文献情報
文献番号
201606013A
報告書区分
総括
研究課題名
新生児マススクリーニングのコホート体制、支援体制、および精度向上に関する研究
課題番号
H26-健やか-指定-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
山口 清次(国立大学法人島根大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 重松 陽介(国立大学法人福井大学 医学部)
- 但馬 剛(国立研究開発法人国立成育医療研究センター研究所)
- 松原 洋一(国立研究開発法人国立成育医療研究センター研究所)
- 大浦 敏博(東北大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
タンデムマス(TMS)スクリーニングのスムーズな導入と、新生児スクリーニング(NBS)体制の立て直しを目的として、NBSの課題と今後の在り方について研究した
研究方法
1.NBSで発見された患者の登録追跡体制の在り方の検討
2.NBSで発見される希少疾患のコンサルテーション体制の検討
3.検査精度向上のため関連分析法の開発
4.WEB解析システムによる精度管理支援体制の検討
5.外部精度管理体制の確立
6.NGSを用いたゲノム情報からCPT2欠損症の頻度の予測
7.新たに検討すべきNBS対象疾患の情報収集
8.治療用特殊ミルクの安定供給の在り方について海外の情報を収集した
2.NBSで発見される希少疾患のコンサルテーション体制の検討
3.検査精度向上のため関連分析法の開発
4.WEB解析システムによる精度管理支援体制の検討
5.外部精度管理体制の確立
6.NGSを用いたゲノム情報からCPT2欠損症の頻度の予測
7.新たに検討すべきNBS対象疾患の情報収集
8.治療用特殊ミルクの安定供給の在り方について海外の情報を収集した
結果と考察
(1)患者全数登録コホート体制について検討したが、自治体の行政窓口を介する仕組みでは回収率が良くないことが分かった。個人情報保護の観点から慎重にならざるを得ないものと思われる。小児科医(主治医など)が主体となった患者登録体制が現実的であるかもしれない。
(2)長期追跡の意義を検討するために、成人PKU患者の実態調査を行った。NBS開始後に発見された患者は、開始前の患者に比べて神経予後は明らかに良好であった。しかし、成人後に治療を中断すると神経障害が出るケースが多いなど、成人後の診療体制継続が検討されなければならない
(3)TMSコンサルテーションセンターは年々定着し年間相談件数は100件前後であるが、さらにより広く周知して地域格差是正に貢献すべきである
(4) NBS対象疾患のテイラーメード治療を目的としてgenotyping を2015年5月以降(1年8か月間)164例に行った。特に軽症型プロピオン酸血症は一定の遺伝子系の特徴があり、無駄な治療を避けることができるかもしれない。エビデンスに基づいた診療が貢献することが期待される
(6)二次検査法として、LC-MS/MSによる質量分析法を改変して非誘導体化サンプル処理でメチルマロン酸とホモシスチンを同時測定できる方法を開発した。これにより診断精度が向上するとともに、再採血の呼び出しを減らすことが期待される
(7)TMS精度管理では、技能試験(PT試験)年3回と精度試験(QC試験)年1回が定着してきた。今年度、精度管理検体を外部委託としたが、精度が維持されコスト削減も期待される
(8) web自動解析システムの有用性を検討した。各検査機関で測定したデータをアップロードすることによって、他施設とのデータの比較、患者データとの比較、カットオフ値の適正性などを迅速かつ的確に自己評価できるようになり、精度管理の質向上に役立つことが確認された
(9) 東北メガバンクの全ゲノム遺伝子情報を利用して、保因者頻度からCPT2欠損症の疾患頻度を計算した。CPT2欠損症はパイロット研究では28万人に一人であったが見逃し例が多いために二次対象疾患とされてきた。日本人の遺伝子変異の頻度から計算したところ4.1万人に一人と計算された。TMSスクリーニングによる発見頻度と、遺伝子変異から推定される発見頻度は必ずしも一致しない可能性がある。TMSスクリーニングの精度を評価するのに役立つと思われる
(10)治療用特殊ミルクの安定供給が問題となっている。今年度米国のメディカル・フード制度について情報収集した。医療保険や償還の対象となっているが、その対象疾患、適応範囲は州によって異なっている。低たんぱく食品は患者家族の自己負担金の割合が多い傾向がある。わが国の治療用食品提供・支援体制構築に参考にして検討すべきである
(11)PKU患者の摂取しているPhe除去フォーミュラであるA-1/MP-1の栄養素と微量元素、ビタミンについて検討したところ、長期間の摂取によってビオチン、セレン、およびマグネシウム、リン、ヨウ素、亜鉛の微量元素などの不足が起こりうることが推測された
(2)長期追跡の意義を検討するために、成人PKU患者の実態調査を行った。NBS開始後に発見された患者は、開始前の患者に比べて神経予後は明らかに良好であった。しかし、成人後に治療を中断すると神経障害が出るケースが多いなど、成人後の診療体制継続が検討されなければならない
(3)TMSコンサルテーションセンターは年々定着し年間相談件数は100件前後であるが、さらにより広く周知して地域格差是正に貢献すべきである
(4) NBS対象疾患のテイラーメード治療を目的としてgenotyping を2015年5月以降(1年8か月間)164例に行った。特に軽症型プロピオン酸血症は一定の遺伝子系の特徴があり、無駄な治療を避けることができるかもしれない。エビデンスに基づいた診療が貢献することが期待される
(6)二次検査法として、LC-MS/MSによる質量分析法を改変して非誘導体化サンプル処理でメチルマロン酸とホモシスチンを同時測定できる方法を開発した。これにより診断精度が向上するとともに、再採血の呼び出しを減らすことが期待される
(7)TMS精度管理では、技能試験(PT試験)年3回と精度試験(QC試験)年1回が定着してきた。今年度、精度管理検体を外部委託としたが、精度が維持されコスト削減も期待される
(8) web自動解析システムの有用性を検討した。各検査機関で測定したデータをアップロードすることによって、他施設とのデータの比較、患者データとの比較、カットオフ値の適正性などを迅速かつ的確に自己評価できるようになり、精度管理の質向上に役立つことが確認された
(9) 東北メガバンクの全ゲノム遺伝子情報を利用して、保因者頻度からCPT2欠損症の疾患頻度を計算した。CPT2欠損症はパイロット研究では28万人に一人であったが見逃し例が多いために二次対象疾患とされてきた。日本人の遺伝子変異の頻度から計算したところ4.1万人に一人と計算された。TMSスクリーニングによる発見頻度と、遺伝子変異から推定される発見頻度は必ずしも一致しない可能性がある。TMSスクリーニングの精度を評価するのに役立つと思われる
(10)治療用特殊ミルクの安定供給が問題となっている。今年度米国のメディカル・フード制度について情報収集した。医療保険や償還の対象となっているが、その対象疾患、適応範囲は州によって異なっている。低たんぱく食品は患者家族の自己負担金の割合が多い傾向がある。わが国の治療用食品提供・支援体制構築に参考にして検討すべきである
(11)PKU患者の摂取しているPhe除去フォーミュラであるA-1/MP-1の栄養素と微量元素、ビタミンについて検討したところ、長期間の摂取によってビオチン、セレン、およびマグネシウム、リン、ヨウ素、亜鉛の微量元素などの不足が起こりうることが推測された
結論
今年度の研究成果は以下のように集約される。NBSで発見された患者のコホート体制確立には、自治体担当窓口よりも小児科医代表者等が中心になって進める方が現実的であるかもしれない。成人PKU患者の生活実態調査から、NBSの効果は顕著であるものの成人期の治療中断によって精神症状を発症することが多いこともわかった。精度管理データのweb解析システム開発によって迅速、的確な精度管理、コスト低減に貢献することが期待される。全ゲノム情報の遺伝子変異の頻度から推計された疾患頻度はNBS検出精度の評価に役立つ。治療用特殊ミルクの安定供給に関連して、米国のメディカル・フード制度の情報を検討した。医療保険や償還の対象となっているものの患者家族の自己負担の割合が多いところがあることが分かった。今後治療用ミルク・食品の安定供給体制は、成人後の継続治療、移行期医療の問題とともに重要課題として検討すべきである
公開日・更新日
公開日
2017-05-29
更新日
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