子どもの貧困の実態と指標の構築に関する研究

文献情報

文献番号
201501009A
報告書区分
総括
研究課題名
子どもの貧困の実態と指標の構築に関する研究
課題番号
H26-政策-一般-005
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 彩(首都大学東京 都市教養学部 人文・社会系)
研究分担者(所属機関)
  • 竹沢純子(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
  • 田宮遊子(神戸学院大学 経済学部)
  • Movshuk Oleksandr(モヴシュク オレクサンダー)(富山大学 経済学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
6,468,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本プロジェクトの目的は、既存の公的統計データを用いた子どもの貧困指標(群)を提案することにある。本研究では、OECD定義のみではなく、さまざまな定義、さまざまなデータを用いた子どもの貧困率の推計を行うことにより、これらの課題を明らかにし、それらの解決策を模索する。また、相対的貧困率を補完する公的統計(例:高等教育への進学率、就学援助費の受給率等)を網羅的に調査し、子どもの貧困指標セットの候補となる統計データをリストアップする。
研究方法
平成27年度は、1)昨年度に検討した「子どもの貧困指標-研究者からの提案」の公表(7月)、2)②経済危機前後における子どもの貧困の動態の要因分析、2)③イギリスにおける「子どもの貧困対策法」の動向と子どもの貧困指標をめぐる政治的な動きについてヒアリングを行った。また、次年度に実施する青少年(16~22歳)の貧困調査の調査設計・調査票印刷・対象自治体との交渉・対象者の抽出を行った。2)においては、厚労省「国民生活基礎調査」の所得データを用いて2008-9年の世界的経済危機の前後の子どもの貧困率の変化とその要因について分析を行った. 最後に、子どもの貧困の実態に関する調査の準備作業(調査票の設計、対象自治体との交渉や共同研究協定の締結、対象者の抽出)を行った。
結果と考察
1)については、「子どもの貧困指標-研究者からの提案」を構築し、公表した。本指標群は、13の統計データからなる。経済(生活)分野、教育分野、健康分野における既存統計において子どもの貧困をモニタリングするのに適している指標を選定した。7月に公表し、シンポジウムを開催して普及に努めた。

2)については、分析の結果、2006年から2012年への貧困率の増加・減少は非正規労働者しかいない世帯の増加や失業の要因というよりも、比較的に労働市場の周辺に位置する(既に)非正規労働の世帯の貧困率の上昇、正規で働く母子世帯の貧困率の上昇が大きいことがわかった。
結論
既存の公的統計データを用いた子どもの貧困指標(群)については、最終年度にて、これらを実際に計測し、時系列の計測が可能なものについては貧困の動向を探る。
 2006年から2012年への子どもの貧困率の動態分析では、一般に言われているように非正規雇用や無職の世帯の「増加」が要因というよりも、すでに非正規雇用である世帯や正規で働く母子世帯の所得の減少による要因の重要性が指摘される。また、子ども手当のような潤沢な給付が子どもの貧困率の低下に相当影響があることがわかった。
また、指標という観点からは、2008-9年の経済危機のように世界的に各国の経済が縮小し、所得が減少したときには、固定貧困率による貧困の動態把握が不可欠であることが明らかとなった。
さらに、同居世帯の分析などからは、貧困の現象が、成人した子どものいる世帯など、かつて想定されていなかった世帯タイプにも広がっていることが示唆される。
 諸外国からのヒアリングからは、これらの貧困指標が公的に認知されるようになるまでに必要な政治的プロセスの課題が明らかになった。また、アメリカのヒアリングにあるように、現物給付やサービス給付などの貧困対策による効果を把握するためには、非金銭的指標の開発も欠かせない点が改めて確認された。本プロジェクトにおいては、EUで用いられる剥奪指標の概念を用いた非金銭的指標の開発も同時に進められており、本年度はその構築のために必要な予備調査が行われた。これを基に、子どもの剥奪状況を把握する本調査を平成27・28年度に実施する予定である。

公開日・更新日

公開日
2016-11-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201501009Z