周産期搬送に関する研究

文献情報

文献番号
201620018A
報告書区分
総括
研究課題名
周産期搬送に関する研究
課題番号
H28-医療-一般-009
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
田村 正徳(埼玉医科大学 総合医療センター総合周産期母子医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 楠田 聡(東京女子医科大学母子総合医療センター)
  • 岩田 欧介(久留米大学病院総合母子周産期センター新生児部門)
  • 長 和俊(北海道大学病院周産母子センター)
  • 池田 智明(三重大学産婦人科学)
  • 大田えりか(伊東 えりか)(聖路加国際大学大学院看護研究科国際看護学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
5,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平時と災害時の周産期医療体制の適切な運営に向け、都道府県境を越えたバックトランスポート(BT)を含む広域搬送、大都市圏と関連した広域搬送の適切なあり方について調査分析し、円滑な施設間連携に向けたシステムと、一次産科施設と地域高次施設の間に遠隔診察ネットワークを構築し、その効果を検討する。妊産婦死亡率の向上を目指し、日本母体救命システム普及事業を通して、全国の妊産褥婦重症搬送事例のデータ収集の一元化と母体救命システム確立を目指す。
研究方法
イ)都道府県境を越えた広域新生児搬送と東京都の周産期搬送の実態をアンケート調査や周産期医療体制調査および東京都周産期医療体制整備計画から分析する。ロ)周産期医療の集約化が進行する北海道をモデル地域としてBTに関するアンケート調査と対面調査を行い、BTのあり方について提言する。ハ)一次施設と高次施設間に構築したスマートフォン等を利用する動画遠隔診察ネットワークの実効性に関する調査を行う。二)低体温療法などのタイムリミットがある治療のアクセス状況分析を行う。ホ)熊本地震発生後の避難搬送におけるNICUとDMAT調整本部の広域連携について調査分析する。)妊産褥婦死亡事例のデータ収集体制を維持し、周産期医療と救急医療の連携に関する研究を進める。全国的な講習会開催により、母体救命に必要な知識の普及を目指す。
結果と考察
イ)全国調査では、都道府県境を越えた広域搬送は、施設間相互の自発的な連携によって行われており、行政による広域搬送を維持するシステム整備は行われていなかった。東京都では、母体搬送の約50%が最初の依頼施設では受け入れできずり、NICU病床数が増加しても明らかな受け入れ率の改善は認められない一方で、新生児搬送については経年的な受け入れ率の改善が認められた。NICU病床の効率的活用には、広域搬送体制の整備が不可欠で、特に災害発生時における診療機能の相互補完や患者搬送システムの確立が急務である。ロ)2014年~2016年に北海道大学病院NCIUに入院した患者464名のうち、142名は札幌医療圏外の広い範囲から入院していたがBTは定着していないため札幌医療圏の病床不足が深刻となっていた。BTが行われない理由としては、搬送手段が原則自動車であり航空機が使用できないこと、搬送の費用に対する確立した補助がないこと、搬送に人手がかかること等が考えられた。ハ)一次産科施設と高次施設間の動画遠隔診断ネットワークの利用により、重症児を予測する感度は66%から100%、特異度は51%から79%と飛躍的に上昇した。また、遠隔診断のための診断アルゴリズムを考案し、動画像に基づいた呼吸障害の客観的な評価方法を確立できた。二)全国で3年間の低体温療法施行児の入院から冷却までの所要時間は113分と従来と変わらなかったが、冷却開始から目標達成までの時間は120分から79分に短縮されていたが、まだ欧米の報告より長かった。低体温療法の有効活用のためには、広域診断・搬送システムの推進が必要である。ホ)熊本地震に際したNICU入院児の避難では、重症児は全例九州内の施設間の独自調整によって搬送され、DMAT調整本部を介する搬送は皆無で、重症児は軽症児に比べてより遠方に搬送されていた。DMAT調整本部と周産期医療施設間の新たな連携システムが必要である。へ)日本母体救命システム普及事業を通して、全国の妊産褥婦重症搬送事例のデータ収集の一元化と母体救命システム確立を目指して母体救命講習会とインストラクターを養成するコースを25回実施した。自ら主催した講習会以外に、基準を満たしている「公認講習会」に対してはインストラクターの派遣やシミュレーター手配の援助などのサポート、受講認定証の発行を行った。妊産婦の後障害を軽減・減少させるために搬送される妊産婦急変症例の初期診療が重要である。
結論
都道府県境を越えた広域搬送体制の整備は、NICUの有効利用に繋がるだけでなく、災害対策としても重要課題である。また、大都市圏でも広域搬送体制の整備はNICUの有効利用に繋がる。BTに関しては、搬送経路や費用負担についての課題が多く、特にBT経費に対する補助のあり方について標準化を進める必要がある。既存の画像通信手段を活用した県境を越えた遠隔診断システムを構築すれば最低限の投資で周産期医療の質向上と母児の安全が確保できる可能性がある。低体温療法の有効活用の為には冷却開始までの経過時間の更なる短縮が必要である。熊本震災では、地域の自助的な搬送体制が有効に機能したが、小児・周産期リエゾンを全国的に配置してDMAT調整本部間とのスムーズな情報共有・連携体制の確立が急務である。母体救命講習会が各地で順調に開催されている。

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201620018Z