血液製剤の使用状況の分析及び需給に関する研究

文献情報

文献番号
199800667A
報告書区分
総括
研究課題名
血液製剤の使用状況の分析及び需給に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
清水 勝(東京女子医大)
研究分担者(所属機関)
  • 西川健一(鳥取大医)
  • 面川進(秋田大医)
  • 品田章二(済生会三条病院)
  • 高本滋(愛知医大)
  • 飯野四郎(聖マリアンナ医大)
  • 上田恭典(倉敷中央病院)
  • 小松文夫(東医歯大医)
  • 半田誠(慶応大医)
  • 関口定美(北海道血液センター)
  • 神谷忠(愛知県血液センター)
  • 横山繁樹(京都府血液センター)
  • 柴田弘俊(大阪府血液センター)
  • 前田義章(福岡県血液センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
総ての血液製剤は自発的意志による無償の行為としての献血に基づいて、国内で自給自足することが国際的な世論となっている。血液の自給自足の達成には献血された血液の効率的な有効利用を前提として、その需要動向から適正な確保量を把握することが必要とされる。しかしながら、血液製剤の需要量は地域格差が大きく、さらに医療機関ごとに可成りの差異があることから、投与例について使用適正化基準にもとづく適正な使用であるか否かを評価することによって、そのような差異を考慮することなく適正な使用量より真の需要量を把握することが出来る。そこで本研究班では、血液製剤の需給状況に及ぼす要因を把握するために、日本赤十字社(日赤)血液センター(BC)と、班員が調査可能な主要な医療機関における血液製剤別の疾患別、製剤別の使用状況を検討し、さらに、医療機関所属の班員については各自の施設での各血液製剤の使用動向を把握することに努め、血液製剤毎に使用状況を検討し、それらの適正使用の評価を行うことにしている。
一方、上述の適正な需要量は今後の人口動態に対応する献血者の確保対策によって裏打ちされなければならない。すなわち、献血者の善意を最大限に尊重するとともに、安全な血液の供給ということを前提として、献血における意識と検査結果の通知の問題と、感染症関連試薬の精度の問題についても検討することにしている。
研究方法
北海道、秋田県、愛知県、京都府、大阪府および福岡県の各BCが供給している主な医療機関における輸血用血液の使用量とその動向の変動要因を地域差も含め検討した。
班員の施設における各血液製剤の経年的な使用量の推移、特に1997年4月の輸血同意書の義務化に伴う使用動向への影響を把握する目的で、1996年、1997年、1998年の4月~9月の6ヶ月間の血液製剤の使用量を調査した。
新鮮凍結血漿(FFP)の適応は日本輸血学会血液製剤使用適正化基準最終案により評価した。すなわち、FFPの投与はプロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、フィブリノゲンの測定を原則とし、PT・APTTが正常対照の1.5倍以上の延長あるいは凝固因子活性が30%以下、ないし100mg/dl以下の低フィブリノゲン血症を認めた症例を適正な使用とした。但し、血栓性血小板減少性紫斑病や溶血性尿毒症症候群の血漿交換療法にFFPを置換液として使用する場合は適正とした。
アルブミン(HSA)の適応は以下の共通の基準で臨床的な適応評価を行った。すなわち、急性循環不全(血圧低下、尿量減少、急性心肺不全など)が存在する場合は、血清Alb値が3.0g/dl未満であれば適正、3.0g/dl以上で合併症(大量の胸水、腹水、心嚢水など)が有れば保留、無ければ不適正とした。急性循環不全が存在しない場合は、血清Alb値が2.5g/dl未満で合併症があれば適正、無ければ保留とし、2.5g/dl以上で合併症が有れば保留、無ければ不適正とした。尚、血漿交換時におけるHSAの使用は血清Alb値に関わらず適正とした。
免疫グロブリンは年間使用量の把握を行い、将来疾患別集計が可能となる体制を整えた。
献血における意識と検査結果の告知に関しては、層化2段抽出による対象者約700人の一般集団における献血状況と、横浜、大阪、九州地区のSTD患者における献血状況、HIV検査の受検状況、受検期間の分布、献血に対する意識などを調査した。
原料血漿中のHIVのスクリーニング検査法の感度と特異性に関しては、抗体検査はElisa、PAおよび簡易法のICA(イムノクロマトグラフィ法)の3種類、P24抗原検査法、抗原・抗体のコンビネーション法、WB法、PCR法、TMA(transcription mediated amplification)の合計8種類の検査法を比較した。
結果と考察
札幌地区は供給量上位100病院において特定の2週間に輸血を行った患者の性別、年齢、病名、手術の有無、使用血液製剤とその使用量に関するアンケート調査を行い、69%の回収率が得られた。これは管内供給数の70%を占め、輸血患者数は901人で、14,118単位使用され、患者1人当たりの平均使用量は15.7単位であった。年代別使用量は10才代が最大で、80才以降が最小であった。病院規模別では501床以上の大病院での輸血量が多く、疾患別では赤血球製剤(RBC)は消化器系疾患、血小板製剤(PC)は血液疾患、血漿製剤も消化器系疾患で最も使用されていることが明らかになった。
秋田県内22の主要な医療機関における過去3年間の血液製剤の使用状況では、人全血液(WB)の使用は大きく減少し、RBCと血漿製剤も減少傾向がみられるが、PCは血液内科が充実した施設での増加があり、全体でもやや増加していた。
愛知地区は一大学病院の過去3年間の血液製剤の使用状況を調査した。RBCは血液疾患と消化器疾患、PCは血液疾患、FFPは消化器疾患で大部分が使用され、過去3年間でRBCとFFPの使用量はあまり変化はみられないが、PCの使用量はベット数の増加と高単位製剤の使用が増えたことにより増加傾向がみられた。
京都府下は2大学附属病院と1公立病院の過去3年間の各診療科別の輸血状況を調査した。RBC、PC、FFP共に1997年は対前年比で減少し、1998年もFFPは引き続き減少傾向がみられたが、RBCとPCは再度増加した。自己血輸血が普及している診療科では同種血の使用が著明に減少したが、血液内科、移植外科共にRBCとPCを主とした同種血が多く使用されており、今後も患者数によりその使用量は増減するものと考えられる。
大阪府下はベッド数1,000床以上の5病院の過去5年間の輸血状況を調査した。WBは減少傾向を示したが、RBCはほぼ一定であり、FFPは2病院において半減した。PCは年間使用量の変化が大きく、4施設で対前年比30%の増減がみられた。
福岡県は行政・医療機関・血液センターが一体となり血液製剤の適正使用に取り組んでおり、WBの使用は激減し、RBCは僅かながら減少に転じ、200ml由来RBCは殆ど使用されなくなった。FFPの使用は明らかに減少し、PCの使用量はここ5年間変化は少なかったが、1996年を境に減少に向かっている。冠動脈バイパス術、肝切除と食道癌手術時の血液製剤の使用状況を主要5医療機関で調査したが、施設間で使用製剤とその量にかなりの幅があることが判明した。
班員の10施設における1996年、1997年、1998年の4月~9月の6ヶ月の血液製剤の使用量は、1998年に3施設で使用量が減少したが、7施設は殆ど変化が認められなかった。班員の施設の多くは1997年4月の輸血同意書の義務化以前にインフォームドコンセントを得る体制が整えられており、血液製剤の使用量への影響は少なかったものと思われる。
FFPは班員の8施設、202症例について評価を行い、適正な使用は27例(12.4%)であった。班員の施設においても症例は少ないものの7例中5例に凝固異常が認められた施設から、37例全例に凝固異常が認められなかった施設まで様々ではあったが、日本輸血学会血液製剤使用適正化基準最終案を満たす症例は僅かであることが判明した。
HSAは班員の8施設、390症例について評価を行い、適正と判定された症例は231例(59.2%)、判定保留は96例(24.6%)、不適正は63例(16.2%)であった。班員の施設間においても不適正な使用が全く無い施設から、約60%が不適正な施設まで幅がみられたが、従来の評価と同様に今年度も約60%は適正に使用されている結果が得られた。
免疫グロブリンは7施設で使用量が判明し、1施設は増加、3施設は減少傾向、3施設は横這いの状況である。使用目的は大部分の施設で不明であるが、判明している施設では先天性免疫不全症、川崎病や造血幹細胞移植時の使用もあるものの、多くは重症感染症に使用されており、その効果は疑問であり、使用適正化基準の設定が望まれる。
一般集団の献血経験は過去5年間では20.6%で、過去1年間では8.5%であった。一方、STD患者の献血経験は過去5年間では22.2%で、一般集団とほぼ同率であった。STD患者でエイズ検査を受けた割合は献血経験無しの群では12.3%で、献血経験有りの群ではほぼ2倍の26.3%であった。HIV感染リスクの認識は献血経験の有無で差異は認めれられなかった。また、STD患者群は献血経験の有無に関わらず性行動が活発であることが明らかになった。
HIV検査法の感度はWB<抗体検査<抗原検査=抗原・抗体コンビネーション法<PCR≦TMAの順に感度が高い。最も高感度なTMAは検出限界が200コピー/mlであるので、抗体陽性の感染者を陰性と判定した。従って、HIVのスクリーニングに遺伝子検査を採用するのであれば、抗体検査などの血清学的検査は不可欠であると考えられる。
結論
北海道、秋田県、愛知県、京都府、大阪府、福岡県の6BCが血液を供給している主な医療機関では、RBCとFFPは概ね減少傾向にあるが、PCの使用量は変動が大きいことが判明した。班員の施設においては輸血承諾書の義務化に伴う影響はあまり認められなかった。FFPは日本輸血学会血液製剤使用適正化基準最終案を満たす適正使用は僅か12.4%であった。HSAは約60%は本班が定めた基準では適正な使用であった。免疫グロブリンの使用量は1施設を除いて横這いないし減少傾向ではあるが、その多くは効果が定かではない重症感染症に使用されていると推察され、使用適正化基準の設定が望まれる。STD患者の献血経験は過去5年間で調査すると一般集団とほぼ同率であることが判明した。HIV検査法ではTMAが最も感度が高いことが明らかになったが、抗体検査などの血清学的検査と併用する必要があると考えられる。

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