2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた外国人・障害者等に対する熱中症対策に関する研究

文献情報

文献番号
201826022A
報告書区分
総括
研究課題名
2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた外国人・障害者等に対する熱中症対策に関する研究
課題番号
H28-健危-指定-001
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
三宅 康史(帝京大学 医学部 救急医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 敬樹(東京都立多摩総合医療センター・救命救急センター・部長)
  • 横堀 將司(日本医科大学・医学部・准教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
3,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
熱中症に関しては、高齢者、肉体労働者、スポーツ中の発生に関する研究がなされてきたが、2020年夏のオリンピック・パラリンピックの開催に向け、外国人観光客の急増、そしてパラリンピックにより活性化する身体障害者の夏期の屋外活動が予想され、この両群の熱中症に関する実態調査は皆無であり、その対策についても基本的情報が欠如している。これまでの日本救急医学会や総務省消防庁データを用いた熱中症患者の発生実態調査を補完しつつ、外国人観光客・身体障害者の熱中症に関する基本情報と、特別に必要な熱中症対策について明らかにする。また重症例の治療に関して、新たな血管内冷却装置を用いた体温管理による集中治療症例を収集蓄積し、予後改善のための治療指針の策定を目指す。加えて、多方面より供給される気象データの中から熱中症対策に有効なものを精選して熱中症発生数のデータと統合し、より効果的な予防対策、熱中症危険度予測手法の開発を目指す。
研究方法
前年に続くFAXによる熱中症即時登録の集計を行うとともに、東京消防庁での熱中症関連救急搬送症例から身体障害者、外国人例を集計した。また啓発事業におけるアンケート調査をもとに、身体障害者、外国人向けのパンフレット作成を企画した。新しい冷却機器である血管内冷却カテーテルを用いた血管内体温管理療法(IVTM)について、国内10施設において冷却速度、SOFAスコア、合併症、発症30日後の転帰良好率(mRS、CPC)を従来法群と比較した。熱中症発生数のデータと気象データを統合した熱中症危険度予測手法の開発として、①2018年7月の熱波による熱中症患者急増時の特徴の把握、②HS-STUDY2018と消防庁搬送者数速報データの関係について解析を行った。
結果と考察
熱中症即時登録調査では、2016年969症例中、外国人観光客4件、身体障害者37件であり、2017年626症例中、外国人観光客2件、身体障害者17件であった。身体障害者では高齢でより多く発生し、重症度によらず全例が入院、健常人よりも手厚い医療が提供されていた。外国人観光客は計6件中高齢1件のみ入院となった。予防啓発イベントにおける一般市民へのアンケート調査において訪日客からの回答では熱中症の認知度は54%で国内より少ないものの、豪州、北米、欧州からの訪日客では認知度が高く対策もとられている傾向があった。これをふまえ、「夏期熱中症に対する注意喚起」リーフレットを日英中韓4カ国語で作成した。
新しい冷却法についての多施設における比較では、IVTM群13例と従来法群8例について、治療目標温度(37℃)への24時間以内の到達はIVTM群で全例、従来法群で半数であり、24時間後のSOFA scoreにおいてIVTM群は従来法群より有意な低下を認めた。治療合併症の発生、総在院日数、30日後の転帰良好率については有意な差はみられなかった。
熱中症発生数のデータと気象データを統合した危険度予測手法については、①2018年7月の熱波による熱中症患者急増時のピークにおいてはHS-STUDYと消防庁の調査データで若干の差異がみられた。日なた、運動、屋内等の要因を含む症例が先行して増加、続いて高齢者の症例数が増加していることから、まず屋外における労作性熱中症が先行、続いて屋内における非労作性の熱中症が増加することを示唆していると考えられた。②HS-STUDY2018および消防庁救急搬送者数は6都市における日最高WBGT値とよく相関していた。重症例が多く含まれるHS-STUDY2018では、暑さが厳しいときに症例数の増加割合が多く、暑さに対する感度が高いといえる。
結論
熱中症実態調査において外国人観光客や身体障害者の熱中症発生は少なかった。外国人観光客では高齢者が少ない背景もあるが、いずれも天候の把握や休憩などの熱中症対策をとっている傾向もみられた。このことから、熱中症予防の基本的事項の遵守、危険回避のための情報収集、自己管理と周囲の見守りを可能にするサポート体制の充実がポイントであり、これは外国人観光客や身体障害者に限らず、日本で夏を過ごす全ての人に有益であると考えられた。
新しい冷却法であるIVTMを用いた方法は、重症熱中症に対して従来法に比して安全かつ有効である可能性が示唆された。とくに本研究の対象患者の平均年齢は70歳を超えており、災害弱者とされる高齢者においても安全かつ有効である可能性が示唆された。
熱中症発生数のデータと気象データを統合した危険度予測手法について、①気象データから急な高温が予想される際は暑さ対策への啓発と活動の制限を実施すること、②高温が継続する場合には屋外における労作性熱中症の増加を受け、屋内における非労作性の防止のため室内・夜間等のエアコン・扇風機利用などの啓発がが重要である。

公開日・更新日

公開日
2019-10-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-10-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201826022B
報告書区分
総合
研究課題名
2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた外国人・障害者等に対する熱中症対策に関する研究
課題番号
H28-健危-指定-001
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
三宅 康史(帝京大学 医学部 救急医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 敬樹(東京都立多摩総合医療センター 救命救急センター)
  • 横堀 將司(日本医科大学 医学部)
  • 登内 道彦((財)気象業務支援センター 振興部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
熱中症に関しては、高齢者、肉体労働者、スポーツ中の発生に関する研究がなされてきたが、2020年夏のオリンピック・パラリンピックの開催に向け、外国人観光客の急増、そしてパラリンピックにより活性化する身体障害者の夏期の屋外活動が予想され、この両群の熱中症に関する実態調査は皆無であり、その対策についても基本的情報が欠如している。これまでの日本救急医学会や総務省消防庁データを用いた熱中症患者の発生実態調査を補完しつつ、外国人観光客・身体障害者の熱中症に関する基本情報と、特別に必要な熱中症対策について明らかにする。また重症例の治療に関して、先進機器を用いた冷却方法の評価と予後改善のための治療指針の策定を目指す。加えて、気象予測、現地の天候情報、熱中症の具体的なリスク評価とその対策を統合した効果的な情報発信の手法の開発を目指した。
研究方法
初年度より継続的な実態調査として、FAXによる熱中症即時登録の集計を行うとともに、東京消防庁での熱中症関連救急搬送例から外国人、身体障害者例を抽出し分析した。重症例に対する新しい治療デバイスを用いた血管内体温管理療法(IVTM)について、多施設において死亡率、後遺症、安全性などを従来法群と比較するとともに、身体障害者例の採血結果や臨床経過の特徴を検証した。日別・地域別の症例発生と重症度から各種気象に関するパラメーターの有効性の検討と発生予測への応用に関する研究では、気象庁による天気予報と日本救急医学会HeatstrokeSTUDYおよび東京消防庁の熱中症救急搬送例のデータを突合し、利用可能な熱中症安全情報を共有するためのシステムについて検討するとともに、地域による熱中症発生頻度差、早期の正確な警戒情報の提供方法に関して検討し、啓発活動イベント時の外国人を含むアンケート調査から得た理解度等の情報をふまえて外国人、身体障害者向けのリーフレットを作成した。
結果と考察
3年間の実態調査の結果、外国人観光客、身体障害者の熱中症例は少数かつ軽症であった。観光目的で訪日する外国人は概して健康であり、夏期の訪日では事前の情報収集と対策がとられていると推察された。また身体障害者における危険性はかなり周知されており、暑熱曝露の低減や休息、支援などの存在があると考えられる。こうした事前の情報と対策の重要性をふまえて、身体障害者、外国人観光客向けに「夏期熱中症に対する注意喚起」リーフレットを作成した。応急処置の手順と並行して重症度判断が可能なアルゴリズムになって記載されており、日本語に加えて英語、中国語、韓国語版を作成した。
重症例に対する新しい治療デバイスを用いた血管内体温管理療法(IVTM)については、IVTM群では全例で24時間以内の平温到達が可能で、SOFAスコアの有意な改善がみられた。合併症、転帰については有意な差はなかった。
日別・地域別の症例発生と重症度から各種気象に関するパラメーターの有効性の検討と発生予測への応用に関する研究では、夏期のWBGT(湿球黒球温度、暑さ指数)を用いた危険度の予測は4日先までほぼ正確に可能で、極端な猛暑になる危険性の把握は7日前から可能であることがわかった。また訪日外国人に関しては、高温多湿な日本の夏に慣れていない北欧、南半球からの訪日客の熱中症リスクが3倍に達する可能性があり、熱中症弱者としての注意が必要との結果であった。
結論
2020年の大会時には熱中症予防が重大な課題となるが、組織委員会をはじめさまざまな組織によって対策やマニュアルの周知、予防啓発が図られており、それぞれの活動を有機的に連動させる必要がある。本研究の結果より外国人観光客および一般の身体障害者の熱中症は、比較的少数で軽症であることが見込まれるが、事前の熱中症のリスク評価のみならず、当日の気象や熱中症情報に関する正確かつアクセスの良い情報提供、待ち時間の短縮と暑熱曝露の低減、クールシェアスペースの確保、自動販売機や給水器の充実、身体障害者向けのトイレ、公共交通機関と会場との動線における暑さ対策などの基本的な熱中症予防策とともに、熱中症に対するさらなる啓発による知識の向上が根本的な対策につながると考えられる。オリンピック・パラリンピックの開催時のみならず、一層の地球温暖化が進むなかで、老若男女、身体障害者、訪日外国人を含め誰もが安全に過ごせるような熱中症対策の構築を最終的な目標とすべきである。

公開日・更新日

公開日
2019-10-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-10-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201826022C

収支報告書

文献番号
201826022Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,000,000円
(2)補助金確定額
4,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 106,148円
人件費・謝金 652,659円
旅費 450,795円
その他 1,867,398円
間接経費 923,000円
合計 4,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2020-04-21
更新日
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