食中毒菌の検出方法、食品汚染の実態とその制御に関する研究

文献情報

文献番号
199800480A
報告書区分
総括
研究課題名
食中毒菌の検出方法、食品汚染の実態とその制御に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
熊谷 進(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 安居院宣昭(国立感染症研究所)
  • 小沼博隆(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 井上 智(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成10年度の本研究の目的は、我が国において現在、腸管出血性大腸菌食中毒原因菌としてO157:H7についで頻度の高く見いだされているO26に
ついて食品からの検出方法として妥当な方法、損傷を受けたO157:H7菌の食品からの検出方法、卵からのサルモネラの検出のための増菌方法等の検
出方法に関する知見を得ること、食中毒細菌のコントロールに関して、イエバエの食品に対する嗜好性、鶏卵内容物中におけるサルモネラ増殖条件
の指標、調理器具の洗浄方法、水耕栽培野菜種子の保管における腸管出血性大腸菌とサルモネラの生残等を明らかにすること、市販食品のリステリ
ア汚染実態を明らかにすることにある。
研究方法
1.食品からの分離において重要な過程である増菌培養の方法に注目し、O26検出方法の検討を以下の手順で行なった。即ち、TSB、modified TSB (mTSB)、
バンコマイシン・セフィキシム・セフスロジン添加 mTSB (mTSB-VCC)、セフィキシム・亜テルル酸カリウム・バンコマイシン添加 TSB 、ノボビオシン添加 mEC (mEC+n) の各増菌培地9ml にカ
イワレ大根または牛肉抽出液1ml を添加しO26を約10個接種してから、37 および42 ℃の温水中で6または18時間培養後、培養液をノボビオシン添加レイ
ンボーアガーに塗布した(直接分離法)。O26コロニーの確定はO26血清による凝集反応によって行なった。また、上記増菌培地の成績の良かったものについ
てはカイワレ大根と牛挽肉25gを用いてストマッカー袋内における増菌を行ない、免疫磁気分離法 (IMS) も組み合わせて検討した。
2.大腸菌0157:H7を純水中で冷凍保存することにより凍結損傷菌を作成し、その凍結損傷O157:H7 菌を肉、魚介類食品、野菜、果実等種々
の食品に摂取してから、各食材からの菌の分離を試みた。
3.イエバエ雌成虫を用い、ケージ内に食品を設置し、それらを摂食する行動を経時的に観察することによって、イエバエの各種食品に対する嗜好
性を解析した結果、選択嗜好性が認められ、握り寿司のイクラとマグロ、キャベツの千切り、カイワレ大根、ゆでサツマイモ、ゆでカボチャ等の食
品に特に強い嗜好性を示した。また、ゆでジャガイモの表面および中心部の温度をモニターすることによって摂食行動の温度依存性を調べた。
4.産卵後日数の異なる鶏卵の内容物をシャーレに割入れてから、卵黄に近接した位置の卵白中にサルモネラを摂取した後、種々の温度下で保存し
た後に菌数の変化を調べた。
5.卵からのサルモネラの検出のための各種増菌方法を、イムノビーズの効果も含め、サルモネラ接種液卵検体からサルモネラを検出することによ
って比較検討した。
6.調理器具洗浄用の市販スポンジを非病原性大腸菌液に浸せきすることによって汚染させた後に、種々の洗浄方法による洗浄効果を残存菌数を
測定することによって比較した。
7.水耕栽培野菜である小松菜とカイワレ大根の種子を腸管出血性大腸菌0157およびサルモネラ菌液に浸せきすることによって汚染させた後
に種子を乾燥させてから、4℃下で保存した後の菌の消長を調べた。
8.長野、神奈川、新潟、埼玉の各県および都内の小売り店鋪から各種食品について、リステリア菌の検出とMPNの測定を行った。
結果と考察
1.O26を約10個接種した牛挽肉抽出液の場合はTSB、modified TSB (mTSB)、バンコマイシン・セフィキシム・セフスロジン添加 mTSB (mTSB-VCC)、セフィキシム・亜テルル
酸カリウム・バンコマイシン添加 TSB 、ノボビオシン添加 mEC (mEC+n) のいずれの増菌培地でもO26を分離できたが、カイワレ大根抽出液の場合はmTSB-VCCで分離
が不良であった。O26を接種した牛挽肉25gを用いた実験では、直接分離方法の場合には37℃培養よりも42℃培養の方が検出率が高い傾向が認めら
れ、42℃18時間培養については培地間の差異は見られなかった。IMSを用いた場合にはTSB37℃6時間培養によって最も高い検出率が得られた。カイワ
レ大根の場合は直接分離法ではほとんど分離できなかったが、IMSを用いるとmEC+n42℃18時間培養によってのみ全検体から分離できた。以上より、
食品からのO26分離には食材によってはTSBでの37℃6時間培養が優れているが、食材を特定せずに検出する場合にはmEC+n42℃18時間培養が効果
的な増菌方法であると考えられた。
2.凍結損傷O157:H7 を接種した食材からは、ノボビオシン添加 mEC (mEC+n)増菌方法によって菌を検出することができなかったが、食材を3時間室温
下に置いた後に増菌を行うことによって、野菜ジュース等の酸性食品以外の食材からは検出可能となった。これら酸性食品からは、非選択培地に3
時間浸した後に増菌することによって検出できることが判った。
3.イエバエの各種食品に対する嗜好性を解析した結果、選択嗜好性が認められ、握り寿司のイクラとマグロ、キャベツの千切り、カイワレ大根、
ゆでサツマイモ、ゆでカボチャ等の食品に特に強い嗜好性を示した。摂食行動の温度依存性を調べた結果、表面温度45℃以下で摂食行動を示した。
4.鶏卵内容物中におけるサルモネラ増殖条件の指標として、内容物をシャーレに割り入れ、卵黄に近接した位置の卵白中にサルモネラを摂取し
てから、18℃3日間保存した後の菌数の増加を用いる方法が妥当であることが判った。
5.卵からのサルモネラの検出のための増菌方法をサルモネラ接種検体を用いて比較検討した結果、一般生菌数が非常に高い検体については一次増
菌EEM二次増菌SBGの方法が、一次増菌BPWと二次増菌TTまたはRVよりも検出率が高いことが認められたが、他の検体については同程度であった。
イムノビーズの効果は小さかった。
6.調理器具洗浄用のスポンジを大腸菌液で汚染させた後に、種々の洗浄方法による洗浄効果を比較した結果、水洗のみでも菌数は1/1000
以下に減少、市販の洗剤または塩素水中で一晩浸せきによって検出限界以下にまで減少することが認められた。今後、食材成分等による汚染条件下
での検討が必要。
7.水耕栽培野菜である小松菜とカイワレ大根の種子を腸管出血性大腸菌0157およびサルモネラに汚染させた後に、4℃下で保存した後の菌
の消長を調べた結果、0157はカイワレ大根中で20週目まで生残し、サルモネラはいずれの種子でも16ー20週間保存後に生残していた。
8.食品のリステリア菌汚染実態調査を行った結果、牛挽肉、豚挽肉、鶏挽肉、生食用魚介類食品、スモークサーモン、野菜からそれぞれ14.
6%、20.6%、44.4%、3.3%、5.4%、0%の頻度で検出され、このうち生食用魚介類食品の中には110/g(MPN)より多い菌数
を含む検体があったが、スモークサーモンはいずれも比較的低い菌数であった。
結論
腸管出血性大腸菌O26について食品からの検出方法、損傷を受けたO157:H7菌の食品からの検出方法、卵からのサルモネラの検出のための増菌方法
を見いだした。イエバエの食品に対する嗜好性、鶏卵内容物中におけるサルモネラ増殖条件の指標、調理器具の洗浄方法、水耕栽培野菜種子の保管
における腸管出血性大腸菌とサルモネラの生残等食中毒細菌のコントロールに役立つ新しい知見を得た。我が国の市販食品のリステリア汚染実態を
明らかにした。

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