Erdheim-Chester病に関する調査研究

文献情報

文献番号
201510021A
報告書区分
総括
研究課題名
Erdheim-Chester病に関する調査研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-025
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
黒川 峰夫(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 片山  一朗(大阪大学 医学部附属病院)
  • 小倉  高志(神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科)
  • 齋藤 明子(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,097,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エルドハイム・チェスター病(Erdheim-Chester disease;ECD)は非ランゲルハンス細胞性組織球症の一型である。比較的稀な疾患であり2004年の時点で報告数は世界で100例にも満たなかったが、ここ10年ほどで認知度が上昇し、累積で650例程度の報告がなされている。ECDについてはその疫学や最適治療法など不明な点が多く残されているが、まとまった研究はほとんどなされていない。そこで、本研究では国内で初めて診療科横断的にECD症例を集積し、有病率や臨床症状、病変部位別の頻度等の基礎的なデータをまとめ、本邦におけるECD診療の実態を把握することを目的とした。
研究方法
本研究ではまず本疾患の頻度や臨床背景を調べるために症例登録システムを作成し、二段階に分けて調査を行うこととした。そこで本研究では、多施設共同後方視的調査研究として日本全国の主要な施設の血液内科、皮膚科、呼吸器内科、整形外科等ECDの診療に携わる頻度が比較的高い部局を中心として診療科横断的に幅広くECD診療経験の有無を問う一次調査を行った。また、各施設の病理部に対してもECD診断経験の有無を問う予備調査を行った。また、患者の同意を別に得られかつ検体が保管されている場合は、事務局に検体を送付して頂いた上でDNAを抽出し、ECDでしばしば認めるBRAFやNRAS遺伝子変異の解析を行った。
結果と考察
一次調査2835部局、予備調査1015部局、合計3850部局に対して調査を行い、そのうちそれぞれ1570部局、437部局、合計2007部局より回答を得た。このうちECD症例の診療経験があると回答したのは33部局(1.6%)だった。また、国内で過去に報告されたECD症例の調査を行ったところ、英文報告15例、和文報告9例、学会発表のみの症例が18例、院内臨床病理検討会のみが2例の計44例であった。これらのうち重複した症例を除いて計71例のECD及びECD疑い症例を同定することができた。これら計71症例に対して症例毎の詳細な臨床情報と検体提供の可否について問う二次調査を行った。その結果、38症例の詳細な情報が得られた。初発症状としては発熱・全身倦怠感などの全身症状を呈した者が34%、骨痛・関節痛などの整形外科領域の骨症状を呈した者が24%、黄色腫、皮下腫瘤などの皮膚・軟部組織の症状を呈したものが11%、尿崩症・甲状腺機能低下症などの内分泌症状を呈した者が16 %、めまいや視力低下などの神経症状を呈した者が13%、呼吸困難感などの呼吸器症状を呈した者が13%であった。38例中33例(87%)が複数の臓器に渡ってECDの病変を認めていた。発症時の年齢中央値は51歳で、発症から診断までの期間の中央値は1年5カ月であった。ECDに対しての積極的治療は30例(79%)に対して行われており、その内容は副腎皮質ステロイド単剤が21例(55%)、IFNαが11例(29%)、放射線治療5例(13%)、シクロフォスファミドが4例(11%)、イマチニブが4例(11%)の他、シクロスポリンが2例、エトポシド、クラドリビン、メトトレキサートなどの化学療法が1例ずつであった。また、副腎皮質ステロイドに対しては22例中16例が、IFNαに対しては7 例中6 例が、放射線治療に対しては5例中5例が、病変の縮小や症状の改善など何らかの反応を示していた。初診時の血液検査データを検討したところ、29症例中24例でC反応性蛋白が基準値以上の値を示していた。二次調査症例の1年生存率、5年生存率はそれぞれ90%、66%だった。二次調査を行った症例では中枢神経病変、循環器病変、消化器病変を有する症例や60歳以上の高齢者や体重減少を有する症例において有意に生命予後が悪かった。一方で、骨病変を有する症例は有さない症例と比較して有意に生命予後が良かった。ECDの検体を12例収集し、うち7例の解析で3例にBRAF遺伝子変異を認めた。NRAS遺伝子変異は今回解析した症例では認めなかった。
結論
中枢神経病変、循環器病変、消化器病変を有する症例において有意に生命予後が低下しており、本研究はこれらの病変の存在が予後に影響を与えることを初めて統計学的に明らかにした。一方で骨病変を有する症例は有意に予後が良好であった。また、発症時年齢が高いことや体重減少があることも有意な予後不良因子であった。今回得られたデータでは各種治療に対する反応性は概ね良好であったが、長期生存率は満足のいくものではない。また、今回調査では発症から診断までに1年以上かかる症例が過半数であり、より早期に診断し適切な治療を行うためにも本疾患の認知を更に進めていく必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201510021B
報告書区分
総合
研究課題名
Erdheim-Chester病に関する調査研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-025
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
黒川 峰夫(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 片山  一朗(大阪大学 医学部付属病院)
  • 小倉  高志(神奈川県立循環器呼吸器病センター)
  • 齋藤 明子(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エルドハイム・チェスター病(Erdheim-Chester disease;ECD)は非ランゲルハンス細胞性組織球症の一型である。比較的稀な疾患であり2004年の時点で報告数は世界で100例にも満たなかったが、ここ10年ほどで認知度が上昇し、累積で650例程度の報告がなされている。ECDについてはその疫学や最適治療法など不明な点が多く残されているが、まとまった研究はほとんどなされていない。そこで、本研究では国内で初めて診療科横断的にECD症例を集積し、有病率や臨床症状、病変部位別の頻度等の基礎的なデータをまとめ、本邦におけるECD診療の実態を把握することを目的とした。
研究方法
本研究ではまず本疾患の頻度や臨床背景を調べるために症例登録システムを作成し、二段階に分けて調査を行うこととした。そこで本研究では、多施設共同後方視的調査研究として日本全国の主要な施設の血液内科、皮膚科、呼吸器内科、整形外科等ECDの診療に携わる頻度が比較的高い部局を中心として診療科横断的に幅広くECD診療経験の有無を問う一次調査を行った。また、各施設の病理部に対してもECD診断経験の有無を問う予備調査を行った。また、患者の同意を別に得られかつ検体が保管されている場合は、事務局に検体を送付して頂いた上でDNAを抽出し、ECDでしばしば認めるBRAFやNRAS遺伝子変異の解析を行った。
結果と考察
一次調査2835部局、予備調査1015部局、合計3850部局に対して調査を行い、そのうちそれぞれ1570部局、437部局、合計2007部局より回答を得た。このうちECD症例の診療経験があると回答したのは33部局(1.6%)だった。また、国内で過去に報告されたECD症例の調査を行ったところ、英文報告15例、和文報告9例、学会発表のみの症例が18例、院内臨床病理検討会のみが2例の計44例であった。これらのうち重複した症例を除いて計71例のECD及びECD疑い症例を同定することができた。これら計71症例に対して症例毎の詳細な臨床情報と検体提供の可否について問う二次調査を行った。その結果、38症例の詳細な情報が得られた。初発症状としては発熱・全身倦怠感などの全身症状を呈した者が34%、骨痛・関節痛などの整形外科領域の骨症状を呈した者が24%、黄色腫、皮下腫瘤などの皮膚・軟部組織の症状を呈したものが11%、尿崩症・甲状腺機能低下症などの内分泌症状を呈した者が16 %、めまいや視力低下などの神経症状を呈した者が13%、呼吸困難感などの呼吸器症状を呈した者が13%であった。38例中33例(87%)が複数の臓器に渡ってECDの病変を認めていた。発症時の年齢中央値は51歳で、発症から診断までの期間の中央値は1年5カ月であった。ECDに対しての積極的治療は30例(79%)に対して行われており、その内容は副腎皮質ステロイド単剤が21例(55%)、IFNαが11例(29%)、放射線治療5例(13%)、シクロフォスファミドが4例(11%)、イマチニブが4例(11%)の他、シクロスポリンが2例、エトポシド、クラドリビン、メトトレキサートなどの化学療法が1例ずつであった。また、副腎皮質ステロイドに対しては22例中16例が、IFNαに対しては7 例中6 例が、放射線治療に対しては5例中5例が、病変の縮小や症状の改善など何らかの反応を示していた。初診時の血液検査データを検討したところ、29症例中24例でC反応性蛋白が基準値以上の値を示していた。二次調査症例の1年生存率、5年生存率はそれぞれ90%、66%だった。二次調査を行った症例では中枢神経病変、循環器病変、消化器病変を有する症例や60歳以上の高齢者や体重減少を有する症例において有意に生命予後が悪かった。一方で、骨病変を有する症例は有さない症例と比較して有意に生命予後が良かった。ECDの検体を12例収集し、うち7例の解析で3例にBRAF遺伝子変異を認めた。NRAS遺伝子変異は今回解析した症例では認めなかった。
結論
中枢神経病変、循環器病変、消化器病変を有する症例において有意に生命予後が低下しており、本研究はこれらの病変の存在が予後に影響を与えることを初めて統計学的に明らかにした。一方で骨病変を有する症例は有意に予後が良好であった。また、発症時年齢が高いことや体重減少があることも有意な予後不良因子であった。今回得られたデータでは各種治療に対する反応性は概ね良好であったが、長期生存率は満足のいくものではない。また、今回調査では発症から診断までに1年以上かかる症例が過半数であり、より早期に診断し適切な治療を行うためにも本疾患の認知を更に進めていく必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201510021C

成果

専門的・学術的観点からの成果
エルドハイム・チェスター病(Erdheim-Chester disease;ECD)は稀な組織球症の一型で、現在まで世界で650例程が報告されているが不明な点が多い。本研究では国内で初めて診療科横断的に症例を集積し、81例のECD及びECD疑い症例を同定し、二次調査の結果48例の詳細な情報を得た。また、16例の臨床検体収集を行い、現在までで世界最高水準の症例数を集積した。解析結果は複数の学会で発表した他、ECDの半数程度で認めるBRAF遺伝子変異の検出系を構築した。
臨床的観点からの成果
ECDは稀な疾患であることからこれまで十分に認知されておらず、診断基準や治療指針についても十分明らかになっていなかった。今回初の全国調査により患者年齢や病変部位などの基本的な情報に関する疫学データが国内で初めてまとめられた。これによりECD患者の典型的な臨床像が明らかになり、適切なタイミングでの診断や検査に役立つと考えられる。今回得られた情報をもとに適切な診療を行う上で基盤となる診断基準案および重症度分類案を作成することが出来た。今後さらに診療指針の策定につなげる。
ガイドライン等の開発
平成29年1月の班員会議においてECD診断基準案が作成され、同年11月の班員会議においてECD重症度分類案が策定された。本研究では国内全例に近い症例とその病態を集積し、長期予後や臨床経過、遺伝子変異の有無とその影響を明らかにする。今後、診断、治療、フォローアップに関する診療指針の策定を目指す。また13か国、33のセンターからなる国際コンソーシアムに日本から唯一参加し、ECD国際診療ガイドラインの作成に貢献した(Blood. 2020 May 28;135(22):1929-1945)。
その他行政的観点からの成果
現状では一元的な症例登録システムが存在しないため、疾患の自然史など予後予測の根拠となる臨床データは皆無で、不十分な治療や過剰な治療による再発・死亡や患者の苦痛を招く可能性がある。実際に本研究の症例でも一部は死後に診断されているほか、半数以上が診断までに1年以上を要しており、当研究により、疾患の実態把握を行うとともに本疾患の認知を広めていくことも患者が適切な診療を受け、不要な検査・治療を防ぐ意味で有意義と考えられる。本研究内容は複数の学会で報告しており、本疾患の認知という面で貢献していると考える。
その他のインパクト
本研究で収集されたECD患者の症例数は今までの研究でも世界的に最高水準であり、BRAF等の遺伝子変異も含めて臨床的な解析を行った報告は未だ存在しない。今研究の内容も含めた当研究班によるECDの研究結果は国際的な医学雑誌であるHaematologica誌に掲載され(Haematologica. 2018 Nov;103(11):1815-1824)、希少疾患であるECDの診療・研究において重要な結果が公開されている。2019年7月11日にイタリア・ミラノで開催されたAnnual International ECD Medical Symposiumで研究内容について発表を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
122件
その他論文(和文)
16件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
86件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takashi Toya, Mizuki Ogura, Kazuhiro Toyama, et al.
Prognostic factors of Erdheim-Chester Disease: A nationwide survey in Japan
Haematologica , 103 (11) , 1815-1824  (2018)
doi: 10.3324/haematol.2018.190728.

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
2020-06-16

収支報告書

文献番号
201510021Z