室内環境中の未規制物質の網羅的解析に関する研究

文献情報

文献番号
201624005A
報告書区分
総括
研究課題名
室内環境中の未規制物質の網羅的解析に関する研究
課題番号
H26-化学-一般-005
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
雨谷 敬史(静岡県立大学 食品栄養科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小川久美子(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 小林剛(横浜国立大学 大学院環境情報学府)
  • 小郷沙矢香(静岡県環境衛生科学研究所 環境科学部)
  • 三宅祐一(静岡県立大学 食品栄養科学部 )
  • 高須伸二(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 久米一成(東京都市大学 環境科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
18,578,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、室内環境中に存在する多種多様な化学物質について、ハザード評価、曝露評価をベースに、スクリーニング的な簡易リスク評価を行い、健康影響が懸念される化学物質を洗い出すことを目的とした。このために、曝露評価、ハザード評価、化学物質情報処理、エミッション評価の専門家が各サブテーマを遂行すると共に、情報交換を行い、網羅的な解析になるように努めた。得られた成果は、論文発表、学会発表等で公表すると共に、毎年、環境科学会において、シンポジウムを開催して議論した。
研究方法
室内環境で使用されている有機リン系及び臭素系難燃剤の一斉分析は、LC-MS/MSを用いた手法を開発した。市販のカーテンからの難燃剤の抽出は、ポリエステル繊維を溶解する溶媒を用いて行った。ハウスダストからの難燃剤の抽出は、ソックスレー抽出法で行った。含有量の分析を行った。このような難燃剤のリスク評価は、曝露マージン法で行った。decabromodiphenyl ether (DBDE)のin vivo遺伝毒性試験は、6-7週齢雄のB6C3F1系gpt deltaマウスにDBDEを25,000または50,000 ppmの濃度で28日間混餌投与で行った。Tris-(2,3-dibromopropyl) isocyanurate (TDBP-TAZTO)の反復投与毒性試験は、6週齢雌雄SDラットに28日間混餌投与で行い、さらに同ラットに0.3%、1.2%または5.0%の濃度で13週間混餌投与することによりハザード評価を行った。室内環境中に存在する製品情報、製品中化学物質情報の収集・整理と、室内環境での主要曝露経路における高リスク懸念物質のスクリーニング手法の構築を行った。難燃剤を含有する防炎カーテンからダストへの難燃剤の移行速度の測定を行うと共に、エミッションセルを用いて実際の一般家庭の発生源調査を行った。
結果と考察
難燃剤の曝露形態別の曝露量を算出した結果、ハウスダスト経由の曝露が大きい事が判った。その含有量測定データから曝露マージンを算出した結果、一部のリン系難燃剤の曝露マージンが小さく、今後のリスク評価が必要と考えられた。DBDEのin vivo遺伝毒性試験結果においては、DBDE投与群の小核出現頻度ならびにgpt及びSpi-変異体頻度は対照群に対して有意な変化を示さなかった。TDBP-TAZTOの28日間反復投与毒性試験から影響が見られる可能性が示唆されたため、13週間混餌投与したところ、雌雄の投与群で何れの用量においても肝臓の相対重量の高値が認められた。また、雄の5.0%投与群において、腎臓の相対重量が対照群に比して有意に上昇した。室内化学物質ライブラリの構築では、曝露性ランクと有害性ランクを設定し、各ランクを組み合わせて高リスク懸念物質のスクリーニングを行った。現在までに、1698物質の情報をデータベース化した。また、室内の油含有食品や埃などへの移行に係わる物性値Poaについて、高精度の予測手法を開発した。エミッション評価では、難燃剤を含有する防炎カーテンから20℃の室温においても難燃剤を放出することが実験で確認されたが、防炎カーテンからの難燃剤の放散速度より、ダストへの直接の移行速度の方が2オーダーも大きく、ほとんどがダストに付着して存在することがわかった。そこで現場で実際の放散量を測定した結果、カーテンに加え別の部材から難燃剤の放散も確認でき、捕集された難燃剤は発生源によって異なることなどが判った。
結論
以上の4サブテーマでは、連携して室内環境中の難燃剤の動態や人への曝露、そして健康影響に関する基礎的知見を得ることができた。また、今後検討すべき化学物質のリストの開発は、本研究の大きな成果である。さらに、曝露評価手法の開発や簡易リスク評価の開発により、室内の未規制の化学物質のスクリーニングが可能となった。また、ハザード評価と連携することにより、健康影響が不明な化合物も含めて評価対象として検討することができた。
難燃剤に関して、臭素系よりも有機リン系難燃剤の方が、リスクが高い可能性が示されたことから、今後は、本研究結果をもとに、有機リン系化合物の網羅的な評価がなされるきっかけになることを期待したい。

公開日・更新日

公開日
2017-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201624005B
報告書区分
総合
研究課題名
室内環境中の未規制物質の網羅的解析に関する研究
課題番号
H26-化学-一般-005
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
雨谷 敬史(静岡県立大学 食品栄養科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小川久美子(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 小林剛(横浜国立大学 大学院環境情報学府)
  • 小郷沙矢香(静岡県環境衛生科学研究所 環境科学部)
  • 三宅祐一(静岡県立大学 食品栄養科学部 )
  • 高須伸二(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 久米一成(東京都市大学 環境科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、室内環境中に存在する多種多様な化学物質について、ハザード評価、曝露評価をベースに、スクリーニング的な簡易リスク評価を行い、健康影響が懸念される化学物質を洗い出すことを目的とした。このために、曝露評価、ハザード評価、化学物質情報処理、エミッション評価の専門家が各サブテーマを遂行すると共に、情報交換を行い、網羅的な解析になるように努めた。得られた成果は、論文発表、学会発表等で公表すると共に、毎年、環境科学会において、シンポジウムを開催して議論した。
研究方法
室内環境中のカーテンなどの製品やハウスダストに含まれている有機リン系及び臭素系難燃剤法は、溶媒抽出し、GC-MSあるいはLC-MS/MSで一斉分析する方法を開発した。ハザード評価では、臭素系難燃剤であるdecabromodiphenyl ether (DBDE)のin vivo遺伝毒性試験を6-7週齢雄のB6C3F1系gpt deltaマウスにDBDEを25,000または50,000 ppmの濃度で28日間混餌投与する方法で、またTris-(2,3-dibromopropyl) isocyanurate (TDBP-TAZTO)の反復投与毒性試験は、6週齢雌雄SDラットに28日間混餌投与したところ影響が見られる可能性が示唆されたため、同ラットに0.3%、1.2%または5.0%の濃度で13週間混餌投与する試験を行った。室内環境中に存在する製品情報、製品中化学物質情報の収集・整理と、室内環境での主要曝露経路における高リスク懸念物質のスクリーニング手法の構築を行った。また、曝露性ランクと有害性ランクを設定し、各ランクを組み合わせて高リスク懸念物質のスクリーニングを行った。さらに、難燃剤を含有する防炎カーテンから、恒温槽内で難燃剤の放出す試験を行った。防炎カーテンからダストへの移行試験も行った。現場で難燃剤の放散源探索は、エミッションセルを用いて測定した。
結果と考察
サブテーマ(a)市販のカーテンやハウスダストに含まれる難燃剤の含有量の分析を行った。このような難燃剤の曝露形態別の曝露量は、ハウスダスト経由の曝露が大きい事が判ったことから、その含有量についても調査し、曝露・リスク評価を行った。曝露マージンを算出した結果、一部のリン系難燃剤の曝露マージンが小さく、今後のリスク評価が必要と考えられた。ハザード評価では、DBDEのin vivo遺伝毒性試験を行ったところ、DBDE投与群の小核出現頻度ならびにgpt及びSpi-変異体頻度は対照群に対して有意な変化を示さなかった。TDBP-TAZTOの反復投与毒性試験を行ったところ、6週齢雌雄SDラットに28日間混餌投与したところ影響が見られる可能性が示唆されたため、同ラットに0.3%、1.2%または5.0%の濃度で13週間混餌投与した。雌雄の投与群で何れの用量においても肝臓の相対重量の高値が認められた。また、雄の5.0%投与群において、腎臓の相対重量が対照群に比して有意に上昇した。室内化学物質ライブラリでは、現在までに、1698物質の情報をデータベース化した。また、室内の油含有食品や埃などへの移行に係わる物性値Poaについて、高精度の予測手法を開発した。エミッション評価では、難燃剤を含有する防炎カーテンからは、20℃の室温においても難燃剤を放出することが実験で確認されたが、防炎カーテンからの難燃剤の放散速度より、ダストへの直接の移行速度の方が2オーダーも大きく、ほとんどがダストに付着して存在することがわかった。そこで現場での放散量を測定した結果、カーテンに加え別の部材から難燃剤の放散も確認でき、捕集された難燃剤は発生源によって異なることなどが判った。
結論
本研究では連携して室内環境中の難燃剤の動態や人への曝露、そして健康影響に関する基礎的知見を得ることができた。また、今後検討すべき化学物質のリストの開発は、本研究の大きな成果である。さらに、曝露評価手法の開発や簡易リスク評価の開発により、室内の未規制の化学物質のスクリーニングが可能となった。また、ハザード評価と連携することにより、健康影響が不明な化合物も含めて評価対象として検討することができた。
難燃剤に関して、臭素系よりも有機リン系難燃剤の方が、リスクが高い可能性が示されたことから、今後は、本研究結果をもとに、有機リン系化合物の網羅的な評価がなされるきっかけになることを期待したい。

公開日・更新日

公開日
2017-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201624005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、室内環境中に存在する多種多様な化学物質について、ライブラリの構築、ハザード評価、曝露評価、発生源検索の各サブグループが連携して室内環境中の難燃剤の動態や人への曝露、そして健康影響に関する基礎的知見を得ることができた。また、今後検討すべき化学物質のリストの開発は、本研究の大きな成果である。さらに、曝露評価手法の開発や簡易リスク評価の開発により、室内の未規制の化学物質のスクリーニングが可能となり、ハザード評価と連携して健康影響が不明な化合物も含めて評価対象として検討することができた。
臨床的観点からの成果
リスク評価の目的は、疾病の一次予防であり、室内の未規制物質のうち臭素系難燃剤と有機リン系難燃剤については、健康リスクは大きくないこと、また、有機リン系難燃剤の方がリスクが高い可能性があるなどの有用な知見を提供することができた。
ガイドライン等の開発
シックハウス対策としての室内環境ガイドラインの開発に基礎的な知見を提供できる。また、WHOの室内空気質ガイドラインにはGroup2の一つとして難燃剤が挙げられているが、その中身は不明であり、今後の進展に対し、本研究は有用なデータを提供すると考えられる。
その他行政的観点からの成果
厚生労働省の審議会の一つ薬事・食品衛生審議会の中の化学物質安全対策部会には、化学物質調査会があるが、この化学物質調査会への情報提供を行うことができる。
その他のインパクト
大規模火災は現在でも発生している。この対策として難燃剤の利用が考えられるが、一方でその健康影響や生態系への影響への懸念がある。本研究結果は、これらの懸念に対し、一つの回答を示すものである。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
48件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takasu S, Ishii Y, Ogawa K, et al.
In vivo reporter gene mutation and micronucleus assays in gpt delta mice treated with a flame retardant decabromodiphenyl ether.
Mutation Research /Genetic Toxicology and Environmental Mutagenesis , 816-817 , 7-11  (2017)
https://doi.org/10.1016/j.mrgentox.2017.02.003
原著論文2
Miyake Y., Tokumura M., Amagai T, et al.
Simultaneous Determination of Brominated and Phosphorus Flame Retardants in Flame-Retarded Polyester Curtains by a Novel Extraction Method.
Science of the total Environment , 601-602 , 1333-1339  (2017)
https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2017.05.249

公開日・更新日

公開日
2022-07-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201624005Z