鉛及びヒ素などの食品汚染物質の実態調査ならびにその健康影響に関する研究

文献情報

文献番号
201522006A
報告書区分
総括
研究課題名
鉛及びヒ素などの食品汚染物質の実態調査ならびにその健康影響に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-006
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
香山 不二雄(自治医科大学 医学部 環境予防医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田 貴彦(旭川医科大学 医学部 健康科学講座)
  • 野原 恵子(国立環境研究所 環境生理部 環境生理研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,997,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胎児期および幼少時の低濃度の鉛曝露は中枢神経系の発達に悪影響を与える。国際機関で耐容摂取量の再評価が予定されている。また、無機ヒ素曝露の影響評価のためのバイオマーカーの検索が喫緊の課題である。我が国の平均的な鉛及びヒ素の曝露量は海外と比較すれば低い。しかし、食生活や曝露経路およびヒ素の化学型分布が欧米とは大きく異なるため、我が国の曝露実態と影響評価が必要である。鉛及びヒ素曝露のハイリスク集団である胎児および小児の生体負荷量とその曝露源を確認し、健康影響および生体影響の可能性の有無について調査することを目的とする。 
研究方法
研究方法 【調査地域】国内で北海道旭川市および栃木県下野市を選んだ。パキスタンの調査地域(カラチ市及びインダス川流域のシンド州Khairpur、Gambat地域)を鉛曝露及びヒ素曝露のより高い地域とした。妊娠後期の妊婦をリクルートし、妊婦、妊婦の1.5~3.5歳の児から採血、採尿を行い、鉛およびヒ素生体負荷量を評価し、健康影響を評価する。また、3日間の陰膳および飲料水、ハウスダストを採取し、曝露源別に曝露評価を行う。
結果と考察
無機ヒ素の摂取量は、日本の母親で幾何平均;1.45 µg/kgBW/週, 児で4.28 µg/kgBW/週,であり、ヒジキを頻回に食べた児1名に耐用摂取量を超えていた。カラチの母親で平均;0.94 µg/kgBW/週、児で2.69 µg/kgBW/週で、Gambatの母で平均;3.06 µg/kgBW/週、児で9.72 µg/kgBW/週で、カラチでは低いが、Gambatでは高い傾向があった。母親で1名、児で13名が撤回されたJECFAの耐用摂取量を超えていた。カラチおよびGambatの飲料水のヒ素濃度幾何平均値はそれぞれ1.28 ppbと3.03 ppbであり、13試料が飲料水の基準値10ppb以上であった。
日本人の鉛の摂取量は下野と旭川とで差は無かった。母の陰膳からの鉛摂取量は平均;0.98 µg/kgBW/週、児は2.70 µg/kgBW/週あった。飲料水からの鉛摂取は低くかった。ハウスダストの吸入からの曝露推定量は、児が高く、平均;0.74 µg/kgBW/週であった。母親の陰膳から鉛摂取量はカラチの母親で幾何平均;8.21 µg/kgBW/週, 児で15.28 µg/kgBW/週であった。Gambatの母親で平均;7.91 µg/kgBW/週、児で20.23 µg/kgBW/週kであった。カラチで鉛曝露は高くGambatで低くかった。
結論
日本の妊婦、胎児、小児など感受性の高い集団の陰膳を初めて実施し、ヒ素曝露および鉛曝露量は低いことが明らかとなった。しかし、ヒジキを頻回に食べる児の1名が旧耐用摂取量を超えていた。
パキスタンのカラチでは食品の鉛汚染がすんでおり、食事からの鉛曝露が多く、血中濃度も高かった。数%の高い児が、中枢神経の発達に影響を与えるレベルに近い値を示した。インダス川流域のGambatではヒ素曝露量が高かく、旧耐用摂取量を超える妊婦および児がいた。

公開日・更新日

公開日
2016-08-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201522006B
報告書区分
総合
研究課題名
鉛及びヒ素などの食品汚染物質の実態調査ならびにその健康影響に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-006
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
香山 不二雄(自治医科大学 医学部 環境予防医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田 貴彦(旭川医科大学 医学部 健康科学講座)
  • 野原 恵子(国立環境研究所 環境生理部 環境生理研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国の平均的な鉛及びヒ素の曝露量は低い。しかし、海藻の多食者や井戸水および米からのヒ素経口曝露の高い事例がある。鉛及びヒ素曝露は胎児、小児がハイリスク集団であり、生体負荷量とその曝露源を確認し、健康影響および生体影響の可能性を調査することを目的とする。
研究方法
調査地域は、旭川市と自治医大のある栃木県下野市近郊を選んだ。また、パキスタンにおける調査地域(カラチ市及びインダス川流域のハイルプル地区ガンバット町)を、鉛及びヒ素曝露の陽性対照群として選んだ。
調査地域で妊婦をリクルートし、出生児及びその兄姉(12~42月齢)を被験者とした。それぞれの地域で、妊娠後期の妊婦(母親)を研究協力者として募り、その家庭から、母親及び出生児の兄姉(小児)の3日分の陰膳、井戸水または上水道の飲料水、約2週間分のハウスダストなどを収集する。これらの鉛及びヒ素濃度を測定し、その耐容摂取量を算出し、鉛及びヒ素の曝露を評価する。生体負荷量としては、生体試料(母親末梢血、臍帯血、小児末梢血など)中の鉛及び総ヒ素濃度を測定する。健康影響に関しては、ヒ素曝露の高いパキスタンのハイルプル地区ガンバット町から収集する生体試料との差を解析する。
結果と考察
①下野地域では86家族、②旭川地域では、母親15名、小児が17名。③カラチ地域で66家族、ガンバット地域で44家族。
日本における陰膳からの鉛摂取量は、母親で0.98microg/kgBW/週、小児で2.70microg/kgBW/週。ハウスダストからの推定鉛摂取量は、母親で0.17 microg/kgBW/週、小児で0.70microg/kgBW/週であった。これらの結果から、日本における母親と小児の陰膳とハウスダスト両方からの鉛摂取量は、旧耐用摂取量(PTWI:25 micro g/kgBW/週)より低い。
一方、パキスタンの陰膳鉛摂取量は、母親で8.12microg/kgBW/週、小児で18.29microg/kgBW/週であった。パキスタンにおける母親と小児の陰膳からの鉛摂取量は、鉛の旧PTWIを超える母親が5%、小児が30%みられた。
日本の母親末梢血、臍帯血、小児末梢血の血中鉛濃度は、それぞれ0.67microg/dL、0.81 microg/dL、1.19 microg/dLと、非常に低い範囲内であった。一方、パキスタンの母親末梢血、臍帯血、小児末梢血の血中鉛濃度は、それぞれ8.87microg/dL、7.01 microg/dL、15.28 microg/dLと非常に高い値であった。
パキスタンの血中鉛濃度は、カラチの場合に非常に高く、母親で14.52 microg/dL、臍帯血で12.52 micro g/dL、小児で20.17 micro g/dLで、ガンバットの母親で4.01 micro g/dL、臍帯血で2.83 micro g/dL、小児で10.84 micro g/dLであり、カラチよりは低い。
日本の陰膳総ヒ素の摂取量は、母親で6.15 micro g/kgBW/週、小児で16.68 micro g/kgBW/週であった。無機ヒ素の摂取量は、母親で1.45 micro g/kgBW/週、小児で4.28 micro g/kgBW/週であった。特に、陰膳中にヒジキが含まれると母親と小児で共に無機ヒ素摂取量が約2倍高くなることが分かった。さらに、無機ヒ素の旧PTWI(15 micro g/kgBW/週)を超過していた小児(1名)の陰膳中にも、3日間ともヒジキを食べていた。
一方、パキスタンの陰膳無機ヒ素の摂取量は、母親で1.49 micro g/kgBW/週、小児で5.81 micro g/kgBW/週であった。無機ヒ素の旧PTWIを超過していた母親1名と小児13名は、すべてガンバットの被験者であった。カラチおよびガンバットの飲料水中総ヒ素濃度は、カラチ1.25 micro ;g/L、ガンバット3.03 micro g/Lであり、ガンバットの飲料水には0.01 mg/L超えるものが13試料あった。ガンバットにおける陰膳中無機ヒ素は、井戸水に由来することが示唆された。
結論
日本の鉛曝露は、陰膳とハウスダストに由来する鉛摂取量も低かった。ヒ素曝露は、総ヒ素が魚介類、海藻に由来するため高いが、無機ヒ素は低かった。しかし、陰膳にヒジキが含まれると、無機ヒ素摂取量が増加する。
パキスタンでは、カラチの高鉛曝露の家族において、陰膳由来の鉛摂取量が多く、旧耐用摂取量を超えている家族も多数確認され、食品が鉛の主要な曝露源である。

公開日・更新日

公開日
2016-08-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201522006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
鉛およびヒ素は胎盤を通過し胎児に移行することから、低レベルの鉛およびヒ素曝露が胎児の発達に悪影響を与えることが危惧されている。今回、毒物への影響を受けやすい胎児および小児の鉛およびヒ素の曝露評価と影響評価を実施するために、妊婦および1.5-3.5歳の兄姉の経口曝露、ハウスダストからの曝露を含めて調査した。日本での妊婦および小児の陰膳調査はほとんど行われていない。パキスタンでは初めての陰膳調査である。他の汚染物質曝露影響評価にも残った試料から実施することが出来る。
臨床的観点からの成果
児の発達調査は、Baley III発達調査を、日本およびパキスタンでも実施した。鉛およびヒ素の影響とその他の交絡因子との解析を進めて、結果を示す予定であり、現在、結果の解析中である。日本およびパキスタンでの発達調査被験者の数がそれぞれ100名未満であるので、さらに被験者数を増やす必要がある。
ガイドライン等の開発
結果は学術論文として発表し、将来のFA0/WHO 合同食品添加物専門家委員会での、評価文書となることを目指す。
その他行政的観点からの成果
2011年のFAO/WHO合同食品添加物専門家委員会で鉛およびヒ素の耐用摂取量は安全性が担保されていないという理由で撤回された。今後の再度の評価にこの調査研究結果が用いられることが期待される。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
第89回日本産業衛生学会、第86会日本衛生学にて発表、第15回分子予防環境医学研究会大会、環境ホルモン学会第18回研究発表会、第25回日本産業衛生学会 産業医・産業看護全国協議会(2015)
学会発表(国際学会等)
2件
第16回Pacific Basin Consortium of Environment and Health, ISEE-ISES AC2016にての発表
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kayama F, Fatmi Z, Ikegami A et. al.
Exposure assessment of lead from food and airborne dusts and biomonitoring in pregnant mothers, their fetus and siblings in Karachi, Pakistan and Shimotsuke, Japan
Rev Environ Health , 31 (1) , 33-35  (2016)
10.1515/reveh-2015-0046

公開日・更新日

公開日
2016-08-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201522006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,997,000円
(2)補助金確定額
4,997,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,560,632円
人件費・謝金 800,115円
旅費 157,200円
その他 2,479,053円
間接経費 1,499,000円
合計 6,496,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2017-11-28
更新日
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