半揮発性有機化合物をはじめとした種々の化学物質曝露によるシックハウス症候群への影響に関する検討

文献情報

文献番号
201726008A
報告書区分
総括
研究課題名
半揮発性有機化合物をはじめとした種々の化学物質曝露によるシックハウス症候群への影響に関する検討
課題番号
H28-健危-一般-007
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
欅田 尚樹(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 稲葉 洋平(国立保健医療科学院 生活環境研究部 )
  • 伊藤 加奈江(戸次 加奈江)(国立保健医療科学院 生活環境研究部 )
  • 林 基哉(国立保健医療科学院 生活環境研究部 )
  • 金 勲(キム フン)(国立保健医療科学院 生活環境研究部 )
  • 緒方 裕光(女子栄養大学 栄養学部)
  • 加藤 貴彦(熊本大学 医学部)
  • 内山 巌雄((財)ルイ・パストゥール医学研究センター)
  • 東 賢一(近畿大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
6,230,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 緒方裕光 国立保健医療科学院(平成28年4月1日~平成29年3月31日)→女子栄養大学(平成29年4月以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
国内外のシックハウス問題においては,半揮発性有機化合物 (Semi Volatile Organic Compounds:SVOC)の曝露が,内分泌かく乱作用や子供の喘息,アレルギー症状を引き起こす可能性が指摘されている。また,SVOCは,室内空気の吸入曝露のみならず,室内ダストの経口・吸入・経皮曝露,飲食物からの経口曝露を含めた多媒体曝露による健康リスク評価を実施することが重要とされており,特に近年,室内環境や食物からの多媒体曝露が最も多いと考えられているフタル酸エステル類が着目されている。しかしながら,これらの化合物については,ハウスダストなどの室内の環境試料を対象とした曝露評価法が定まっていないことから,曝露の実態が明らかとされていない。そこで平成29年度は,前年度確立させた,ダスト中のフタル酸エステル類の分析法及び曝露評価手法を用い国内の一般家庭における実態調査とそのリスクの解明,また,調査結果を基にした汚染に対する建築学的な対処法の考案,さらに空気中のSVOCを対象とした新規測定法の検討を目指した研究を実施した。さらに,化学物質に高感受性を示す集団に対する予防法の開発や診断・治療方法の開発等も見据え,化学物質に対する感受性要因に関する基礎的知見の獲得を目指し,昨年度に引き続き,化学物質高感受性集団のアンケート調査結果や,メタボローム解析による生体内代謝経路における生体内因子や,生活習慣や体質との関りついて検討した。
研究方法
目標達成のため,平成29年度は次の7項目に取り組んだ。1. ハウスダスト中のフタル酸エステル類の分析,2. 住宅・生活環境評価とダスト中SVOC濃度解析,3. 室内空気中フタル酸エステル類の分析,4. 拡散サンプラーを用いた室内空気中VOCsとSVOCの分析,5. SVOCの健康リスク評価,6. アンケート調査による化学物質感受性変化の要因解析, 7. 化学物質に高感受性を示す宿主感受性要因の検討。本研究は各機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した。
結果と考察
実施した7つの研究項目に関する結果を以下に示す。
1. ハウスダスト中のフタル酸エステル類の汚染実態調査の結果からは,5種類(DMP,DBP,DEHP,DINP,DNOP)のフタル酸エステル濃度が,粒径100-250 μmのダスト中で100μm以下より有意に高く検出された。これらは,国内外の報告と比較しても同程度の汚染レベルであることが確認された。
2. 住居と室内環境,健康・アレルギー症に関するアンケートを実施し,得られた住宅や室内環境要素とダスト中SVOC濃度との相関について解析したところ,建築年数や居住年数,床材の材質,使用した暖房器具の種類,芳香剤の使用によりSVOC濃度に有意な差異が認められた。今後は,データ数を増やし,より統計学的な検討を進める必要性が考えられた。
3. 7家屋の空気調査結果から,DBP及びDEHPが検出され,成人男性の1日の摂取量を算出したところ,DBP 1.1-15.3μg/day,DEHP 0.7-17.5μg/day範囲であり,平均吸入摂取量はDBP 5.8μg/day,DEHP 4.7μg/dayと推定された。
4. SVOCである2E1H及びテキサノールは,他のVOCsと比較すると低濃度のレベルにあったものの,拡散サンプラーを用いた1週間の連続した捕集により一般の室内環境中での検出が可能となり,SVOC測定法として有効であることが示唆された。
5. 多媒体曝露評価モデルによるフタル酸エステル類に関するリスク評価において,DEHPとDnBPでは3歳児で曝露マージンが小さく,3歳児は成人に対して体内負荷量が約10倍になることが明らかとなった。
6. QEESIによるアンケート調査より,化学物質に対する感受性変化の要因は,建材よりも住居内への持ち込む物品・什器が関係しており,その症状改善には,適度な運動が効果的であることが明らかとなった。また,その背景因子として,自律神経系の関与が示唆された。
7. 化学物質過敏症の生体内因子の解析においては,メタボローム解析による再現性ある代謝物の変化は認められなかった。また,化学物質過敏症の発症に対するパーソナリティー要因との関連については, 生まれつき持っている「気質(Temperament)」よりも, 後天的に獲得していく「性格(Character)」の影響が大きいことが示唆された。
結論
本研究の実施により,室内環境中のダストを介したフタル酸エステル類のリスク要因が明確とされ,化学物質に対する感受性要因を明らかにするための心理的,生理学的要因に関する知見を得ることができた。これらの成果は,SVOC汚染に対する対応策として,今後,生活衛生上の健康危機に備えた管理法として有用な知見と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2018-07-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-07-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201726008B
報告書区分
総合
研究課題名
半揮発性有機化合物をはじめとした種々の化学物質曝露によるシックハウス症候群への影響に関する検討
課題番号
H28-健危-一般-007
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
欅田 尚樹(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 稲葉 洋平(国立保健医療科学院 生活環境研究部 )
  • 伊藤 加奈江(戸次 加奈江)(国立保健医療科学院 生活環境研究部 )
  • 林 基哉(国立保健医療科学院 生活環境研究部 )
  • 金 勲(キム フン) (国立保健医療科学院 生活環境研究部 )
  • 緒方 裕光(女子栄養大学 栄養学部)
  • 加藤 貴彦(熊本大学 医学部)
  • 内山 巌雄((財)ルイ・パストゥール医学研究センター)
  • 東 賢一(近畿大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 緒方裕光 国立保健医療科学院(平成28年4月1日~平成29年3月31日)→女子栄養大学(平成29年4月以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
半揮発性有機化合物 (Semi Volatile Organic Compounds:SVOC)とシックハウス問題との関連性が指摘されている。本研究では,平成28年度~29年度に渡り,代表的なSVOCであるフタル酸エステル類を中心に,実態調査に基づいた曝露評価を実施することで,リスクを明らかにすることを目的とし,研究を進めてきた。また,平成29年度は,フタル酸エステル以外にも,SVOCとして,ガス状で比較的空気中に多く存在する2-エチル-1-ヘキサノール(2E1H)及びテキサノールについて,拡散サンプラーを用いた新たな捕集法により,一般家屋において実態調査を行った。さらに本研究では,化学物質に対する感受性要因や予防法の開発,診断方法や治療法の開発等を目的とした遺伝子解析やアンケートを用いたコホート調査の実施,さらには,室内でのSVOC汚染に対する建築学的な対処法の考案を目指した。
研究方法
目標達成のため,平成28年度~29年度において,次の6項目に取り組んだ。1. 室内環境中フタル酸エステル類の分析,2. 拡散サンプラーを用いた室内空気中のVOCsとSVOCの分析,3. フタル酸エステル濃度と居住環境因子の解析,4. SVOCの健康リスク評価, 5. アンケート調査による化学物質感受性変化の要因解析,6. メタボローム解析による化学物質高感受性要因の検討。
結果と考察
実施した6つの研究項目に関する結果を以下に示す。
1. 本研究により確立した,ハウスダスト中のフタル酸エステル類に関する分析法により,一般家庭のダスト中において,5種類(DMP、DBP、DEHP、DINP、DNOP)のフタル酸エステルが,粒径100-250 μmのダスト中で100μm以下より有意に高く検出され,粒径ごとの濃度分布を示すことができた。また,国内外の汚染レベルとの比較から,我が国の汚染実態が詳細に示された。
2. 1週間の連続した捕集により,空気中VOCsの平均的な濃度が得られた。SVOCである2E1H及びテキサノールは,他のVOCsと比較すると低濃度のレベルにあり,指針値を超過する住宅は検出されなかったものの,拡散サンプラーにより長期的に捕集することで,一般の室内環境中での検出が可能となり,SVOC測定法として有効であることが示唆された。
3. 実態調査による住宅,室内環境及びアレルギー症に関するアンケート調査の結果,塩ビシートや塗り壁材を使用する住宅で,DEHP(100-250 μm)とSUM(100-250 μm)の濃度が高い傾向にあり,石油ストーブ/ファンヒーターを暖房に使用している住宅でDINP濃度が高かった。これにより,ハウスダスト中のフタル酸エステル濃度に対する建築学的対処策の考案に繋がる基礎的知見が得られた。
4. 多媒体曝露評価モデルによるフタル酸エステル類に関する一般家屋での最大体内負荷量とTDIを比較すると、DEHPとDnBPではとりわけ3歳児で曝露マージンが小さく、3歳児は成人に対して体内負荷量が約10倍になることが明らかとなった。
5. Quick Environmental Exposure AND Sensitivity Inventory(QEESI)を用いたアンケート調査から,化学物質感受性の増悪に対して,建材よりも住居内への持ち込む物品・什器が関係していることや,その改善には、適度な運動が効果的であることが明らかとなった。また,化学物質高感受性の背景因子としては、慢性的な化学物質に対する高感受性を有するものは、幼少の頃から外的刺激による自律神経系の乱れが生じやすく、今後、集団単位で各経路別曝露量を調査する必要性が考えられた。
6. メタボローム解析からは,再現性のある,症例群の有意な代謝物の変化は認められず,更なる検証が必要と考えられた。さらに,2015年のQEESI調査票に関して,化学物質に対して過敏性と判定された割合は1.8%であり,以前と比較しても増加傾向は見られ無いものの一定程度存在することが改めて確認された。さらに,化学物質過敏症の発症に対するパーソナリティー要因との関連については,生まれつき持っている「気質(Temperament)」よりも,後天的に獲得していく「性格(Character)」の影響が大きいことが示唆された。
結論
本研究の実施により,室内環境中のダストを介したフタル酸エステル類のリスクが明確とされ,化学物質に対する感受性要因を明らかにするための心理的,生理学的要因に関する知見を得ることができた。しかしながら,限られた資源の中では,十分な検証がされていないものも多く存在するため,SVOC曝露とシックハウス症候群との因果関係をより明確にするためにも,今後,さらなる継続した調査研究が必要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2018-07-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-07-11
更新日
2022-11-01

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201726008C

収支報告書

文献番号
201726008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,230,000円
(2)補助金確定額
6,229,000円
差引額 [(1)-(2)]
1,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,188,853円
人件費・謝金 1,660,406円
旅費 1,033,640円
その他 1,346,145円
間接経費 0円
合計 6,229,044円

備考

備考
1,000円 返還

公開日・更新日

公開日
2019-03-14
更新日
-