食品中化学物質の相互作用等に関する調査研究

文献情報

文献番号
199800582A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中化学物質の相互作用等に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 雅雄(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 井上達(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 大野泰雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 豊田正武(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 小野宏(食品薬品安全センター)
  • 白井智之(名古屋市立大学)
  • 吉池信男(国立健康・栄養研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
44,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、食品、化粧品や飲料水を通じて長期間にわたり低濃度、かつ多様な天然・合成の化学物質に同時に暴露されている。これらの中には、発がん性・発がんプロモーション作用のみでなく種々の毒性、アレルギーさらにホルモン様作用を有するものがある事実も明らかにされてきた。本研究班では食品添加物、残留農薬など食品中化学物質の複合暴露や相互作用の実態を総合的に調査、研究する目的で以下の研究を行った。
研究方法
【広瀬】ラット中期多臓器発がん試験法を用いて亜硝酸(N)、アミノピリン(AP)、アスコルビン酸(AS)の単独あるいは併用投与による影響を検討し、さらに短期実験で亜硝酸と、食品添加物として用いられている抗酸化剤の複合作用についても検討した。
【白井】F344雄ラットに、ヘテロサイクリックアミンであるMeIQxとHarman, Norharmanまたは NaNO2を2週間同時投与し、肝P450アイソザイムの誘導を免疫組織学的に検索した。また、コネクシン32の染色性の変化も蛍光抗体法で検索した。さらに、Dethylnitrosamine (DEN)をイニシエーターとした8週間の中期肝発がん試験法を用いて、MeIQxとHarmanあるいはNorharmanを同時に投与し肝発がんへの影響を検討した。
【井上】肝発がんプロモ-タ-であるpentachlorophenol(PCP)及びその代謝産物であるtetrachlorohydroquinone (TCHQ) を用いて、肝培養細胞のギャップ結合細胞間連絡(GJIC)阻害作用及びその構成蛋白(コネクシン)の発現に対する効果を検討した。
【小野】in vitroのアレルギーモデル系を用い、マラチオン、マラオキソンの影響を、in vivo
の系でOVAおよびすぎ花粉抽出物の影響、また遅延型アレルギー反応モデルでDNCBの影響について検討した。
【大野】1.mechanism-based inhibitionによるin vivoの相互作用をin vitro試験から定量的に予測することを目的に、CYP3Aによるtriazolam代謝におよぼすerythromycin(EM)の阻害を例に、kinactとK'appに表される阻害のkinetic parameterを求めた。これらの値と文献情報より得られたtriazolamとEMの薬物動態パラメータを用いて、生理学的フローモデルによりin vivoの相互作用を定量的に予測した。2.ヒトの薬物代謝に関与するCYP2C分子種への農薬の影響を調べた。3.ラットでCYP3A阻害剤であるケトコナゾ-ルの、有機リン系農薬IBPの代謝に及ぼす影響を検討した。
【豊田】厚生省通知の迅速スクリーニング法または一斉分析法を用いて、国内産農作物356検体について、197農薬の複数汚染実態を調査した。
【吉池】国民栄養調査データを用いた農産物摂取量分布等に関するデータベースの構築、総務庁家計調査データを用いた農作物摂取量の季節変動の検討、農作物などの標準的食品重量(ポーションサイズ)に関するデータベース構築と基準値の設定、および農作物などの食品の調理・加工状態に関するデータベース化について検討を行った。
結果と考察
【広瀬】N+APで肝細胞がんの増加がみられたが、ASを加えると有意に減少した。N+ASによる前胃腫瘍の増加は認められなかった。従って、低用量のASはニトロソアミンの生合成を抑制し、かつ前胃腫瘍発生に対しては影響を与えないことが明らかになった。また、10種類の抗酸化物質についてNと同時に4週間投与し、毒性発現の有無を検討した結果、_ートコフェロール 、エリソルビン酸、ヒドロキノン、茶カテキン、o-フェニルフェノールで前胃の過形成、p-アミノフェノールで強い腎毒性の発現が認められた。このようにNは2級アミンのみならず種々の食品添加物の毒性発現、発がんに大きな影響を及ぼす可能性が示された。
【白井】食品中に含まれ変異原性、発がん性を持たないノルハルマンとMeIQxを同時投与するとCYP2B1およびCYP3A2の誘導が亢進することが観察された。また、ハルマン、ノルハルマンはギャップジャンクション蛋白のコネクシン32の発現を抑制する事から、肝発がんのプロモーターである可能性が示唆された。肝発がんへの影響は現在検討中である。
【井上】PCPによる培養肝細胞のGJIC阻害作用が2相性で、かつ可逆性であることを見い出し、後半の阻害には、コネクシン発現量の減少が寄与していることが示唆された。TCHQではこのような効果は認められなかった。このような可逆的な阻害作用が発がんプロモーター機序に深く関与しているものと推測された。
【小野】in vitroの系ではマラチオン、マラオキソンが、RBL-2H3細胞、BMMCからの脱顆粒、サイトカイン産生に対して弱い増強効果を示すことが確認された。一方、in vivoのNC/Ngaマウスを用いた実験では、経時的IgE測定や脾臓細胞培養上清中IL-4測定、Ear Swelling Testが、抗原刺激による免疫機能の変化を捉えられることが示された。また、フェニトロチオンが、ジニトロクロロベンゼンによる遅延型アレルギー反応に対して弱い増強効果を示した。、
【大野】1.予測の結果、in vitroの予測値はin vivoにおける報告値とよく一致した。この結果を基に、重篤な薬物相互作用を起こす可能性のあるmechanism-based inhibition に基づく薬物間相互作用を in vitro 試験から定量的に予測する方法論を確立し、これを医薬品と生活関連物質との相互作用の予測に利用する。2.CYP2C19の代表的薬物代謝活性に対する阻害作用は、AlanicarbおよびIBPが最も強く、次にSwepであった。一方、CYP2C9の薬物代謝活性をAlanicarbとChloronitrofenは強く阻害した。3.ラットにCYP3A阻害剤ケトコナゾ-ルを前投与するとIBPのAUCおよび血中半減期(t1/2)の上昇が認められ、尿中に脱ベンジル化、脱チオベンジル化及び脱イソプロピル化が代謝物同定され、農薬と医薬品の相互作用により血中濃度が上昇することが確認された。CYP3Aの阻害剤は環境中に多く存在し、これらが農薬の代謝を阻害し、その毒性を増強する可能性が示された。
【豊田】その結果最近3年間に検査した国産農作物356検体中、171検体(48%)から農薬が検出され、98検体(28%)から複数農薬が検出された。米、馬鈴薯、きゅうり、トマト、ピーマン、レタス、食用菊、およびみかん、スイカ、くり以外果実ではいずれも複数農薬の検出率が高い。複数検出農薬としてはクロルピリホス、アセフェート等有機リン系殺虫剤、ペルメトリン等ピレスロイド系殺虫剤とイプロジオン、トリフルミゾール等含窒素系殺菌剤の組み合わせ例が多い。食品衛生法では現在179農薬の残留基準値が定められているが、残留基準値設定に際しては複数農薬を同時使用した場合の影響はほとんど評価されておらず、今後の課題として残されている。
【吉池】残留農薬の曝露評価の精密化を図るため、曝露評価に特化した新たな食品摂取量データベースを開発した。すなわち、国民栄養調査の個人別食物摂取量データ(磁気テープ)を用い、食品群および個々の食品別摂取量(性・年齢階級別、重量〔g、g/体重kg〕)の分布等に関するデータベースを作成した。また、総務庁家計調査のデータベースを用いて食品摂取量の季節変動を検討し、野菜や果物については季節的偏りが大きいため、国民栄養調査のデータを用いる際には、それによる制限事項に留意する必要があると思われた補正係数を用いる必要があることを示した。
結論
実験的研究では、亜硝酸とアミンの複合投与は発がん性を示し、抗酸化剤はその発がんを阻害する。一方、亜硝酸と抗酸化剤は新たな発がん物質を生成する可能性が示された。 肝培養細胞のギャップ結合細胞間連絡阻害作用及びその構成蛋白の発現を検討することにより、これらの結果を短期に予測できる可能性がある。アレルギーに関しては複数の化学物質の相互作用による増悪作用を捉えられる可能性が示唆された。また、相互作用による毒性発現を、in vitro試験から定量的に予測できる方法論を確立し、さらに多くの農薬等化学物質が、薬物代謝酵素を誘導・阻害し、その結果他の化学物質の毒性発現に関して重大な影響を及ぼす可能性が示された。調査研究では、一斉分析法を用いて、国内産農作物356検体について、197農薬の複数汚染実態を調査した結果、171検体(48%)から農薬、98検体(28%)から複数農薬が検出され、今後の農薬の安全性評価において相互作用を検討することの重要性が指摘された。また、残留農薬基準設定の基本となる曝露評価の精密化を図るため、曝露評価に特化した新たな食品摂取量データベースを開発した。
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