文献情報
文献番号
201522044A
報告書区分
総括
研究課題名
DART-OT/MS および qNMR を用いた迅速かつ簡易な可塑剤分析法の検討
課題番号
H26-食品-若手-009
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 裕(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は,操作が煩雑で長時間を要する食品用器具・容器包装および乳幼児用玩具中に含まれる可塑剤分析法を改良するため,DART-OT/MSとqNMRを用いて迅速かつ簡易な分析法の開発を目的とした.このうち本年度は,「<その1>DART-OT/MSを用いた10種のPAEsの迅速スクリーニング法の開発」、GCによる分析では定量が困難な場合の定量法として,「<その2>NMRを用いたPVC製品中のPAEsの正確な定量法の開発」を試みた.また,これらを組み合わせた乳幼児用玩具のPAEs規制に適応したスクリーニング~定量までの一連の流れを構築した.さらに,「<その3>PVC製玩具の使用可塑剤実態調査」を行い,過去の調査結果と比較し,市販製品中の可塑剤の使用傾向の変化を調べた.
研究方法
<その1>では,10種のPAEsの迅速スクリーニングのために標準溶液を用いてMS/MS条件の最適化を行った後,10種のPAEsを0.05または0.1%含有するPVC製シートを作製し,これらの濃度のPAEsを検出可能であることと,MS/MSスペクトルが標準品と一致していることを確認した.
<その2>では,PAEsの定量用シグナルを決定するため,PAEsおよび代表的な可塑剤約20種類の1H-NMRを取得した.ついで測定溶媒,内標準物質,前処理法の検討を行い,最後に試料から調製した試験溶液を用いて添加回収試験を行い,開発した分析法を評価した.
<その3>では,市販のPVC製玩具約500検体から,公定法にしたがって試験溶液を調製した後,含有可塑剤の定性分析を行った.その後可塑剤標準品を用いて作成した検量線により定量分析を行った.
<その2>では,PAEsの定量用シグナルを決定するため,PAEsおよび代表的な可塑剤約20種類の1H-NMRを取得した.ついで測定溶媒,内標準物質,前処理法の検討を行い,最後に試料から調製した試験溶液を用いて添加回収試験を行い,開発した分析法を評価した.
<その3>では,市販のPVC製玩具約500検体から,公定法にしたがって試験溶液を調製した後,含有可塑剤の定性分析を行った.その後可塑剤標準品を用いて作成した検量線により定量分析を行った.
結果と考察
<その1>では,開発したスクリーニング法について市販のPVC製玩具25検体を用いてその精度を評価した結果,実際の試料でも0.1%以上PAEsを含有する試料を正確に検出可能であった.さらに,規格試験のスクリーニング法として,検出レベルを設定することにより,PAEs含有量が0.1%未満の試料の選択性を向上させることが可能であった.DART-OT/MSによる測定は前処理が不要でかつ迅速であることから,10種類のPAEsを含有する試料のスクリーニング法として非常に優れた方法であると考えられた.
<その2>では,定量用シグナルにはフタル酸に由来する二つのシグナル,内標準物質にはマレイン酸,重溶媒にはアセトン-d6を選択した.試料中のPAEs含有量が1~50%程度であれば転溶法が有効であり,塩ビオリゴマーや共存可塑剤の影響を受けずに正確に定量可能であった.また,含有量が0.1%程度の場合,アルミナカートリッジを用いた精製法により正確な定量値が得られた.したがって,試料中のPAEsの正確な含有量を求める必要がある場合には本法は非常に有用であると考えられた.
<その3>では,市販PVC製玩具約500検体からDEHTP、ATBC、DINCHなど15種類の可塑剤が検出された.このうちDEHTPの検出率が最も高く,約65%の試料から検出された.また含有量は全体的に低下傾向にあり,使用量が減少していることが明らかとなった.さらにPAEsについても検出率は1/3以下に減少していた.このようにPVC製玩具に使用される可塑剤については,5年前と比べ種類に大きな違いはなかったが,DEHTPの使用頻度が大幅に上昇しており,PAEsの使用頻度は大幅に減少していることが明らかとなった.
<その2>では,定量用シグナルにはフタル酸に由来する二つのシグナル,内標準物質にはマレイン酸,重溶媒にはアセトン-d6を選択した.試料中のPAEs含有量が1~50%程度であれば転溶法が有効であり,塩ビオリゴマーや共存可塑剤の影響を受けずに正確に定量可能であった.また,含有量が0.1%程度の場合,アルミナカートリッジを用いた精製法により正確な定量値が得られた.したがって,試料中のPAEsの正確な含有量を求める必要がある場合には本法は非常に有用であると考えられた.
<その3>では,市販PVC製玩具約500検体からDEHTP、ATBC、DINCHなど15種類の可塑剤が検出された.このうちDEHTPの検出率が最も高く,約65%の試料から検出された.また含有量は全体的に低下傾向にあり,使用量が減少していることが明らかとなった.さらにPAEsについても検出率は1/3以下に減少していた.このようにPVC製玩具に使用される可塑剤については,5年前と比べ種類に大きな違いはなかったが,DEHTPの使用頻度が大幅に上昇しており,PAEsの使用頻度は大幅に減少していることが明らかとなった.
結論
本研究において,DART-OT/MSを用いたPAEsの正確なスクリーニング法を開発した.また,NMRを用いた正確なPAEs定量法を開発するとともに,これらを組み合わせた新たなPAEs分析法を提案した.以上の結果から,これまでは甚大な労力,時間,試薬等を要していたPAEs試験をより迅速かつ簡単に行うことが出来るようになった.さらに,適否判定ができない場合があったが,より正確な適否判定ができるようになった.これにより,食品用器具・容器包装や乳幼児用玩具に含有される可塑剤についてリスク管理上重要な情報をより多く得ることができ,その情報を蓄積することにより市場に存在しうる問題について適時適切な対応を取ることが可能となると期待された.また,市販PVC製玩具中の可塑剤使用実態調査結果から,現在主流となっている可塑剤の使用傾向などが明らかとなった.本調査結果は,規格基準や試験法を改正する際の審議資料としての活用が期待されるだけでなく,製品の消費者,製造者,販売者,試験する機関等に対しても有益な情報を提供できると考えられた.
公開日・更新日
公開日
2016-07-06
更新日
-