要介護高齢者の経口摂取支援のための歯科と栄養の連携を推進するための研究

文献情報

文献番号
201715008A
報告書区分
総括
研究課題名
要介護高齢者の経口摂取支援のための歯科と栄養の連携を推進するための研究
課題番号
H27-長寿-若手-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
枝広 あや子(地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 荒井 秀典(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター )
  • 田中 弥生 (駒沢女子大学人間健康学部健康栄養学科 )
  • 安藤 雄一(国立保健医療科学院, 生涯健康研究部)
  • 平野 浩彦 (地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター)
  • 渡邊 裕(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター )
  • 小原 由紀(国立大学法人東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科口腔健康教育学分野 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
1,726,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
認知症をもつ要介護高齢者の適正な栄養介入に必要な基礎情報として,進行段階による身体組成の差異を明らかにすることを目的に[分担研究1]を行った.また歯科衛生士が実施する定期的な口腔機能管理指導による食形態や食行動への効果を認知症重症度別に検討する目的で[分担研究2]を行った.さらに要介護高齢者に対する経口摂取支援多職種チームの発展に関わる情報を得るために,[分担研究3],[分担研究4]の経口摂取支援多職種チームの発展経過プロセスとアウトカムに関する研究を行った.
研究方法
[分担研究1]では介護保険施設および認知症対応型共同生活介護施設の利用者のうちアルツハイマー病(AD)の診断を受けている301名(男性48名,女性241名:平均年齢85.5±7.2歳)を分析対象とした.栄養評価,下肢周囲径(CC)のほか生体電気インピーダンス法を用いて,四肢筋肉量SMI,体脂肪量FMI,除脂肪量FFMI,基礎代謝量を測定した.CDR別の比較検討を目的に各項目のCDR0.5を基準とする減少率(%)を算出した. [分担研究2]5つの介護老人福祉施設の入居者の315名を解析対象とし歯科衛生士による定期的な口腔機能管理を18か月行い介入とした.定期的な口腔機能管理指導の実施前後の変化としてCDR別に食事形態,栄養状態,食欲,自立摂食力の維持・改善率を算出し多重比較した. 自立摂食力は下位項目についても同様に検討した.[分担研究3]介護保険施設で経口摂取支援に関わる専門職で構成されたチームの代表者および相当する職員の367名を対象とした.研修時と6か月後の連携のアウトカムについて歯科の関与およびリーダー役やアドバイザー役など核になる存在,連携実施期間別に多重比較した.[分担研究4]本研究事業において先進事例ヒアリング調査を行った8例の多職種チームについて非構造化面接をもとに時系列にまとめた経過表を対象とした.分析は複線経路等至性アプローチ(TEA)を用いた.本研究においては,EFPを「多職種チーム連携を基盤として施設全体で行うケア」と設定し,それに対する促進因子をSG,考えられる阻害因子をSDと設定した.
結果と考察
[分担研究1]SMI,FFMIはCDR3で最も低値を示し,認知症重症度が重度な者ほど身体組成の変化が起こっていることが示唆された.特にCDR3群では低栄養が男性で25.0%,女性で43.4%と高い割合で出現していた.ADを持つ要介護高齢者においてはCC,SMI,FFMIを含めた詳細な身体組成評価がAD高齢者の予後の良否に寄与すると推察された.[分担研究2]においては, 歯科衛生士が施設職員と連携して行う口腔機能管理指導により食事形態,栄養状態,食欲は60%以上,食事中のむせは70%以上が維持・改善されていた.その効果は口腔・咽頭機能,食形態の維持・改善等に認められるが,自立摂食力の一部には限定的であった.[分担研究3]利用者・家族のQOL向上効果へは,改定前より実施群であることが実施なし/関与なし群よりも有意に影響していた(OR:11.851).利用者の発熱または肺炎予防効果へは,有意にアドバイザー役の存在が影響していた(OR:3.393).[分担研究4]介護保険施設における利用者の経口摂取支援に関わる多職種チームが発展するプロセスをTEM図によって捉えた.TEM図の描出により,俯瞰的に共通点および多様性を捉え,非可逆的時間のなかでの,複数の促進因子が深くかかわっていると考えられた.
結論
[分担研究1]AD高齢者においてBMIのみでは限界があり,CC,SMI,FFMIを含めた詳細な身体組成評価が予後の良否に寄与すると推察された.
[分担研究2]複合的な課題を抱える認知症をもつ要介護高齢者の食を支援するためには, 理学療法士,作業療法士なども含めた多職種による食事中の観察と,情報共有のうえでの食事中の支援が必要である.[分担研究3・4]要介護高齢者への多職種による経口摂取支援では,リーダー役やアドバイザー役,調整役など多職種チームの核となる役割を担う存在が連携の効力感,学習効果を生み,多職種チームの成熟に影響し,さらに経験を重ねることによるチームの質の向上が利用者・家族のQOL向上効果を生むことが示唆された.
本研究において作成した経口摂取支援マニュアルを使用して研修を行い,多職種のグループワークのためのファシリテーターガイドを作成した.経口摂取支援マニュアルは日本歯科医師会発行の平成30年度介護報酬改定のポイントに参考資料として掲載された.

公開日・更新日

公開日
2019-05-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2019-05-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201715008B
報告書区分
総合
研究課題名
要介護高齢者の経口摂取支援のための歯科と栄養の連携を推進するための研究
課題番号
H27-長寿-若手-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
枝広 あや子(地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 荒井 秀典 (国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)
  • 田中 弥生 (駒沢女子大学人間健康学部健康栄養学科)
  • 安藤 雄一(国立保健医療科学院, 生涯健康研究部)
  • 平野 浩彦(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター)
  • 渡邊 裕(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター)
  • 小原 由紀(国立大学法人東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科口腔健康教育学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
歯科職種(歯科衛生士等)と栄養関連職種(栄養士等)が情報を共有するための予知的で簡易なスクリーニング法の提案・有用性を目的に[分担研究1]を行った.また食事観察の具体的な評価法の検討の為,認知症高齢者の摂食力評価表(以下SFD)を用いて,[分担研究2]を行った.さらに認知症をもつ要介護高齢者の適正な栄養介入に必要な基礎情報として,進行段階による身体組成の差異を明らかにすることを目的に[分担研究3]を行った. CC,SMI,FFMIを含めた詳細な身体組成評価がAD高齢者の予後の良否に寄与すると推察された.
要介護高齢者に対する経口摂取支援に関わる職種間の連携に必要な要素の抽出を試み [分担研究4]を行った.また医療・介護の専門職を対象とした要介護高齢者の経口摂取支援における多職種連携での課題や工夫の質的検討による抽出[分担研究5]を行った.これらをもとに経口摂取支援マニュアルを作成した.また歯科衛生士が実施する定期的な口腔機能管理指導による効果を認知症重症度別に検討する目的で[分担研究6]を行った.さらに要介護高齢者に対する経口摂取支援多職種チームの発展に関わる情報を得るために,[分担研究7],[分担研究8]を行った.
研究方法
[分担研究1]は経年的調査に参加した要介護高齢者164名に対し, 1年後の摂食嚥下機能を予測する因子について,血清Alb値,身体計測値の年齢性別を調整した残差を用いて検討した.[分担研究2]は介護老人福祉施設の308名を対象に30か月間継続的に調査を行い自立摂食力評価(SFD)スコア別の生存曲線の描出とCox比例ハザード分析を行った.[分担研究3]アルツハイマー病(AD)の診断を受けている301名を対象に,生体電気インピーダンス法を用いて,四肢筋肉量,体脂肪量,除脂肪量,基礎代謝量を測定しCDR別の比較検討を目的に各項目のCDR0.5を基準とする減少率(%)を算出した.[分担研究4]介護老人福祉施設利用者83名に対して,経口摂取支援を行った際の管理栄養士と歯科衛生士の業務記録を分析対象とし, 職種,介入時期,介入形態別に,特徴的な語,対応分析および共起ネットワークを描画し,業務記録全てをコーディングした後,統計解析を行った.[分担研究5]要介護高齢者の経口摂取支援方法に関する研修会の参加者231名の医療・介護連携現場における課題と工夫の自由回答に対してテキストマイニングを行った.[分担研究6]介護老人福祉施設の入居者315名を解析対象とし18か月間の定期的な歯科衛生士による口腔機能管理指導を行った.指導の実施前後の変化はCDR別に食事形態,栄養状態,食欲,自立摂食力の維持・改善率を算出した.[分担研究7]では介護保険施設において要介護高齢者に対する経口摂取支援に関わる専門職チームの代表367名に対し,取り組みによるアウトカムに対する要因の多変量解析を行った.[分担研究8]本研究事業において非構造化面接を行った介護保険施設8例の経過を対象に, 複線経路等至性アプローチ(TEA)を用いて複線経路等至性モデル(TEM)図を描出した.
結果と考察
[分担研究1]では1年後の摂食嚥下機能ともっとも強い相関を示したのは,下腿周囲長(CC)であった.[分担研究2]では有意にSFD25点以下の者で生存率低下があり,比例ハザードモデル解析でSFDが有意に死亡退所発生に影響していた.[分担研究3]ではCC,SMI,FFMIを含めた詳細な身体組成評価がAD高齢者の予後の良否に寄与すると推察された. [分担研究1.2.4.5]では連携の課題や工夫の要点が得られ,これをもとに経口摂取支援マニュアルを作成した.[分担研究6]では歯科衛生士が施設職員と連携して行う定期的な口腔機能管理指導の効果は口腔・咽頭機能,食形態の維持・改善等に認められた.[分担研究7.8]からは要介護高齢者への多職種による経口摂取支援では,リーダー役やアドバイザー役,調整役など多職種チームの核となる役割を担う存在が連携の効力感,学習効果を生み,多職種チームの成熟に影響し,さらに経験を重ねることによるチームの質の向上が利用者・家族のQOL向上効果を生むことが示唆された. TEM図の描出により,俯瞰的に共通点および多様性を捉え,非可逆的時間のなかでの,複数の促進因子が深くかかわっていると考えられた.
結論
一連の研究により,簡易で介入ニーズのアセスメントともなる指標が確認された.研究成果は歯科と栄養および多職種が連携するための経口摂取支援マニュアルや多職種グループワークのファシリテーターガイドの基礎資料となった.同マニュアルは日本歯科医師会発行の平成30年度介護報酬改定のポイントに参考資料として掲載された.

公開日・更新日

公開日
2019-05-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
その他

公開日・更新日

公開日
2019-05-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201715008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は介護保険施設における要介護高齢者の経口摂取維持を目的とした多職種の支援の方法論に関する研究である。これまでの知見に加え、簡易な評価方法による栄養状態の予測性や、多職種による食事の観察評価結果が生命予後へも影響することを明らかにした。また多職種チームの発展についてTEAを利用した検討を行い、プロセスを可視化したのは新たな知見であった。
臨床的観点からの成果
介護保険施設における多職種が共同して行う要介護高齢者の経口摂取支援のマニュアル(多職種経口摂取支援チームマニュアル)を作成し、日本栄養士会、日本歯科医師会、日本歯科衛生士会、全国老健施設協会、全国老人福祉施設協会を通じて配布し、同マニュアルを使用した研修会を行った。日本歯科医師会が発行する「平成30年度介護報酬改定のポイント」に参考資料として掲載された。
ガイドライン等の開発
多職種経口摂取支援チームマニュアルを作成し、複数の地域でマニュアルを使用した研修会を開催した。多職種による経口摂取支援の方法について、具体例を示すことで教育効果が生じ適正算定が促進された。日本歯科医師会が発行する「平成30年度介護報酬改定のポイント」「介護保険における歯科・口腔関係の全体概要(平成31年3月)」に参考資料として掲載された。
その他行政的観点からの成果
本事業において多職種で行うグループワークのファシリテーターガイドを作成した。ファシリテーターガイド作成過程で地域行政と地域医療介護連携の会において、行政担当者も参加する多職種グループワークを実施した。地域の医療介護連携を進める上で課題の共通認識を高めることにつながった。
その他のインパクト
 研究内容に関し、取材を受け日本経済新聞社と日経BP社が運営するウェブサイト「NIKKEI STYLE」「日経Gooday」において「知れば慌てない 認知症の種類で異なる「食事の困難」」、「見過ごしがち 認知症患者の「お口トラブル」」という記事が公開された。研究内容に関し令和元年度より日本歯科医師会の生涯研修を全国で行っている。

発表件数

原著論文(和文)
21件
原著論文(英文等)
20件
その他論文(和文)
92件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
58件
学会発表(国際学会等)
21件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
経口維持加算の適切な遂行への貢献
その他成果(普及・啓発活動)
108件
平成29年45件+平成28年41件+平成27年22件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2019-05-15
更新日
2023-05-01

収支報告書

文献番号
201715008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,243,000円
(2)補助金確定額
2,243,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 159,924円
人件費・謝金 1,049,087円
旅費 321,511円
その他 195,478円
間接経費 517,000円
合計 2,243,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2019-03-20
更新日
-