アルコール依存症に対する総合的な医療の提供に関する研究

文献情報

文献番号
201516029A
報告書区分
総括
研究課題名
アルコール依存症に対する総合的な医療の提供に関する研究
課題番号
H26-精神-一般-006
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 米山奈奈子(国立大学法人秋田大学大学院医学系研究科、精神保健看護学)
  • 長 徹二(三重県立こころの医療センター、精神医学)
  • 成瀬暢也(埼玉県立精神医療センター 精神医学)
  • 吉田精次(特定医療法人あいざと会藍里病院、精神医学)
  • 白川教人(横浜市こころの健康センター、精神医学)
  • 堀井茂男(公益財団法人慈圭会 慈圭病院、精神医学)
  • 杠 岳文(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター、精神医学)
  • 吉村 淳(東北医科薬科大学医学部精神医学講座)
  • 齋藤利和(幹メンタルクリニック)
  • 大嶋栄子(特定非営利活動法人リカバリー,社会福祉学)
  • 湯本洋介(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター、精神医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 吉村淳 独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター(平成26年4月~平成28年3月) →東北医科薬科大学医学部精神医学講座(平成28年4月~)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はアルコール依存症(以後、ア症と略)の予防、治療、社会復帰を支援するために必要な実態を把握し、支援のためのモデル構築、ガイドライン、マニュアル作成などをその目的とする。また、合わせて、家族に対する支援事業や、ア症の啓発を推進するための研究や事業も実施する。
研究方法
本研究は13名の分担研究者が各事業を展開する。1)「ア症の普及・啓発に関する研究」は、一般市民や家族向け依存症の普及啓発用DVDやリーフレットを作成し、その評価を行う。2)「ア症の実態に関する研究」は、ア症の合併する精神障害の対応マニュアルのアップデートを行う。3)「ア症家族の支援に関する研究」は、 依存症家族の実態とニーズに関する調査分析を行い、啓発活動を展開する 。4)「家族のための対応や疾患についてのマニュアル作成」は、家族と援助職対象のパンフレット・DVD原案の作成、家族に対する対応マニュアルを作成し、その効果を評価する。5)「医療機関、行政、自助グループ、社会復帰施設の連携の在り方に関する研究」は、新法を踏まえた各機関の連携のモデルを探る。6)「関係機関(行政、社会復帰施設など)の機能向上のための研究」は、関係機関の機能を効果的に生かすという視点で関係機関の対応マニュアルの作成を行う。7)「ア症の早期発見・早期治療導入の研究」は、職域や地域における継続的なアルコール問題への介入プログラムを作成し、その効果を検討する。8)「ア症に対する簡易介入の適応に関する研究」は、どのようなア症患者が簡易介入によって長期に節酒を維持できるかその特徴を明らかにする。9)「ア症の治療転帰とその予測因子に関する研究」は、ア症の入院患者の転帰調査を行い、その予後因子を検討する。10)「薬物治療の有効性評価と薬効の向上」研究は、問題飲酒群に比較的効果のある抗うつ薬等の探索を試みる。11)「ア症の診断・治療ガイドライン作成」は、国内外のエビデンスを探索し、それを基にしたガイドラインを作成する。12)「ア症の社会復帰支援に関する研究」は、当事者へのインタビュー調査および関係機関への質問紙調査を実施し、包括的社会復帰アプローチの実施成果について考察を行う。13)「ア症の治療・社会復帰に関する社会資源情報の作成」は、全国の治療・回復施設のリストを作成する。
結果と考察
本研究の2年目の進捗状況について述べる。ア症の普及・啓発に関しては、家族の対応や家族と相談機関のつながりの促進を意識したDVDを作成し、専門職向けに上映会を行った。ア症家族に向けてのアンケート調査では、まだ本人が治療につながって間もない家族を対象とした質問用紙を各支援機関に配布した。ア症の実態調査については、久里浜医療センターのア症の入院患者を対象とした転帰調査にて、断酒への補助的薬物治療が抑うつを合併したア症患者の断酒に効果がある可能性が示された。ア症の知識の普及のため、専門職及び市民それぞれに向けたレビューを作成した。関係機関の連携については、全国の精神保健福祉センターに対してアンケート調査により、相談支援の状況の改善や医療機関への転送についての現況を改善する必要性が見出だされた。関係機関の機能向上のための研究では、ア症患者からのインタビュー調査から、より早期に関係機関に繋がれるような地域における情報提供が重要であることが示唆された。社会復帰に関しての調査では、社会復帰施設を薦める契機等の実態の把握のために医療機関や回復施設へのアンケート調査を計画した。また、ア症関係機関の情報資源作成については、調査対象施設をリストアップし、情報資源作成のための質問項目について検討を重ねた。アルコール問題の簡易介入に関する研究では、職域における習慣飲酒者向けの早期介入プログラムを開催し、飲酒量低減効果を認めた。また、地域での医療機関の連携を高めるための研修会を開催し、紹介患者数の増加を見た。ア症の飲酒量低減効果についての研究では、ア症を疑う問題飲酒者に対して簡易介入を行った。介入前の自己効力感やアルコール問題の重要性の認識などを調査したところ、減酒や断酒の重要性は高くない傾向にあった。ア症の診断・治療ガイドライン作成では、飲酒量低減などを含めた新たな心理社会的治療や薬物療法についての知見を含めることや、診断・治療方針のエビデンスレベルを併記したガイドラインを作成することを目標とし、実際の執筆への準備を整えた。
結論
ア症に関する総合的な医療の提供に関する研究について、その目的や方法、今年度の進捗状況について述べた。次年度に向けてさらに研究を深め、本研究で得られた知見が、アルコール健康障害対策基本法の実施計画策定の際にエビデンスに基づいた情報を提供し、ア症の治療や社会復帰の向上、かつ家族の理解や対応力の向上に寄与することを目指す。

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201516029Z