Polκ欠損マウスを用いた高感度なCYP非依存的ベンゾ[a]ピレン誘発遺伝毒性の評価

文献情報

文献番号
201622036A
報告書区分
総括
研究課題名
Polκ欠損マウスを用いた高感度なCYP非依存的ベンゾ[a]ピレン誘発遺伝毒性の評価
課題番号
H27-食品-若手-021
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
赤木 純一(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
1,970,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ベンゾ[a]ピレン(BaP)は多環芳香族炭化水素の一つであり、排ガス、煙草煙の他、加熱調理した食品にも含まれる汚染物質である。BaPは生体内で主にCYP1A1を起点とする代謝活性化を受けてDNAに付加体を形成する。一方で、in vivoではCYP1AはBaPの代謝活性化ではなく解毒に寄与し、CYP1A1欠損マウス等ではBaPの毒性が増強されるとの報告がある。本研究はBaPに高感受性を示すことが期待される遺伝子改変マウスおよびその胚性線維芽細胞を用いて、CYP非依存的なBaP誘発遺伝毒性について毒性学的・細胞生物学的に解析することを目的として実施した。
研究方法
Polk+/-(ヘテロ欠損)雌雄を繁殖させて雌雄56組を作出し、これらのPolk+/-マウスを交配させて319匹の仔マウスを得た。遺伝子型解析の結果、同腹の野生型およびPolκホモ欠損の雄マウス各41匹が得られたため、それぞれの遺伝子型ごとに動物を投与開始日の体重に基づいて各群の平均体重が近似するように1群6匹の7週齢雄からなる6群(計12群)に分けた。BaPはコーン油に溶解し、溶媒対照(0%)、非発がん用量(0.003%)、発がん用量(0.01%)の濃度で単独またはCYP1A1阻害剤であるαナフトフラボン(ANF)と共に粉末基礎飼料に混ぜ、40週間自由摂取させた。実験期間中、一般状態および死亡動物の有無を毎日観察し、体重、摂餌量および飲水量を週1回測定した。動物は投与期間終了後イソフルラン吸入麻酔下で開腹し、腹部大動脈より放血して安楽死させた。剖検を実施して、脳、肺、心臓、脾臓、肝臓、腎臓を摘出し、重量を測定した。また、上記の組織に加え舌、食道、前胃、腺胃、小腸、大腸を摘出した。これらの臓器は10%中性緩衝ホルマリン液で固定した後、常法に従いパラフィン包埋、薄切標本作製後、ヘマトキシリン・エオジン染色を施して病理組織学的解析を実施した。前胃については肉眼的に認められた約0.5 mm以上の結節全ての薄切標本を作成して病理組織診断を実施した。
結果と考察
野生型マウス、Polκ欠損マウスともにANFの併用投与により前胃の腫瘍性病変の数が増加した。一方で、予想に反してPolκ欠損マウスでは野生型マウスより一個体あたりの乳頭腫の数が抑制されていた。これらの結果は既知のBaPの毒性発現機序および生体内での防御機構の働きから予想される結果とは逆であり、BaPの毒性発現およびその予防因子についてさらなる解析が必要であると考えられる。
結論
本研究により、CYP1A阻害剤であるANFの併用投与によりBaPの発がん性が増強されることが明らかとなった。また、Polκ欠損マウスでは腫瘍性病変の形成が野生型よりも減少していた。これらの結果は既知のBaPの毒性発現機序および生体内での防御機構の働きから予想される結果とは逆であり、BaPの毒性発現およびその予防因子についてさらなる解析が必要であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-11-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201622036B
報告書区分
総合
研究課題名
Polκ欠損マウスを用いた高感度なCYP非依存的ベンゾ[a]ピレン誘発遺伝毒性の評価
課題番号
H27-食品-若手-021
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
赤木 純一(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ベンゾ[a]ピレン(BaP)は多環芳香族炭化水素の一つであり、排ガス、煙草煙の他、加熱調理した食品にも含まれる汚染物質である。BaPは生体内で主にCYP1A1を起点とした代謝を受けて活性化され、DNAに付加体を形成する。こうした修飾塩基を乗り越えてDNA合成を継続する機構が損傷乗り越え複製(TLS)であり、高等真核細胞では点突然変異の大部分はTLSにより生じることから化学発がんに重要な役割を果たしていると考えられる。一方でin vivoではBaPの経口投与では前胃、食道、舌といった食物と直接接触する部位が発癌標的臓器であること、in vitroの知見とは異なりCYP1AがBaPの毒性軽減に寄与することが報告されている。また研究代表者はこれまでに、TLSポリメラーゼの一つであるPolκを欠損した細胞が代謝活性化を行っていないBaPに対して特異的に感受性を示すことを見出している。そこで代謝活性化を受けていないBaPに高感受性を示すことが期待されるPolκ欠損マウスおよびその胚性線維芽細胞を用いて、CYP非依存的なBaP誘発遺伝毒性について毒性学的・細胞生物学的に解析することを目的として本研究を実施した。
研究方法
培養細胞を用いた実験では、Polη、PolιおよびPolκそれぞれの単独欠損細胞にS9 mix存在下または非存在下で0.1~100 μMのBaPを添加して24時間処理し、4日後の細胞増殖率を測定した。次にS9 mix存在下または非存在下で2, 10, 50 μMのBaPを野生型細胞およびPolκ欠損細胞に添加し、24時間後に細胞を回収してWsetern blotによりユビキチン化PCNA、γ-H2AX、リン酸化Chk1の発現を調べた。
動物実験については、Polκヘテロ欠損(Polk+/-)マウスを国立衛研の動物実験施設で繁殖させ、同腹の野生型マウスおよびPolκ欠損マウスそれぞれ雄41匹ずつを得てBaPおよびANFの混餌投与による発がん実験を開始した。40週投与後に深麻酔下で剖検してBaPの発がん標的臓器である舌、食道、前胃および主要臓器を採取し、標本を作製して病理組織学的検査を実施した。
結果と考察
野生型細胞とPolκ等のTLSポリメラーゼ欠損細胞の非代謝条件におけるBaP感受性について検討したところ、Polκ欠損細胞およびPolι欠損細胞はS9 mix添加時だけでなく非添加時にもBaPに対して感受性を示した一方で、Polη欠損細胞では野生型細胞と同様にS9 mix添加時のみBaPに感受性が見られた。これらの結果から代謝非依存的な BaP高感受性の抑制に関わるTLSポリメラーゼはPolκとPolιであり、Polηは関与していないと考えられる。また、代謝非依存的BaP感受性が遺伝毒性に起因するか調べるため、DNA二重鎖切断マーカーであるγ-H2AX、S期チェックポイントキナーゼChk1のリン酸化といったDNA損傷応答機構の活性化を解析したところ、Polκ欠損細胞では低濃度の非代謝BaP処理によりDNA損傷応答機構の活性化が見られたことから、BaPが非代謝条件下で閾値なしを前提とする遺伝毒性を誘発することが示唆された。そこで、野生型マウスおよびPolκ欠損マウスにBaPおよびCYP1A阻害剤α-ナフトフラボン(ANF)を混餌投与してBaP誘発発がんにおけるPolκとCYPの役割を検討した。その結果、野生型マウス、Polκ欠損マウスともにANFの併用投与により前胃の腫瘍性病変の数が増加した。一方で、予想に反してPolκ欠損マウスでは野生型マウスより一個体あたりの乳頭腫の数が抑制されていた。これらの結果は既知のBaPの毒性発現機序および生体内での防御機構の働きから予想される結果とは逆であり、BaPの毒性発現およびその予防因子についてさらなる解析が必要であると考えられる。
結論
本研究により、CYP1A阻害剤であるANFとの併用投与によりBaPの発がん性が増強されることが明らかとなった。また、Polκ欠損マウスでは腫瘍性病変の形成が野生型よりも減少していた。これらの結果は既知のBaPの毒性発現機序および生体内での防御機構の働きから予想される結果とは逆であり、BaPの毒性発現およびその予防因子についてさらなる解析が必要であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-11-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201622036C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究により、CYP1A阻害剤であるα-ナフトフラボンとの併用投与によりベンゾ[a]ピレン(BaP)の発がん性が増強されることが明らかとなった。また、Polκ欠損マウスでは腫瘍性病変の形成が野生型よりも減少していた。これらの結果は既知のBaPの毒性発現機序および生体内での防御機構の働きから予想される結果とは逆であり、BaPの毒性発現およびその予防因子についてさらなる解析が必要であると考えられる。
臨床的観点からの成果
なし
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-11-28
更新日
2018-07-09

収支報告書

文献番号
201622036Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,970,000円
(2)補助金確定額
1,970,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,250,977円
人件費・謝金 0円
旅費 415,844円
その他 303,179円
間接経費 0円
合計 1,970,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-07-04
更新日
-