文献情報
文献番号
201524002A
報告書区分
総括
研究課題名
個体の成長期における毒性メカニズムに基づく新規in vitro発達神経毒性評価法に関する研究
課題番号
H25-化学-一般-002
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
諫田 泰成(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部第二室)
研究分担者(所属機関)
- 宇佐見 誠(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
- 佐藤 薫(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
- 関野 祐子(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部 )
- 上野 晋(産業医科大学 産業生態科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、自閉症など発達障害が急速に増加し社会問題となっている。その原因の一つは発達期における化学物質の曝露とされる。発達期の神経系は成体より化学物質に対する感受性が高く、健康被害が長期間あるいは遅発性に生じることが考えられるため、子どもの影響評価法の確立が強く望まれる。現在、OECDやEPAによって、妊娠ラットを用いる発達神経毒性試験ガイドラインが制定されているが、試験方法が複雑で、試験期間は1年以上、動物数は720にも及び経費も膨大である。さらに、日本ではこのようなガイドラインは未整備である。そこで我々は、現行ガイドラインの欠点を克服し、簡便かつ低コストのin vitro評価系として、各発達期における神経系の毒性評価法、遅発性の神経回路異常による毒性評価法の基盤を開発している。昨年度までに、遅発性神経毒性が懸念されるバルプロ酸および発生毒性が懸念される内分泌かく乱物質リブチルスズを研究班で共通の化合物として用いて、各発達段階における神経毒性を明らかにした。本年度は、発達神経毒性を有する有機リン系農薬クロルピリホスを共通の化合物として新たに検証した。
研究方法
遅発性の神経毒性が懸念されるクロルピリホスを研究班共通の化合物として追加し、当初の計画に従って、我々が独自に構築した各発達段階におけるin vitro神経毒性評価を行った。特に、我々が開発した各発達期における評価方法にもとづいて、in vitroの系として、ヒト未分化細胞の代謝、神経堤細胞の遊走、発達成長期神経系細胞新生の評価を行った。また、遅発性の毒性評価方法である生後や幼若期神経回路の機能をスライス切片を用いて検討した。
結果と考察
幹細胞から生後・幼若期までの各発達段階において、有機リン系農薬クロルピリホスの神経毒性作用を検出できることを明らかにした。各発達時期の評価結果は以下の通りである。
【①ヒト未分化細胞の代謝】クロルピリホスによりヒト幹細胞のエネルギー代謝異常を見出した。とくに、化学物質によりミトコンドリア形態制御機構が阻害されATP産生が抑制されることにより増殖が抑制される新規の毒性発現メカニズムを明らかにした。
【②神経堤細胞の遊走】ラット神経堤細胞遊走実験法により、培養48 時間までは50uMまでは神経堤細胞の遊走促進傾向が認められた。培養48から72時間では、最低濃度の6.25uM以上で抑制傾向が認められた。従って、クロルピリホスは神経堤細胞の遊走に対して複数のメカニズムを介して影響を及ぼすと考えられた。
【③発達成長期神経系細胞新生】前脳矢状切片の脳室下帯に存在する神経幹細胞および前駆細胞を蛍光標識し切片培養を行い、評価化合物を適用し定量的な評価を行った。クロルピリホスは、新生神経系細胞数減少、新生オリゴデンドロサイト数の減少を引き起こすことを明らかにした。
【④生後神経回路】クロルピリホスはバルプロ酸同様な変化が観察され、過剰な脳回の形成も認められた。
【⑤幼若期神経回路】クロルピリホスは、VPA胎生期曝露の場合に認められた興奮性神経回路の発達が亢進する傾向が認められた。
【①ヒト未分化細胞の代謝】クロルピリホスによりヒト幹細胞のエネルギー代謝異常を見出した。とくに、化学物質によりミトコンドリア形態制御機構が阻害されATP産生が抑制されることにより増殖が抑制される新規の毒性発現メカニズムを明らかにした。
【②神経堤細胞の遊走】ラット神経堤細胞遊走実験法により、培養48 時間までは50uMまでは神経堤細胞の遊走促進傾向が認められた。培養48から72時間では、最低濃度の6.25uM以上で抑制傾向が認められた。従って、クロルピリホスは神経堤細胞の遊走に対して複数のメカニズムを介して影響を及ぼすと考えられた。
【③発達成長期神経系細胞新生】前脳矢状切片の脳室下帯に存在する神経幹細胞および前駆細胞を蛍光標識し切片培養を行い、評価化合物を適用し定量的な評価を行った。クロルピリホスは、新生神経系細胞数減少、新生オリゴデンドロサイト数の減少を引き起こすことを明らかにした。
【④生後神経回路】クロルピリホスはバルプロ酸同様な変化が観察され、過剰な脳回の形成も認められた。
【⑤幼若期神経回路】クロルピリホスは、VPA胎生期曝露の場合に認められた興奮性神経回路の発達が亢進する傾向が認められた。
結論
本研究において、バルプロ酸、有機スズに加えて、有機リン系農薬クロルピリホスを新たに追加して、作用機序の異なる陽性対照物質に対して幹細胞から生後・幼若期までの毒性を検出することができた。これにより発達神経毒性の各試験法を組み合わせた統合的な評価が可能になることが期待される。今後、本評価法の予測性などを国際的に検証し、試験法として確立させる必要がある。特に、HESIのNeuroTOXと連携を図りながら、簡便かつ再現性の高いプロトコルの整備を進める。既に上記の3化合物を含めた検証化合物などの情報を共有しており、引き続き試験法としての有用性等を議論する予定である。
公開日・更新日
公開日
2018-05-28
更新日
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