生活行為障害の分析に基づく認知症リハビリテーションの標準化に関する研究

文献情報

文献番号
201715003A
報告書区分
総括
研究課題名
生活行為障害の分析に基づく認知症リハビリテーションの標準化に関する研究
課題番号
H27-長寿-一般-004
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科精神医学)
研究分担者(所属機関)
  • 石川 智久(熊本大学医学部附属病院 神経精神科)
  • 田中 響(熊本大学医学部附属病院 神経精神科)
  • 北村 立(石川県立高松病院)
  • 川越 雅弘(埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科)
  • 堀田 聰子(慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科)
  • 小川 敬之(九州保健福祉大学大学院)
  • 田平 隆行(鹿児島大学 医学部保健学科)
  • 堀田 牧(熊本大学大学院 生命科学研究部神経精神医学分野)
  • 村田 美希(くまもと青明病院)
  • 吉浦 和宏(熊本大学医学部附属病院 神経精神科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
5,920,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 堀田牧 熊本大学医学部附属病院神経精神科(平成29年4月1日~平成29年8月31日) →熊本大学大学院生命科学研究部神経精神医学分野(平成29年9月1日~平成29年12月31日)

研究報告書(概要版)

研究目的
前年度の結果より、アルツハイマー病(AD)の生活行為障害は認知機能悪化との関連を明確にしたが、既存のADL評価尺度ではADの認知機能面の影響を独立して評価を行うことが難しいため、既存の評価尺度に合わせて生活行為を14項目に設定し、各行為の起点と終点を定めて認知機能が関与する工程に評価が可能なAD-ADL評価表を作成した。
今年度は、新たに作成したAD-ADL評価表の実用性を検討するため、作業療法士が軽度AD患者を対象に評価とリハビリテーションの実介入を行い、他のADL尺度や認知機能尺度との整合性、関連性について検証を行った。
研究方法
平成29年7月から12月までの間、介護サービス未利用の在宅軽度AD患者6名に対して、作業療法士3名が各々対象者2名を受け持ち、「排泄」「食事」「更衣」「整容(身繕い)」「移動」「入浴」「電話」「洗濯」「外出」「買い物」「調理」「家事(調理・洗濯以外)」「服薬管理」「金銭管理」の14項目を評価するAD-ADL評価表を用いて生活行為評価を行い、リハビリ目標を設定後、30分/回・週2回・3ヶ月間のリハビリ介入を行った。期間終了後は再評価を行い、Physical Self-Maintenance Scale(PSMS)、Lawton Instrumental Activities of Daily Living Scale(IADL)、Hyogo Activities- of Daily-Living Scale(HADLS)等の他ADL尺度や全般的な認知機能の尺度であるMini-mental State Examination(MMSE)との整合性、関連性について検証を行った。また、AD-ADL評価表施行のみのリハビリ未介入者データからも、他ADL尺度との整合性、関連性の検証とAD-ADL評価表の実用性を検討した。
結果と考察
対象者6名(M/4,F/2)は、年齢:79.8(SD=2.9)歳、MMSE:22(SD=3.0)であった。介入前評価ではPSMS:5.7(SD=0.8)、IADL:5.3(SD=2.4)、HADLS:15.3(SD=10.7)であり、AD-ADL評価表では、「服薬管理」や「外出」の項目で低下を示す対象が多く、生活行為以外に「日課の乏しさ」「日々の行き場所のなさ」の訴えも多かったが、目標は概ね「服薬管理」もしくは「外出」に絞られることとなった。リハビリ介入の結果、服薬は作業療法士が導入した残薬と日付の確認が可能な薬箱で自立し、外出は各対象で交通事情が異なるものの、同伴外出までは回復した。また、介入後のMMSEは26.1(SD=4.0)、HADLSは11.8(SD=8.7)と大幅な改善を示した。
AD-ADL評価表のみのリハビリ未介入対象者は52名(M/8,F/44)であり、「食事」の自立はどの群でも最も高かったが、「服薬管理」「金銭管理」の自立は低く、軽度認知症群においても1割未満の自立であった。また、「更衣」「洗濯」「料理以外の家事」「買い物」「服薬管理」「起居・移動」の各行為を評価した結果、生活行為において認知機能の関与が少ない工程ほど保たれやすいことが示された。
介入全体の結果から、対象の生活行為の工程をAD-ADL評価表で詳細に評価し、的を絞ったリハビリ介入を作業療法士が行ったことにより、介入後は介入項目で明らかな改善が認められ、全般的な認知機能も改善したことから対象の意欲の向上を引き出した可能性があると考えられた。一方、「日課の乏しさ」や「日々の行き場所のなさ」に対する介入は不十分であったことから、軽度AD患者においては評価項目に挙げた在宅の生活行為以前に、「社会生活」というカテゴリーから、既に障害が始まっていることが考えられた。今後はそれらが在宅の生活行為の障害にも影響を及ぼす可能性があることを見据えたアプローチを検討する必要がある。
結論
軽度AD患者の生活行為障害は、認知機能障害の影響を強く受ける複雑な行為の悪化が特徴的であり、早期に作業療法士などの専門職がAD-ADL評価表で詳細な評価と適切に焦点化したリハビリ介入を行うことで、介入項目の改善と維持が可能であることが示唆された。
今後は、認知症が発症し生活行為が低下する以前から、趣味や興味関心事を日課とした生活、仲間と集う機会やその場所が確保された生活など、社会と切れ目がない多彩な生活を目指した包括的な社会環境整備と、発症後の超早期からの複雑な行為へのリハ介入が利用可能な介護保険サービスとの組み合わせを検討することが、「認知症患者の意思が尊重された地域生活の実現」に必要な取り組みになると考える。

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201715003B
報告書区分
総合
研究課題名
生活行為障害の分析に基づく認知症リハビリテーションの標準化に関する研究
課題番号
H27-長寿-一般-004
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科精神医学)
研究分担者(所属機関)
  • 石川 智久(熊本大学医学部附属病院 神経精神科)
  • 田中 響(熊本大学医学部附属病院 神経精神科)
  • 北村 立(石川県立高松病院)
  • 川越 雅弘(埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科)
  • 堀田 聰子(慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科)
  • 小川 敬之(九州保健福祉大学大学院)
  • 田平 隆行(鹿児島大学 医学部保健学科)
  • 堀田 牧(熊本大学大学院 生命科学研究部神経精神医学分野)
  • 村田 美希(くまもと青明病院)
  • 吉浦 和宏(熊本大学医学部附属病院 神経精神科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 堀田牧 熊本大学医学部附属病院神経精神科(平成29年4月1日~平成29年8月31日) →熊本大学大学院生命科学研究部神経精神医学分野(平成29年9月1日~平成29年12月31日)

研究報告書(概要版)

研究目的
新オレンジプランによる認知症患者の意思が尊重された地域生活の実現とは、「認知症者の質の高い在宅生活の継続性の確保」を示唆するが、在宅生活を阻む最大の要因は日常の生活行為の障害(以下、生活行為障害)であり、その特徴は背景となる疾患や重症度によって異なり多様であるため、生活行為障害を評価して適切な支援策を検討し実践することが重要となる。
本研究では作業療法士と認知症専門医が協働し、認知症者に特化した評価の指標を見出し、生活行為維持のための早期介入と支援のガイドライン確立を目指す。
研究方法
(1)熊本大学病院認知症専門外来に初診したアルツハイマー病(AD)635例、レビー小体型認知症(DLB)118例、前頭側頭葉変性症(FTLD)50例、脳血管性認知症(VaD)92例のデータから、疾患別にPSMS(「排泄」「食事」「着替え」などのADL6項目)、IADL(「買い物」「食事の支度」「服薬管理」などのIADL8項目)と、MMSEとの関連を検討した。
(2)(1)のAD635例と地域疫学研究に参加したMMSE24点以上の健康高齢者691例のデータを基に、MMSEとPSMS・IADLとの関連を比較分析した。
(3)(2)より、介護サービス未利用の在宅軽度AD患者6名に対して、①作業療法士がAD-ADL評価表による評価を行いリハビリ目標を設定する②30分/回・週2回・3ヶ月間、作業療法士がリハビリ介入を行う③期間終了後に再評価を行い、他のADL尺度との整合性、関連性について検証を行った。また、④AD-ADL評価表施行のみのリハビリ未介入者データから他のADL尺度との整合性、関連性の検証を行い、AD-ADL評価表の実用性を検討した。
結果と考察
(1)より、ADではMMSE18点前後から「着替え」「身繕い」が急速に悪化し、「移動能力」は早期から悪化を示した。また、MMSEが高得点であっても、「服薬管理」「金銭管理」は自立が低く、ADのMMSE悪化とPSMS・IADLの悪化には関連性が示された。
(2)より、両群とも加齢による身体機能悪化は認められたが、AD群はADL悪化が健常群よりも10歳程早いことが示された。また、「服薬管理」「金銭管理」はAD群に限って若年から悪化したことから、ADの生活行為障害は認知機能悪化と関連があることが明確となった。そこで、既存の評価尺度に合わせた14項目の生活行為に起点と終点を定め、各行為を5工程・3段階に動作分析を行い、認知機能面の影響も評価が可能なAD-ADL評価表を作成した。
(3)介入対象は、男性4名女性2名、年齢:79.8(SD=2.9)歳、MMSE:22(SD=3.0)、PSMS:5.7(SD=0.8)、IADL:5.3(SD=2.4)、HADLS:15.3(SD=10.7)であり、AD-ADL評価表より、「服薬管理」や「外出」がリハビリ目標となったが、「日課の乏しさ」「日々の行き場所のなさ」を何とかして欲しいという訴えも多かった。介入後、服薬は自立し、外出は同伴外出までは回復した。また、MMSEは26.1(SD=4.0)、HADLSは11.8(SD=8.7)と改善を示した。介入結果から、対象の生活行為の工程を詳細に評価し、的を絞ったリハビリ介入を行ったことにより、介入項目で明らかな改善が認められ、AD-ADL評価表は認知症重症度別に障害される行為や保たれている行為を捉えやすく、介入評価もしやすいことが示された。一方④のリハビリ未介入群は、男性8名女性44名、年齢:83.7(SD=7.4)歳、MMSE:14.7(SD=5.7)であった。対象をMMSE:2-9点(重度)群、10-19点(中等度)群、20点以上(軽度)群に分類して各評価尺度との妥当性を検討したところ、「食事」の自立が最も高く、重度群では「更衣」「整容」の自立は0であった。また、「服薬管理」「金銭管理」の自立は低く、軽度群においても1割未満の自立であり、重度群では0であった。以上の結果より、認知機能の関与が大きい工程ほど早期からリハビリ介入すべきことが示唆された。
結論
軽度AD患者においても生活行為障害は、認知機能の影響を強く受ける複雑な行為の悪化が特徴的であり、早期に作業療法士がAD-ADL評価表で詳細な評価と焦点化したリハビリ介入を行うことで、介入項目の改善と維持が可能であることが示唆された。しかし、「日々の行き場所のなさ」などの訴えは持続したため、今後は、認知症発症以前から、趣味や興味関心事を日課とした生活、仲間と集う機会やその場所が確保された生活など、社会と切れ目がない包括的な社会環境整備と、発症後の超早期からの複雑な行為へのリハ介入との組み合わせを検討することが、「認知症患者の意思が尊重された地域生活の実現」に必要な取り組みになると考える。

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201715003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アルツハイマー(AD)病では認知機能の悪化と生活行為の悪化に関連が示され、健常高齢者よりも5~10歳早く生活行為に障害がおきることから、ADの生活行為障害は通常加齢によるものだけではなく、認知機能の悪化が原因であることを明確化した。この結果から、生活行為の工程と動作の分析を行い、ADの生活行為障害に特化したAD-ADL評価表を作成し、リハビリ介入点の視覚化を行った。
臨床的観点からの成果
アルツハイマー病(AD)患者の生活行為障害について、軽度AD患者においても服薬管理など認知機能の影響を強く受ける複雑な行為の悪化が特徴的であり、早期に作業療法士がAD-ADL評価表で詳細な評価と焦点化したリハビリ介入を行うことで、介入項目の改善と維持が可能であることが示唆された。
ガイドライン等の開発
既存のADL評価尺度に合わせて、アルツハイマー病(AD)患者の生活行為障害を「排泄」「食事」「更衣」「整容(身繕い)」「移動」「入浴」「電話」「洗濯」「外出」「買い物」「調理」「家事(調理・洗濯以外)」「服薬管理」「金銭管理」の14項目に整理し、各生活行為に起点と終点を定め、各行為を5工程・3段階に動作分析を行い、認知機能面の影響も評価が可能なAD-ADL評価表を作成した。
その他行政的観点からの成果
今後、他認知症研究および地域介入においてAD-ADL評価表等を活用予定。
その他のインパクト
認知症事例検討会において、作業療法士の支援事例としてAD-ADL評価表を用いた軽度AD患者へのリハビリ介入について講演を行った。今後、他学会においても発表予定。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
第35回日本認知症学会、第50回日本作業療法学会、第32回日本老年精神医学会、
学会発表(国際学会等)
1件
10th International Conference on Frontotemporal Dementia.
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
池田 学
認知症の診断基準とADL
老年精神医学雑誌 , 28 (9) , 965-968  (2017)
原著論文2
北村 立
ADL評価尺度について
老年精神医学雑誌 , 28 (9) , 969-977  (2017)
原著論文3
田平 隆行
高齢者のADLの特徴
老年精神医学雑誌 , 28 (9) , 978-983  (2017)
原著論文4
堀田 牧、田平 隆行、石川 智久、et al.
アルツハイマー病患者のADL障害
老年精神医学雑誌 , 28 (9) , 984-988  (2017)
原著論文5
田中 響
レビー小体型認知症とADL
老年精神医学雑誌 , 28 (9) , 989-992  (2017)
原著論文6
石川 智久
前頭側頭葉変性症とADL
老年精神医学雑誌 , 28 (9) , 993-996  (2017)
原著論文7
吉浦 和宏、橋本 衛
血管性認知症とADL
老年精神医学雑誌 , 28 (9) , 997-1003  (2017)
原著論文8
川越 雅弘
一次判定方法へのADL調査項目の関与と要介護度とADLの関係性
老年精神医学雑誌 , 28 (9) , 1004-1009  (2017)
原著論文9
村田 美希
在宅作業療法の方向性
老年精神医学雑誌 , 28 (9) , 1010-1013  (2017)
原著論文10
小川 敬之
地域資源を活用する作業療法の可能性
老年精神医学雑誌 , 28 (9) , 1014-1020  (2017)

公開日・更新日

公開日
2023-05-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
201715003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,694,000円
(2)補助金確定額
7,694,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,972,115円
人件費・謝金 955,664円
旅費 1,696,929円
その他 1,295,297円
間接経費 1,774,000円
合計 7,694,005円

備考

備考
自己資金5円。

公開日・更新日

公開日
2019-04-16
更新日
-