文献情報
文献番号
201726013A
報告書区分
総括
研究課題名
人口減少社会における情報技術を活用した水質確保を含む管路網管理向上策に関する研究
課題番号
H29-健危-一般-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 史朗(公益財団法人水道技術研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 島崎 大(国立保健医療科学院)
- 安藤 茂(公益財団法人水道技術研究センター)
- 長岡 裕(東京都市大学 工学部)
- 荒井 康裕(首都大学東京 都市環境学部)
- 三宅 亮(東京大学大学院 工学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
4,973,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
人口減少に伴う水需要減少による給水収益の悪化及び水道事業に携わる職員の減少等により、特に小規模水道事業者において事業の持続が困難になりつつある。また、水需要減少により、水道管内での水の滞留に伴う水質悪化等が懸念される。このような状況下でも、送配水管における管路網の管理及び末端給水での水質管理の確保・向上を図ることが求められており、遠隔監視制御技術の活用による水質管理を含む効果的な管網管理手法が望まれるが、遠隔監視制御を水質管理等に積極的に実施している事例は国内に少なく、高価なシステムであるため、特に小規模水道事業者における普及が進んでいない状況である。このような背景から、本研究は、将来にわたり適切な管路網管理を持続していくために、最近進展が著しい情報通信技術を活用し、少ない職員で広い地域の送配水管を効果的に管理するための遠隔監視制御手法及び安価な水質計の提案を目的とする。
研究方法
本研究では、以下の4つの課題に取り組んでいる。「送配水管における水質管理等の課題の抽出」では、水道事業体における送配水管の管理の実態把握を行うため、ヒアリング調査及び現地調査を行った。「送配水管における水質管理等の既存技術の調査」では、水道事業体へのヒアリング調査から導入技術を整理するとともに、関連技術を有する企業のウェブサイト等から情報収集を行った。また、海外学術論文等から海外における水質監視技術等の動向を調査した。「送配水管における水質等の変化の予測及び実証」では、小規模水道の形体を有し、かつ、既に末端給水栓に自動水質測定装置が導入されているフィールド(以下、実証フィールド)を対象として、水量、水質データを入手し基本統計量の分析を実施し、重回帰分析による予測モデルの構築を行った。また、実証フィールドで採水した試料水について、水質試験を実施し、管路内における水質の実態把握を行った。「水質計の開発及び実証」では、別途プロジェクトで開発された水質計について、水道分野へ適用するため、プロトタイプの水質計器を浄水場内に設置し、精度試験を行った。
結果と考察
ヒアリング調査等の結果、管路網内及び末端給水栓で遠隔監視・制御装置を導入している水道事業体は少なく、ヒアリング調査を実施した全水道事業体において、その課題として「コスト」が挙げられていた。 また、水道法施行規則に基づく毎日検査項目について、人手による測定の場合、送配水管における水質管理には、ほとんど活用されていないことが分かった。海外学術文献等の調査では、送配水過程を対象とした水質監視技術について、実務への活用や実用化が検討されている水質項目を抽出するとともに、導入における課題や留意点等を取りまとめた。実証フィールドでの予測では、モニタリングデータを用いた重回帰分析により、対象期間内の残留塩素濃度消費幅と個人宅残留塩素濃度の全体的な変動傾向を捉え、値を推定することができた。また、実証フィールドで採水した試料水の分析を行い、管内において微細なたんぱく質が発生していることが推定された。水質計の開発では、既存計器との精度比較等を行った結果、概ね安定的に動作することが確認された。
結論
ヒアリング調査等により、送配水管における水質等管理では、遠隔監視制御装置を活用した末端までの管理を実施している水道事業体が少ないことが確認され、導入が進まない背景として、「コスト面」、「維持管理面」、「設置場所の確保等」といった課題が挙げられた。毎日検査の測定方法においては、人手による測定が安価であるため、遠隔監視装置の導入が進んでいない傾向が見受けられた。海外の学術文献等を通じて、世界各国で常時遠隔監視が可能な水質項目として100項目以上が実用化されていること、米国では有害化学物質や病原微生物の意図的な水道への混入といったテロ行為に対する警報システムとして注目されていること、配水管網内のセンサーの最適配置を検討した事例があること、遠隔監視装置導入の利点、課題などが分かった。実証フィールドでの予測では、時間遅れを考慮した残留塩素濃度消費幅に着目し、相関分析から影響要因とそれらの時間遅れを決定することで、重回帰分析により高い精度のモデルを推定することができた。また、採水した試料水の分析により、管路内に微細なたんぱく質を含む粒子が発生し、それらも一つの原因となって、管路内の水道水中の残留塩素濃度が低減することが示された。水質計の開発では、簡易交換機能を備えた試薬カートリッジや、ポンプユニットと水質計ユニットを同じ無線系で通信制御可能な水質計を開発し、実地評価を行った結果、概ね安定的に動作することが確認された。一方、取得データについては、既存計器の計測値の推移と比較して、特徴的な変動・ばらつきが確認され、これらの要因を推察し、今後の対応策について提案した。
公開日・更新日
公開日
2019-03-22
更新日
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