輸血医療におけるトレーサビリティ確保に関する研究

文献情報

文献番号
201623026A
報告書区分
総括
研究課題名
輸血医療におけるトレーサビリティ確保に関する研究
課題番号
H28-医薬-指定-004
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
浜口 功(国立感染症研究所 血液・安全性研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤栄史(愛知医科大学 輸血部)
  • 田中朝志(東京医科大学 八王子医療センター)
  • 米村雄士(熊本大学 医学部)
  • 藤井康彦(山口大学 医学部)
  • 紀野修一(日本赤十字社 北海道ブロック血液センター)
  • 大坂顯通(順天堂大学 医学部)
  • 岡崎 仁(東京大学 輸血部)
  • 豊田九朗(日本赤十字社 血液事業本部)
  • 平 力造(日本赤十字社 血液事業本部)
  • 北澤淳一(福島医科大 輸血・移植免疫学)
  • 大谷慎一(北里大学 医学部)
  • 松岡佐保子(国立感染症研究所 血液・安全性研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国際社会における輸血副作用の安全監視体制は1991年にヘモビジランス(サーベイランス)システムを開始したフランスをはじめとし、特にヨーロッパにおいて早くからその必要性が認識され構築されてきた。我が国においては、医薬品医療機器法及び血液新法に基づき、受血者における有害事象は各医療機関から日本赤十字社、または重症例に限っては直接国へ報告されることとなっている。本研究課題により医療施設及び日本赤十字社の双方から輸血用血液製剤の使用及び製造の情報を収集する。輸血用血液製剤の製造情報とベッドサイドでの輸血実施状況をカップリングすることにより、輸血用血液製剤の安全性の観点だけではなく、医療施設における使用の実態を明確にする。
研究方法
収集データの精度向上に重点を置いてパイロットスタディを実施した。データの提供を行ったのは、日本赤十字社、北里大学病院、青森県立中央病院である。データの収集にあたり、入力の不正を防ぐ目的で、セルフチェック機能についたデータ入力及びチェックシートを作成した。紐付けの際に、データ収集・解析センターからの問い合わせ等をできるだけ軽減するとともに、データの精度を上げることを目指した。また、データの継続的な収集を想定し、今年度のパイロットスタディでは9月~11月の3ヶ月のデータを収集し、システムの適切性を確認した。データ収集・解析センターでは、医療機関データと日本赤十字社データの血液製剤の製造番号をキーとしてデータの紐付けを行った。
結果と考察
① 収集データ:平成28年度に実施した日本赤十字社と2医療施設(北里大学病院、青森県立中央病院)におけるパイロットスタディは平成28年9-11月のデータを解析した。提出されたデータ数は5,795件で、5,779件を解析対象とした。
② 収集されたデータの質:データ入力及びチェックシートを利用したことで、平成26・27年度のパイロットスタディと比較し、データ提出時のエラーによる対象外データ数は1件のみに著減した。新たに明らかとなったデータ不正理由として、データ紐付け後の「製剤品の不一致」「納品日に2日間以上の差異」により対象外としたデータが15件あった。対象外データ率は0.28%(前回5.43%)で、データ入力及びチェックシートの導入はデータ精度の向上に有効であった。
③ 紐付けされたデータの解析 1)廃棄率:RBC、PC、FFPの廃棄率は、それぞれ0.09%、0.33%、0.79%であった。2)有害事象の発生件数と頻度:RBC、PC、FFPの有害事象発生率は、それぞれ0.72%、5.40%、0.73%であった。3)献血者性別と副作用発生件数・頻度:献血者の性(日赤データ)別の副作用発生頻度は、男性由来の製剤で1.56%(76/4,782)、女性由来の製剤で2.44%(22/881)であった。4)患者性別と副作用発生件数・頻度:患者性別(病院側データ)別と副作用発生頻度は、男性患者では1.73%(58/3,292)、女性患者で1.66%(40/2,371)であった。5)年齢と副作用発生率:患者年齢階級(病院側データ)別の副作用発生率は、0~9歳で0.00%(0/137)、10歳代で0%(0/42)、20歳代で0%(0/185)、30歳代で3.08%(12/377)、40歳代で2.25%(6/261)、50歳代で2.74%(18/639)、60歳代で1.94%(28/1,414)、70歳代で1.32%(22/1,650)、80歳代で1.29%(12/915)、90歳代で0%(0/43)であった。6)採血日から輸血日までの期間と有害事象発生率:輸血用血液の採血日から使用までの期間と有害事象発生率を検討した。赤血球製剤は、採血後使用までの期間が10日前後で使用される割合が高く、採血後の期間と有害事象発生率には明かな関係は見られなかった。血小板製剤では採血後2日目で使用される割合が高く、採血後の日数が経過するほど有害事象発生率は増加する傾向を認めたが、有意であるかは今後の検討が必要である。血漿製剤は採血後8ヶ月から10ヶ月経過した製剤が使用される割合が高かったが、採血後期間と有害事象の発生率には明らかな関係を認めなかった。

結論
情報収集データシートに不正入力防止機能を付加することにより、日本赤十字社がもつ血液製剤の情報と医療機関がもつ患者有害事象データを適切に連結し、解析することが可能であった。また、今回開発したデータ入力及びシートに改良を加え、情報の質の確保を図ることにより、血液製剤の供給側、使用側の両者に有益な情報を提供できる。こうしたトレーサビリティシステムの普及が図られることにより、血液製剤の安定供給及び安全対策が効率的に行えるようになると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-04-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201623026Z