未就学児の睡眠・情報通信機器使用の実態把握と早期介入に関する研究:保健指導マニュアルの構築

文献情報

文献番号
201707002A
報告書区分
総括
研究課題名
未就学児の睡眠・情報通信機器使用の実態把握と早期介入に関する研究:保健指導マニュアルの構築
課題番号
H27-健やか-一般-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
岡 靖哲(愛媛大学 医学部附属病院 睡眠医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 堀内史枝(愛媛大学 医学部附属病院 子どものこころセンター)
  • 伊藤一統(宇部フロンティア大学短期大学部 保育学科)
  • 山本隆一郎(江戸川大学 社会学部 人間心理学科)
  • 高田律美(四国大学 看護学部 看護学科)
  • 上西孝明(人間環境大学 看護学部)
  • 福田光成(愛媛大学 医学部附属病院 小児科)
  • 松原圭一(愛媛大学 医学系研究科 地域小児・周産期学講座)
  • 松原裕子(愛媛大学 医学部附属病院 周産母子センター)
  • 上野修一(愛媛大学 医学系研究科 精神神経科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
4,824,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 日本の小児の睡眠時間が短いことは国際比較においても明らかとなっているが,特に乳幼児期の睡眠の問題は心身の発達に影響をもたらすことから,問題を早期に見出して改善を図ることが重要である.本研究事業では,地域・臨床における未就学児を対象として,睡眠習慣や情報通信機器使用の現状と児への影響を評価し,年齢や通園状況といった違いも考慮した睡眠改善の指針を作成することを目的としており,本年度の研究では,地域の保育園児・幼稚園児を対処とした睡眠・情報通信機器使用の実態調査,睡眠・情報通信機器使用に対する一般向け情報の把握,乳幼児のスクリーンメディア使用時の光環境の実態を明らかにする研究を実施した.これらの成果をもとに,「未就学児の睡眠指針」を作成した.
研究方法
 本年度は,以下の方法で追加の調査研究を実施した.1)地域の未就学児における質問紙を用いた実態調査を山口市で実施し,未就学児の睡眠をめぐる実態について検討した.2)一般向けの情報として全国・地方新聞のアーカイブより小児の睡眠についての記事を抽出し,情報通信機器使用,睡眠の安全性・良好な睡眠の啓発の3つの側面について検討した.3)乳幼児のスクリーンメディアの使用時における測定を行い,乳幼児に特異的な光環境について検討した.
 本年度までの研究成果および従来からのエビデンスについて総合的に検討し,睡眠および情報通信機器使用について一般向けに提示すべき指針内容について討議し,「未就学児の睡眠指針」を作成,有識者等と内容についての検討を行った.
結果と考察
 本年度に実施した調査の結果より,1)未就学児のうち特に年長児においては,保育園児では習慣的に午睡をとっている児の割合が高く,平均午睡時間も幼稚園児より有意に長かった.保育園児では,幼稚園児と比較して就床時刻が有意に遅く,就床を嫌がる頻度が高く,入眠にかかる時間も延長していた. 通園状況の違いが,午睡の取り方,生活スケジュール,特に入眠の状況に影響を及ぼしていることが示唆された.午睡の必要度が低下している就学前の児においては,一律の午睡習慣が睡眠に影響する可能性を考慮する必要があると考えられる.2)一般向け新聞記事で子どもの睡眠に関連した記事95本のうち,情報通信機器使用についての記事が68本(71.6%)と最も多く,次いで睡眠時の安全・突然死(14本,14.7%),睡眠習慣・睡眠の重要性(13本,13.7%)の順であった.情報通信機器使用についてはスマートフォン(スマホ)使用に関連する記事が多く,子どものスマホ保有や使用頻度,スマホ依存,スマホ育児や赤ちゃん向けアプリといった子どもの使用についての問題のみならず,親がスマホに夢中になり子どもを無視するスマホネグレクト等の保護者の問題,逆にスマホを正しく使用するための教育といった幅広いテーマが取り上げられていた.一般の関心が高いテーマでありながら,エビデンスに基づいた現状分析と対策がまだ十分なされておらず,取り組みが必要な課題と考えられた.3)乳幼児と成人の実際の使用状況下でのタブレットの画面から目までの距離は,成人が座位で使用する場合は30~40cm,仰臥位で使用する場合は25~30cmであるのに対し,乳児では15~20cmと短く,その距離では目の位置での照度は輝度100%の画面で約200ルクスで,成人座位の約2倍,成人仰臥位の約1.5倍であった.スマートフォン使用時もほぼ同様の距離であったが,目の位置での照度は約100ルクスで,成人座位の約3倍,成人仰臥位の約2倍であった.ナイトモードや輝度の低減で照度は減少することから,こうした工夫も必要であるが,何より小児においては,成人とは異なる要因もあることをふまえて,就床前の時間にはスクリーンメディアを使用しないようにすることが望ましいと想定された.
結論
 本年度の研究からは,未就学児の睡眠について注意すべきポイントが新たに明らかとなった.本研究で得られた結果と国内外のこれまでのエビデンスに加えて,未就学児の睡眠・情報通信機器使用をテーマとした日本睡眠学会ワークショップや子育て支援現場でのディスカッション,メディア(新聞)で関心を持って取り上げられているトピックスも考慮し,「未就学児の睡眠指針」を作成した.指針では,1) 未就学児の睡眠の基礎知識として,十分に知られていない乳幼児の睡眠の発達過程とその変化・個人差について,研究で得られたデータを紹介しながら解説するとともに,2) 未就学児の睡眠を改善するためのポイントについて解説し,さらに 3) 保護者や保育関係者向けにQ&A方式で疑問に答える解説を作成した.指針はホームページで公開するとともに,各リーフレットを作成し配布することとした.

公開日・更新日

公開日
2018-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-07-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201707002B
報告書区分
総合
研究課題名
未就学児の睡眠・情報通信機器使用の実態把握と早期介入に関する研究:保健指導マニュアルの構築
課題番号
H27-健やか-一般-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
岡 靖哲(愛媛大学 医学部附属病院 睡眠医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 堀内史枝(愛媛大学 医学部附属病院 子どものこころセンター)
  • 伊藤一統(宇部フロンティア大学短期大学部 保育学科)
  • 山本隆一郎(江戸川大学 社会学部 人間心理学科)
  • 高田律美(四国大学 看護学部 看護学科)
  • 上西孝明(人間環境大学 看護学部)
  • 福田光成(愛媛大学 医学部附属病院 小児科)
  • 松原圭一(愛媛大学 医学系研究科 地域小児・周産期学講座)
  • 松原裕子(愛媛大学 医学部附属病院 周産母子センター)
  • 上野修一(愛媛大学 医学系研究科 精神神経科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
  日本の小児の睡眠時間が短いことは国際比較においても明らかとなっているが,特に乳幼児期の睡眠の問題は心身の発達に影響をもたらすことから,問題を早期に見出して改善を図ることが重要である.本研究事業では,地域・臨床における未就学児を対象として,睡眠習慣や情報通信機器使用の現状と児への影響を評価し,年齢や通園状況といった違いも考慮した睡眠改善の指針を作成することを目的とした.
研究方法
 本研究では,地域の未就学児における実態調査を3地域(新潟,愛媛,山口)で実施,医療機関受診者を対象とした実態調査を2群(小児患者,妊婦)で実施し,未就学児および保護者の睡眠と情報通信機器使用の相互の関連性について検討し,未就学児の睡眠評価を実施した.また,全国の保育所を対象とした午睡習慣・午睡安全性・睡眠環境のアンケート調査を実施するとともに,一般向けのメディアで取り上げられている睡眠関連情報について検討し,また乳幼児のスクリーンメディア使用時の実情と乳幼児におけるスクリーンメディアの照度測定を実施した.
 本年度までの研究成果および従来からのエビデンスについて総合的に検討し,睡眠および情報通信機器使用について一般向けに提示すべき指針内容について討議し,「未就学児の睡眠指針」を作成,有識者等と内容についての検討を行った.
結果と考察
これらの研究より得られた未就学児の睡眠の現状としては,1) 年齢とともに睡眠習慣は変化するが,2) どの年齢群でも米国睡眠財団による推奨睡眠時間からみて睡眠時間は不足しており,3) 通園状況等の生活背景によって睡眠習慣には有意な違いがあり,4) 保育所等における午睡習慣の有無が睡眠状況に大きく影響し対策も異なることが明らかとなった.情報通信機器使用については,5) テレビへの接触は非常に早期で,6) 携帯ゲーム機・スマートフォン・タブレットとの接触は2歳までに約2割が使用しその後使用頻度が急速に増加する,7) 未就学児ではタブレットなどの保持位置が近く光暴露が相対的に大きいこと,8) 保護者の情報通信機器使用の頻度は妊娠期~育児期を通じて高く,9) 保護者のインターネット依存傾向は児の睡眠・情緒・行動に影響を及ぼすことが明らかとなった.
結論
 本研究で得られた結果と国内外のこれまでのエビデンスに加えて,未就学児の睡眠・情報通信機器使用をテーマとした日本睡眠学会ワークショップや子育て支援現場でのディスカッション,メディア(新聞)で関心を持って取り上げられているトピックスも考慮し,「未就学児の睡眠指針」を作成した.指針では,1) 未就学児の睡眠の基礎知識として,十分に知られていない乳幼児の睡眠の発達過程とその変化・個人差について,研究で得られたデータを紹介しながら解説するとともに,2) 未就学児の睡眠を改善するためのポイントについて解説し,さらに 3) 保護者や保育関係者向けにQ&A方式で疑問に答える解説を作成した.指針はホームページで公開するとともに,各リーフレットを作成し配布することとした.

公開日・更新日

公開日
2018-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201707002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 未就学児は睡眠の様相が顕著に変化する時期であり,この時期の睡眠の実態を網羅的に明らかにした調査は少なく,本研究成果はこれまでにない重要な知見を提供した.また,近年の情報通信機器使用の急速な普及に伴う小児期のメディア使用について,使用を開始することが多い未就学児においてその実態を明らかにし,その影響と背景について明らかにした本研究成果は,今後「ゲーム障害」が新たな疾患概念として取り上げられる予定の中でタイムリーな成果といえる.
臨床的観点からの成果
 睡眠障害は,内因性・外因性のものが混在するが,睡眠習慣を確立する時期である未就学児の睡眠の問題は,将来の睡眠障害の発症リスクを低下させるうえでも重要な因子である.本研究成果により,子どもの睡眠に大きくかかわる保護者や養育者の睡眠と情報通信機器使用の実態とその影響が明らかになったことにより,より早期の臨床的介入の方向性を見出せたことは,今後の睡眠障害の予防,早期発見に向けた大きな成果といえる.
ガイドライン等の開発
 未就学児の睡眠・情報通信機器使用についてのガイドラインとして,厚生労働科研で実施した研究の成果,ならびに本研究の過程で集積・評価した従来のエビデンスを総合し「未就学児の睡眠指針」を開発・作成した.また,睡眠指針を一般に普及し,現場での効果をサポートするための資料として「未就学児のための睡眠Q&A~保護者の方へ~」および「未就学児のための睡眠Q&A~保育・保健・医療従事者の方へ~」を作成した.また同指針をホームページにて公開した.
その他行政的観点からの成果
 厚生労働省母子保健課が平成30年3月に改定している,乳幼児健診における保健指導マニュアルにおいて,3歳児健診における保健指導のポイントの睡眠に関する記載に「未就学児の睡眠指針」が参照資料として掲載された.
その他のインパクト
 日本睡眠学会において,本厚労科研の研究代表者・分担者によって構成するプログラムとして,平成29年度にワークショップ「乳幼児の睡眠と環境・情報通信機器使用」を,平成30年度にシンポジウム「未就学児の睡眠の諸問題と解決へのアプローチ」を企画した.また研究代表者は,子育て支援セター・育児講座,睡眠の日講演,日本赤ちゃん学会のシンポジウムで本厚生労働科研の成果ならびに「未就学児の睡眠指針」について講演した.

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
8件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
岡靖哲,伊藤一統,高田律美
未就学児の睡眠習慣:通園状況による比較
不眠研究 , 2018 , (印刷中)-  (2018)
原著論文2
岡靖哲
乳幼児の眠りの現状とメディア使用の影響
母子保健 ,  (709) , 6-7  (2018)
原著論文3
髙田律美,伊藤一統,山本隆一郎,他
保育園における午睡実態と午睡環境の検討
不眠研究 , 2017 , 9-13  (2017)
原著論文4
岡靖哲,堀内史枝,河邉憲太郎
児童青年期における睡眠覚醒と精神機能・認知・行動
BIO Clinica , 31 (9) , 83-88  (2016)

公開日・更新日

公開日
2018-07-06
更新日
-

収支報告書

文献番号
201707002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,271,000円
(2)補助金確定額
6,271,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,095,056円
人件費・謝金 1,374,205円
旅費 1,074,866円
その他 279,873円
間接経費 1,447,000円
合計 6,271,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-07-06
更新日
-