特定健診・保健指導における健診項目等の見直しに関する研究

文献情報

文献番号
201508007A
報告書区分
総括
研究課題名
特定健診・保健指導における健診項目等の見直しに関する研究
課題番号
H25-循環器等(生習)-一般-013
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
永井 良三(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 尾形 裕也(東京大学政策ビジョン研究センター)
  • 磯  博康(大阪大学大学院医学系研究科・公衆衛生学)
  • 津下 一代(公益財団法人愛知県健康づくり振興事業団あいち健康の森健康科学総合センター)
  • 苅尾 七臣(自治医科大学内科学講座循環器内科学・循環器内科)
  • 三浦 克之(滋賀医科大学医学部・公衆衛生学)
  • 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター予防健診部/研究開発基盤センター予防医学・疫学情報部)
  • 岡村 智教(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学・疫学)
  • 古井 祐司(東京大学政策ビジョン研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
13,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、循環器疾患の発症リスクを軽減させる予防介入のあり方を最新のエビデンスや国際動向、技術動向を踏まえて検討した。
研究方法
健診項目等の検討は、循環器疾患の発症リスク軽減の視点から、予防介入が可能であることや若年層のリスク評価なども考慮し、健診項目、対象、頻度などを検討した。検討にあたっては、エビデンス調査やこれまでのコホート研究などを踏まえることとした。施策実効性の検討では、特定保健指導対象者の参加を促すために、保健指導プログラムの目的、方法、意義を周知する案内書(媒体)を新たに作成し、事業所ごとに配布し、前年度の参加率との比較を行った。また、レセプトデータと特定健診データとの突合分析により、重症疾患(心筋梗塞、脳梗塞、脳出血、腎不全)の発症状況を服薬者、非服薬者ごとに把握し、効果的な介入方策を検討した。
結果と考察
本研究では将来の脳・心血管疾患等のハイリスク者をスクリーニングできるかどうかという視点で健診項目の選定を行った。その際、各検査項目の異常による発症リスクが必須健診項目(高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙歴)と独立して認められるかどうかが重要であるが、今回検証した多くの項目は独立指標として脳・心血管疾患等を予測していた。国内の発症・死亡リスクの予測ツール7つについては、血圧、喫煙、糖尿病はすべてのツールで予測要因として用いられていた。高コレステロール血症は5つのツールで用いられていたが、脳卒中のみを対象とした2つのルールでは予測要因として用いられていなかった。いずれにせよこの4つは脳・心血管疾患のリスク評価の基本項目であることは、前年のガイドラインのレビューと同様であった。一方、今年度の追加文献レビューの結果からも、ASTや貧血検査は本研究のアウトカムとの関連を示すという報告はみられなかった。γ-GTPは糖尿病の発症だけでなく、脳・心血管疾患の発症も予測することが示された。また慢性腎臓病、各種の心電図所見や眼底検査所見は脳・心血管疾患の発症を、蛋白尿は腎機能低下を予測する指標であった。ただしこれらについては、心房細動など一部を除いて異常所見そのものに対する有効な非薬物的な介入手段があまりない場合が多い。必須健診項目以外の異常所見には、それ自体に対する明確なエビデンスがある介入手段がないことが多く、実際の予防は併存する前述の必須健診項目への介入と考えられた。すなわち追加検査項目の異常と必須健診項目の異常が合併していた場合、後者の管理を通常よりも厳重に行うことによってリスクの低減を図ることができるかが重要となる。要するに予測因子としては必須健診項目から独立しているほうがいいが、予防面からはある程度の合併がないと対処法が提示できないという矛盾があり、今後、介入手段に何らかのブレークスルーが望まれる。保健指導の普及の視点から、プログラムの目的、方法、意義を周知する案内(媒体)により、保健指導の参加率が上がり、職場からの働きかけを組み合わせることで効果が増す可能性が示唆された。重症疾患の発症状況については、服薬者が非服薬者をうわまわった。服薬者・非服薬者ともに、発症率は非肥満よりも肥満のほうが、また動脈硬化リスクが大きいほど高い。非服薬者では、肥満・非肥満ともにリスクが大きくなるほど発症率は2.1~2.2倍高まっていたが、その一方で、服薬者ではリスクの大きさによる差は1.1~1.4倍であった。2年度の研究において集団の健康度を相対的に測り、施策検討に資する指標として活用した「悪化率」、「改善率(健康維持率)」に加え、3年度の研究で用いた「重症疾患の発症率」や「服薬コントロール率」も社会保障のKey Performance Indicators(KPI)の候補として議論されており、今後、地域および職域集団の見える化、および疾病予防策の検討に資する検証が希求される。
結論
循環器疾患の予防を目的とした健診の設計に向け、脳・心血管疾患の発症予測能、予防介入可能性の視点から、既存および新規の項目を検討した。その結果、各検査項目の異常による発症リスクが必須健診項目と独立して認められるかどうかが重要であるが、今回検証した多くの項目は独立指標として脳・心血管疾患等を予測していた。一方、必須健診項目以外の異常所見には、それ自体に対する明確なエビデンスがある介入手段がないことが多く、実際の予防は併存する前述の必須健診項目への介入と考えられた。施策実効性の検討では、重症疾患の発症率の構造から、早期介入施策の重要性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2016-09-14
更新日
-

文献情報

文献番号
201508007B
報告書区分
総合
研究課題名
特定健診・保健指導における健診項目等の見直しに関する研究
課題番号
H25-循環器等(生習)-一般-013
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
永井 良三(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 尾形 裕也(東京大学政策ビジョン研究センター)
  • 磯  博康(大阪大学大学院医学系研究科・公衆衛生学)
  • 津下 一代(公益財団法人愛知県健康づくり振興事業団あいち健康の森健康科学総合センター)
  • 苅尾 七臣(自治医科大学内科学講座循環器内科学・循環器内科)
  • 三浦 克之(滋賀医科大学医学部・公衆衛生学)
  • 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター予防健診部/研究開発基盤センター予防医学・疫学情報部)
  • 岡村 智教(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学・疫)
  • 古井 祐司(東京大学政策ビジョン研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、循環器疾患の発症リスクを軽減させる予防介入のあり方を最新のエビデンスや国際動向、技術動向を踏まえて検討した。
研究方法
研究班では、「健診項目等の検討」、「施策実効性の検討」の課題に応じて、「疫学グループ」、「施策グループ」の2つの分科会を設けた。
健診項目等の検討では、脳・心血管疾患の発症予測能、予防介入可能性の視点から、これらをアウトカムとした国内のコホート研究をレビューした。また内外の診療ガイドラインで共通して発症予測に使われている検査項目の検証、国内の脳・心血管疾患の発症・死亡予測チャートもレビューして、これらで使われている基本的な必須健診項目を確認した。施策実効性の検討では、健診実施率の構造を探り、健診を起点とした保健事業の設計に資する検討を行った。健診受診者に個々人の健診結果に基づき、自身の健康状況の理解や生活習慣の改善行動を促すプログラムへの登録(参加)を促すことで、次年度の経年受診率を確認した。また、重症疾患の発症率の構造を捉えることで、効果的な介入方策の検討を行った。対象は本研究班に参加する複数の健保組合の被保険者であり、特定健診データおよびレセプトデータを活用した。
結果と考察
評価した内外のガイドラインは5つ、国内の発症・死亡リスクの予測ツールは7つあり、血圧、喫煙、糖尿病(血糖値)についてはほぼすべてのツールで予測要因として用いられていた。国内ツールでは高コレステロール血症(総コレステロール、LDLコレステロール、Non-HDLコレステロール)については5つのツールで用いられていたが、脳卒中のみを対象とした2つのツールでは予測要因として用いられていなかった。いずれにせよこの4つの危険因子は脳・心血管疾患のリスク評価の基本項目であること考えられた。一方、その他の危険因子については文献レビューの結果から、日本人一般集団において、AST(GOT)や貧血検査(ヘモグロビン)は本研究のアウトカムとの関連を示すという報告はみられなかった。一方、γ-GTPは糖尿病の発症だけでなく、脳・心血管疾患の発症も予測することが示された。また慢性腎臓病(CKD)、各種の心電図所見や眼底検査所見は脳・心血管疾患の発症を、蛋白尿は腎機能低下を予測する指標であった。ただしこれらについては、心房細動など一部を除いて異常所見そのものに対する有効な非薬物的な介入手段があまりない場合が多い。例えば喫煙、高血圧、耐糖能異常に対する介入はCKDの進展阻止に有効であるが、これらを伴わない単なる高齢によるeGFRの低下に対する介入手段は明確ではない。個々の健診項目については、将来の脳・心血管疾患等の発症予測という面からの検証に加えて、保健指導に回った際に適切な非薬物的な介入手段があるかどうかという視点で検証すべきと考えられた。健診受診後の働きかけについては、受診後の意識・行動変容を促すプログラムへの登録が経年受診率を上げる方向に働いた。特に、初めて健診を受けた際や受診間隔が空いて受診した者へ効果的である可能性が示唆された。健診受診を保健事業の起点と捉え、健診の動線上に自身の健康状況を理解し、必要な行動変容を促す仕掛けを導入することが重要と考える。重症疾患の発症率は服薬者が非服薬者をうわまわり、服薬者・非服薬者ともに非肥満よりも肥満のほうが、また動脈硬化リスクが大きいほど高かった。肥満化する前段階、リスクが小さい段階からの早期介入、また服薬が必要なレベルになる前段階での働きかけの意義が示唆された。また、発症者数では、発症率が最も高い肥満かつリスク層に比べて、非肥満かつリスク層などの総和が上回っており、全体最適を図る事業設計の重要性がうかがえた。併せて、本研究による保険者相互の差異の可視化は、集団特性に応じた事業設計に寄与することが示された。
結論
今回検証した多くの健診項目は独立指標として脳・心血管疾患等を予測している一方で、必須健診項目以外の異常所見には、それ自体に対する明確なエビデンスがある介入手段がないことが多く、実際の予防は併存する前述の必須健診項目への介入と考えられた。施策実効性の検討では、健診および健診後の意識・行動変容を促す仕組みを一体的に設計し、保健事業の実効性を高める方策や、重症疾患の発症率の構造を明らかにすることで、早期介入およびポピュレーションへの働きかけの重要性が示された。政府の骨太方針下で進められる経済・財政一体改革では、国民の健康寿命の延伸を重要な柱として、社会保障においてもKey Performance Indicators(KPI)が設定された。地域および職域集団の特性を可視化し、全体最適を図る施策の設計と同時に、健診を起点とした保健事業の検証を継続し、施策の立案にフィードバックしていくことが希求される。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-09-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201508007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
健診を起点とした生活習慣病予防のあり方を予防医学的に検討した。その結果、経年での受診割合が低い構造が健診実施率を下げていることや健診受診後に健康行動に至らない状況が把握されたが、健診後の働きかけにより意識・行動変容が生じることが確認された。また、重症疾患の発症構造より、肥満化および高リスク化する前の介入の有用性や、非肥満のリスク層を含むアプローチの重要性が示唆された。
臨床的観点からの成果
脳・心血管疾患の発症予測能、予防介入可能性の視点から既存および新規の健診項目を検証した。その結果、今回検証した多くの項目は、必須健診項目(高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙歴)と独立した指標として脳・心血管疾患等を予測していた。また、実際の予防については、併存する必須健診項目への介入強化によるリスクの低減を図ることと考えられた。
ガイドライン等の開発
厚生労働省特定健康診査・特定保健指導の在り方に関する検討会(第1回~第7回)、厚生労働省健康診査等専門委員会(第2回;平成28年2月19日)等で、特定健診制度の設計や種々の健診・検診制度のあり方検討に活用されている。
その他行政的観点からの成果
第3期特定健診制度における健診項目の検討や、内閣府経済財政一体改革推進委員会で設定された「重症疾患発症率」「健康維持率」といった社会保障KPI(key Performance Indicators)の検討に活用された。
その他のインパクト
東京大学「予防・健康づくりインセンティブ推進事業」データヘルス計画推進シンポジウム-政府・骨太方針に基づく社会保障KPIとデータヘルス計画の運営を支援するポータルサイト-(平成28年3月22日)、内閣府「健康で日本を元気に」シンポジウム-国・地方を通じた経済・財政再生プランについて-(平成28年6月16日)に研究成果が活用された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mieno MN, Tanaka N, Arai T, et al.
Accuracy of Death Certificates and Assessment of Factors for Misclassification of Underlying Cause of Death
J Epidemiol , 26  (2016)
原著論文2
Sakamaki, T, Hara M, Kayaba K, et al.
Coffee Consumption and Incidence of Subarachnoid Hemorrhage: The Jichi Medical School Cohort Study.
J Epidemiol , 26  (2016)
原著論文3
Kario K, Hoshide S, Haimoto H,et al.
Sleep Blood Pressure Self-Measured at Home as a Novel Determinant of Organ Damage: Japan Morning Surge Home Blood Pressure (J-HOP) Study.
J Clin Hypertens (Greenwich) , 17  (2015)
原著論文4
Ishikawa J, Ishikawa S, Kario K.
Relationships between the QTc interval and cardiovascular, stroke, or sudden cardiac mortality in the general Japanese population.
J Cardiol , 65  (2015)
原著論文5
Ishikawa J, Ishikawa S, Kario K.
Prolonged corrected QT interval is predictive of future stroke events even in subjects without ECG-diagnosed left ventricular hypertrophy.
Hypertension , 65  (2015)
原著論文6
Turin, T. C., T. Okamura, A. R. Afzal, et al
Hypertension and Lifetime Risk of Stroke.
J Hypertens. , 34(1)  (2016)
原著論文7
Tatsumi, Y., M. Watanabe, M. Nakai, et al.
Changes in Waist Circumference and the Incidence of Type 2 Diabetes in Community-Dwelling Men and Women: The Suita Study.
J Epidemiol. , 25(7)  (2015)
原著論文8
Kokubo, Y., M. Watanabe, A. Higashiyama,et al.
Interaction of Blood Pressure and Body Mass Index with Risk of Incident Atrial Fibrillation in a Japanese Urban Cohort: The Suita Study.
Am J Hypertens. , 28(11)  (2015)
原著論文9
Yuji Furui
Changes in Walking Styles in the Elderly after the Presentation of Walking Patterns
Advances in exercise and sports physiology , 21(3)  (2015)

公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
2022-05-30

収支報告書

文献番号
201508007Z