薬剤耐性菌の蔓延に関する健康及び経済学的リスク評価に関する研究

文献情報

文献番号
201617021A
報告書区分
総括
研究課題名
薬剤耐性菌の蔓延に関する健康及び経済学的リスク評価に関する研究
課題番号
H27-新興行政-指定-005
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
今中 雄一(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 森井 大一(公立昭和病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
3,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 薬剤耐性菌に対する、医療機関における対策の実態を明らかにするとともに、耐性菌による経済負荷を推計する。
研究方法
1)全国の基幹型臨床研修病院(H27年度;約1000)およびQIP参加病院(約500、重複あり)を対象とし、各病院の感染対策と耐性菌の実態を把握するための調査票調査を行った。
2)DPCデータを活用して、耐性菌に関する経済負担等について個票レベルデータ解析を行った
3)多施設で細菌検査結果データとDPCデータベースの結合を行い、耐性菌感染についてより精緻な解析を行った。
4)イギリス Imperial College London において感染症対策・耐性菌対策に関する実態把握、施策・政策の比較検討を中心に、研究討議を行った。
5)薬剤耐性菌による院内感染のアウトブレイク(以下、アウトブレイク)によって病院が被る経済的負担を明らかにするため、平成18年から平成27年に起こったアウトブレイクのうち、公表されている事例を対象に調査票調査を行った。
結果と考察
1)【病院感染対策の実態調査】平成28年度末までに670病院から有効な回答を得た。抗菌薬適正使用支援チームASTの普及も見られており、具体的な感染対策について、約10年前の調査結果と比較して大きな改善がなされているものの、なお要改善点が見られる。
2)【個票レベル解析】市中肺炎症例は、平日入院にくらべ週末入院では有意に死亡率が高かった。細菌検査の実施率も週末では低く、このようなプロセスの違いが影響している可能性が示された。MRSA感染を伴うことで在院日数は有意に長く医療費は有意に高くなった。
3)【検査結果データベースの結合研究】平成28年7月8日(金)、当サブプロジェクトJANIS-QIPの説明会・セミナーを開催し、全国約100の病院の参加を得て、DPCデータに加えJANISに提出する細菌検査データのコピーの提供を受け、結合させたデータベースを構築した。
4)【実態と政策に関する日英共同研究】Imperial College LondonにおけるHealth Protection Research Unit in Healthcare Associated Infection and Antimicrobial Resistanceメンバーとの共同研究の一環として両者の研究実績をもとに討議した。
5)【耐性菌のアウトブレイクによる経済負担】28施設に対して該当病院に質問紙を送付し、平成28年度末までに18施設から研究協力承諾を得、そのうち10施設から有効な回答を得た。原因菌種は、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が4施設、基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌が2施設、多剤耐性アシネトバクター属菌(MDRA)、多剤耐性アシネトバクター緑膿菌(MDRP)、Clostridium difficile、多剤耐性Corynebacterium striatumがそれぞれ1例であった。アウトブレイクを病院が認識した時点での感染・保菌累計患者数の中央値は4人(範囲:1- 38)であった。すべての事例で病棟閉鎖又は入院制限に至っており、制限日数の中央値は75.5日(15-391)であった。対応費用の中央値は420万円(20-6,990)、アウトブレイクのあった病棟の逸失収入の中央値は1億1,674万円(1,023万-4億7,628万)であった。入院による逸失収入及び対応費用の両者ともに、アウトブレイクの期間との正の関係は示唆されたが、患者数との関係は明らかではなかった。
結論
 医療機関における耐性菌対策・感染対策、耐性菌出現や関係する抗菌薬使用状況、アウトブレイクなどについて、実態を把握することができ、また、その経済的負担を推計することができた。これらの成果(解析知見や開発された手法)は、今後の耐性菌対策・感染対策における基礎データや手法として資することができるであろう。

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201617021B
報告書区分
総合
研究課題名
薬剤耐性菌の蔓延に関する健康及び経済学的リスク評価に関する研究
課題番号
H27-新興行政-指定-005
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
今中 雄一(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 森井 大一(公立昭和病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 薬剤耐性菌に対する、医療機関における対策の実態を明らかにするとともに、耐性菌による経済負荷を推計する。
研究方法
1)DPCデータを利用し、診断群分類内でのMRSA感染症、MRSA以外の感染症、非感染症の症例を同定し、特性を統計的に調整して症例数、在院日数、医療費を算出し、MRSAによる増分額を算出した。
2)DPCデータを用い18歳以上の市中肺炎症例にて、MRSA感染症を抗菌薬の使用から同定し、非MRSA肺炎との特性の違いを傾向スコアで調整し、MRSAによる増分額を算出した。
3)全国の基幹型臨床研修病院(約1000)とQIP参加病院(約500、重複あり)を対象とし、感染対策と耐性菌の実態把握のための調査票調査を行った。
4)DPCデータを活用して、耐性菌に関する経済負担等について個票レベルデータ解析を行った
5)多施設で細菌検査結果データとDPCデータベースの結合を行い、耐性菌感染についてより精緻な解析を行った。
6)英国Imperial College Londonにおいて感染症対策・耐性菌対策に関する実態把握、施策・政策の比較検討を中心に研究討議を行った。
7)平成18-27年に起きた、薬剤耐性菌による院内感染のアウトブレイク事例を対象に調査票調査を行った。
結果と考察
1)【MRSAによる医療費増加の推計】MRSA感染により、医療費は約3.5%、在院日数は約3.0%、死亡率が約3.1%増加すると推計された。医療施設調査・病院報告を利用した日本の一般病床の医療全体では、MRSA症例が年間約19万人、延べ約742万日の入院増加、約3483億円の医療費増加、約2万5千人の死亡数増加になることが推計された。
2)【市中MRSA肺炎の健康・医療費負担推計】市中肺炎では、約0.7%にMRSA感染症がみられた。MRSA感染症により在院日数は約1.4倍、医療費は約1.7倍(そのうち抗菌薬は約3.8倍)、死亡率は1.9倍の増加がみられた。院内感染のMRSA肺炎患者は重症患者が多く病態も多様で、他の肺炎患者との差をもって、MRSAの影響とすることは、全く妥当でない。一方で、市中にもMRSAを起因菌とする肺炎症例が存在し、非MRSA患者との特性の違いを統計的に調整すれば、MRSAによる増分効果を評価するのに適した症例群である。1000たる多施設データでもって、このターゲットに絞った解析により推計値の妥当性を高め、この研究の強みとなっており、感染の専門家により国際的にも評価されている(Uematsu, Imanaka et al. Am J Infect Control 2016)。
3)【感染対策実態調査】670病院から有効回答を得た。抗菌薬適正使用支援チームASTの普及も見られ、具体的な感染対策について、約10年前の結果と比して大きな改善がなされているものの、なお要改善点が見られる。
4)【個票レベル解析】市中肺炎症例は、平日入院にくらべ週末入院では有意に死亡率が高かった。細菌検査の実施率も週末では低く、このようなプロセスの違いが影響している可能性が示された。MRSA感染を伴うことで在院日数は有意に長く医療費は有意に高くなった。
5)【検査結果データベース結合】全国約100の病院にてDPCデータとJANISに提出する細菌検査データのコピーとを結合させたデータベースを構築し解析した。
6)【日英共同】Imperial College Londonの院内感染・AMR研究部門メンバーとの共同研究の一環として両者の研究実績をもとに討議した。
7)【耐性菌アウトブレイクの経済負担】10施設から有効な回答を得、原因菌種はバンコマイシン耐性腸球菌VREが4施設、基質拡張型βラクタマーゼ産生菌ESBLが2施設、多剤耐性アシネトバクター属菌MDRA、多剤耐性アシネトバクター緑膿菌MDRP、Clostridium difficile、多剤耐性Corynebacterium striatumが各1施設であった。対応費用の中央値は420万円(範囲:20-6,990)、アウトブレイクのあった病棟の逸失収入の中央値は1億1,674万円(1,023万-4億7,628万)であった。入院による逸失収入及び対応費用の両者ともに、アウトブレイクの期間との正の関係は示唆されたが、患者数との関係は明らかではなかった。
結論
 医療機関における耐性菌対策、耐性菌出現、抗菌薬使用状況、アウトブレイク等の実態を定量化した。また、MRSA感染症により全国一般病床において、医療費は全体の約3.5%、在院日数は約3.0%、死亡率が約3.1%増加すると推計される等、経済的負担を可視化した。これらの知見や開発された手法は、今後の耐性菌対策・政策における基礎データや手法として有用であろう。

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201617021C

収支報告書

文献番号
201617021Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,200,000円
(2)補助金確定額
4,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 120,350円
人件費・謝金 1,255,734円
旅費 750,640円
その他 1,104,276円
間接経費 969,000円
合計 4,200,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-03-12
更新日
-