東日本大震災被災地の小児保健に関する調査研究

文献情報

文献番号
201506004A
報告書区分
総括
研究課題名
東日本大震災被災地の小児保健に関する調査研究
課題番号
H24-次世代(復興)-指定-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
呉 繁夫(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 千田 勝一(岩手医科大学)
  • 細矢 光亮(福島県立医科大学)
  • 山縣 然太朗(山梨大学 大学院総合研究部医学域)
  • 栗山 進一(東北大学 災害科学国際研究所)
  • 奥山 眞紀子(国立成育医療研究センター病院)
  • 八木 淳子(岩手医科大学)
  • 藤原 武男(国立成育医療研究センター)
  • 菅原 準一(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
  • 加藤 則子(十文字学園女子大学 人間生活学部)
  • 磯島 豪(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
38,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、東日本大震災により甚大な被害を受けた東北3県の小児医療中核施設である東北大学小児科(宮城県)、岩手医科大学小児科(岩手県)、福島県立医科大学小児科(福島県)が協力して、被災地の子どもたちの発育・成長について当該乳幼児検査表などを基に調査・分析する。
東日本大震災という激甚災害の体験が幼児期・学童期の子ども達のメンタルヘルスおよび精神発達に及ぼす影響を前向きコホート調査により明らかにし、子ども達の震災前の状態、被災の状況、被災後の環境などとメンタルヘルスの経過を明らかにすることにより、子どものメンタルヘルスに関する限られた社会資源をどのように投入して、子ども達のメンタルヘルスを低下させず、向上させていくかを明らかにする。
また、災害弱者である妊産婦への情報伝達方法、および各機関で得られた妊産婦情報の共有について、多角的多層的に調査研究を行うことを目的とする。
研究方法
1)子どもの発育状況に関する研究
幼児健診調査では、自治体にご協力をいただき、平成24年度から3年間かけて出生年の異なる子どもの乳幼児健診時のデータを収集した。保育所調査では、全国の保育所にご協力をいただき、保育所在所中に震災を経験した子どもと経験していない子どもの身体測定データを収集した。
2)子どものメンタルヘルスに与える長期的影響に関する研究
平成24年度にベースライン調査に参加した363名のうち、平成26年度には254名を追跡することができた(追跡率:70%)。県ごとには、岩手74人、宮城51人、福島52人、対照地77人であった。
3)産科領域の災害時役割分担、情報共有のあり方に関する研究
災害弱者である妊産婦を対象とした避難所における情報共有マニュアルの検討、石巻圏避難所における妊産婦統計調査、宮城県内の分娩取扱い施設の助産録を対象とした周産期予後調査を行った。
結果と考察
1)子どもの発育状況に関する研究
様々なテーマで解析をした結果から、震災後に被災地の子どもにおける肥満が増え、アレルギー疾患等の有病率が高いことがわかった。今後の大災害発生後の小児保健活動では、肥満とアレルギー疾患への対策が必要であると考える。

2)子どものメンタルヘルスに与える長期的影響に関する研究
岩手県、宮城県において2割ほどの問題行動、特に内向的問題行動を有している児童がいることがわかった。被災地においてはレジリエンスも低かった。トラウマ後成長は、福島県において他県に比べて高い値がみられた。 震災から4年目において、岩手県、宮城県において2割ほどの問題行動、特に内向的問題行動を有している児童がいることがわかった。健康状態のよい子どもが追跡できていた可能性もあり、問題行動の割合についは過小評価の可能性はある。

3)産科領域の災害時役割分担、情報共有のあり方
東日本大震災の現状を反映させた一般向けおよび医療関係者向けマニュアルを作成することができた。多くの避難所に妊産婦が滞在していた事実が明らかになった。周産期予後解析では、早産率、低出生体重児率共に低下傾向を示していた。Working Groupで作成したマニュアルの周知、避難所における妊産婦対応方法の策定、より長期的な周産期予後解析が今後の行うべき重要事項である。
結論
今後の大災害発生後の小児保健活動では、肥満とアレルギー疾患への対策が必要であると考えられた。また、メンタルヘルス調査では、震災を未就学期に経験した子どもの長期的影響に関する貴重なデータであり、今後の復興対策に役立つと考えられる。産科施設調査では、情報共有を主眼とした妊産婦救護の具体化が重要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2016-07-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201506004B
報告書区分
総合
研究課題名
東日本大震災被災地の小児保健に関する調査研究
課題番号
H24-次世代(復興)-指定-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
呉 繁夫(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 千田 勝一(岩手医科大学)
  • 細矢 光亮(福島県立医科大学)
  • 山縣 然太朗(山梨大学 大学院総合研究部医学域)
  • 栗山 進一(東北大学 災害科学国際研究所)
  • 奥山 眞紀子(国立成育医療研究センター病院)
  • 八木 淳子(岩手医科大学)
  • 藤原 武男(国立成育医療研究センター 社会医学研究部)
  • 菅原 準一(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
  • 加藤 則子(十文字学園女子大学 人間生活学部)
  • 磯島 豪(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東日本大震災は、その規模、死者・行方不明者の数など、あらゆる観点からみても、近代日本が経験したことがない激甚災害であった。災害時の小児保健医療を向上させるには、東日本被災地における子どもの健康状態の正確な調査・分析を行い、その記録を残す必要がある。就学児は全国規模の学校保健記録が存在するが、未就学児の全国規模の保健記録は存在しない。本研究班では、大震災がもたらした幼児期や周産期の保健への影響を次の5つの調査により解析した。
研究方法
1)被災地の小児医療機関を対象とした復旧状態のアンケート調査
2)全国保育所を対象としたアンケート調査
3)東北地方の自治体が実施している乳幼児健診の調査の結果分析
4)被災地の保育園児を対象としたメンタルヘルスの対面及び質問紙調査
5)災害時の周産期医療に関する産科施設調査
結果と考察
1)入院診療、救急対応、乳幼児健診は概ね3月下旬に復旧、外来診療、予防接種外来、慢性特殊外来は概ね4月上旬に復旧した。内陸部に比し沿岸部の診療の復旧は平均3~4週間遅く、津波や原発事故の影響を受けた施設における診療復旧の遅れは更に顕著であった。電気、水道、電話回線などのライフラインは6~7割の施設で被害を受けたが、震災後に自家発電機や燃料備蓄などの対策をとった施設は1~2割であった。医療スタッフの面では、津波と原発事故の影響を受けた施設の看護スタッフ減少が顕著であった。
2)幼児の身長に対する大震災の影響は認めらなかった。被災3県のうち宮城県、岩手県の過体重を示すお子さんの割合が一過性に有意に増加した。福島県などの被災地で過体重の児の割合が持続的に増加しており、屋外での運動が原発事故のため減少したためと考えられた。また、震災後、喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患等の有病率が上昇することが判明した。以上の結果から、今後の大災害発生後の小児保健活動では肥満とアレルギー疾患への対策が重要であると考えられる。
3)今回の調査は我が国の幼児保健の調査として最大規模であり、保育園児12万名、自治体の幼児健診6.3万名のデータの収集を行なった。これらのデータには、身長、体重といった成長データのみならず、特定の疾患への罹患歴、出生時の情報、乳児期の栄養方法、特定の疾患罹患状況、被災体験の有無、などを含む、我が国の貴重な乳幼児ビックデータであり、広く公開し多様な今後の小児保健研究に供する。
4)被災地の幼児のメンタルヘルスの状況を平成24~26年度経時的に調査できたのは、363名中254名(追跡率70%)であった。震災後に問題行動が続いている持続群は9%、3~4年目に問題行動を呈するようになる遅発群は13%、存在した。問題行動の要因を検討したところ、震災関連トラウマの曝露そのものの影響より、震災前のトラウマ体験、親のメンタルヘルス、養育態度といった養育環境要因の影響が強いことがわかった。
5)妊婦の避難所での滞在期間は、1~70日間でそのお妊娠週数は32-35週9名、28-31週7名不明21名であった。周産期予後に関して、早産率は内陸部5%に対し沿岸部3%、低出生体重児率も内陸部8%に対し沿岸部6%と有意に沿岸部に低かった。要因として、発災後早期にハイリスク症例を内陸部の高次医療機関へ搬送し集中加療したことなどが挙げられる。全国調査では産科領域の災害時対応は未整備であることが明らかとなった。今後、全国の地方自治体が地域性を考慮した災害時対応を整備していく上で、今回作成した「避難所における妊産婦との情報共有マニュアル」や「情報共有を主眼としたネットワーク図」は有用と考えられる。
結論
被災地の小児医療機関を対象とした復旧状態、保育所及び自治体健診分析による小児成長解析、被災地の保育園児を対象としたメンタルヘルス調査、および災害時の周産期医療に関する産科施設調査を行い、今後の災害時の小児保健に関する重要な示唆を得た。

公開日・更新日

公開日
2016-07-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201506004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
全国保育所から幼児の成長に関するデータを10万人分以上アンケート調査し、その分析を行なった。過去に、これほど多くのデータを収集したことは無く、今後の小児成長に関する分析を行なうときに標準的データセットとなる。このデータは、広く公開し多くの研究に供する。
臨床的観点からの成果
震災後3年以上に渡って、被災地のメンタルヘルスを震災が大きかった保育所コホートを経時的に追うことができた。その結果、震災3年後でも、問題行動スコアは正常化せず、震災のこころへの影響は非常に長期に存続することを明らかにした。今後の災害小児保健への示唆は大きい。
ガイドライン等の開発
全国自治体の産科領域の災害時対応は未整備であることが判明したため、避難所における妊産婦との情報共有マニュアル」を作成・配布した。更に「情報共有を主眼としたネットワーク図」を作成・配布を行なった。
その他行政的観点からの成果
東日本大震災の1年後から4年間にわたり、大震災の小児保健への影響を、小児医療機関、小児の成長、小児のメンタルヘルス、産科医療機関、などの多方面から行なった調査研究はこれまでに無く、今回のまとめた報告書は、今後の災害時の小児保健行政を考える上で貴重なデータとなる。
その他のインパクト
 「家族と健康」第746号(平成28年5月1日)4-5頁「東日本大震災被災地の小児保健に関する調査研究」、一般社団法人日本家族計画協会

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
千田勝一 淵向透 石川健 三浦義孝 岩田欧介 松石豊治郎 江原柏陽 中村安秀
岩手県被災地における小児保健医療体制の構築と課題
小児保健研究 , 73 , 201-203  (2014)
原著論文2
千田勝一 淵向透
岩手県における大震災の小児医療総括
日本小児科学会雑誌 , 118 , 1768-1770  (2014)
原著論文3
千田勝一
東日本大震災における初期対策と課題
日本小児科学会雑誌 , 118 , 1776-1783  (2014)
原著論文4
Nishigori H Sugawara J Obara T Nishigori T Sato K Sugiyama T Okamura K Yaegashi N
Surveys of postpartum depression in Miyagi Japan, after the Great East Japan Erthquake
Archives of Women's Mental Health , 17 , 579-581  (2014)
原著論文5
Fujiwara T Yagi J Homma H Mashiko H Nagao K Okuyama M GEJE FC study team
Clinically significant behaviour problems among young children 2 years after the Great East Japan Earthquake.
PlosOne , 9 (1) , e109342-  (2014)
原著論文6
増子博文
福島県の災害とこどもへの支援
トラウマチック・ストレス , 12 (1) , 22-27  (2014)
原著論文7
田中総一郎
障害のある子どもたちの防災対策
はげみ , 359 , 5-11  (2014)
原著論文8
Ono A, Isojima T, Yokoya S, Kato N,et. al.
Effect of the Fukushima earthquake on weight in early childhood: a retrospective analysis.
BMJ Paediatr Open. , 2 (1) , e000229-  (2018)
doi: 10.1136/bmjpo-2017-000229.
原著論文9
Yokomichi H, Matsubara H, Ishikuro M, Kikuya M,, et al.
Impact of the Great East Japan Earthquake on Body Mass Index, Weight, and Height of Infants and Toddlers: An Infant Survey.
J Epidemiol. , 28 (8) , 237-244  (2018)
doi: 10.2188/jea.JE20170006.
原著論文10
Isojima T, Yokoya S, Ono A, Kato N,, et al.
Prolonged elevated body mass index in preschool children after the Great East Japan Earthquake.
Pediatr Int. , 59 (9) , 1002-1009  (2017)
doi: 10.1111/ped.13340.
原著論文11
Ishikuro M, Matsubara H, Kikuya M, Obara T, et al.
Disease prevalence among nursery school children after the Great East Japan earthquake.
BMJ Glob Health. , 2 (2) , e000127-  (2017)
doi: 10.1136/bmjgh-2016-000127.
原著論文12
Kikuya M, Matsubara H, Ishikuro M, Sato Y, et al.
Alterations in physique among young children after the Great East Japan Earthquake: Results from a nationwide survey.
J Epidemiol. , 27 (10) , 462-468  (2017)
doi: 10.1016/j.je.2016.09.012.
原著論文13
Matsubara H, Ishikuro M, Kikuya M, Chida S, et al.
Design of the health examination survey on early childhood physical growth in the Great East Japan Earthquake affected areas.
J Epidemiol. , 27 (3) , 135-142  (2017)
doi: 10.1016/j.je.2016.03.001.
原著論文14
Zheng W, Yokomichi H, Matsubara H, Ishikuro M, et al.
Longitudinal changes in body mass index of children affected by the Great East Japan Earthquake.
Int J Obes (Lond). , 41 (4) , 606-612  (2017)
doi: 10.1038/ijo.2017.6.
原著論文15
Yokomichi H, Zheng W, Matsubara H, Ishikuro M, et al.
Impact of the great east Japan earthquake on the body mass index of preschool children: a nationwide nursery school survey.
BMJ Open. , 6 (4) , e010978-  (2016)
doi: 10.1136/bmjopen-2015-010978.
原著論文16
Matsubara H, Ishikuro M, Kikuya M, Chida S, et al.
Design of the Nationwide Nursery School Survey on Child Health Throughout the Great East Japan Earthquake.
J Epidemiol. , 26 (2) , 98-104  (2016)
doi: 10.2188/jea.JE20150073.

公開日・更新日

公開日
2016-07-21
更新日
2021-06-03

収支報告書

文献番号
201506004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
50,000,000円
(2)補助金確定額
43,269,000円
差引額 [(1)-(2)]
6,731,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,128,251円
人件費・謝金 14,545,053円
旅費 3,758,772円
その他 9,299,032円
間接経費 11,538,000円
合計 43,269,108円

備考

備考
自己資金

公開日・更新日

公開日
2018-06-01
更新日
-