文献情報
文献番号
201708013A
報告書区分
総括
研究課題名
小児・AYA世代がん患者のサバイバーシップ向上を志向した妊孕性温存に関する心理支援体制の均てん化に向けた臨床研究
課題番号
H29-がん対策-一般-008
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 直(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 大須賀 穣(東京大学 医学部)
- 小泉智恵(聖マリアンナ医科大学 医学部)
- 津川浩一郎(聖マリアンナ医科大学 医学部)
- 杉本公平(獨協医科大学越谷病院 リプロダクションセンター)
- 野木裕子(東京慈恵会医科大学 外科学)
- 川井 清考(高木 清考) (医療法人鉄蕉会 亀田総合病院、生殖医療科)
- 福間英祐(医療法人鉄蕉会 亀田総合病院、乳腺科)
- 古井辰郎(岐阜大学大学院医学系研究科)
- 二村 学(岐阜大学医学部)
- 高井 泰(埼玉医科大学総合医療センター)
- 矢形 寛(埼玉医科大学総合医療センター)
- 松本広志(埼玉県立がんセンター)
- 大野真司(がん研有明病院乳腺センター 乳腺外科)
- 山内英子(聖路加国際大学研究センター 乳腺外科)
- 木村文則(滋賀医科大学 医学部)
- 岡田 弘(獨協医科大学越谷病院 泌尿器科)
- 西山博之(筑波大学医学医療系臨床医学域)
- 湯村 寧(公立大学法人横浜市立大学)
- 高江正道(聖マリアンナ医科大学 医学部)
- 杉下陽堂(聖マリアンナ医科大学 医学部)
- 西島千絵(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
11,531,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
不確実性の中で不安と恐怖を有する若年がん患者は、将来の生殖機能温存に関して短期間に自己決定しなければならない大変困難な精神状態にある。がん治療の進歩に伴い、診断時から妊孕性に関する医療情報を提供し同時に精神的サポートも行う心理支援体制の構築が、がんサバイバーシップ向上の為に喫緊の課題となっている。平成26-28年度厚労科研鈴木班では、「がん・生殖医療専門心理士」を養成する事で質の高いがん・生殖医療に関わる心理カウンセリングが提供できる土壌を築いた。さらに若年乳がん女性患者とその配偶者を対象とした妊孕性温存に関する心理教育とカップル充実セラピーを開発し、多施設合同ランダム化比較試験を実施し中間分析で精神症状の改善効果を得る事に成功した。以上の成果を踏まえて、更なるエビデンス構築を志向した臨床研究を行う事が本研究の目的となる。以下の3つの主題を設けている;(研究1)若年成人未婚男性がん患者における精子凍結後の心理教育プログラムの開発。(研究2)若年未婚乳がん患者における妊孕性温存の心理教育プログラムの開発。(研究3)小児・思春期のがん患者とその親に対する妊孕性温存に関する調査研究。
研究方法
(研究1)調査対象は、暴露群として調査時点から10年前までに精巣腫瘍、造血器腫瘍、骨軟部腫瘍と診断され抗がん剤による化学療法を受けた現在20-49歳で、妊孕性温存目的で精子凍結した患者100人、凍結しなかった患者100人とする。非暴露群は、これまでがんと診断された事がない健康で現在20-49歳の男性となり、マーケティングリサーチ会社のパネルを使用して調査を行った (研究2)若年成人未婚女性を対象とした妊孕性温存の意思決定に特化した心理カウンセリングを開発し、介入による意思決定葛藤、精神的健康、精神的回復力に対して改善効果があるか否かを検討するという目的でランダム化比較試験を計画した。(研究3)先進的な妊孕性温存を実践している米国施設へ訪問視察、日米両国における小児・思春期がん患者への情報提供に関するアンケート調査、そして小児・思春期がん患者の妊孕性温存に関する意思決定を支援する為の資材開発そして日米の性教育の違いに関する調査を行った。
結果と考察
(研究1)先行研究を紐解き討論した結果、RCT施行前に、前提となる若年男性がん患者の心理社会的状況の把握の必要性を判断した事から、本年度はRCTに先駆けて、若年男性がん患者の心理社会的状況に関する観察研究を実施する事とした。心理社会的側面の研究が少ないのは、精子凍結した男性の8割またそれ以上が凍結精子を使用しない為、患者の来院機会が少なくて医療者側が心理社会的状況を把握しにくいという実情を反映していると考えられた。本研究によりこれまで知られていなかった実情が明らかになると予想している。(研究2)心理カウンセリングの実施計画では、がん診断からがん治療開始までのわずか数週間で患者の心理面に配慮しながら無理なく臨床試験の案内ができるよう冊子を作成し運用を討論した。心理カウンセリングの資材開発では、ブリーフサイコセラピー、ソリューションを土台に2回完結の心理カウンセリングを開発し詳細マニュアルを作成した。また介入心理士のトレーニングは、開発した詳細マニュアルに従ってロールプレイを10回とビデオ録画を行った。スーパーバイズの臨床心理士でがん・生殖医療専門心理士2名が録画ビデオを視聴して評定した結果、介入心理士はいずれも正確かつ均質の心理カウンセリングであった。(研究3)先進的な妊孕性温存を実践している米国の2施設を訪問視察した結果、特に多職種が積極的に妊孕性の問題に関わる事により、重厚かつきめ細やかな医療を実現するだけでなく、併行して臨床および基礎研究が円滑に展開されていた。本邦において、質の高いがん・生殖医療、その研究・教育を同時に展開する為には、まず医療者全体に対する啓発と人材育成が課題となり、妊孕性の問題に対する認識をより一層広めてゆく必要性があると考えられた。更に、小児・思春期がん患者に対する妊孕性温存療法のインフォームドアセントに関わる日本式の資材などの作成が急務であると考えられた。
結論
目の前の「がん」に対する恐怖を感じている小児・AYA世代がん患者は、将来の生殖機能や妊孕能の喪失に対する不安と苦悩が強い事から、「がんでも将来自分の子どもをもつという未来がある」という「希望」が、我が国の少子化問題の一助に繋がる可能性がある。妊孕性温存に関する小児・AYA世代がん患者の心理支援に関する研究報告は皆無である事から、がんサバイバーシップ向上に資するさらなるエビデンス構築を目指して3つの研究計画を立案した。本研究成果は、厚生労働行政が目指す総合的AYA世代の妊孕性温存医療を全国に均てん化させる事ができると考えている。
公開日・更新日
公開日
2018-07-04
更新日
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