文献情報
文献番号
201709015A
報告書区分
総括
研究課題名
費用対効果分析の観点からの生活習慣病予防の労働生産性及びマクロ経済に対する効果に関する実証研究
課題番号
H29-循環器等-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
野口 晴子(学校法人早稲田大学 政治経済学術院)
研究分担者(所属機関)
- 田宮 菜奈子(筑波大学 医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野)
- 高橋 秀人(国立保健医療科学院 保健・医療・福祉サービス研究分野)
- 川村 顕(学校法人早稲田大学 政治経済学術院 )
- 下川哲(学校法人早稲田大学 政治経済学術院 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は,(1)生活習慣病の罹患が就労状況(就労確率,就労時間・日数,賃金等)に及ぼす影響について実証的に検証することにより現状を把握し,(2)生活習慣病に対する予防行動が,生活習慣病の罹患率に与える効果を統制した上で,賃金で測った場合の労働生産性に与える効果を定量的に検証する.更に,(1)と(2)から得られたパラメータを用い,(3)生活習慣病予防に対する費用対効果分析の観点から,生活習慣病を予防することによって日本の労働生産性,及び,マクロ経済全体にどの程度の改善がみられるかについてのシミュレーションを行い,「健康日本21(第二次)」等に代表されるヘルスプロモーション政策に対する基礎資料を作成する.
研究方法
第1に,生活習慣病と労働生産性の関連性に関する定量的な検証を行った先行研究のレビューについて,その検索方法と選択基準は,公表済みの学術著作物の定量データを用い,1990-2018年に公表された調査研究について,「健康(health)」,「生活習慣病(lifestyle disease)」,「診断(diagnose)」,「労働生産性(labor productivity)」,「賃金(wage)」,「労働力の参加(labor force participation)」,「賃金水準と構造(wage level and structure)」,「賃金格差(wage differentials)」,または,「人的資本(human capital)」,「技能(skill)」,または,「職業選択(occupational choice)」というキーワードの組み合わせにより, PubMed及びEconlitで検索を行った.結果,英語で書かれた刊行物は,PubMedが269件,Econlitが298件存在したが,本研究プロジェクトとの関連性を1件ずつ判定し,PubMedから30件,Econlitから31件を抽出し,著者・公刊雑誌・公刊年・分析対象とされた国・分析データ・就労と健康に関する変数・分析手法・結果について要約・整理を行った.
第2に,厚生労働省・政策統括官(統計・情報政策担当),厚生労働省・健康局,及び,総務省統計局へデータの二次利用申請をそれぞれ行い,2018年4月24日に全てのデータに対する承認が得らえた.今年度の研究では,データ・クリーンアップを進める過程で得られた基本統計量と内生性/因果性を考慮しない単純回帰分析の結果について考察を行った.
第2に,厚生労働省・政策統括官(統計・情報政策担当),厚生労働省・健康局,及び,総務省統計局へデータの二次利用申請をそれぞれ行い,2018年4月24日に全てのデータに対する承認が得らえた.今年度の研究では,データ・クリーンアップを進める過程で得られた基本統計量と内生性/因果性を考慮しない単純回帰分析の結果について考察を行った.
結果と考察
本研究でレビューを行った先行研究から,生活習慣病の罹患の就労確率や労働生産性に対する影響の大きさは,性別,人種,年齢,教育水準,疾患の種類や重症度によって異なる傾向にあることがわかった.したがって,日本や東アジアでの研究からは,これまでの北米や欧州を中心とした分析とは,異なる結果が得られる可能性が高い.また,医療や介護施策は,生活習慣病の罹患確率に直接影響を及ぼす可能性が高く,ひいては,こうした施策が異なる国や地域における両者の関連性の統計学的な有意性とその影響の大きさについては,さらに検証の余地が残されている.
本年度の研究では,『21世紀新生児縦断調査』・『国民生活基礎調査』・『中高年縦断調査』の3つのデータを用いて,データ・クリーンアップを進める過程で得られた基本統計量と内生性/因果性を考慮しない単純回帰分析の結果について考察を行った.こうした単純な分析からも,健康と就労との有意な関連性について,先行研究が得た知見と整合的な結果が観察された.一方,先行研究と違って,男女やライフサイクルの異なる段階(若年層・成年層・中高齢層)で,健康と就労との関連性のメカニズムに違いが生ずる,つまり,非線形の関連性が存在する可能性があることも示唆された.
本年度の研究では,『21世紀新生児縦断調査』・『国民生活基礎調査』・『中高年縦断調査』の3つのデータを用いて,データ・クリーンアップを進める過程で得られた基本統計量と内生性/因果性を考慮しない単純回帰分析の結果について考察を行った.こうした単純な分析からも,健康と就労との有意な関連性について,先行研究が得た知見と整合的な結果が観察された.一方,先行研究と違って,男女やライフサイクルの異なる段階(若年層・成年層・中高齢層)で,健康と就労との関連性のメカニズムに違いが生ずる,つまり,非線形の関連性が存在する可能性があることも示唆された.
結論
生活習慣病の罹患と労働生産性の関連性に関する科学的エビデンスは,超高齢社会となっている日本や,同じく人口の高齢化が深刻になりつつある東アジア諸国における厚生労働施策にとって必要不可欠な基礎資料となるであろう.したがって,2018年度において,本研究では,データ・クリーンアップ上で得られた基本統計量を活かしながら,ライフサイクルにおける生活習慣病の罹患をはじめとする健康と労働生産性との関連性における内生性/因果性の課題に取り組むことで推定バイアスを最小化し、精度の高いパラメータによって最終的なマクロ・シミュレーションを実施することを目的とする.
公開日・更新日
公開日
2018-07-05
更新日
-