文献情報
文献番号
201522013A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の食中毒菌等の遺伝特性及び制御に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-014
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
大西 貴弘(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
- 泉谷 秀昌(国立感染症研究所・細菌学)
- 小西 良子(麻布大学・生命・環境科学部)
- 世良 暢之(福岡県保健環境研究所・病理細菌課)
- 黒木 俊郎(神奈川県衛生研究所・企画情報部)
- 斉藤 志保子(秋田県健康環境センター保健衛生部細菌班)
- 久米田 裕子(大阪府立公衆衛生研究所・細菌課)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
8,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究ではウエルシュ菌、サルモネラ、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌の分子疫学マーカーを検索し、地方衛生研究所でも実施可能な簡便でかつ、各検査機関間で結果の比較を行いやすいタイピング手法を確立する。また食中毒の制御の観点から、輸入品等の病原微生物検査に適用されるサンプリングプランについて国際的慣行との調和を考える必要がある。そこで本研究ではコーデックス規格等の国際標準と我が国の汚染実態を考慮したサンプリングプランも合わせて検討する。
研究方法
ウエルシュ菌、サルモネラ、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌に関して疫学マーカーを検索し、それが有用であるかどうかを複数の菌株を用い確認を行った。サンプリングプランに関しては昨年度に検討したプレエンリッチメント法とプ-ル法の有用性をカット野菜を用いて検討した。
結果と考察
<ウエルシュ菌に関する研究>
昨年度、23のハウスキーピング遺伝子および病原遺伝子の有無をPCRで判定する方法を確立した。今年度は様々な由来の菌株を用い本方法の有用性を確認した。その結果、本検査法がウェルシュ菌のタイピングに有用であることが確認された。さらに、ウェルシュ菌の検査手法を拡充するために従来の病原因子であるcpe遺伝子に加え、becA、becB、そしてウェルシュ菌α毒素のplc遺伝子を同時に検出できるマルチプレックスPCR法を構築した。
<サルモネラに関する研究>
本年度はサルモネラの単相菌のうち、Salmonella I 4:b:-について重点的に解析を行った。その結果、S. I 4:b:-の多くがS. Paratyphi B var Javaに由来することが示唆された。また、同菌およびS. Paratyphi B JavaがMLSTおよびPFGEから多様な遺伝的背景を持っていることが示唆された。本研究でその遺伝的特性を明らかにすることでサルモネラの単相菌の起源がより精度よく推定できることが示された。
<カンピロバクターに関する研究>
Campylobacter jejuniの型別法として新たに開発されたcomparative genomic fingerprinting (CGF)を疫学調査のツールとしての導入を目的に、評価を行った。標準株2株と食品由来株を対象に、既報に準じて4製品のTaq polymeraseを比較したところ、結果に相違があり、1製品のTaq polymeraseで最も良い結果が得られた。分離株65株の解析では、PFGEでは55パターンに、CGFでは49パターンに分けられ、PFGEと同程度の識別能を有することが示された。
<黄色ブドウ球菌に関する研究>
POT法による黄色ブドウ球菌の遺伝子型別の信頼性を確認するために、地方衛生研究所5機関で同一菌株をPOT法によって型別し、結果を比較した。その結果、供試10株中1株における2つのバンドの判定に不一致が認められた。広域の重要事例等の場合はPOT型の数値に加えて写真情報の相互確認も必要と考えられた。健康者由来黄色ブドウ球菌35株について検査したところ、エンテロトキシンA~E型の遺伝子保有率は22.9%と食中毒事例(88.9%)より低かった。また、遺伝子型別は多様性が認められた
<サンプリングプランに関する研究>
前年度、ネギトロを対象に実施したサルモネラのサンプリングプランにおける妥当性の評価で用いた、プレエンリッチメント法(PE法)およびプール法(P法)を、今年度はRTE食品として市販されているカット野菜を用いて検討した。その結果、カット野菜においてもPE法およびP法とも有用性があることが確認され、国際調和の際にサンプル数が増加しても、効率的かつ簡易に検査が可能になると考えられた。今後本手法を他の食品に適用する際には、夾雑菌の菌叢や菌量などを科学的に把握し、検証することが必要であると考えられた。
昨年度、23のハウスキーピング遺伝子および病原遺伝子の有無をPCRで判定する方法を確立した。今年度は様々な由来の菌株を用い本方法の有用性を確認した。その結果、本検査法がウェルシュ菌のタイピングに有用であることが確認された。さらに、ウェルシュ菌の検査手法を拡充するために従来の病原因子であるcpe遺伝子に加え、becA、becB、そしてウェルシュ菌α毒素のplc遺伝子を同時に検出できるマルチプレックスPCR法を構築した。
<サルモネラに関する研究>
本年度はサルモネラの単相菌のうち、Salmonella I 4:b:-について重点的に解析を行った。その結果、S. I 4:b:-の多くがS. Paratyphi B var Javaに由来することが示唆された。また、同菌およびS. Paratyphi B JavaがMLSTおよびPFGEから多様な遺伝的背景を持っていることが示唆された。本研究でその遺伝的特性を明らかにすることでサルモネラの単相菌の起源がより精度よく推定できることが示された。
<カンピロバクターに関する研究>
Campylobacter jejuniの型別法として新たに開発されたcomparative genomic fingerprinting (CGF)を疫学調査のツールとしての導入を目的に、評価を行った。標準株2株と食品由来株を対象に、既報に準じて4製品のTaq polymeraseを比較したところ、結果に相違があり、1製品のTaq polymeraseで最も良い結果が得られた。分離株65株の解析では、PFGEでは55パターンに、CGFでは49パターンに分けられ、PFGEと同程度の識別能を有することが示された。
<黄色ブドウ球菌に関する研究>
POT法による黄色ブドウ球菌の遺伝子型別の信頼性を確認するために、地方衛生研究所5機関で同一菌株をPOT法によって型別し、結果を比較した。その結果、供試10株中1株における2つのバンドの判定に不一致が認められた。広域の重要事例等の場合はPOT型の数値に加えて写真情報の相互確認も必要と考えられた。健康者由来黄色ブドウ球菌35株について検査したところ、エンテロトキシンA~E型の遺伝子保有率は22.9%と食中毒事例(88.9%)より低かった。また、遺伝子型別は多様性が認められた
<サンプリングプランに関する研究>
前年度、ネギトロを対象に実施したサルモネラのサンプリングプランにおける妥当性の評価で用いた、プレエンリッチメント法(PE法)およびプール法(P法)を、今年度はRTE食品として市販されているカット野菜を用いて検討した。その結果、カット野菜においてもPE法およびP法とも有用性があることが確認され、国際調和の際にサンプル数が増加しても、効率的かつ簡易に検査が可能になると考えられた。今後本手法を他の食品に適用する際には、夾雑菌の菌叢や菌量などを科学的に把握し、検証することが必要であると考えられた。
結論
本研究で構築したタイピング手法はいずれも簡便で特別な手技や機器を必要とせず、また結果の判別が非常に容易である。さらに、デジタルデータとして結果を表せられるため、他機関同士で結果の比較が容易である。いずれのタイピング法もすぐに現場で使用できるものばかりである。
食中毒微生物検査のサンプリングプランに関しては、本年度の結果から、サンプリング数が増加した場合でも、カット野菜においてはプレエンリッチメント法とプール法の適用が可能であることが確認された。
食中毒微生物検査のサンプリングプランに関しては、本年度の結果から、サンプリング数が増加した場合でも、カット野菜においてはプレエンリッチメント法とプール法の適用が可能であることが確認された。
公開日・更新日
公開日
2016-07-06
更新日
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