文献情報
文献番号
201822018A
報告書区分
総括
研究課題名
受動喫煙を防止するための効果的な呼吸用保護具のフィルターの検討
課題番号
H30-労働-一般-005
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
保利 一(産業医科大学 産業保健学部)
研究分担者(所属機関)
- 石田尾 徹(産業医科大学 産業保健学部)
- 樋上 光雄(産業医科大学 産業保健学部)
- 山本 忍(産業医科大学 産業保健学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
2,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
平成27年の労働安全衛生法の改正で受動喫煙防止措置が努力義務化され,事業場では建物内を全面禁煙にするか,喫煙室等の設置の徹底が求められるようになった.喫煙室を設置した場合,非喫煙者のたばこ煙へのばく露は避けられるものの,清掃のため喫煙室に入る作業者は,たばこ煙へのばく露が避けられない.また,喫煙を可とする飲食店等で働く従業員も受動喫煙は避けられない.このような場での作業において,作業者のたばこ煙のばく露を低減する方法としては,呼吸用保護具の着用が考えられる.
現在,作業現場で使用されているろ過式の呼吸用保護具には,防じんマスクと防毒マスクがある.防毒マスクにはさらにガスの種類に対応した吸収缶があり,対象ガスに合ったものを使用しなければ期待される防護効果は得られない.あらかじめ使用する物質が決まっていればマスクの選択は比較的容易であるが,たばこの煙にはガス状,粒子状合わせて数千種類もの化学物質が含まれており,物理・化学的性質もさまざまであるため,フィルターや吸収缶がこれらを十分に捕集できるか否かの検討はなされておらず,効果も不明である.そこで本研究では,既存の呼吸用保護具に用いられているフィルターがたばこ煙に対してどのような特性を有しているのかを把握し,たばこ煙に適したフィルターを提案することを目的とする.
現在,作業現場で使用されているろ過式の呼吸用保護具には,防じんマスクと防毒マスクがある.防毒マスクにはさらにガスの種類に対応した吸収缶があり,対象ガスに合ったものを使用しなければ期待される防護効果は得られない.あらかじめ使用する物質が決まっていればマスクの選択は比較的容易であるが,たばこの煙にはガス状,粒子状合わせて数千種類もの化学物質が含まれており,物理・化学的性質もさまざまであるため,フィルターや吸収缶がこれらを十分に捕集できるか否かの検討はなされておらず,効果も不明である.そこで本研究では,既存の呼吸用保護具に用いられているフィルターがたばこ煙に対してどのような特性を有しているのかを把握し,たばこ煙に適したフィルターを提案することを目的とする.
研究方法
たばこ煙の成分及びそれらによる生体影響を把握するため,たばこ煙に関する文献調査を実施する.
フィルターの性能を調べるための試験装置を製作する.装置は,たばこ煙を発生させるチャンバー,煙を捕集する試験フィルター部,および化学分析装置から構成される.チャンバー内で発生させたたばこ煙を空気で希釈して,試験用フィルターに通じることにより,フィルターのたばこ煙に対する防護性能を調べる.たばこの煙には粒子成分とガス成分があるが,粒子状物質についてはSMPSおよびデジタル粉じん計,ガス状物質についてはVOCモニターを用いてモニタリングするほか,ガス成分については,出口の空気をGC/MS,HPLC等により分析,同定する.
たばこの成分は極めて多種多様であるため,単独の吸収缶ではたばこのガス成分を十分に除去できない可能性がある.その場合には,特性の異なるいくつかの吸着剤を組み合わせて用いることも検討する.
フィルターの性能を調べるための試験装置を製作する.装置は,たばこ煙を発生させるチャンバー,煙を捕集する試験フィルター部,および化学分析装置から構成される.チャンバー内で発生させたたばこ煙を空気で希釈して,試験用フィルターに通じることにより,フィルターのたばこ煙に対する防護性能を調べる.たばこの煙には粒子成分とガス成分があるが,粒子状物質についてはSMPSおよびデジタル粉じん計,ガス状物質についてはVOCモニターを用いてモニタリングするほか,ガス成分については,出口の空気をGC/MS,HPLC等により分析,同定する.
たばこの成分は極めて多種多様であるため,単独の吸収缶ではたばこのガス成分を十分に除去できない可能性がある.その場合には,特性の異なるいくつかの吸着剤を組み合わせて用いることも検討する.
結果と考察
たばこに含まれる主な化学物質(粉じん,ガス)を検索した結果,粉じんとしては,ニコチン,タール,ニトロソアミン類,ガス状物質としては,無機ガス(NO, NO2,シアン化水素など)および,カルボニル類(アセトアルデヒド,ホルムアルデヒド,アセトンなど)その他の有機化合物(イソプレン,トルエン,1,3-ブタジエン,ベンゼンなど)が多く含まれることが分かった.
国産のたばこ(メビウス,JT)から発生した煙中のガス状物質を使い捨て式防じんマスク,使い捨て式活性炭入り防じんマスク,有機ガス用防毒マスク吸収缶,ホルムアルデヒド用吸収缶,および新たに開発した両親媒性吸着剤(活性炭:セピオライト=7:3)に通し,フィルター前後のガスの濃度を3種類のVOCモニター(PID式,半導体式)およびHPLCで測定することにより,ガス状物質の除去特性について検討した.VOCモニターによる出口濃度は防じんマスク>活性炭入り防じんマスク>有機ガス用防じんマスク≒両親媒性吸着剤>ホルムアルデヒド用吸収缶となった.HPLCによる分析結果では,たばこ煙から6種類のカルボニル類が検出されたが,両親媒性吸着剤およびホルムアルデヒド用吸収缶では,通過後の空気からはホルムアルデヒドが0.001~0.002 ppm検出されたのみで,他の物質は検出されなかった.
粉じんについては, DS2あるいはRL2以上のフィルターであれば,98%以上の捕集効率があることが確認された.ただし,臭気については,ACFの入ったろ過材についてはにおいセンサーの数値は半減したが,十分ではなかった.
小規模飲食店等での利用も考え,活性炭入り使い捨て防じんマスクおよび活性炭を用いた市販の簡易マスクのフィルターがどの程度VOCの捕集能力があるか,たばこ煙中の含有率が比較的高かったトルエンを用いて検討した.その結果,ほとんど捕集されずに透過するものから,ほとんど通過しないものまでさまざまであった.
国産のたばこ(メビウス,JT)から発生した煙中のガス状物質を使い捨て式防じんマスク,使い捨て式活性炭入り防じんマスク,有機ガス用防毒マスク吸収缶,ホルムアルデヒド用吸収缶,および新たに開発した両親媒性吸着剤(活性炭:セピオライト=7:3)に通し,フィルター前後のガスの濃度を3種類のVOCモニター(PID式,半導体式)およびHPLCで測定することにより,ガス状物質の除去特性について検討した.VOCモニターによる出口濃度は防じんマスク>活性炭入り防じんマスク>有機ガス用防じんマスク≒両親媒性吸着剤>ホルムアルデヒド用吸収缶となった.HPLCによる分析結果では,たばこ煙から6種類のカルボニル類が検出されたが,両親媒性吸着剤およびホルムアルデヒド用吸収缶では,通過後の空気からはホルムアルデヒドが0.001~0.002 ppm検出されたのみで,他の物質は検出されなかった.
粉じんについては, DS2あるいはRL2以上のフィルターであれば,98%以上の捕集効率があることが確認された.ただし,臭気については,ACFの入ったろ過材についてはにおいセンサーの数値は半減したが,十分ではなかった.
小規模飲食店等での利用も考え,活性炭入り使い捨て防じんマスクおよび活性炭を用いた市販の簡易マスクのフィルターがどの程度VOCの捕集能力があるか,たばこ煙中の含有率が比較的高かったトルエンを用いて検討した.その結果,ほとんど捕集されずに透過するものから,ほとんど通過しないものまでさまざまであった.
結論
たばこ煙中の粉じんについては,市販の防じんマスク用フィルターでほとんど除去できるが,臭気については期待できないこと,また,ガス状物質についてはアルデヒド類は防毒マスク吸収缶に吸着されるが,処理できないVOC類も依然として存在することがわかった.令和元年度は,特に臭気に着目してフィルター類をさらに検討するとともに,実際の作業現場を想定し,実用的な提案に向けた検討を行う予定である.
公開日・更新日
公開日
2019-06-17
更新日
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