医療機関等における薬剤耐性菌の感染制御に関する研究

文献情報

文献番号
201818003A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関等における薬剤耐性菌の感染制御に関する研究
課題番号
H28-新興行政-一般-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
柳原 克紀(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 展開医療科学講座 病態解析・診断学)
研究分担者(所属機関)
  • 大石 和徳(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 賀来 満夫(東北大学大学院 医学系研究科)
  • 三鴨 廣繁(愛知医科大学大学院 医学研究科)
  • 山本 善裕(富山大学大学院 医学薬学研究部)
  • 泉川 公一(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科)
  • 大曲 貴夫(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
2,641,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や多剤耐性緑膿菌(MDRP)等の多剤耐性菌の感染症は、従来から大きな問題となっており、解決すべき重要な課題である。最近ではESBL産生菌やカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)も増加しており、わが国でもアウトブレイク事例が散見される。本研究では、国内医療機関でのそれらの多剤耐性菌の蔓延を防止するために内外の知見を集約し、個々の医療機関がマニュアルなどを作成する際に参考となる資料や指針を提供するものである。
研究方法
 目的完遂のために、①医療機関における薬剤耐性菌の現状に関する研究、②分子生物学的手法で同定したAcinetobacter菌血症症例の解析、③医療機関等における感染制御に関する研究、④医療機関における抗菌薬の使用実態に関する研究。⑤耐多剤耐性アシネトバクター属菌(MDRA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)サーベイランスの検討を行った。また、医療関連感染対策を実施するための支援ツールとして地域連携ネットワークだけでなく広く情報を提供するために、長崎大学病院検査部のホームページに本研究班の研究成果を公表するためのページを作成した。
結果と考察
 医療機関における薬剤耐性菌の現状に関する研究では、平成28年度に各施設から収集し平成29年度に薬剤感受性試験を行ったMRSAおよびCREの遺伝子解析を行った。MRSAの遺伝子解析では、市中感染型MRSAであるSCCmec type IVが院内感染型MRSAであるSCCmec type IIよりも多かった。施設毎の解析でも、5施設中4施設でSCCmec IVの割合が最も高かった。また、CREの遺伝子解析では、CREにおけるカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)の割合は16.8%であったが、その割合は0%~87.5%と施設によって異なっていた。CPE16株のうち、15株がIMP-1、1株がNDMおよびOXA-48を保有していた。
 分子生物学的手法で同定したAcinetobacter菌血症症例の解析では、塩基配列とOXA-51-PCRによりA. baumannii(Ab)、A. nosocomialis(An)、A. ursingii(Au)、A. seifertii(As)を再同定した。Pitt bacteremia score (PBS)については、As群はAb群、Au群、An群と比べて高かった。肺炎は、Ab群のみに存在した。患者背景としてAu群に悪性腫瘍の頻度が多い傾向があった(Au群83% versus非Au群34%, p=0.064)。Acinetobacter属は従来法では菌種レベルでの同定が難しいが、本研究の結果から今後は菌種レベルまで同定する必要性があると考えられた。
 医療機関等における感染制御に関する研究では、平成29年度のアンケート調査の回答があった感染対策地域連携加算1施設107施設、同2施設56施設を対象に新たなアンケート調査を行った。加算1施設ではCREとCPEを区別して報告している施設が全体の54.2%であったのに対し、加算2施設では、区別して報告している施設は6施設(19.4%)にとどまっていた。CPEを報告している施設の約半数が、カルバペネマーゼ産生の確認をmCIM法にて行っていた。また、メタロ-β-ラクタマーゼ産生検出に遺伝子検査を用いている施設は全体の17.9%であり、そのほとんどは加算1施設であった。
 医療機関における抗菌薬の使用実態に関する研究では、平成29年度に各施設から収集した注射用抗菌薬使用量と薬剤耐性菌の割合の関係について統計学的解析を行ったが、各耐性菌の割合と正の相関を認めた因子は年度毎に異なっており、全体として抗菌薬使用量と特定の耐性菌の割合に相関関係は認められなかった。
 耐性菌に対する感染制御策の実態把握と評価では、MDRAとVREについてNESIDとJANISという2つのサーベイランスを比較したが、それぞれのサーベイランスによって特徴があり、収集できる情報とに違いがあった。公衆衛生対応に活用できる単一のサーベイランスはなく、目的に応じ両者を利用していく必要があると考えられた。
 本研究では、医療機関がマニュアルなどを作成する際に参考となる資料や指針を提供することも目的となっており、医療関連感染対策を実施するための支援ツールとしてこれまでの研究成果を公開した。地域連携ネットワークだけでなく広く一般に情報を提供するために、長崎大学病院検査部のホームページで本研究班の研究成果を公表した。
結論
 今年度実施した研究で我が国における薬剤耐性菌、感染制御、抗菌薬の使用についての現状が明らかとなった。本研究成果についてはホームページで公開しており、医療機関がマニュアルなどを作成する際に参考にすることができる。

公開日・更新日

公開日
2019-08-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2019-08-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201818003B
報告書区分
総合
研究課題名
医療機関等における薬剤耐性菌の感染制御に関する研究
課題番号
H28-新興行政-一般-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
柳原 克紀(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 展開医療科学講座 病態解析・診断学)
研究分担者(所属機関)
  • 大石 和徳(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 賀来 満夫(東北大学大学院 医学系研究科)
  • 三鴨 廣繁(愛知医科大学大学院 医学研究科)
  • 山本 善裕(富山大学大学院 医学薬学研究部)
  • 泉川 公一(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科)
  • 大曲 貴夫(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や多剤耐性緑膿菌(MDRP)等の多剤耐性菌の感染症は、従来から大きな問題となっており、解決すべき重要な課題である。最近ではESBL産生菌やカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)も増加しており、わが国でもアウトブレイク事例が散見される。本研究では、国内医療機関でのそれらの多剤耐性菌の蔓延を防止するために内外の知見を集約し、個々の医療機関がマニュアルなどを作成する際に参考となる資料や指針を提供するものである。
研究方法
 マニュアルなどを作成するためには、我が国の現状を把握することと、国内外の疫学・感染対策・治療についての最新の知見を集約することが重要である。そのために、本研究では①医療機関における薬剤耐性菌の現状、②臨床分離肺炎球菌の疫学解析、③分子生物学的手法で同定したAcinetobacter菌血症症例の解析、④医療機関における抗菌薬の使用実態、⑤医療機関等における感染制御、⑥国民の薬剤耐性に関する意識、⑦薬剤耐性菌に対する感染制御策の実態把握と評価、⑧薬剤耐性菌に対する感染制御策の実態把握と評価を行った。また、これらの研究成果をまとめた総合研究報告書を感染制御レベルの向上につながる提言とし、研究班のホームページを通して情報を発信する体制を整備した。
結果と考察
 薬剤耐性菌では、黄色ブドウ球菌でのMRSAの割合および緑膿菌におけるMDRPの割合が減少しているのに対して、腸内細菌科細菌におけるESBLの割合およびCREの検出数は増加していた。MRSAの遺伝子解析では市中感染型MRSAであるSCCmec type IVが56.0%最も多く検出されており、MRSAの遺伝子型に変化が起きていた。CREの遺伝子解析で検出されたカルバペネマーゼはIMP型がほとんどであり、海外とは違う傾向がみられた。
 抗菌薬使用では、注射用抗菌薬全体では抗菌薬使用量(AUD)は増加していた。しかし、投与日数(DOT)は横ばいであったため、AUDの増加は抗菌薬を投与した患者数が増えたのではなく、1回に投与する抗菌薬の量が増加していると考えられた。抗菌薬の適正使用では、不必要な抗菌薬の使用を減少するだけでなく、抗菌薬の使用が必要な症例で十分な量の抗菌薬を投与することも重要な要素であり、AUDが増加したことだけを指標にするのではなく、DOTやAUDとDOTの比率(AUD/DOT)などいくつかの指標を用いて解析することが望ましい。
 感染制御では、アンケート調査の結果では、以前から問題となっているMRSA、VRE、MDRP、MDRAについては積極的な隔離などを行う施設が多かった一方で、近年問題となってきているESBL産生菌、CPE、カルバペネマーゼ非産生CREは前述した薬剤耐性菌よりも隔離する割合が低く、特に感染対策地域連携加算1の施設と比べて2の施設で低かった。その背景として、加算1と2の施設での自施設での微生物検査の実施状況の違いが考えられた。
 感染制御策の策定のためには、自施設での現状を把握するだけでなく、全国でのサーベイランスを活用することも重要である。本研究ではNESIDとJANISについて比較したが、NESIDとJANISはその目的の違いから提供される情報および提供する施設が異なっていた。そのため、サーベイランスを自施設で活用する場合にサーベイランス結果をそのまま利用するのではなく、各サーベイランスの背景を理解し、目的に応じて使い分けることが重要である。
結論
 本研究によって、我が国における薬剤耐性菌、抗菌薬使用、感染制御の現状と問題点が明らかとなった。これまでの研究成果については、医療機関および地域連携ネットワークならびに関連学会が、本研究成果を活用して薬剤耐性菌に対する感染対策マニュアルなどを作成する際に参考となる資料として、長崎大学病院検査部ホームページに専用ページを設けて広く一般に周知している。また、これらの研究成果をまとめた総合研究報告書についても、行政機関を含め地域連携ネットワークを通じて医療関連感染対策を実施するための支援ツールとして公開する。

公開日・更新日

公開日
2019-08-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201818003C

収支報告書

文献番号
201818003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,880,000円
(2)補助金確定額
2,880,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,499,047円
人件費・謝金 0円
旅費 534,737円
その他 607,216円
間接経費 239,000円
合計 2,880,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2019-08-01
更新日
-