文献情報
文献番号
201508017A
報告書区分
総括
研究課題名
たばこ対策の健康影響および経済影響の包括的評価に関する研究
課題番号
H27-循環器等-一般-005
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
片野田 耕太(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター)
研究分担者(所属機関)
- 笹月 静(国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部)
- 本庄 かおり(大阪大学グローバルコラボレーションセンター)
- 後藤 温(東京女子医科大学医学部衛生学公衆衛生学第二講座)
- 鈴木 孝太(山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座)
- 福田 敬(国立保健医療科学院・医療・福祉サービス研究部)
- 五十嵐 中(東京大学大学院薬学系研究科)
- 平野 公康(国立がん研究センターがん対策情報センターたばこ政策研究部)
- 田淵 貴大(大阪府立病院機構大阪府立成人病センターがん予防情報センター)
- 伊藤 加奈江(戸次 加奈江)(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
- 姜 英(キョウ エイ)(産業医科大学 産業生態科学研究所 健康科学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
3,831,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
たばこの健康影響および経済影響は、国際的には国際がん研究機関などによって包括的な評価とそれに基づく施策が進められている。わが国では2002年に「喫煙と健康問題に関する検討会」報告書が、2004年にTobacco Free*Japanが出されて以来、包括的な評価は実施されていない。わが国においても、たばこの健康影響および経済影響を包括的に評価し、それに基づくたばこ対策全体の方向性を明らかにする必要がある。そこで本研究は、たばこの生産・販売・消費が健康と経済に及ぼす影響、およびたばこ対策の効果および現状について、国内外の科学的知見を収集、分析、評価することを目的とした。
研究方法
喫煙の健康影響分析として、国際的にたばことの因果関係がこれまで検討されている次の疾患について、国内の疫学的証拠を収集し、喫煙との因果関係を検討した:がん(肺、頭頚部、食道、胃、大腸、肝、膵、尿路系、乳腺、子宮頚部、子宮内膜、卵巣、前立腺、急性骨髄性白血病)、循環器疾患(虚血性心疾患、脳卒中)、糖尿病、妊娠・出産(胎内発育、出生時体重)。国内の文献が十分に参照可能な疾患については、因果関係の判定を次の4つのレベルで行った。科学的証拠は、因果関係を推定するのに十分である(レベル1)、科学的証拠は、因果関係を示唆しているが十分ではない(レベル2)、科学的証拠は、因果関係の有無を推定するのに不十分である(レベル3)、科学的証拠は、因果関係がないことを示唆している(レベル4)。無煙たばこおよび電子たばこについても同様に検討した。受動喫煙については、肺がんとの関連について国内の疫学研究のシステマティック・レビューおよびメタアナリシスを行い、国際的に受動喫煙との因果関係が確立している虚血性心疾患、脳卒中と合わせて受動喫煙起因死亡数を推計した。
たばこの経済分析として、たばこ産業の経済活動の分析、受動喫煙防止法制化の飲食店への影響の検討、喫煙の経済損失の推計方法および禁煙治療の費用対効果の評価方法の検討を行った。
たばこ対策の効果および現状分析として、受動喫煙防止法制化の飲食店への影響の検討(同上)、たばこ製品の成分分析、メディアキャンペーンの効果および現状分析を行った。
たばこの経済分析として、たばこ産業の経済活動の分析、受動喫煙防止法制化の飲食店への影響の検討、喫煙の経済損失の推計方法および禁煙治療の費用対効果の評価方法の検討を行った。
たばこ対策の効果および現状分析として、受動喫煙防止法制化の飲食店への影響の検討(同上)、たばこ製品の成分分析、メディアキャンペーンの効果および現状分析を行った。
結果と考察
喫煙とがん、循環器疾患、糖尿病、出産との関連、受動喫煙と肺がんとの関連について国内の科学的証拠を検討した結果、9つの部位のがん(肺、口腔・咽頭、喉頭、胃、食道、肝、膵、膀胱、子宮頸部)、虚血性心疾患および脳卒中、糖尿病について、科学的証拠は、喫煙との因果関係を推定するのに十分であると判定された。妊婦の喫煙については、子宮内胎児発育遅延および出生体重の減少との因果関係が認められると考えられた。無煙たばこについても発がんとの因果関係を推定するのに十分であると考えられた。電子たばこについては、疫学的な健康影響評価はできないが、含まれる成分により健康影響の懸念があることがわかった。家庭内の受動喫煙曝露による肺がんリスクの増加について、国内の9つの疫学研究(コホート研究4つ、ケースコントロール研究5つ)の統合相対リスクは1.28(95%信頼区間:1.10-1.48)であった。先行研究および本報告書で報告した相対リスク、過去の曝露割合、2014年人口動態統計死亡数から受動喫煙起因死亡数を求めた結果,年間約1万5千人が受動喫煙で死亡していると推計された(肺がん2,480人、虚血性心疾患4,460人、脳卒中8,010人)。たばこ産業の経済分析の結果、たばこ販売の約3分の2をコンビニエンスストアが占め、たばこはコンビニエンスストアの売上の約4分の1を占めていた。また、日本たばこ産業の海外のたばこ事業の売上高、利益はいずれも国内たばこ事業の約2倍の規模であった。受動喫煙防止法制化の飲食店の売上への影響を、国外研究のメタアナリシスおよび神奈川県の税収データを用いて検討した結果、法制化による経済影響は認められなかった。たばこの成分分析では、同銘柄であっても化学物質量は経年的に変化しており、外箱表示と実態との乖離があることから、継続的な分析の必要性があることがわかった。たばこ対策について、日本での実施が遅れているメディアキャンペーンの効果と現状分析を行った結果、効果的なメディアキャンペーンは若年者の喫煙開始を20-40%減少させる効果があり、日本ではテレビCM等を用いた大規模なメディアキャンペーンは全くと言っていいほど実施されていなかった。わが国における喫煙の疾病負荷は依然として大きく、包括的なたばこ対策を進めるとともに、受動喫煙防止の法制化など、優先順位を設定したアプローチが必要である。
結論
わが国における喫煙の疾病負荷は依然として大きい。包括的なたばこ対策を進めるとともに、受動喫煙防止の法制化など、優先順位を設定したアプローチが必要である。
公開日・更新日
公開日
2016-06-20
更新日
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