受精卵培養液中のフタル酸類の受精卵及び出生児に対する影響評価研究

文献情報

文献番号
201624015A
報告書区分
総括
研究課題名
受精卵培養液中のフタル酸類の受精卵及び出生児に対する影響評価研究
課題番号
H26-化学-指定-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
研究分担者(所属機関)
  • 安彦 行人(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 種村健太郎(東北大学大学院農学研究科・ 動物生殖科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
16,850,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成20-22年度に実施された厚生労働科学研究(H20-化学-一般-002)において、ヒト体外受精で用いられる培養液中から、正常妊娠の妊婦の血清中平均濃度の10倍以上のフタル酸類(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP) 0.2μM及びフタル酸モノ-2-エチルヘキシル(MEHP) 0.5μM)が検出されたが、同濃度域における生体影響を確認するための実験動物を用いた曝露実験が充分に実施されておらず、また個体の発生・発達期に関する今までに蓄積された生物学的知見から予想されるエピゲノムや情動認知行動への影響などに関する科学的情報が不足しており、文献情報からは確実な安全性評価が行えないことが判明した。受精卵及び出生児に及ぼす影響の評価に不足している科学的情報を取得するため、マウスを用いた研究開発を行った。
研究方法
受精卵の一般的な発生指標や出生後の一般所見に加え、網羅的遺伝子発現解析やDNAメチル化解析を実施した。更に、出生前のフタル酸類曝露が子の情動認知行動に影響を及ぼすとの報告があることから、情動認知行動試験バッテリーによる解析を実施した。マウス体外受精はヒト体外受精に準じて行い、受精卵から胚盤胞まで培養する間にDEHP又はMEHPに曝露させた。胚盤胞まで到達した段階で、曝露受精卵を直接、遺伝子発現解析やDNAメチル化解析に供すると共に、曝露受精卵を母胎に移植して生まれたマウスは12~13週齢まで飼育し、オープンフィールド試験、明暗往来試験、高架式十字迷路試験、条件付け学習記憶試験、プレパルス驚愕反応抑制試験からなる情動認知行動試験バッテリーを実施し、またその海馬における遺伝子発現解析やDNAメチル化解析を実施した。
結果と考察
ヒト体外受精では、少量の培養液に流動パラフィンを重層して培養する手法が一般的だが、本研究により、分配係数の違いにより培養液に混入したDEHP, MEHPの挙動が異なることが明らかになった。DEHPは重層している流動パラフィンに移行し、培養開始後1時間では初期濃度(0.2μM又は2.0μM)の70%、24時間以降は初期濃度に依らず母胎血中濃度と同程度まで低下するが、流動パラフィンを重層しないで培養すると、培養期間(3日間)を通じて初期濃度の25%以上が維持され、その結果、胚発生が阻害され、それ以降の発生段階の解析が実施できないことが判明した。
MEHPは流動パラフィン重層の有無に依らず3日の培養期間を通じて、培養液中濃度に大きな変化はなく、研究計画通りに曝露実験を実施した。MEHP曝露は一般所見上、胚発生に大きな影響を与えず、溶媒群と同様に培養3日で胚盤胞に到達した。このMEHP曝露受精卵を母胎に移植して生まれたマウスの12~13週齢時に情動認知行動試験をH27年度の第1回試験に引き続き、独立に2回追試した結果、音-連想記憶異常の再現が見られると共に、同マウスの海馬におけるDNAメチル化解析では顕著な変化は認められなかったが、網羅的遺伝子発現解析では海馬における学習機能に関わる遺伝子や神経細胞の情報伝達機能に関わる遺伝子への影響が示唆された。
結論
実際の不妊治療で一般的に採用されている流動パラフィン重層胚培養法では、混入したDEHPは培養液中から流動パラフィンに自然に移行するが、この現象を利用して培養開始時に母体血清中濃度レベルまでDEHP濃度を下げるためには、長時間のプレインキュベーションが必要であることが分かった。一方MEHPは流動パラフィン重層の有無に依らず培養期間中、培養液中濃度に大きな変化は無く安定した曝露実験が実施できた。計画通りMEHP曝露実験を進め、胚盤胞段階での網羅的遺伝子発現解析や、MEHP曝露受精卵を母胎に移植して生まれたマウスの情動認知行動解析を実施した結果、いくつかの有意な所見を得た。動物実験の所見がそのままの形でヒトに引き起こされると直ちに結びつけて考えるべきでは無いが、体外授精時における受精卵のフタル酸類曝露は、ヒトの不妊治療においても避けるべき事象と考えられた。現実には、フタル酸類は人の生活環境中に遍在しており、完全除去は困難であるが、できるだけ低減していくことが望ましい。
2018年10月追記:本研究についての追加研究を行っており、報告書をURL:http://www.nihs.go.jp/edc/houkoku/index.htmに公開している。

公開日・更新日

公開日
2018-12-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201624015B
報告書区分
総合
研究課題名
受精卵培養液中のフタル酸類の受精卵及び出生児に対する影響評価研究
課題番号
H26-化学-指定-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
研究分担者(所属機関)
  • 安彦 行人(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部 )
  • 種村 健太郎(東北大学大学院農学研究科・ 動物生殖科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成20-22年度に実施された厚生労働科学研究(H20-化学-一般-002)において、ヒト体外受精で用いられる培養液中から、正常妊娠の妊婦の血清中平均濃度の10倍以上のフタル酸類(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP) 0.2μM及びフタル酸モノ-2-エチルヘキシル(MEHP) 0.5μM)が検出されたが、同濃度域における生体影響を確認するための実験動物を用いた曝露実験が充分に実施されておらず、また個体の発生・発達期に関する今までに蓄積された生物学的知見から予想されるエピゲノムや情動認知行動への影響などに関する科学的情報が不足しており、文献情報からは確実な安全性評価が行えないことが判明した。受精卵及び出生児に及ぼす影響の評価に不足している科学的情報を取得するため、マウスを用いた研究開発を行った。
研究方法
受精卵の一般的な発生指標や出生後の一般所見に加え、網羅的遺伝子発現解析やDNAメチル化解析を実施した。更に、出生前のフタル酸類曝露が子の情動認知行動に影響を及ぼすとの報告があることから、情動認知行動試験バッテリーによる解析を実施した。マウス体外受精はヒト体外受精に準じて行い、受精卵から胚盤胞まで培養する間にDEHP又はMEHPに曝露させた。胚盤胞まで到達した段階で、曝露受精卵を直接、遺伝子発現解析やDNAメチル化解析に供すると共に、曝露受精卵を母胎に移植して生まれたマウスは12~13週齢まで飼育し、オープンフィールド試験、明暗往来試験、高架式十字迷路試験、条件付け学習記憶試験、プレパルス驚愕反応抑制試験からなる情動認知行動試験バッテリーを実施し、またその海馬における遺伝子発現解析やDNAメチル化解析を実施した。
結果と考察
ヒト体外受精では、少量の培養液に流動パラフィンを重層して培養する手法が一般的だが、本研究により、分配係数の違いにより培養液に混入したDEHP, MEHPの挙動が異なることが明らかになった。DEHPは重層している流動パラフィンに移行し、培養開始後1時間では初期濃度(0.2μM又は2.0μM)の70%、24時間以降は初期濃度に依らず母胎血中濃度と同程度まで低下するが、流動パラフィンを重層しないで培養すると、培養期間(3日間)を通じて初期濃度の25%以上が維持され、その結果、胚発生が阻害され、それ以降の発生段階の解析が実施できないことが判明した。
MEHPは流動パラフィン重層の有無に依らず3日の培養期間を通じて、培養液中濃度に大きな変化はなく、研究計画通りに曝露実験を実施した。MEHP曝露は体外成熟培養中の未成熟卵に対しては細胞分裂への阻害傾向が見られたが、受精卵~胚盤胞においては、一般所見上、胚発生に大きな影響を与えず、溶媒群と同様に培養3日で胚盤胞に到達した。これをプールして網羅的遺伝子発現解析を実施したところ、微弱な変動であるものの、神経系発達やDNAメチル化に関与する遺伝子で発現変動が見られた。またMEHP曝露受精卵を母胎に移植して生まれたマウスの12~13週齢時に情動認知行動試験を独立に3回行った結果、音-連想記憶異常が3回中2回の試験で観察され、また同マウスの海馬におけるDNAメチル化解析では顕著な変化は認められなかったが、網羅的遺伝子発現解析では海馬における学習機能に関わる遺伝子や神経細胞の情報伝達機能に関わる遺伝子への影響が示唆された。
結論
実際の不妊治療で一般的に採用されている流動パラフィン重層胚培養法では、混入したDEHPが培養液中から流動パラフィンに自然に移行するが、この現象を利用して培養開始時に母体血清中濃度レベルまでDEHP濃度を下げるためには、長時間のプレインキュベーションが必要であることが分かった。一方MEHPは流動パラフィン重層の有無に依らず培養期間中、培養液中濃度に大きな変化は無く安定した曝露実験が実施できた。計画通りMEHP曝露実験を進め、胚盤胞段階での網羅的遺伝子発現解析や、MEHP曝露受精卵を母胎に移植して生まれたマウスの情動認知行動解析を実施した結果、いくつかの有意な所見を得た。動物実験の所見がそのままの形でヒトに引き起こされると直ちに結びつけて考えるべきでは無いが、体外授精時における受精卵のフタル酸類曝露は、ヒトの不妊治療においても避けるべき事象と考えられた。現実には、フタル酸類は人の生活環境中に遍在しており、完全除去は困難であるが、できるだけ低減していくことが望ましい。
2018年10月追記:本研究についての追加研究を行っており、報告書をURL:http://www.nihs.go.jp/edc/houkoku/index.htmに公開している。

公開日・更新日

公開日
2018-12-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201624015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒト体外受精培養では培養液に流動パラフィンを重層する手法が一般的で、培養液に混入したフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)は流動パラフィンを重層しないと残留し、胚発生を阻害することを明らかにした。培養液に混入したフタル酸モノ-2-エチルヘキシル(MEHP)は流動パラフィンを重層しても残留し、胚発生に一般所見上の影響を与えないものの、受精卵を母胎に移植して生まれたマウスでは、情動認知行動試験(12~13週齢時)で音-連想記憶異常が見られ、同マウス海馬で学習機能関連の遺伝子発現への影響を示した。
臨床的観点からの成果
特になし
ガイドライン等の開発
現時点ではガイドライン開発に至っていないが、本研究の成果は、培養液や血清の品質規制や、学会等を介した体外受精培養法の推奨プロトコルの策定に繋がる可能性がある。
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
研究成果に関して研究終了年当時にマスコミからの問い合わせがあり、関心度は高いと考えられた。現在も関連研究の論文発表が年間数報あることから、引き続き情報収集を行う。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-12-28
更新日
2023-04-28

収支報告書

文献番号
201624015Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
16,850,000円
(2)補助金確定額
16,850,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 13,612,621円
人件費・謝金 0円
旅費 258,430円
その他 2,979,367円
間接経費 0円
合計 16,850,418円

備考

備考
自己資金418円を加え、調達をおこなったため

公開日・更新日

公開日
2021-09-07
更新日
-