レジオネラ検査の標準化及び消毒等に係る公衆浴場等における衛生管理手法に関する研究

文献情報

文献番号
201525002A
報告書区分
総括
研究課題名
レジオネラ検査の標準化及び消毒等に係る公衆浴場等における衛生管理手法に関する研究
課題番号
H25-健危-一般-009
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
倉 文明(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 前川 純子(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 縣 邦雄(アクアス(株)つくば総合研究所)
  • 八木田 健司(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 黒木 俊郎(神奈川県衛生研究所 微生物部)
  • 中嶋 洋(岡山県環境保健センター 細菌科)
  • 長岡 宏美(静岡県環境衛生科学研究所 微生物部 細菌班)
  • 森本 洋(北海道立衛生研究所 感染症センター感染症部細菌グループ)
  • 磯部 順子(富山県衛生研究所 細菌部)
  • 佐々木 麻里(大分県衛生環境研究センター 微生物担当)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 重篤な肺炎を引き起こすレジオネラ属菌による、浴槽水等の水環境の汚染が問題となっている。培養検査に1週間を要し、迅速な検査法が求められている。培養検査法の測定値は信頼性が懸念され、外部精度管理が必要とされている。遊離塩素消毒しても安全性の確保困難な浴槽水があり、解決に向け、モノクロラミン消毒を入浴施設において検証する。
研究方法
 迅速検査キットLAMP法及び生菌迅速検査キット EMA(Ethidium monoazide)-qPCR法等を用いた。レジオネラ属菌の16S rRNA遺伝子のクローンライブラリーを作製した。サイクロン式エアサンプラーで集菌した。
結果と考察
 マンガンイオンを含む地下水を利用した循環式の入浴施設においてモノクロラミン消毒の実証試験を行った。適合性試験でモノクロラミン濃度の低下がみられず、浴槽水において,レジオネラやアメーバは検出されなかった。塩素消毒臭の原因であるトリクロラミンや,消毒副生成物のトリハロメタン類の生成はなく,N-ニトロソジメチルアミンの生成量は遊離塩素管理時と変わらなかった。
 循環式浴槽のモノクロラミン消毒時のろ過器・配管の洗浄では,不連続点処理あるいは事前の完全換水が必要となる遊離塩素洗浄は不便である。そこで高濃度モノクロラミンによる配管洗浄の方法を検討し、モノクロラミン濃度(10 mg/L以上)と処理時間(1時間以上)とした。
 冷却水中の難培養性レジオネラ属菌をアメーバ共培養と定量PCRの組み合わせで検出した。培養法でレジオネラ属菌が不検出、PCR法でレジオネラ属菌のDNAが検出された冷却水5/13試料でレジオネラ属菌のDNAの増加を認めた。実冷却水では従来の培養法で検出されないレジオネラ属菌が存在しており、その存在はPCR検査により認識することができた。
 精度管理サーベイの実施母体を日水製薬(株)とし、189の検査機関(民間を含む)に対し外部精度管理を実施した。研究班への協力機関として参加した地方衛生研究所68機関についてみると、300~9000cfu/100mlの目標値(良好範囲)を報告した機関の%は、非濃縮試料では91%、ろ過濃縮試料では62%、遠心濃縮試料では36%であった。7自治体の研修、厚労省の生活衛生関係技術担当者研修会、NPO入浴施設衛生管理推進協議会、国立保健医療科学院平成27年度短期研修環境衛生監視指導でレジオネラ属菌の検査と感染対策等の講義を行なった。
 レジオネラ属菌迅速検査法の標準化のため、LAMP法、生菌を選択的に検出するLC EMA qPCR法、および比色系PALSAR法について、浴槽水などの実試料441検体を用いて、平板培養法に対する感度、特異度などの評価を行った。268検体についてPALSAR法を実施した結果、平板培養法に対する感度は47.0%、特異度は76.8%であり、LC EMA qPCR法、LAMP法と比べ、特異度は同等であったが、感度は低かった。
 富山県で多く発生するレジオネラ感染症の感染源として環境水調査を実施した。Legionella属菌の検出率は浴用水で14/51検体(27.5%)、シャワー水では7/36検体(19.4%)、河川水では6/15検体(40.0%)であった。臨床分離株に多いlag-1遺伝子を保有した株は7株(50.0%)であった。2011~2015年の5年間に浴用水からLegionella属菌が検出された71検体のうち、42検体(59.2%)からL. pneumophila SG1が検出され、その33.3%(14検体)はlag-1遺伝子を保有した。 
 16S rRNA遺伝子およびmip遺伝子配列の解析から、既存種に当てはまらない日本各地の環境から分離されたレジオネラ属菌株について、菌体脂肪酸組成分析を行った。土壌、あるいは源泉水から分離された6株は、菌体脂肪酸組成の類似度が高く、未記載の同一種であると考えられた。本未記載種は、L. pneumophila 3群、あるいは10群の抗血清と交差反応を示した。
 神奈川県内の3ヶ所の入浴施設と3医療機関を対象にレジオネラ汚染の実態調査を実施した。1医療機関ではレジオネラDNAとレジオネラ属菌の水試料での検出率はそれぞれ6.7%及び26.7%と汚染が少なく、2医療機関ではそれぞれ93.8%と37.5%及び60.0%と66.7%からレジオネラDNAとレジオネラ属菌が検出された。給水系に対するレジオネラ汚染防止対策が強く求められる結果となった。
結論
 循環式浴槽水へモノクロラミン消毒法を導入するにあたり必要な衛生管理手法を確立した。レジオネラの培養検査の外部精度管理サーベイを民間機関で初めて実施した。空気中のレジオネラ属菌の定量的測定法を確立した。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201525002B
報告書区分
総合
研究課題名
レジオネラ検査の標準化及び消毒等に係る公衆浴場等における衛生管理手法に関する研究
課題番号
H25-健危-一般-009
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
倉 文明(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 前川 純子(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 八木田 健司(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 神野 透人(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 荒井 桂子(横浜市衛生研究所 検査研究課)
  • 磯部 順子(富山県衛生研究所 細菌部)
  • 緒方 喜久代(大分県衛生環境研究センター 微生物担当)
  • 佐々木 麻里(大分県衛生環境研究センター 微生物担当)
  • 烏谷 竜哉(愛媛県立衛生環境研究所 衛生研究課)
  • 黒木 俊郎(神奈川県衛生研究所 微生物部)
  • 長岡 宏美(静岡県環境衛生科学研究所 微生物部 細菌班)
  • 中嶋 洋(岡山県環境保健センター 保健科学部)
  • 森本 洋(北海道立衛生研究所 感染症センター感染症部細菌グループ)
  • 縣 邦雄(アクアス株式会社 つくば総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 重篤な肺炎を引き起こすレジオネラ属菌による、浴槽水等の水環境の汚染が問題となっている。培養検査に1週間を要し、迅速な検査法が求められている。培養検査法の測定値は信頼性が懸念され、外部精度管理が必要とされている。遊離塩素消毒しても安全性の確保困難な浴槽水があり、解決に向け、モノクロラミン消毒を入浴施設において実用化する。
研究方法
 迅速検査キットLAMP法及び生菌迅速検査キット EMA(Ethidium monoazide)-qPCR法、比色によるPALSAR法を用いた。EWGLIの方法に従ってSequence-based typing (SBT)を行った。サイクロン式エアサンプラーで集菌した。
結果と考察
 遊離塩素消毒が困難な高pHの泉質や、アンモニア態窒素、臭化物・鉄・マンガンの各イオンを含む泉質の温泉水等を使用する10循環式入浴施設で、浴槽水のモノクロラミン濃度を3 mg/Lに維持して、レジオネラ属菌やその宿主であるアメーバを不検出にした。バイオフィルムの形成を抑制し、人体に有害な消毒副生成物の生成も少なく、不快な塩素臭も低減できた。事前に泉質への消毒適合性を判断する導入スキームと、高濃度モノクロラミンによる配管洗浄法(10 mg/L以上で1時間以上)を確立した。
 冷却水中のレジオネラ属菌検出率(10CFU/100mL以上)は約25%であった。イソチアゾリン系等の有機系殺菌剤は無処理よりも検出率を低下させた。冷却水中の難培養性レジオネラ属菌をアメーバ共培養と定量PCRの組み合わせで検出した。エアサンプラーによる、空気中のレジオネラ属菌の定量的測定法を確立し、冷却塔近傍で菌を検出した。市街地の空気中にもレジオネラ属菌の遺伝子を検出した。
 レジオネラ属菌検査には標準的検査法、精度管理、研修の3点が重要である。BioBallを利用し約40地衛研に対して2回、実施母体を日水製薬とし民間を含む189検査機関に対し1回、外部精度管理を実施した。実技研修4回を含む25回以上の研修会に対応し、レジオネラ属菌の検査と感染対策等の講義を行なった。冊子「レジオネラ症対策のてびき」を普及した。
 浴槽水等を用いて、平板培養法に対する各種迅速検査法の感度、特異度の評価を行った。LC EMA qPCR法(カットオフ値として1 CFU/100 ml相当)の平板培養法に対する感度は89%、特異度は78%(518検体)で平板培養法と高い相関を示した。LAMP法は、平板培養法と相関している方法と考えられた(286検体)。PALSAR法は、平板培養法に対する感度は47%、特異度は77%であった(268検体)。
 レジオネラ症の感染源として、環境中(浴槽水、シャワー水、河川水、土壌、自動車のウィンドウォッシャー液、81~193検体)のLegionella属菌の生息状況を調査した。浴用水では28%、シャワー水では、23%で検出され、その菌数はおよそ6割が10-99CFU/100mLであった。河川水におけるLegionella属菌の検出率は、33%であった。これらの環境検体で、起因菌として多いSG1は、浴用水から48.6%と多く分離された。一方、界面活性剤使用のウィンドウッシャー液中では、菌は減少し24h後に生存する株は認められなかった。
 1980年から2015年までに分離されたL. pneumophila(Lp)血清群1菌株(臨床分離株354、環境分離株397にSBTを実施して、minimum spanning tree解析を行うと、 ほとんどが浴槽水分離株から成るB1、B2、B3の3グループ、冷却塔水分離株が多い、C1、C2グループ、土壌、水溜り分離株が多い、S1、S2、S3グループ、様々な由来の菌株から成るUグループの9つに分かれた。レファレンスセンターに送付された臨床分離株の遺伝子型がどこに位置するかという情報を地方自治体経由で医療機関に還元できるようになり、遺伝子解析が感染源の種類の推定に寄与できた。
 19家庭の水環境(水試料149検体、スワブ検体90検体)を調査した。アメーバ共培養により検出率が向上し、レジオネラDNAは水試料では52%、スワブ試料では19%から検出された。Legionella属菌は水試料では6.0%、スワブ試料では3.3%から検出された。3医療機関を対象にレジオネラ汚染の実態調査を実施した。水試料からレジオネラDNA(7~94%)とレジオネラ属菌(27~67%)が検出され、給水系に対するレジオネラ汚染防止対策が求められた。
結論
 循環式浴槽水へモノクロラミン消毒を導入するための衛生管理手法を確立した。レジオネラの培養検査の精度管理サーベイを民間機関主体で実施できた。 成果に基づき、循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアルが改訂された。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201525002C

収支報告書

文献番号
201525002Z