小児・AYA世代がん患者のサバイバーシップ向上を志向した妊孕性温存に関する心理支援体制の均てん化に向けた臨床研究

文献情報

文献番号
201908008A
報告書区分
総括
研究課題名
小児・AYA世代がん患者のサバイバーシップ向上を志向した妊孕性温存に関する心理支援体制の均てん化に向けた臨床研究
課題番号
H29-がん対策-一般-008
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 直(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 大須賀 穣(東京大学・大学院医学系研究科)
  • 小泉 智恵(獨協医科大学・埼玉医療センター)
  • 津川 浩一郎(聖マリアンナ医科大学 医学部 )
  • 杉本 公平(獨協医科大学・埼玉医療センター)
  • 野木 裕子(東京慈恵会医科大学・医学部)
  • 拝野 貴之(東京慈恵会医科大学・医学部)
  • 川井 清考(高木 清考)(医療法人鉄蕉会亀田総合病院・生殖医療科)
  • 福間 英祐(医療法人鉄蕉会亀田総合病院・乳腺科)
  • 古井 辰郎(岐阜大学・大学院医学系研究科)
  • 二村 学(岐阜大学・大学院医学系研究科)
  • 高井 泰(埼玉医科大学・総合医療センター)
  • 矢形 寛(埼玉医科大学・総合医療センター)
  • 松本 広志(埼玉県立がんセンター・乳腺外科)
  • 大野 真司(公益財団法人がん研究会・有明病院)
  • 山内 英子(聖路加国際大学・聖路加国際病院ブレストセンター)
  • 木村 文則(滋賀医科大学・医学部)
  • 岡田 弘(獨協医科大学・埼玉医療センター)
  • 西山 博之(筑波大学・医学医療系)
  • 湯村 寧(横浜市立大学・附属市民総合医療センター)
  • 高江 正道(聖マリアンナ医科大学 医学部 )
  • 杉下 陽堂(聖マリアンナ医科大学・医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児・AYA世代のがん患者は、妊孕性喪失に対する多岐・長期に渡る不安と苦悩が強く、不確実性の中で不安と恐怖を有することから、将来の妊孕性温存に関してまで短期間に自己決定しなければならない大変困難な精神状態にある。そこで、がん・生殖医療が展開しつつある我が国においても、心理カウンセリングの質や心理士の精度を向上させる試みが急務であることから本年度も以下の3つの研究を継続して進めた。【研究1】若年成人未婚男性がん患者における精子凍結後の心理教育プログラムの開発、【研究2】若年未婚乳がん患者における妊孕性温存の心理教育プログラム(RESPECT)の開発、【研究3】小児・思春期のがん患者とその親に対する妊孕性温存の情報提供とインフォームドアセントのあり方に関する調査研究。
研究方法
【研究1】若年成人未婚男性がん患者;(1)精子凍結後の心理社会的状況に関する観察研究:若年成人未婚男性がん患者における精子凍結後の精神状態および心理社会的な支援ニーズを明らかにすることを目的とした。がんに罹患した際に精子凍結保存した患者と保存しなかった患者、またがんに罹患したことのない成人男性を対象として自記式アンケートによる観察研究横断的調査を行い、1精子凍結保存を行った患者の精神的健康状態、2精神的健康状態に影響を与える要因、3精子凍結保存を行った患者の心理社会的ニーズに関して検討した。その結果、曝露群は非曝露群に比べて不安・うつ症状やPTSD症状、男性としての自己効力感の喪失が少なくて精神的に健康であったが、妊孕性に対する自己効力感は有意に低かった(2)精子凍結後の心理教育プログラム動画の評価研究:凍結精子の処遇に関して患者自身が医療情報を収集し意思決定していくことが精子凍結の更新や利用の促進に必須であるため、がん治療に際して精子凍結保存をした患者の男性を対象に凍結精子の医療情報とコミュニケーションに関する心理教育動画を開発した。【研究2】若年未婚乳がん患者;若年成人未婚女性を対象とした、妊孕性温存の意思決定に特化した心理カウンセリングを開発し、それによる介入を行い、意思決定葛藤、精神的健康、精神的回復力に対して改善効果があるか否かを、本年度も継続して検討した。【研究3】小児・思春期のがん患者;小児・思春期がん患者に対する妊孕性温存の領域で先進的な医療を提供している欧米の施設への訪問調査や、小児・思春期がん患者を扱う米国の医療者の意識調査を通じて、本邦における小児・思春期がん患者への妊孕性に関する情報提供システムの構築を目的に、実態調査と動画開発を行った。
結果と考察
【研究1】若年成人未婚男性がん患者;(1)精子凍結後の心理社会的状況に関する観察研究:曝露群において妊孕性に対する自己効力感が有意に低かったが、がん経験によって妊孕性に対する不安や機能不全感がある可能性が考えられた。患者が精子を凍結保存する際や凍結更新の時に、自身の困り事を相談できる窓口の設置など、若年成人未婚男性がん患者の妊孕性温存に係わる相談支援体制の構築が必須である。(2)若年成人男性がん患者における精子凍結後の心理教育プログラム動画の評価研究:本研究は、男性がん患者のQOL向上に対し有効に機能する心理教育動画の開発を目指すものであり、具体的知見を提供するという点で意義深い。精子凍結した後すぐにがん治療を受けることが多いため、精子凍結のことに対してゆっくり考える余裕がないかもしれないが、被験者のタイミングで動画を視聴いただいて、のちのち思い出したときに気持ちや考えを整理する一助になればいいのではないかと考えている。【研究2】若年未婚乳がん患者;2019年度は8施設で試験を実施し32症例が参加登録した。有害事象の発生はなく安全に実施できた。【研究3】小児・思春期のがん患者;(1)小児・思春期世代がん患者に対する妊孕性温存に関する動画作成(日本版):本実態調査を通して、日米間の比較を行うことで、本邦における情報提供体制の課題を見出し、改善することが可能であると考えられた。(2)本邦における小児・思春期世代がん患者とその親に対する妊孕性温存の情報提供とインフォームドアセントのあり方に関する調査研究:妊孕性温存の理解を深める内容を含む2つの動画を全国の小児がん拠点病院に啓発し、小児・思春期世代がん患者に対する妊孕性温存に関する意思決定支援の充実が期待される。
結論
小児・AYA世代がん患者のサバイバーシップ向上を志向した妊孕性温存に関する患者のメンタルヘルス改善に関わる人材育成と、さらなるエビデンスの構築の必要性が明らかになった。心理的介入ならびにサポートが行える医療従事者である臨床心理士の本領域の参画が急務である。

公開日・更新日

公開日
2020-11-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2020-11-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201908008B
報告書区分
総合
研究課題名
小児・AYA世代がん患者のサバイバーシップ向上を志向した妊孕性温存に関する心理支援体制の均てん化に向けた臨床研究
課題番号
H29-がん対策-一般-008
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 直(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 大須賀 穣(東京大学・大学院医学系研究科)
  • 小泉 智恵(獨協医科大学・埼玉医療センター)
  • 津川 浩一郎(聖マリアンナ医科大学・医学部)
  • 杉本 公平(獨協医科大学・埼玉医療センター)
  • 野木 裕子(東京慈恵会医科大学・医学部)
  • 拝野 貴之(東京慈恵会医科大学・医学部)
  • 川井 清考(高木 清考)(医療法人鉄蕉会亀田総合病院・生殖医療科)
  • 福間 英祐(医療法人鉄蕉会亀田総合病院・乳腺科)
  • 古井 辰郎(岐阜大学・大学院医学系研究科)
  • 二村 学(岐阜大学・大学院医学系研究科)
  • 高井 泰(埼玉医科大学・総合医療センター)
  • 矢形 寛(埼玉医科大学・総合医療センター)
  • 松本 広志(埼玉県立がんセンター・乳腺外科)
  • 大野 真司(公益財団法人がん研究会・有明病院)
  • 山内 英子(聖路加国際大学・聖路加国際病院ブレストセンター)
  • 木村 文則(滋賀医科大学・医学部)
  • 岡田 弘(獨協医科大学・埼玉医療センター)
  • 西山 博之(筑波大学・医学医療系)
  • 湯村 寧(横浜市立大学・附属市民総合医療センター)
  • 高江 正道(聖マリアンナ医科大学・医学部)
  • 杉下 陽堂(聖マリアンナ医科大学・医学研究科)
  • 西島 千絵(聖マリアンナ医科大学・医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん・生殖医療が展開しつつある我が国においても、心理カウンセリングの質や心理士の精度を向上させる試みが急務であることから本年度も以下の3つの研究を継続して進めた。【研究1】若年成人未婚男性がん患者における精子凍結後の心理教育プログラムの開発、【研究2】若年未婚乳がん患者における妊孕性温存の心理教育プログラム(RESPECT)の開発、【研究3】小児・思春期のがん患者とその親に対する妊孕性温存の情報提供とインフォームドアセントのあり方関する調査研究。
研究方法
【研究1】若年成人未婚男性がん患者における精子凍結後の心理教育プログラムの開発: 1-1「若年成人未婚男性がん患者における精子凍結後の心理社会的状況に関する観察研究」:若年成人男性がん患者(曝露群)の心理社会的状況は、1)健康な同年代の男性(非曝露群)と異なるか、2)曝露群のうち妊孕性温存目的で精子凍結をした人(凍結群)と精子凍結をしなかったがん患者(非凍結群)と異なるか、の2点を明らかにすることを目的とした観察研究をおこなった。1-2「若年成人男性がん患者における精子凍結後の心理教育プログラム動画制作」:がん治療に際して精子凍結保存をした若年がん患者の男性向けの凍結精子の医療情報とコミュニケーションに関する心理教育動画の制作。
【研究2】若年未婚乳がん患者における妊孕性温存の心理教育プログラムの開発:「心理エンパワンメントカウンセリングチームによる立ち直りと意思決定:RESPECT(Recovery and Shared-decision-making by Psychological Empowerment Counseling Team)試験を開始した。【研究3】小児・思春期のがん患者とその親に対する妊孕性温存に関する調査研究:3-1「小児・思春期世代がん患者に対する妊孕性温存に関する動画制作」:本領域が2007年以降先進的に展開されている欧米の施設を視察結果、本邦における本領域に対するインフォームドアセントやインフォームドコンセントの実施マニュアルを作成するには時期尚早で有り、本邦における小児・思春期世代がん患者とその親に対する妊孕性温存の情報提供とインフォームドアセントのあり方に関する調査研究の成果を得た後に、実施マニュアルを作成すべきであると判断した。3-2「本邦における小児・思春期世代がん患者とその親に対する妊孕性温存の情報提供とインフォームドアセントのあり方に関する調査研究」:日本小児血液・がん学会会員に対して実態調査を行う。
結果と考察
【研究1】1-1曝露群は非曝露群に比べて不安・うつ症状、PTSD症状が有意に少なく、妊孕性に対する自己効力感、男性としての自己効力感の喪失が有意に低かった。曝露群は非曝露群に比べて不安・うつ症状やPTSD症状、男性としての自己効力感の喪失が少なくて精神的に健康であったが、妊孕性に対する自己効力感は有意に低かった。1-2精子凍結保存をした若年がん患者の男性向けの凍結精子の医療情報とコミュニケーションに関する心理教育動画を制作した。
【研究2】10施設が倫理委員会の承認を得、8施設で試験を開始し、32症例が登録された。有害事象の発生はなかった。
【研究3】3-1海外視察の際、小児・思春期のがん患者向けの動画を視察病院でそれぞれ作成し利用している現状を把握した結果、本邦においても同様の資材作成の必要性を痛感(日常臨床の経験も通じて)したことから、小児・思春期世代女性がん患者向けの卵巣組織凍結に関するインフォームドアセントの動画と、思春期・若年世代男性また女性がん患者に対する妊孕性温存療法に関するインフォームドアセントまたインフォームドコンセントの動画、計2本を制作した。3-2日本小児血液・がん学会の理事会にて承諾(日本小児血液・がん学会:細井創理事長に上申し、理事会にて承認を得た)を得て、実態調査により本邦における現状と課題が初めて抽出された。
小児・AYA世代がん患者のサバイバーシップ向上を志向した妊孕性温存に関する患者のメンタルヘルス改善に関わる人材育成と、さらなるエビデンスの構築の必要性が明らかになった。小児・AYA世代がん患者に対する妊孕性温存の診療に対する心理的介入や心理教育、長期にわたる心理支援体制の構築を急進させるには、臨床心理士の本領域へのさらなる参画が急務であると考察された。
結論
本研究成果による政策提言は、厚生労働行政が目指す総合的AYA世代の妊孕性温存医療を全国に均てん化に繋がると確信している。

公開日・更新日

公開日
2020-11-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-11-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201908008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
①精子凍結保存を施行した若年男性がん患者の心理社会的ケアに関する心理教育動画を作成し、現在もランダム化比較試験(CONFRONT試験)による教育効果検証が継続されている。②未婚の若年乳がん患者に対する心理カウンセリングによる心理支援の構築を目的とした心理支援療法の開発に成功し、現在ランダム化比較試験(RESPECT試験)により支援療法の検証を継続している。③小児・思春期世代がん患者に対するがん治療開始前の妊孕性温存に関する情報提供とその支援体制構築に向けた問題点と課題が明らかになった。
臨床的観点からの成果
①若年成人男性がん患者は健康な同年代の男性に比べて不安・うつ症状、PTSD症状が有意に少なく男性としての自己効力感の喪失が有意に低い事実が明らかになった。②多施設合同ランダム化比較試験RESPECT試験の現状から、乳がん診断後の患者にとって心理支援のニーズが高いことが明らかになった。③小児がん拠点病院における、妊孕性温存の診療を提供する生殖医療施設との適切な医療連携モデルの構築を目指した全国の小児がん拠点病院ブロック毎の妊孕性温存に係るワークショップが開催され、本領域の啓発が進んだ。
ガイドライン等の開発
パートナーを有する若年がん患者を対象とした、がん・生殖医療における自己決定を促すための心理支援療法開発の成果をさらに発展させる目的で、①若年男性がん患者、②未婚の若年乳がん患者、③小児がん患者を対象とした研究を現在も継続している。現在継続している厚労科研鈴木班の研究成果を合わせて、小児・AYA世代がん患者のサバイバーシップ向上を志向した妊孕性温存に関する心理支援体制の均てん化を目的とした「小児、思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する心理社会的支援のガイドライン」の作成が開始した。
その他行政的観点からの成果
令和3年4月から開始された、厚生労働省による小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業が開始し、さらに令和4年8月に発出された「がん診療拠点病院等の整備について」並びに「小児がん拠点病院等の整備について」の地域病院の指定要件に、「自施設において、がん・生殖医療に関する意思決定支援を行うことができる診療従事者の配置・育成に努めること」と明記された。そして、第4期がん対策基本計画のがん医療の「がん医療提供体制等」に「妊孕性温存療法について」が組み入れられた。
その他のインパクト
本研究班の研究成果から、本邦における小児・AYA世代がん患者のサバイバーシップ向上を志向した妊孕性温存に関する患者のメンタルヘルス改善に関わる人材育成と、さらなるエビデンスの構築の必要性が明らかになった。目の前の「がん」に対する恐怖を感じている小児・AYA世代のがん患者は、将来の生殖機能や妊孕能の喪失に対する不安と苦悩が強いことから、「がんでも将来自分の子どもをもつという未来がある」という「希望」が、我が国の少子化問題の一助に繋がる可能性が期待される。

発表件数

原著論文(和文)
13件
原著論文(英文等)
103件
その他論文(和文)
18件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
122件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
15件
講演15件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
2024-06-11

収支報告書

文献番号
201908008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
19,500,000円
(2)補助金確定額
19,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,134,322円
人件費・謝金 3,050,776円
旅費 196,490円
その他 8,830,371円
間接経費 4,500,000円
合計 17,711,959円

備考

備考
返還金21,000円

公開日・更新日

公開日
2021-05-14
更新日
-