性感染症に関する特定感染症予防指針に基づく対策の推進に関する研究

文献情報

文献番号
201517010A
報告書区分
総括
研究課題名
性感染症に関する特定感染症予防指針に基づく対策の推進に関する研究
課題番号
H27-新興行政-一般-001
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
荒川 創一(神戸大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中瀬 克己(岡山大学 医療教育総合開発センター)
  • 小森 貴(公益社団法人日本医師会)
  • 白井 千香(大阪市立大学 大学院医学研究科)
  • 余田 敬子(東京女子医科大学 医学部)
  • 濱砂 良一(産業医科大学 医学部)
  • 三鴨 廣繁(愛知医科大学 医学部)
  • 川名 敬(東京大学 医学部)
  • 田中 一志(神戸大学 医学研究科)
  • 伊藤 晴夫(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
4,231,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交替(追加) 砂川 富正(平成27年7月3日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
1.経年的に行ってきた性感染症(sexually transmitted infections、以下STI)のセンチネルサーベイランスを引き続き行った。その際に、モデル県を4県(千葉、岐阜、兵庫、徳島)とし、より精緻な解析を加えた。10月ひとつきに医療機関を受診した全性感染症を匿名化の元に報告。本年度は、受診者(罹患者)数のみならず、スクリーニングを含めた対象ひとつき間におけるSTI検査数および陽性者数の報告も依頼し、その実態を調査した。 2.STI予防教育(中高生対象)の標準化、全国展開の具現化を目的に、まず、標準スライドの作成を行った。 3.自治体を通じた医療、教育への情報提供強化に取り組んだ。全国自治体にSTIに関する意識調査をし、その現状を把握した。 4.Mycoplasma genitalium検査法について、既存のマイコプラズマ検査キットの応用の可能性につき検討した。 5.口腔咽頭梅毒と淋菌・クラミジアの咽頭感染について、その実態を把握した。 6.HPV感染と子宮頸癌との関連に関し、そのスクリーニングと啓発について研究を進めた。
研究方法
1.センチネルサーベイランスでは、4モデル県の10月ひとつきに医療機関を受診した性感染症患者を集計し、疫学的手法により、全国の10万人対年罹患率を推計した。都市部と非都市部との発症率等に差があるか、千葉・兵庫(都市部)と岐阜・徳島(非都市部)とを比較し、その特徴を検討した。スクリーニング検査も含め梅毒血清反応の陽性率等を調査した。2.STI予防啓発のための中高生を対象として、最も新しい教育用標準スライドを、実績がある専門家5名でまとめ、厚生労働省に提出した。3.自治体のおける性感染症対策の現状と問題意識を調査し、その対策の課題を抽出し、今後の解決に向けて、次年度以降も、さらに踏み込んだ調査を続けることとした。 4.規販の「リボテストR マイコプラズマ」の検出限界を検索した。 5. 2期梅毒の口腔粘膜所見をアトラス化した。淋菌・クラミジアの咽頭感染についての実態把握と保険診療について、検討した。 6.HPVと子宮頸癌との関連についての研究として、ハイリスク型HPVスクリーニングを試みた。尖圭コンジローマの実態把握において、不顕性感染者の頻度等について検討した。
結果と考察
1.5大性感染症(梅毒、淋菌感染症、クラミジア感染症、尖型コンジローマ、性器ヘルペス)の推移は、いずれの疾患も増加傾向にあった。梅毒の増加は、感染症5類全数調査の結果とも符合していた。 2.最新のデータや問題点を盛り込んだスライド集が完成した。 3.自治体の性感染症に対する認識は、バラツキが大きく、その差違が問題である。 4. 「リボテストR マイコプラズマ」の検出限界は4.6×105コピー/mlと高く、臨床的には使用できない可能性が高いことが判明した。 5. 2期梅毒の口腔所見をアトラスとして報告した。現行の感染症発生動向調査(STD定点)の調査票の項目に「咽頭淋菌感染症」と「咽頭クラミジア感染症」を別項目として加えることを提案した。 6.日本人健常女性においても高リスク型のHPV感染(ウイルス保有)率は高く、子宮がん検診では細胞診にHPVスクリーニング検査を併用することは臨床的意義が高いと考えられた。また、尖圭コンジローマの実態把握において、不顕性感染者の存在は無視できず、無自覚にウイルスを排出し感染源になりうる問題が明らかとなった。
結論
これらの結果から、性感染症が再度、その発生頻度が増加する中、対策の要とも言える教育現場での予防啓発教育と、自治体の取り組みが今後さらに充実されていくべきと考えられた。梅毒の増加が著しいことから、医療者および市民への啓発が重要である。梅毒の口腔内感染が見逃されないよう注意を要する。口腔・咽頭のSTIについては、その実態把握のため今後、サーベイランスの対象とするかどうかの検討が必要である。マイコプラズマ・ジェニタリウム感染診断のための実用的キットの保険収載が望まれる。HPVと子宮頸癌との関連については、高リスク型HPV感染の頻度の把握や早期スクリーニングのシステム確立が望まれる。また、低リスク型HPVによる尖圭コンジローマの母子感染から生ずる再発性乳児喉頭乳頭腫症の問題についての啓発も必要である。
上述の諸点を中心に、「性感染症の特定感染症予防指針」次回改訂への意見具申内容を検討していく予定である。

公開日・更新日

公開日
2016-06-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201517010Z