にとどまっている。成人眼科検診及びその後の医療介入によってどの程度眼科疾患の重症化が抑制され、失明者の減少に繋がるかは明らかでなく、医療経済学的な検討も十分になされていない。
 本研究では眼科検診で発見された慢性眼疾患に医療介入を行った場合の効果をマルコフモデルにより検討し、成人眼科検診全体の医学的効果と費用対効果を評価する。眼科検診に緑内障などの重症化を予防し、中途失明を減少する医学的効果がどの程度期待できるか、ICER (Incremental Cost Effectiveness Ratio)を指標とした費用対効果が担保されるかについて検討する。

研究方法
 成人眼科検診の医療経済的効果と医学的効果(失明者を減少する効果)を明らかにするために、緑内障に関する決断分析マルコフモデル(decision-analytic Markov model)を作成して費用対効果評価を行った。モデル作成、分析にはTreeAge Pro 2017を用い、使用したパラメータは可能な限り日本人を対象とした臨床研究データを利用し、該当がない場合は海外のデータを利用した。
 ベースケース分析では成人眼科検診のスケジュールを40歳から5年に1度の頻度で74歳まで行う(最後の検診時の年齢は70歳)とした。眼科検診による失明減少効果をより高めるためには、検診方法の精度の向上と検診スケジュールの設定の2つが考えられる。最適な検診スケジュールを得るために、検診開始年齢、検診終了年齢、検診間隔を動かして、168パターンの検診スケジュールにおけるICERと失明減少率を算出した。また検査内容として眼底写真にOCTを加えた場合、検査の感度と特異度が変化した場合についてもICERと失明減少率の評価を行った。
結果と考察
 ベースケースでの検討結果ではICER (Incremental Cost Effectiveness Ratio) は約330万円/QALYであり、十分に費用対効果的であることが示された。また、検診には失明減少効果(12.3%)や失明期間の短縮、重症化受診者の減少といった効果も見込むことができた。モデルに使用したパラメータの不確実性を検証するために行った感度分析でもモデルに頑健性があることが示された。
 検診方法として眼底写真に光干渉断層計(OCT)検査を加えた場合を検討した結果、眼底写真の検診に対する眼底写真+OCT検診の失明減少率を15.8%増大させる医学的効果があり、ICERは閾値の範囲内であった。OCTによる追加検査費用を考慮しても、眼底検査にOCTを付加する方式の費用対効果は良好であり、失明予防の観点からはOCTを加えた眼科検診が望ましいと考えられた。また、検診開始年齢や間隔、検診終了年齢を変化させ、検診プログラムを検討したところ、検診プログラムによって検診の費用対効果や失明予防効果は大きく変化した。今回の検討では比較的若い年代(40歳)からできるだけ頻回(できれば3-4年に1回)に介入する検診プログラムが費用対効果と失明抑制効果の双方から優れていることが示唆された。感度の高い検診方法(OCTの導入など)によって検診の間隔を拡げても(5年に1回)、同等の費用対効果と失明減少率を得ることができると考えられた。
 以上のように、緑内障を対象とした成人眼科検診についてマルコフモデルを用いたシミュレーションで検討した結果、検診は費用対効果的であり、失明減少効果や失明期間の短縮、重症化受診者の減少といった医学的効果も十分であることが示された。
結論
 成人眼科検診の医療経済学的評価として緑内障に関する解析を行い、その医学的効果と費用対効果について評価することができた。緑内障の検討を通じてモデル作成、パラメータの設定の仕方など方法論を確立できたので、次年度には緑内障以外の3疾患に関する成人眼科検診の医療経済学的評価を行い、最終的には緑内障を含めた統合モデルを作成して成人眼科検診全体の視覚障害予防効果及び医療経済学的評価を行う予定である。

公開日・更新日

公開日
2020-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-09-02
更新日
2021-08-19

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201909026Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,930,000円
(2)補助金確定額
7,930,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,117,635円
人件費・謝金 839,180円
旅費 1,070,540円
その他 2,073,281円
間接経費 1,830,000円
合計 7,930,636円

備考

備考
自己資金636円が発生しました

公開日・更新日

公開日
2021-02-09
更新日
-