食品中遺伝毒性物質の「事実上の閾値」形成におけるDNAポリメラーゼζ(ゼータ)の関与

文献情報

文献番号
201622035A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中遺伝毒性物質の「事実上の閾値」形成におけるDNAポリメラーゼζ(ゼータ)の関与
課題番号
H27-食品-若手-020
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
石井 雄二(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝毒性を介して発がんを引き起こすいわゆる遺伝毒性発がん物質には閾値が存在しないと考えられており、それがどのように低用量であってもヒトに対して発がんリスクがあるものと考えられている。しかしながら、ヒトが日常で暴露されるような低用量域では、各種生体防御機構によって遺伝毒性が抑制させることで「事実上の閾値」が形成される。この「事実上の閾値」形成に関わる因子を特定し、その生物学的意義を理解することは、遺伝毒性発がん物質のリスク評価、特にアクリルアミドやヘテロサイクリックアミンなどの、低用量ながらもヒトが非意図的に暴露される物質のリスクマネージメントに貢献できるものと考える。一方、DNAポリメラーゼゼータ(Polζ)は、複製型Polに代わってミスマッチ末端からのDNA鎖伸長を行うため、細胞死は回避され、生き残った細胞には突然変異が誘発される。それ故、Polζは遺伝毒性発がん物質の突然変異誘発を決定づけていると考えられる。本研究では、マウスPolζの2610番目のロイシンをメチオニンに置換することで、その複製忠実度を低下させたDNA PolζKI gpt deltaマウスを用いて、食品中遺伝毒性発がん物質の突然変異誘発過程と「事実上の閾値」形成におけるPolζの関与を明らかにすることを目的とした。
研究方法
PolζKI gpt deltaマウスとgpt deltaマウスを用いて、ESは12.5、50及び200 mg/kg bwの用量で28日間強制経口投与し、3日間の休薬後の肝臓における病理組織学的検索とin vivo変異原性の検索を実施し、遺伝子型間を比較した。IQは75、150及び300 ppmの濃度で28日間混餌投与し、3日間の休薬後の肝臓における病理組織学的検索とin vivo変異原性の検索を実施し、遺伝子型間を比較した。
結果と考察
gpt assayの結果、ESでは肝臓におけるgpt変異体頻度(MFs)は両遺伝子型ともに200 mg/kg群で有意に上昇したが、遺伝子型間に有意な差は認められなかった。変異スペクトラム解析の結果、同群では両遺伝子型ともにG:C塩基対における塩基置換の頻度が顕著に増加したものの、遺伝子型間に差は認められなかった。一方、Polζ KI gpt deltaマウスでは連続した2塩基または1塩基をまたいだ2塩基の特徴的なcomplex変異の頻度が有意に増加し、PolζがESによるグアニンの損傷によって生じたミスマッチ末端からの伸長反応に寄与することが示唆された。IQについては、gpt deltaマウスを用いた用量設定試験の結果から、本試験のIQの投与濃度を75、150及び300 ppmとした。雄性8週令のgpt deltaマウスにIQを75、150及び300 ppmの濃度で28日間混餌投与し、3日間の休薬後、肝臓を採取した。gpt assayの結果、肝臓におけるgpt MFsは両遺伝子型とも300 ppm群で上昇し、G:C-T:A transversionの増加が認められたものの、遺伝子型間に差は認められなかったことから、PolζはIQによるDNA損傷の乗り越え複製やミスマッチ末端からの伸長反応に寄与しないものと考えられた。
結論
Polζの働きにはDNA損傷に対する構造特異性があることが明らかになった。また、本実験条件下においてES及びIQの「事実上の閾値」形成への Polζの直接的な関与は明らかにならなかった.

公開日・更新日

公開日
2017-11-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201622035B
報告書区分
総合
研究課題名
食品中遺伝毒性物質の「事実上の閾値」形成におけるDNAポリメラーゼζ(ゼータ)の関与
課題番号
H27-食品-若手-020
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
石井 雄二(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝毒性を介して発がんを引き起こすいわゆる遺伝毒性発がん物質には閾値が存在しないと考えられており、それがどのように低用量であってもヒトに対して発がんリスクがあるものと考えられている。しかしながら、ヒトが日常で暴露されるような低用量域では、各種生体防御機構によって遺伝毒性が抑制させることで「事実上の閾値」が形成される。この「事実上の閾値」形成に関わる因子を特定し、その生物学的意義を理解することは、遺伝毒性発がん物質のリスク評価、特にアクリルアミドやヘテロサイクリックアミンなどの、低用量ながらもヒトが非意図的に暴露される物質のリスクマネージメントに貢献できるものと考える。一方、DNAポリメラーゼゼータ(Polζ)は、複製型Polに代わってミスマッチ末端からのDNA鎖伸長を行うため、細胞死は回避され、生き残った細胞には突然変異が誘発される。それ故、Polζは遺伝毒性発がん物質の突然変異誘発を決定づけていると考えられる。本研究では、マウスPolζの2610番目のロイシンをメチオニンに置換することで、その複製忠実度を低下させたDNA PolζKI gpt deltaマウスを用いて、食品中遺伝毒性発がん物質の突然変異誘発過程と「事実上の閾値」形成におけるPolζの関与を明らかにすることを目的とした。
研究方法
PolζKI gpt deltaマウスとgpt deltaマウスを用いて、平成27年度はPolζ KIヒト細胞で既に変異感受性の増大が確認されているbenzo[a]pyrene(BaP)を被験物質として、40、80及び160 mg/kg bwの用量で単回腹腔内投与し、31日目の肺についてin vivo変異原性の検索を実施し、遺伝子型間を比較した。平成28年度はestragole(ES)と2-amino-3-methylimidazo[4, 5-f]quinoline(IQ)を被験物質として、ESは12.5、50及び200 mg/kg bwの用量で28日間強制経口投与し、3日間の休薬後の肝臓についてin vivo変異原性の検索を実施し、遺伝子型間を比較した。IQは75、150及び300 ppmの濃度で28日間混餌投与し、3日間の休薬後の肝臓についてin vivo変異原性の検索を実施し、遺伝子型間を比較した。
結果と考察
解析の結果,BaPでは,Polζ KI gpt deltaマウスの肺におけるgpt変異体頻度(MFs)がgpt deltaマウスに比して有意な高値を示し,Polζ KI gpt deltaマウスではG:C塩基対の変異の増加に加えて,連続した2塩基または1塩基をまたいだ2塩基の特徴的なcomplex変異が高頻度に認められた.このことから,PolζがBaPのグアニン塩基の損傷に対する乗り越え複製とミスマッチ末端からの伸長反応を行うことが示唆された.ESでは,肝臓におけるgpt MFsが両遺伝子型ともに200 mg/kg群で有意に上昇し,G:C塩基対における塩基置換の顕著な増加が認められたものの,遺伝子型間に差は認められなかった.しかしながら,Polζ KI gpt deltaマウスでは特徴的なcomplex変異の頻度が有意に上昇したことから,PolζがESによるグアニンの損傷によって生じたミスマッチ末端からの伸長反応に寄与するものと考えられた.IQでは,肝臓におけるgpt MFsが両遺伝子型とも300 ppm群で上昇し,G:C-T:A transversionの増加が認められたものの,遺伝子型間に差は認められなかったことから,PolζはIQによるDNA損傷の乗り越え複製やミスマッチ末端からの伸長反応に寄与しない可能性が考えられた.
結論
以上より,Polζの働きにはDNA損傷に対する構造特異性があることが示唆された.また,本実験条件下において遺伝毒性物質の「事実上の閾値」形成への Polζの直接的な関与は明らかにならなかった.

公開日・更新日

公開日
2017-11-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201622035C

収支報告書

文献番号
201622035Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,000,000円
(2)補助金確定額
5,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,779,008円
人件費・謝金 0円
旅費 126,696円
その他 94,296円
間接経費 0円
合計 5,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-08-08
更新日
-