高齢者における聴覚障害と総合機能・認知機能の包括的評価:難聴補正による認知症予防を目指した調査研究

文献情報

文献番号
201706015A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者における聴覚障害と総合機能・認知機能の包括的評価:難聴補正による認知症予防を目指した調査研究
課題番号
H29-特別-指定-015
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
佐治 直樹(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター もの忘れセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 郁(慶應義塾大学医学部 耳鼻咽喉科)
  • 内田 育恵(愛知医科大学耳鼻咽喉科/国立長寿医療研究センター耳鼻咽喉科)
  • 曽根 三千彦(名古屋大学大学院医学系研究科・耳鼻咽喉科)
  • 秋下 雅弘(東京大学大学院医学系研究科)
  • 梅垣 宏行(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 岩本 邦弘(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 中島 務(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)
  • 櫻井 孝(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター もの忘れセンター)
  • 中村 昭範(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 認知症先進医療開発センター)
  • 西田 裕紀子(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター NILS-LSA活用研究室)
  • 島田 裕之(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター)
  • 室谷 健太(愛知医科大学 臨床研究支援センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
6,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では聴覚障害と認知機能の関連を明らかにする(疫学研究・観察研究)。我が国では聴覚障害だけでなく高齢による難聴者の増加にも対応できるよう医療体制が求められている。行政面からも、高齢者の障害認定基準に関わらない対応や補聴器適合判定医師研修のあり方、補聴器技能者の資格認定のあり方等、解決すべき課題が多い。これらの行政課題に対応するために、難聴高齢者、特に認知症に関するエビデンスを蓄積、確立することが必要である。本研究では、高齢者における難聴と認知機能の関係を解明するための全国規模でのコホート研究(多施設共同研究)を行うための準備を主な目的とする。
研究方法
フィージビリティ研究とパイロット研究を実施する。既存コホート研究を解析して研究計画立案のための基礎データとする。また、小規模なパイロット研究等により、エビデンスを確立するための適切な検査指標の選択、特に聴覚障害に影響されにくい認知機能判定尺度の選択や開発、適正な組み入れ基準やサンプルサイズの検討、主要評価項目や副次評価項目の選定、検査方法の標準化・期間等の課題を検討し、研究プロトコルを策定する。
 平成29年度の結果から、聴覚障害についての研究、特に多施設共同前向き研究の実現可能性を検討する。平成30年度以降は日本医療研究開発機構 認知症研究開発事業の枠組みで研究組織を拡充する。
結果と考察
【結果】国立長寿医療研究センターでは、もの忘れセンターのデータベースを用いて難聴と転倒や認知機能の関連について既存データを探索的に解析した。地域コホート研究(国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究:NILS-LSA)の既存データを用いて、MRIによる脳形態の変化や難聴と認知機能との関連を検討した。また、別の地域コホート研究を用いて難聴と認知機能、運転についても調査した。名古屋大学、東京大学、慶應義塾大学などでも、それぞれの既存のコホート研究データや現在進行中の臨床研究データを解析し、難聴と認知機能の関連について調査した。あわせて、各施設における認知症外来や難聴・補聴器外来の診療状況や患者評価項目の内容などを調査し、今後の研究計画立案にむけての素案を練った。

【考察】
難聴への早期対策
既存データの解析結果からは、外来患者のうち聞こえにくさを自覚している高齢者は3割と比較的多い印象を受けた。しかし、耳鼻咽喉科を受診して聴力検査を実施された患者は少ない。認知機能が低下してきた場合、認知機能健常の高齢者と比較して、難聴へのアプローチは困難になる。認知機能低下に伴う注意力の低下で「聞こえにくい」状態であることを本人が認識していない場合や、または聴力としては「聞こえている」が、言語理解力が低下している場合もある。
認知機能が正常な難聴患者と認知機能が低下しつつある難聴患者では、早期の段階での「聞こえ」での対策が必要と思われた。

補聴器導入の手順
難聴が高齢者のADLやQOLに影響することは明白であり、「聞こえにくさ」を正しく評価し、補聴器を適切に導入することで、高齢者のADLやQOLを改善しうる。しかし、耳鼻咽喉科を受診せずに量販店や小売店などで、患者(消費者)が本人に適合していない補聴器を自己導入することも稀ではない。さらに、認知機能が低下した高齢者では、補聴器を自己管理するための注意力が低下している場合もある。「聞こえにくい」「もの忘れがある」高齢者については、認知機能と聴力のシステマチックなスクリーニング検査を実施して総合的に高齢者を評価することが望ましい。それによって、適切な時期に補聴器を導入する機会を設け、高齢者の健康寿命延伸、QOL改善に寄与しうると考えられる。
結論
1)既存データの解析から、難聴が高齢者のADLやQOLに関連することが判明した。
2)多施設共同研究の立案にあたっては、普遍性や信頼性、実現性の観点から聴覚と認知機能についての評価スケールを選択すべきである。
3)難聴と認知症との関連については、高齢者を包括的に評価して、(1)難聴と認知症の因果関係、(2)補聴器導入による認知機能への影響、(3)言語理解についてのメカニズムの考察などを踏まえた、多施設共同研究の立案と実施が必要である。

公開日・更新日

公開日
2019-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2019-05-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201706015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
難聴と認知機能についての多施設共同研究を開始する前に、プレリミナリーな研究・解析によってリアルワールドの患者背景をある程度評価・把握することができた。難聴のために認知機能検査の結果解釈に施設間格差が生じる可能性もあり、事前調査と調整は必須であった。高齢者の聴覚障害を補正することで、(1)認知機能の改善が期待でき、(2)生活機能(基本的・手段的日常生活機能)の改善、(3)QOLの改善、につながることが期待される。その結果、認知症予防や高齢難聴者に対する国家的な保健政策の立案に寄与できると思われた。
臨床的観点からの成果
今年度実施した本調査研究の成果は2018年度以降に聴覚障害と認知機能についての医師主導型多施設共同研究を計画・実施するための基礎資料になる。2018年度からは日本医療研究開発機構 認知症研究開発事業の課題研究として本テーマが採択されており、本調査研究の基盤を活かしてスムーズな研究計画立案と実施が可能になった。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
この研究課題は、耳鼻咽喉科学と神経科学(神経内科・老年内科学)の境界領域であり、耳鼻咽喉科や神経科学それぞれのみで構成された単独チームでは本研究課題の達成は困難である。厚労行政を始点にした本研究を基盤にしてアカデミアの耳鼻咽喉科専門医と神経科学専門医とで共同実施することに大きな意義がある。研究チームの編成、複数の学会を基盤にした横断的事業の視点からは行政的に大きな意義があり、将来の国民の健康生活に寄与できると思われる。
その他のインパクト
2019年5月に開催される第120回日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会において、「耳鼻咽喉科疾患と認知症(仮題)」としてシンポジウムで基調講演をする予定となった。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2019-05-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
201706015Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,775,000円
(2)補助金確定額
7,385,000円
差引額 [(1)-(2)]
1,390,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,132,065円
人件費・謝金 1,599,479円
旅費 139,790円
その他 490,526円
間接経費 2,025,000円
合計 7,386,860円

備考

備考
消耗品の購入に1860円自己負担で研究者が支出した。

公開日・更新日

公開日
2019-03-13
更新日
-