文献情報
文献番号
201602012A
報告書区分
総括
研究課題名
健康格差対策に必要な公的統計のあり方に関する研究
課題番号
H27-統計-若手-007
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 ゆり(地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪府立成人病センター がん予防情報センター 疫学予防課)
研究分担者(所属機関)
- 中谷 友樹(立命館大学文学部)
- 近藤 尚己(東京大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(統計情報総合研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
1,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
国民皆保険制度下の日本において、近年社会経済状況により死亡や疾病発症などの格差が生じ始めている。国民の経済格差が拡大する中、健康格差をモニタリングし、対策を講じる必要がある。本研究では現状で利用可能なデータを用いて健康格差指標の分析を行うとともに、現行の公的統計での限界や課題を抽出し、健康格差を測るために必要な公的統計のあり方について検討することを目的とした。
研究方法
①空間疫学的手法を用いた全死亡における社会経済格差
人口動態統計の二次利用申請を行い、1985~2014年死亡分のデータを入手し、市区町村別地理的剥奪指標(Areal Deprivation Index:ADI)を用いて、全死亡・主死因別の年齢調整死亡率を算出し、格差指標の年次推移の分析を行った。また、詳細住所を含む人口動態オンライン届出情報の資料を入手し、大阪府の2014年死亡データを用い、小地域ADIに基づく社会経済指標による格差の分析を行った。
②主要死因ごとの職業・産業別死亡率の時系列分析の地域差
人口動態特殊報告データを用い、1985~2010年(国勢調査年のみ)における都道府県別の職業別年齢調整死亡率の経年変化を一般化推定方程式および変化係数モデルにより分析した。分析の際には各都道府県の経済状況(失業率・有効求人倍率)の推移も考慮した。
③がんを事例とした社会経済格差およびその要因分析
大阪府がん登録資料に小地域ADIを付与し、がん患者の生存率格差の分析を行った。空間的階層ベイズモデルを用いて分析した。
人口動態統計の二次利用申請を行い、1985~2014年死亡分のデータを入手し、市区町村別地理的剥奪指標(Areal Deprivation Index:ADI)を用いて、全死亡・主死因別の年齢調整死亡率を算出し、格差指標の年次推移の分析を行った。また、詳細住所を含む人口動態オンライン届出情報の資料を入手し、大阪府の2014年死亡データを用い、小地域ADIに基づく社会経済指標による格差の分析を行った。
②主要死因ごとの職業・産業別死亡率の時系列分析の地域差
人口動態特殊報告データを用い、1985~2010年(国勢調査年のみ)における都道府県別の職業別年齢調整死亡率の経年変化を一般化推定方程式および変化係数モデルにより分析した。分析の際には各都道府県の経済状況(失業率・有効求人倍率)の推移も考慮した。
③がんを事例とした社会経済格差およびその要因分析
大阪府がん登録資料に小地域ADIを付与し、がん患者の生存率格差の分析を行った。空間的階層ベイズモデルを用いて分析した。
結果と考察
①空間疫学的手法を用いた全死亡における社会経済格差
市区町村別ADIおよびそれに基づくSEPにより、全死亡・主死因別死亡率の社会経済指標による格差の推移について分析した。市区町村という比較的大きな人口規模を単位としていたが、日本全体でみた場合、絶対指標でも相対指標でもほとんどの死因の死亡率において格差が見られた。絶対指標でみた場合には全死亡の格差に占めるがん死亡の格差が最も大きく、相対指標でみた場合には、自殺が最も大きい格差を示した。死因別に格差の大きさを経年評価することは、健康格差対策を実践する上で必要である。死亡をアウトカムとした長期間の健康格差指標をモニタリングする際には本研究で示した方法によるアプローチは有用であることが示唆された。
大阪府における2014年死亡オンライン届出情報を用いて、小地域ADIに基づくADI10分位別SMRを示した。ここで分位数の値が大きいほど、居住地域の剥奪水準(貧困度)が高いことを意味する。両性において剥奪水準が高いほど、SMRが上昇する傾向が明瞭であるが、とりわけその傾きは男性で大きかった。
②主要死因ごとの職業・産業別死亡率の時系列分析の地域差
都道府県別に職業別死亡率の経年変化をみると、全国の結果と同様に2000年以降の管理職における死亡リスクが全死亡およびがん、自殺において上昇していた。管理職の死亡リスクは、経済指標の変化を調整しても増加し続けた。一方、職業別死亡リスクの影響を調整した上で、失業率の自殺リスクの影響はバブル崩壊後大きくなっていた。専門職においては2000年の死因別死亡と景気動向の関係性が最も強いことが統計的に示された。このことは、先行研究において示唆されたマクロ経済状況の悪化と専門職の死亡リスクの上昇との関連を支持する新しいエビデンスである。
③がんを事例とした社会経済格差およびその要因分析
小地域ADIを用いて大腸がんの生存率の社会経済格差を観測した。その格差は、進行度により調整をすると減弱したため、ある一定程度は早期診断の遅れにより説明できる。しかし、進行度による調整後また進行度別で限局患者において格差が生じていたことにより、早期診断の違いでは説明できない要因が残されていることがわかった。医療アクセスや治療内容の違いなどを確認したりする必要がある。そのような分析は今後がん登録資料とDPCやレセプト情報とをリンケージすることで可能になる。
市区町村別ADIおよびそれに基づくSEPにより、全死亡・主死因別死亡率の社会経済指標による格差の推移について分析した。市区町村という比較的大きな人口規模を単位としていたが、日本全体でみた場合、絶対指標でも相対指標でもほとんどの死因の死亡率において格差が見られた。絶対指標でみた場合には全死亡の格差に占めるがん死亡の格差が最も大きく、相対指標でみた場合には、自殺が最も大きい格差を示した。死因別に格差の大きさを経年評価することは、健康格差対策を実践する上で必要である。死亡をアウトカムとした長期間の健康格差指標をモニタリングする際には本研究で示した方法によるアプローチは有用であることが示唆された。
大阪府における2014年死亡オンライン届出情報を用いて、小地域ADIに基づくADI10分位別SMRを示した。ここで分位数の値が大きいほど、居住地域の剥奪水準(貧困度)が高いことを意味する。両性において剥奪水準が高いほど、SMRが上昇する傾向が明瞭であるが、とりわけその傾きは男性で大きかった。
②主要死因ごとの職業・産業別死亡率の時系列分析の地域差
都道府県別に職業別死亡率の経年変化をみると、全国の結果と同様に2000年以降の管理職における死亡リスクが全死亡およびがん、自殺において上昇していた。管理職の死亡リスクは、経済指標の変化を調整しても増加し続けた。一方、職業別死亡リスクの影響を調整した上で、失業率の自殺リスクの影響はバブル崩壊後大きくなっていた。専門職においては2000年の死因別死亡と景気動向の関係性が最も強いことが統計的に示された。このことは、先行研究において示唆されたマクロ経済状況の悪化と専門職の死亡リスクの上昇との関連を支持する新しいエビデンスである。
③がんを事例とした社会経済格差およびその要因分析
小地域ADIを用いて大腸がんの生存率の社会経済格差を観測した。その格差は、進行度により調整をすると減弱したため、ある一定程度は早期診断の遅れにより説明できる。しかし、進行度による調整後また進行度別で限局患者において格差が生じていたことにより、早期診断の違いでは説明できない要因が残されていることがわかった。医療アクセスや治療内容の違いなどを確認したりする必要がある。そのような分析は今後がん登録資料とDPCやレセプト情報とをリンケージすることで可能になる。
結論
人口動態統計および地域がん登録資料を用いて、現状で分析可能な全死亡・主死因別死亡率およびがん生存率・罹患率における社会経済格差のモニタリングを行った。現状の統計資料を用いても、健康格差指標の経時モニタリングはある程度の精度で可能であることがわかったが、詳細の要因分析を行い格差解消に向けたアクションを起こすためには、各種データベースを個人IDに基づく連結が可能となる体制整備を行う必要がある。
公開日・更新日
公開日
2017-08-03
更新日
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