高齢期を中心とした生活・就労の実態調査

文献情報

文献番号
201901012A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢期を中心とした生活・就労の実態調査
課題番号
H30-政策-指定-008
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
山田 篤裕(慶應義塾大学 経済学部)
研究分担者(所属機関)
  • 四方 理人(関西学院大学 総合政策学部)
  • 大津 唯(埼玉大学 大学院人文社会科学研究科)
  • 渡辺 久里子(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
  • 田中 宗明(みずほ情報総研㈱ 社会政策コンサルティング部 )
  • 大室 陽(みずほ情報総研㈱ 社会政策コンサルティング部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
2,294,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 健康寿命の延伸や高齢期の就業意欲の高まりによって、年金を受給しつつ働く高齢者が増えてきている。また、社会の変容によって多種多様な働き方が生まれ、ワーク・ライフがこれまでのものから変化している。これらに対応するために、次期年金制度改正の中で年金受給の在り方を検討する必要がある。本研究は、大規模統計の再集計を行い、高齢者等の就労・生活実態を明らかにし、検討に資する基礎資料を提供することを目的とする。
研究方法
 既存の政府等大規模統計の調査票情報を活用し、みずほ情報総研にデータの整備・集計・分析を依頼し、その他の研究者は整備されたデータを用い分析した。また独自調査「生活費に関するWebアンケート調査」を実施した。
結果と考察
 この30年間で公的年金による貧困削減効果は高まる一方、家族の私的扶養による貧困削減効果は低下した。家族による私的扶養が公的年金に代替されてきたことが示唆される。一方、60代前半の無業・失業者の貧困率は上昇した。高年齢者雇用安定法が課した65歳までの雇用確保措置義務に対し、企業は50代での正社員の絞り込みや60代前半の継続雇用時の大幅な賃金切り下げで回避可能となっている。
 就業継続できず無業・失業者となった高齢者の一部は、支給開始年齢引き上げにともなう年金額減少分を埋め合わせられず、貧困に陥ったと考えられる。こうした無業・失業者の一部は繰上げ受給を利用していた。なお繰上げ減額率緩和による繰上げ受給率の上昇は限定的であった。
厚生年金の所得代替率50%は歴史的には基礎年金導入当時に想定されていた上限に近いが、マクロ経済スライドによる調整期間中にILO第102号条約が定めた基準を割り込む可能性もある。すでに基礎年金や生活扶助額は借家に居住する高齢単身世帯の社会的主観的貧困線を下回っている。困窮する高齢者や被保護高齢者の増大が予想されるが、国民年金の受給資格期間を10年に短縮したことにより、生活保護給付から年金給付への代替も生じていた。また住宅手当導入した場合、高齢者の貧困リスクを大幅減少させる効果が見込まれる。
 現役世代の女性遺族年金受給者の就業率は女性全体の就業率より高く、遺族年金の受給額が高くても就業抑制効果は限定的である。遺族年金を受給している就労者は非正規雇用が多く、就労収入は低く、子育て中の女性遺族年金受給者の中には無理をして就業復帰している人がいる可能性もある。
 現役層を含めた所得分布に着目すると、現役の貧困率は近年改善したが、中間層は低所得化により縮小し、また貧困線を固定すると貧困率は上昇しており、日本の家計は以前よりも厳しい運営となっている可能性がある。
 国民年金の潜在的免除該当者は、配偶者なし、子なし世帯では配偶者や子の収入に頼れない者に多い。今後さらなる厚生年金の適用拡大により、潜在的国民年金免除該当の雇用者の中、厚生年金被保険者となる割合が増えることが見込まれる。
結論
 中間層が縮小する中、高齢者の生活保障は、公的年金だけでなく年金生活者支援給付金、住宅手当、また医療・介護費負担の重い高齢者については、医療・介護保険制度により、総合的に強化される必要がある。
 60代前半において雇用就労者の割合は上昇したが、無業・失業による貧困リスクは高まっており、60歳以上の就業継続と年金支給開始年齢前の失業者に対する所得保障を強化すべきである。離職後失業した人にとって繰上げ受給は所得保障を一部担っており、将来の繰上げ減額率改定にあたっては、そうした人々の貧困リスクへの影響も慎重に検討する必要がある。
 また継続雇用時の大幅な賃金切り下げを放置すれば、雇用と年金の接続に支障をきたすばかりか、低賃金に見合うような生産性の低い高齢者しか就労せず、生産性の高い高齢者は自ら辞めてしまうため活躍できない恐れがある。各労働者の能力に応じた継続雇用時の賃金設定が重要となる。
 遺族年金は、女性の就業率上昇や夫婦共働き世帯の増加といった社会の変容に合わせた制度の見直しが求められている。しかし、遺族年金受給者の就業率の高さのみで政策の方向性を判断すべきではなく、就労・生活実態を十分に踏まえ慎重に検討する必要がある。とくに遺族年金受給者の非正規雇用率は高く、就労収入は低い点に留意する必要がある。
 高齢者雇用の進展や現役世代との待遇均等化による厚生年金加入者増により、潜在的国民年金免除該当者の減少が見込まれる。また厚生年金の適用拡大は、高齢者雇用の進展と相まって、国民年金加入期間の45年への延長による年金保障を厚くする効果の強化を期待できる。ただし、健康や介護を理由に仕事に就けない者への配慮や対応は依然必要である。さらに国民年金の加入期間延長は、ひとり親と未婚の子のみの世帯や単身世帯への影響を見極めながら検討を進めていくことが重要である。

公開日・更新日

公開日
2020-10-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2020-10-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201901012B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢期を中心とした生活・就労の実態調査
課題番号
H30-政策-指定-008
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
山田 篤裕(慶應義塾大学 経済学部)
研究分担者(所属機関)
  • 四方 理人(関西学院大学 総合政策学部)
  • 大津 唯(埼玉大学 大学院人文社会科学研究科)
  • 渡辺 久里子(国立社会保障・人口問題研究所 企画部 )
  • 田中 宗明(みずほ情報総研㈱ 社会政策コンサルティング部 )
  • 大室 陽 (みずほ情報総研㈱ 社会政策コンサルティング部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 健康寿命の延伸や高齢期の就業意欲の高まりによって、年金を受給しつつ働く高齢者が増えてきている。また、社会の変容によって多種多様な働き方が生まれ、ワーク・ライフが変化している。本研究は、高齢者等の就業・生活実態を明らかにし、次期年金制度改正の検討にも資する基礎資料を提供することを目的とする。
研究方法
 既存の大規模政府等統計の調査票情報を活用し、みずほ情報総研にデータの整備・集計・分析を依頼し、その他の研究者は整備されたデータを用い、分析した。また独自のWeb調査を実施した。
結果と考察
 この30年間で公的年金による貧困削減効果が高まる一方、家族の私的扶養による貧困削減効果は低下した。公的年金が家族の私的扶養機能低下を代替してきたことが示唆される。一方、60代前半で無業・失業者の貧困率は上昇した。現役層では貧困率が近年低下したとはいえ、低所得化による中間層が縮小し、貧困線を固定した場合の貧困率は上昇してきている。すでに基礎年金や生活扶助は借家に居住する高齢単身世帯の社会的主観的貧困線を下回っており、生活困窮する高齢者や被保護年金受給者の増大が予想される。
 高年齢者雇用安定法による65歳までの雇用確保措置義務を、企業は50代での正社員の絞り込みや60代前半での継続雇用時の大幅な賃金切り下げで回避可能である。賃金切り下げによる就業抑制効果は男性60代を通じ60代前半の在職老齢年金制度に匹敵する。合理的理由によらない賃金低下是正が進めば、現在は確認できない60代後半の在職老齢年金制度の就業抑制効果が今後現れる可能性がある。失業者は、繰上げ受給を利用する傾向はあるが、繰上げ減額率緩和による繰上げ受給率の上昇は限定的であった。
 障害年金受給者のうち、精神障害者は、身体障害者に比べ、年金額も世帯収入も低いため、困窮状態に陥りやすい。1985年改正により、就労者が多いという理由で厚生年金3級の給付水準が削減されたことが背景として考えられる。また若い女性遺族年金受給者の就業率は女性全体の就業率より高いが、非正規雇用が多く、就労収入は低い。遺族年金による就業抑制効果は限定的で、子育て中の女性遺族年金受給者の場合、無理をして就業復帰している可能性もある。
 国民年金第1号の潜在的免除該当者は、配偶者なし、子なし世帯では配偶者や子の収入に頼れない者に多い。2016年の厚生年金保険適用拡大では、新たな賃金要件で多くの低賃金労働者を排除してしまったが、今後さらなる厚生年金の適用拡大により、潜在的国民年金免除該当の雇用者の中、厚生年金被保険者となる割合が増えることが見込まれる。
結論
 中間層が縮小する中、高齢者や障害者の生活保障は、公的年金だけでなく年金生活者支援給付金や住宅手当、また医療・介護費の負担が重い者は医療・介護保険制度により強化する必要がある。
 60代前半において雇用就労者の割合は上昇したが、無業・失業による貧困リスクは高まっており、離職後失業した人にとって繰上げ受給が所得保障の役割を一部担っている。将来の繰上げ減額率改定にあたり、離職後失業者の貧困リスクへの影響も慎重に検討する必要がある。また受給資格期間の10年への短縮の副次効果として、生活保護給付が年金給付に代替されていた。
 生産性の高い高齢者が活躍できるようにするには、継続就業時の大幅な賃金切り下げを是正する必要があるが、その結果、現在は確認できない60代後半の在職老齢年金制度の就業抑制効果が現れてくる可能性もある。引き続き新たな調査により在職老齢年金制度の影響をモニターする必要がある。
 遺族年金受給者の就業率の高さだけで政策の方向性を判断することはできず、就業や生活の実態を十分踏まえながら慎重に検討していく必要がある。とくに遺族年金受給者の非正規雇用率が高く就労収入は低いことに留意する必要がある。また障害年金受給者の中、精神障害者の比率が増大する中、貧困リスク防止のため、就労収入を前提とした現行の厚生年金3級の給付水準を再検討する必要がある。
 高齢者雇用の進展や現役世代との待遇均等化による厚生年金加入者増により、潜在的国民年金免除該当者の減少が見込まれる。また厚生年金適用拡大は、高齢者雇用の進展と相まって、国民年金の加入期間の45年への延長による年金保障を厚くする効果強化が期待される。ただし、健康や介護を理由に仕事に就けない者への配慮や対応も依然必要である。
さらに国民年金の加入期間延長にあたっては、ひとり親と未婚の子のみの世帯や単身世帯への影響を見極めながら検討を進めていくことが重要である。加えて女性に占める国民年金第3号被保険者割合は低下傾向にあるが、既婚女性にとって、国民年金第3号被保険者制度は今なお公的年金制度上の大きな受け皿となっていることにも留意が必要である。

公開日・更新日

公開日
2020-10-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201901012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
各種専門学術誌への論文掲載(11本)および学会報告(7件)
臨床的観点からの成果
なし
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
「国民年金第3号および雇用者として働く第1号被保険者の実態」の結果は,第6回働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会(2019年5月31日)において被用者保険が適用されていない雇用者の多様性に関する議論のため活用された。
「高齢者の就業行動:『60代の雇用・生活調査(2014年)』に基づく分析」の結果は,第11回社会保障審議会年金部会(2019年10月9日)および第8回同部会(2023年10月24日)において在職老齢年金制度が高齢者雇用に与える影響に関する議論のため活用された。
その他のインパクト
 在職老齢年金制度の就業抑制効果に関する産経新聞記事(2018.6.18)、厚生年金適用拡大に関する共同通信配信記事(2020.3.3)

発表件数

原著論文(和文)
11件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
山田篤裕
生活保護を受給する老齢年金受給者:同居形態,資産,職歴
年金と経済 , 37 (3) , 18-28  (2018)
原著論文2
山田篤裕
厚生年金保険適用拡大(2016年10月)による新たな賃金要件:既存の参照基準からの逸脱と低賃金雇用者の排除
社会政策 , 10 (3) , 39-52  (2018)
原著論文3
百瀬優
障害年金受給者の実態:障害種別に着目して
週刊社会保障 , 73 (3042) , 48-53  (2019)
原著論文4
山田篤裕
高齢者の継続雇用と賃金プロファイル
季刊個人金融 , 14 (3) , 47-56  (2019)
原著論文5
四方理人
高年齢者における就労と貧困
貧困研究 , 23 , 16-26  (2019)
原著論文6
山田篤裕・渡辺久里子
公的年金の給付水準・代替率の再検討:歴史的・社会的主観的アプローチ
社会保障研究 , 4 (4) , 487-499  (2020)
原著論文7
渡辺久里子・四方理人
高齢者における貧困率の低下:公的年金と家族による私的扶養
社会政策 , 12 (2) , 62-73  (2020)
原著論文8
百瀬優・大津唯
障害年金受給者の生活実態と就労状況
社会政策 , 12 (2) , 74-87  (2020)
原著論文9
山田篤裕
高齢者就業と在職老齢年金・繰上げ受給
社会政策 , 12 (2) , 88-100  (2020)
原著論文10
山田篤裕
受給資格期間短縮が低所得高齢者に与えた影響
日本年金学会誌 , 40 , 4-15  (2021)
原著論文11
山田篤裕
社会主観最低生活費測定の意義
週刊社会保障 , 74 (3084) , 48-53  (2020)

公開日・更新日

公開日
2021-05-21
更新日
2024-06-27

収支報告書

文献番号
201901012Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,834,000円
(2)補助金確定額
2,834,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 0円
人件費・謝金 924,000円
旅費 59,720円
その他 1,311,110円
間接経費 540,000円
合計 2,834,830円

備考

備考
自己資金830円が発生したため、収入と支出の合計に差異が生じた。

公開日・更新日

公開日
2021-02-25
更新日
-