アルコール依存症に対する総合的な医療の提供に関する研究

文献情報

文献番号
201616025A
報告書区分
総括
研究課題名
アルコール依存症に対する総合的な医療の提供に関する研究
課題番号
H26-精神-一般-006
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
樋口 進(独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 米山 奈奈子(国立大学法人秋田大学大学院医学系研究科 精神保健看護学)
  • 長 徹二(三重県立こころの医療センター 精神医学)
  • 成瀬 暢也(埼玉県立精神医療センター 精神医学)
  • 吉田 精次(特定医療法人あいざと会藍里病院 精神医学)
  • 白川 教人(横浜市こころの健康センター 精神医学)
  • 堀井 茂男(公益財団法人慈圭会 慈圭病院 精神医学)
  • 杠 岳文(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター 精神医学)
  • 吉村 淳(東北医科薬科大学医学部精神医学講座)
  • 齋藤 利和(北仁会精神医学研究所)
  • 大嶋 栄子(特定非営利活動法人リカバリー 社会福祉学)
  • 湯本 洋介(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター 精神医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
16,155,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はアルコール依存症(以後、ア症と略)の予防、治療、社会復帰を支援するために必要な実態を把握し、支援のためのモデル構築、ガイドライン、マニュアル作成、家族に対する支援事業、ア症の啓発を推進するための研究や事業を実施する。加えて、アルコール健康障害対策基本法の実施計画立案に対する基礎資料の提供を目的とする。
研究方法
ア症の普及・啓発に関して、一般市民向け及び家族向けに依存症の普及啓発用DVDやリーフレットを作成、各関係機関等で配布を行う。また家族向けの対応法や疾患の対応マニュアルを作成し啓発活動を行う。ア症家族の実態とニーズを調査し、分析結果に基づいた啓発活動も行っていく。
ア症の実態調査では、ア症入院患者にアンケート調査を行い、患者特性の把握と治療予後予測因子を明確化する。またア症に関する一般向けのファクトシートを作成し、疾患の適切な理解に役立つ素材を作成する。さらにア症に対して効果のある抗うつ薬や抗精神病薬の探索を試みる。
ア症に対する関係機関の連携については、現状の関係機関の支援態勢を把握し、回復に役立つ連携モデルを構築する。さらに、関係機関を効果的に活用するためのマニュアルを作成し、それを充分に生かすための研修方法について分析する。医療機関や回復施設に対してはアンケート調査を行い、社会復帰アプローチの実施の成果について把握し、よりよい支援の方向性について探る。また、ア症各関係機関の情報にアクセスしやすい情報資源ホームページを作成する。
アルコール関連問題の簡易介入に関する研究では、職域での介入プログラム実施の効果を検討する他、ア症専門医療機関と一般医療機関の地域連携モデルの在り方についても言及する。
ア症の診断・治療ガイドラインを作成するため、国外のガイドラインに関する文献のレビューなどを参考にしながらガイドライン完成を目指す。
結果と考察
当研究班の最終年度の達成度と意義について述べる。
ア症の普及・啓発に関しては、啓発のためのDVDが作成され、専門職また一般向けの視聴の機会を持って良好な評価を得ており、有用な普及・啓発ツールを作成できた。
ア症の実態調査については、重複障害がある場合には断酒継続が有意に達成されにくくなること、また断酒の補助的薬物療法がうつ症状を合併するア症患者の断酒継続や抑うつ症状の改善に寄与する可能性が示され、合併精神障害を持つア症の実態や対応についての知見をさらに深めることができた。これらの知見も含めたア症に関する専門職向け、一般向けのファクトシートを作成、さらに効果的な治療ツールを開発することもできたため、実態調査の内容を成果物に反映できた。
ア症に対する関係機関の連携については、各関係機関の調査から、精神保健福祉センターでの相談事業の改善点を見いだす必要性、早期に関係機関とつながりを持つことの必要性が見いだされ連携の重要性が把握できた。社会復帰施設との連携については、医療機関と社会復帰施設の関わりや復職支援への対応のニーズが把握できた。以上より、関係機関の連携が重要であることも自明であるが、連携を深める上でのニーズを具体化することができた。情報資源の作成とも合わせ、スムーズかつニーズを満たした連携について情報を提供することができた。
アルコール問題の簡易介入については、地域や職域での教育プログラムを展開し、その効果を認めている。さらに、一般医療機関と専門医療機関の連携モデルに関して、身体科医師も含めた地域の関係者が研修会の場に集まり、紹介患者数の変化を見るなど連携を深めることができたことは、地域の連携モデルを進めていく上で大きな成果である。
ア症の飲酒量低減効果についての研究においては、短期介入がより幅広い層に受け入れられることを明らかにでき、保健指導分野での今後の更なる活用が期待できる結果を得られた。飲酒量低減も含めたア症使用障害に対する最新の診断治療ガイドラインの作成を行うことができた。
結論
アルコール依存症に関する総合的な医療の提供に関する研究について、各分担研究の最終年度においても多様な分野で新たな知見を生み出すことができた。研究目標は概ね達成できたと考える。前年度までの研究で得られた成果とともに、学術的視点またアルコール健康障害対策基本法に関する基礎データの裏付けとなる資料を提供することができた。

公開日・更新日

公開日
2017-07-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-09-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201616025B
報告書区分
総合
研究課題名
アルコール依存症に対する総合的な医療の提供に関する研究
課題番号
H26-精神-一般-006
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
樋口 進(独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 米山 奈奈子(国立大学法人秋田大学大学院医学系研究科 精神保健看護学)
  • 長 徹二(三重県立こころの医療センター 精神医学)
  • 成瀬 暢也(埼玉県立精神医療センター 精神医学)
  • 吉田 精次(特定医療法人あいざと会藍里病院 精神医学)
  • 白川 教人(横浜市こころの健康センター 精神医学)
  • 堀井 茂男(公益財団法人慈圭会 慈圭病院 精神医学)
  • 杠 岳文(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター 精神医学)
  • 吉村 淳(東北医科薬科大学医学部精神医学講座)
  • 齋藤 利和(北仁会精神医学研究所)
  • 大嶋 栄子(特定非営利活動法人リカバリー 社会福祉学)
  • 湯本 洋介(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター 精神医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はアルコール依存症(以後、ア症と略)の予防、治療、社会復帰を支援するために必要な実態を把握し、支援のためのモデル構築、ガイドライン、マニュアル作成、家族に対する支援事業、ア症の啓発を推進するための研究や事業を実施する。加えて、アルコール健康障害対策基本法の実施計画立案に対する基礎資料の提供を目的とする。
研究方法
ア症の普及・啓発に関して、一般市民向け及び家族向けに依存症の普及啓発用DVDやリーフレットを作成、各関係機関等で配布を行う。また家族向けの対応法や疾患の対応マニュアルを作成し啓発活動を行う。ア症家族の実態とニーズを調査し、分析結果に基づいた啓発活動も行っていく。
ア症の実態調査では、ア症入院患者にアンケート調査を行い、患者特性の把握と治療予後予測因子を明確化する。またア症に関する一般向けのファクトシートを作成し、疾患の適切な理解に役立つ素材を作成する。さらにア症に対して効果のある抗うつ薬や抗精神病薬の探索を試みる。
ア症に対する関係機関の連携については、現状の関係機関の支援態勢を把握し、回復に役立つ連携モデルを構築する。さらに、関係機関を効果的に活用するためのマニュアルを作成し、それを充分に生かすための研修方法について分析する。医療機関や回復施設に対してはアンケート調査を行い、社会復帰アプローチの実施の成果について把握し、よりよい支援の方向性について探る。また、ア症各関係機関の情報にアクセスしやすい情報資源ホームページを作成する。
アルコール関連問題の簡易介入に関する研究では、職域での介入プログラム実施の効果を検討する他、ア症専門医療機関と一般医療機関の地域連携モデルの在り方についても言及する。ア症の診断・治療ガイドラインを作成するため、国外のガイドラインに関する文献のレビューなどを参考にしながらガイドライン完成を目指す。
結果と考察
ア症の普及・啓発に関しては、家族の対応や家族と相談機関のつながりの促進を意識したDVDを作成し、専門職向けに上映会を行って評価を得た。ア症家族に向けてのアンケート調査では、家族が本人の依存の問題に気付いた年齢と初めて相談に行った年齢は平均7年間空いていること等の実態を明らかにした。ア症の実態調査については、久里浜医療センターのアルコール依存症の入院患者を対象とした転帰調査にて、退院後1年間の断酒率は30%程度であり、うつ病や不安障害を合併すると断酒率が有意に低かった。また、ア症の合併精神障害に関する調査では、断酒への補助的薬物療法が、抑うつ症状を合併したア症の抑うつの改善にも寄与する可能性が示された。ア症の実態に基づいた知識の普及のため、専門職向けに国内外の知見をまとめたレビューを、市民向けにはQ&A形式の分かりやすい形の資料を作成した。
関係機関の連携については、全国の精神保健福祉センターに対してアンケート調査を行い、精神保健福祉センターはアルコール依存症専門医療機関情報を提供する体制はある一方で、情報を提供できる医療機関数の不足が示唆された。関係機関の機能向上のための研究では、早い段階で関係機関につながることが機能向上について有用であることが示された。社会復帰に関しての調査では、社会復帰の資源が限られていることや、地域格差が大きいことに困難を感じているとの現状や、高齢者・重複障害・女性など抱える問題が複雑化している中で、医療連携と地域連携の必要性が示された。また、ア症関係機関の情報資源ホームページを作成、公開した。
アルコール問題の簡易介入に関する研究では、職域における習慣飲酒者向けの早期介入プログラムを開催した。身体科、精神科を含めた医療機関の連携を高めるための研修会を開催し、研修に参加した医師からの紹介件数が増加傾向にあった。身体科クリニック医師へのアンケート調査によれば、飲酒によって社会的問題が顕著でなければ精神科への紹介が行われない現状が把握できた。
ア症の飲酒量低減効果についての研究では、アルコール依存症を疑う問題飲酒者に対して簡易介入を行ったところ、アルコール依存症およびその疑いのある群にも短期介入を行うことで、一定の飲酒量低減効果が認められ、かつ関連問題も減少した。ア症の診断・治療ガイドライン作成では、依存症治療を専門としない医師向けに参考となる初期対応の例などを中心に作成した。
結論
アルコール依存症に関する総合的な医療の提供に関する研究について、各研究課題において当初の目標を達成し、学術的意義のみならず、アルコール健康障害対策基本法の推進計画の基礎資料となる知見など、行政的意義も含めた成果を得ることができた。当課題から得られた成果が全国に広まり、ア症患者の健康増進や国民のア症への理解が進むことを期待する。

公開日・更新日

公開日
2017-07-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-09-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201616025C

収支報告書

文献番号
201616025Z