医療機関における感染制御に関する研究

文献情報

文献番号
201517002A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関における感染制御に関する研究
課題番号
H25-新興-一般-003
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
八木 哲也(名古屋大学 大学院医学系研究科 臨床感染統御学)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川宜親(名古屋大学 大学院医学系研究科 病原細菌学)
  • 中澤 靖(東京慈恵会医科大学 感染制御科)
  • 柴山恵吾(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 荒川創一(神戸大学 大学院医学研究科 腎泌尿器科学分野)
  • 中村 敦(名古屋市立大学大学院医学研究科 共同研究教育センター)
  • 村上啓雄(岐阜大学 医学部附属病院生体支援センター)
  • 飯沼由嗣(金沢医科大学 臨床感染症学)
  • 藤本修平(東海大学 医学部 基礎医学系 生体防御学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的の第一は、蔓延が世界的な問題となっているが、我が国での検出は低いCREやMDRAなどの多剤耐性菌、強毒型CDIの感染制御について、最新の国内外の疫学・感染対策・治療情報を集約して、医療機関の現場で活用可能なガイドを作成することにある。第二の目的は、多施設共同研究を行ない我が国でのCDIの感染率や菌の疫学を明らかにすることである。さらに、地域連携加算に支えられた感染制御の地域連携ネットワークを有効に機能させ感染制御の質向上に資するツール開発や行政との連携を推進することを目的とする。
研究方法
CRE対策は、一例検出時からアウトブレイク時に準じる対応を実施しその評価を行いながら、また地域連携支援の一環で多剤耐性菌の解析を行った。同時に、疫学、感染対策、感染症治療に関する知見を集約してガイドを作成した。MDRAについては、医療安全の手法を用いた感染対策を実践すると共に、MDRA感染対策の最新情報を集約してガイドにまとめた。さらに、「医療機関における院内感染対策マニュアル作成のための手引き(案)(070828 ver. 5.0)」の改訂を行った。CDIに関する疫学研究は、国公立大学附属病院感染対策協議会の29施設が参加し、CDI感染率の算出及び菌の解析を行った。また、強毒型CDIを想定した感染対策の知見を集約しガイドを作成した。季節性インフルエンザ対策については、全国アンケート結果で示された問題点を踏まえ、海外のガイドライン等を参考にガイドを作成した。ノロウイルス感染症対策については、地域連携による情報共有と感染対策を実践すると共に、国内外の対策ガイドライン等の調査検討を行い、ガイドを作成した。感染制御地域連携支援の研究では、他の研究班と連携して、地域連携サーベイランスに必要な感染対策のプロセスとアウトカムの指標を決め、全国レベルでも情報共有が可能なソフトウエアの仕様を考案し、開発のための試算を行った。地方衛生研究所等の行政機関との連携においては、核となる地方衛生研究所の検査担当者を中心に検出と分子疫学的解析等の実習を実施し、さらにアンケートにて検査体制の現状の問題点を調査した。CD感染症の疫学研究は、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に則り、参加施設で倫理委員会の承認を得て、個人の人権の保護、個人情報保護を徹底して行った。
結果と考察
「CRE感染制御及びアウトブレイク対策のためのガイド」、「CREファクトシート」、「MDRA感染制御及びアウトブレイク対策のためのガイド」」、「重症・難治CD感染制御及びアウトブレイク対策のためのガイド」、「季節性インフルエンザ感染制御及びアウトブレイク対策のためのガイド」、「ノロウイルス感染制御及びアウトブレイク対策のためのガイド」、そして「医療機関における院内感染対策マニュアル作成のための手引き(案)[更新版]」を作成した。これらは、医療機関の現場で感染対策を立案する上でのガイドとして活用され、感染制御の質向上、地域連携の強化という厚生労働行政の課題に対して、間接的・直接的な波及効果が期待できる。CDIの疫学研究の結果、病院ごとに差はあるが、全体のCDI罹患率は1000入院患者あたり0.4-5.1であり、米国と較べ低いことが判明した。検出菌解析では分子疫学的に地域偏在はなく、強毒株に多いBinary toxin保有率は5%台と低かった。一方、感染制御地域連携ネットワークでのサーベイランス情報共有支援システムは、約2,000万円の開発費で作成可能で地域から全国レベルでの情報共有が可能となり、感染対策の標準化等に貢献するものと考えられた。地域連携支援のための各地域ブロック拠点となる地方衛生研究所からなる薬剤耐性菌レファレンスセンターを開設し、その検査担当者を中心に技術指導や教育を行い、アウトブレイク時に必要な耐性因子や分子疫学的解析支援を可能にした。アンケート調査では、試薬や人員のための予算や実際の保健所等との連携が今後の課題と考えられた。
結論
我が国でも今後注意が必要なCREやMDRAなどの多剤耐性菌及び強毒型CDIに加え、医療機関でアウトブレイク等が問題となる季節性インフルエンザ、ノロウイルス感染症の感染制御とアウトブレイク対策のガイドを作成し、「医療機関における院内感染対策マニュアル作成のための手引き(案)」を改訂した。また多施設共同研究で、我が国で初めてCDIの疫学を明らかにした。さらに感染防止対策加算による感染制御地域連携ネットワーク活動の支援ツールの考案、地域連携への地方衛生研究所の参画を推進し提言を行った。これら成果は医療機関における感染制御についての厚生労働行政の課題解決に向けて間接的・直接的な波及効果が期待され、政策決定においても参考となる有用な成果である。

公開日・更新日

公開日
2016-06-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201517002B
報告書区分
総合
研究課題名
医療機関における感染制御に関する研究
課題番号
H25-新興-一般-003
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
八木 哲也(名古屋大学 大学院医学系研究科 臨床感染統御学)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川宜親(名古屋大学 大学院医学系研究科 分子病原細菌学)
  • 中澤 靖(東京慈恵会医科大学 感染制御科)
  • 柴山恵吾(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 荒川創一(神戸大学 大学院医学研究科 腎泌尿器科学分野)
  • 中村 敦(名古屋市立大学 大学院医学研究科 共同研究教育センター)
  • 村上啓雄(岐阜大学 医学部附属地域医療医学センター)
  • 飯沼由嗣(金沢医科大学 臨床感染症学)
  • 藤本修平(東海大学 医学部基礎医学系 生体防御学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、まずCRE、MDRAなどの多剤耐性菌、強毒型CDI、インフルエンザ、ノロウイルスの感染制御について、国内外の疫学・感染対策・治療について現状を整理し最新の情報を集約して、各医療機関において指針、マニュアル等をまとめる際に参考となる資料集を作成することにある。また、多施設共同研究によってCDIの我が国における疫学を明らかにする。さらに今後多剤耐性菌等の対策において、感染制御地域連携ネットワークを有効に機能させるためのサーベイラン支援システムの開発、そして地方衛生研究所(地衛研)の連携参加推進と共に、その問題点を明らかにすることである。
研究方法
CREについては、八木は多種類のβ-ラクタマーゼ産生を同時検出する方法を考案・評価し、積極的保菌調査と厳重な接触感染対策を実践し、荒川は地域連携において多剤耐性菌の耐性因子や疫学的解析支援を行いながら、内外の知見を集約して資料を作成した。2007年に作成された「医療機関における院内感染対策マニュアル作成のための手引き(案)」の改訂を行った。中澤は多剤耐性菌対策についての全国調査を実施し、患者安全の手法を用いた感染対策を実践すると共に、MDRA感染対策や環境管理の知見をまとめ資料集を作成した。荒川(神戸大)は、国公立大学附属病院29施設の参加を得て、CDIの疫学に関する我が国初の多施設共同研究を実施した。中村は、糞便検体の毒素遺伝子迅速検出法の有用性を検証すると共に、海外での疫学や感染対策の情報をまとめ、強毒株CDIを想定した感染制御の資料集を作成した。村上は、国内医療機関での季節性インフルエンザ対策の実態調査を実施し、それを踏まえ最新知見をまとめ資料集を作成した。飯沼は、地域連携ネットワークでの情報共有と感染対策を実践・評価すると共に、内外のガイドライン等を集約して資料集を作成した。藤本は、感染制御地域連携ネットワーク活動の基礎となる、サーベイランス情報共有を支援するソフトウエア・システムの概要設計と見積もりを行った。村木班の抗菌薬使用量調査システムとJANISシステムとも連携を行った。柴山は、医療機関と行政機関、特に地衛研との連携を推進した。検査担当者を対象に薬剤耐性菌検出と分子疫学的解析等の教育・実習を実施し、アンケート調査にて検査体制の現状の問題点を調査した。疫学研究やアンケート調査は、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に則り、実施施設で倫理委員会の承認を得て、個人の人権保護、個人情報保護を徹底して行った。
結果と考察
CRE、MDRA、重症・難治CD、季節性インフルエンザ、ノロウイルスそれぞれの感染制御及びアウトブレイク対策のためのガイド、CREファクトシート、そして「医療機関における院内感染対策マニュアル作成のための手引き(案)[更新版]」を作成した。ディスク法に基づいた複数のβ-ラクタマーゼ産生検出法、ESBL産生菌選択培地を使用した保菌調査法は有効で、多剤耐性菌解析は地域連携に貢献した。CDIの疫学研究の結果、病院ごとに差はあるが全体のCDI罹患率は1000入院患者あたり0.4-5.1であり、米国より低率であることが判明した。検出菌解析では分子疫学的に地域偏在はなく、強毒株に多いBinary toxin保有率は5%台と低かった。病棟では血液内科病棟で感染率が高かった。毒素遺伝子検出法は、感度・特異度共に高かった。感染制御地域連携ネットワーク支援システムは、JANISや抗菌薬使用量調査システムと連携し感染対策の実施状況やその結果のサーベイランス情報を共有するもので、約2,000万円の開発費で地域から全国レベルの情報共有が可能となるものが作成可能であった。各地域ブロックでの連携拠点となる地衛研からなる薬剤耐性菌レファレンスセンターを設立し、検査担当者を中心に技術指導や教育を行い、アウトブレイク時に必要な耐性因子や分子疫学的解析支援を可能にした。今後の課題としては、試薬や人員のための予算確保や実際の保健所等との連携が挙げられた。
結論
我が国でも今後拡散が懸念されるCREやMDRAなどの多剤耐性菌及び強毒型CDIに加え、アウトブレイク等が問題となる季節性インフルエンザ、ノロウイルスの感染制御とアウトブレイク対策のガイドを作成し、「医療機関における院内感染対策マニュアル作成のための手引き(案)」を改訂した。また多施設共同研究で、我が国で初めてCDIの疫学を明らかにした。さらに感染防止対策加算による感染制御地域連携ネットワーク活動の支援ツールの考案、地衛研の地域連携活動への参画を推進し提言を行った。これらは医療機関における感染制御の質の向上と評価に資するもので、厚生労働行政の課題解決に向けて間接的・直接的な波及効果が期待され、政策決定においても参考となる有用な成果である。

公開日・更新日

公開日
2016-06-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201517002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
それぞれの感染制御とアウトブレイク対策のためのガイドは、内外の疫学や感染対策についての最新の文献検索と各国のガイドライン等の情報をもとに作成されている。また、MDRAやインフルエンザのガイドについては、作成段階で現状把握のためのアンケート調査も実施しており、作成段階で感染制御分野を専門とする複数の医師と、細菌学の専門家の意見を反映・集約している。多施設共同研究により我が国でのCDIの疫学が始めて明らかにされた。
臨床的観点からの成果
感染制御の分野では、それぞれの現場においてどの対策をどのように適用していくかは標準化することが難しいが、今回のガイドには、それぞれの医療機関の現場で実際に対策を構築していく上で、必要である情報が集約されており、非常に参考になる資料集となっている。「医療機関における院内感染対策マニュアル作成のための手引き(案)(070828 ver. 5.0)」も新しい知見を加え改訂した。また、感染制御地域連携ネットワークを有効に機能させる上での支援システムが考案され、地方衛生研究所の検査機能が向上した。
ガイドライン等の開発
CRE、MDRA、重症・難治CDI、季節性インフルエンザ、ノロウイルスそれぞれの感染制御及びアウトブレイク対策のためのガイド、CREファクトシート、そして「医療機関における院内感染対策マニュアル作成のための手引き(案)[更新版]」を作成した。
その他行政的観点からの成果
我が国でのCREの国内サーベイランスのための基準が決定され、MDRA感染症と共にCRE感染症が感染症法上第5類全例報告疾患となった。各地域ブロックの代表となる地方衛生研究所7施設からなる、薬剤耐性菌レファレンスセンターが設立された。本研究にて概要設計と見積もり及び積算を行った、「感染制御地域連携ネットワーク支援システムRICCS」が平成28年度にAMED研究で蚊開発され、事業化されることとなった。抗菌薬使用量モニタリングシステム(JACS)もRICSSに統合され活用されることとなった。
その他のインパクト
ICD制度協議会主催公開セミナーにて、「CREのアウトブレイク対応の注意点」と題して講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
J Clin Microbiol. Emerg Infect Dis. Public Health Frontier
その他論文(和文)
8件
日本臨床微生物学会雑誌、日本環境感染学会雑誌、日本化学療法学会雑誌、化学療法の領域、臨床検査、診断と治療
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
日本感染症学会、日本臨床微生物学会、日本環境感染学会、日本細菌学会、日本嫌気性菌感染症学会
学会発表(国際学会等)
2件
53rd ICAAC 2013, IDWeek2014
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
1件
特願 2013-011915 「アンチバイオグラム分類方法および装置、2次元キャリアマップ作成方法および装置、並びに感染対策指標の評価方法および装置」
その他成果(施策への反映)
1件
MDRA感染症と共にCRE感染症が感染症法上第5類全例報告疾患となった。
その他成果(普及・啓発活動)
1件
ICD制度協議会主催公開セミナー、作成されたガイドを名古屋大学医学部附属病院中央感染制御部ホームページに掲載した

特許

特許の名称
アンチバイオグラム分類方法および装置、2次元キャリアマップ作成方法および装置、並びに感染対策指標の評価方法および装置
詳細情報
分類:
特許番号: 特願 2013-011915
発明者名: 藤本 修平
権利者名: 国立大学法人群馬大学
出願年月日: 20080619
取得年月日: 20140704
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Muraki Y, Yagi T, Tsuji Y et al.
Japanese antimicrobial consumption surveillance: first report on oral and parenteral antimicrobial consumption in Japan (2009–2013).
J Glob Antimicrob Resist. , 7 , 19-23  (2016)
doi: 10.1016/j.jgar.2016.07.002.
原著論文2
Tokimatsu I, Shigemura K, Arakawa S et al.
Molecular epidemiologic study of Clostridium difficile infections in university hospitals: Results of a nationwide study in Japan.
J Infect Chemother  (2018)
doi: 10.1016/j.jiac.2018.03.015.

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
201517002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,000,000円
(2)補助金確定額
6,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,986,254円
人件費・謝金 573,481円
旅費 917,047円
その他 1,139,218円
間接経費 1,384,000円
合計 6,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-05-01
更新日
-