HLA不適合血縁者間移植の治療成績を向上し、造血器疾患治療における位置づけを明らかにするための研究

文献情報

文献番号
201441014A
報告書区分
総括
研究課題名
HLA不適合血縁者間移植の治療成績を向上し、造血器疾患治療における位置づけを明らかにするための研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
神田 善伸(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 啓恭(兵庫医科大学)
  • 田中 淳司(東京女子医科大学)
  • 高橋 義行(名古屋大学大学院)
  • 前田 嘉信(岡山大学病院)
  • 森田 智視(京都大学大学院医学)
  • 熱田 由子(名古屋大学大学院医)
  • 栗田 尚樹(筑波大学医学医療系)
  • 賀古 真一(自治医科大学 医学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 難治性疾患等実用化研究(免疫アレルギー疾患等実用化研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,690,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HLA適合ドナーがいない患者のためにHLA不適合血縁者間移植が開発されている。国内では体外でのT細胞除去を行わない(非T細胞除去)独自のHLA不適合移植方法に関する世界の最先端の開発研究が行われている。本研究では様々な方法で行われているHLA不適合移植の利点、欠点を明確にするとともに、臍帯血移植との優劣についても評価し、さらにHLA不適合移植の治療成績を改善するための基礎的な研究、医療費、薬剤の保険適応外使用の対策、ガイドラインの発表を含め、包括的な研究を行う。
研究方法
平成26年度は、後述する様々な手法によるHLA二抗原以上不適合移植法の臨床試験を継続している。さらに、既に日常診療として行われているHLA一抗原不適合移植の治療成績の向上や、移植後の免疫回復の促進をめざした臨床試験も開始した。非介入の臨床研究としては造血細胞移植学会データベース用いた大規模な移植成績の解析を行った。基礎研究ではHLA不適合移植後の最大の問題である免疫回復の遷延について、各種ウイルスに対する細胞傷害性T細胞のT細胞受容体レパトア解析や、マウス慢性GVHDモデルにおけるIL-23 p40 抗体の有効性の解析などの多彩な研究を行った。
結果と考察
 強力免疫抑制剤を併用したHLA不適合移植は体内T細胞除去薬をサイモグロブリンに変更し、その投与量を徐々に減量する臨床試験に移行している。アレムツズマブを用いたHLA不適合移植は医師主導治験が終了し、アレムツズマブ減量の自主臨床試験を開始した。移植後シクロホスファミドを用いるHLA不適合移植は筑波大学の臨床試験として進行している。また、HLA一抗原不適合血縁者間移植において少量のサイモグロブリンを使用する前方視的臨床試験を日本造血細胞移植学会主導研究として開始した。
 後方視的研究については、まず再生不良性貧血に対して同種移植を行った症例の解析が行われた。臍帯血移植後の一症例に生着不全がみられたが、移植後シクロホスファミドを用いたHLA不適合血縁者間移植によって生着が得られた。造血細胞移植学会のHLA-WGのデータベース解析ではHLA一抗原不適合血縁者間移植の問題点としてGVHDの発症頻度が高いこと、そして抗ヒト胸腺細胞抗体を用いることで生存率が改善する傾向にあることを見いだした。
熱田らは造血細胞移植登録一元化データベースの整備および統計解析変数作成用スクリプトを更新し、データベース解析の促進に貢献している。統計ソフトウェア開発についてはマウス操作だけで一般的な名義変数、連続変数、生存期間の解析に加えて、移植領域の統計解析で必須となる時間依存性変数を扱う解析や競合イベントを扱う解析が実行できるソフトウェア(EZR)が完成し、自治医科大学附属さいたま医療センターのホームページで無料公開している。このソフトウェアを紹介する論文が造血細胞移植領域のTop journalであるBone Marrow Transplantation誌に掲載され、平成27年3月時点で既に120編以上の英文論文に引用されている。
特異的免疫能の評価系についてはサイトメガロウイルスおよびEBウイルスに特異的に働く細胞傷害性T細胞をテトラマーによって同定する系が確立された。また、マウスの慢性GVHDモデルにおいて、alternative Th17およびTh1細胞の両方を抑制する目的で、 IL-12/IL-23 p40 抗体の有効性を検討したところ、p40 抗体はTh17がalternativeからより免疫抑制性なclassical Th17にシフトさせることにより慢性GVHDを軽減させることが示唆された。ヒトに対するp40 抗体は、Ustekinumabとしてクローン病や乾癬に対する臨床試験の結果が報告されており、慢性GVHDへの臨床応用が期待される。
結論
本年度も前方視的臨床試験、後方視的臨床研究、基礎的研究のいずれにおいても順調な進捗を示している。HLA二抗原以上不適合の血縁ドナーは95%以上の患者が有するため、本研究でHLA不適合移植の有用性を明らかにすることで、将来的には骨髄バンク、さい帯血バンクのドナープール拡大の負担を軽減することが期待できる。また、様々なHLA不適合移植法の利点、欠点を明確にするとともに、臍帯血移植との優劣についても評価し、診療現場での治療選択に役立つ情報を提供する。医療経済的な観点からも比較することによって、社会と適合した健全な移植医療の発展が期待される。多彩な造血幹細胞移植のソースが使用可能となり、移植適応についてもより明確にしていく必要があるため、ガイドラインを作成することによって幅広く情報を発信する。不必要な移植医療の削減は、倫理的観点のみならず、医療費の観点からも重要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-06-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201441014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
サイトメガロウイルスおよびEBウイルスに特異的に働く細胞傷害性T細胞をテトラマーによって同定し、さらに単一細胞に分離した上でT細胞受容体レパトアを解析する系を確立した。また、マウスモデルにおいてalternative Th17およびTh1細胞の両方を抑制する目的でIL-12/IL-23 p40 抗体の有効性を検討した。p40 抗体を投与した群では、臨床的かつ病理組織学的に慢性GVHDが有意に軽減された。ヒトに対するp40 抗体であるUstekinumabの慢性GVHD治療への応用が期待される。
臨床的観点からの成果
様々な方法を用いた体外T細胞非除去HLA二抗原以上不適合移植法の臨床試験を進行している。HLA一抗原不適合移植についても日本造血細胞移植学会の主導研究として全国多施設共同研究を開始した。進捗状況は良好である。また、日本造血細胞移植学会データベースを用いた解析についても日常診療にすぐに還元される成果が得られた。独自の統計解析ソフトウェアの開発により、今後はさらに解析が促進されることが期待できる。
ガイドライン等の開発
研究代表者の神田、研究分担者の一戸らが平成21年8月に公表した「日本造血細胞移植学会HLA不適合移植ガイドライン」について、同学会ガイドライン委員会と共同での改訂を進めている。
その他行政的観点からの成果
HLA二抗原以上不適合の血縁ドナーは95%以上の患者が有するため、本研究でHLA不適合移植の有用性を明らかにすることで、将来的には骨髄バンク、さい帯血バンクのドナープール拡大の負担を軽減することが期待できる。また、様々なHLA不適合移植法の利点、欠点を明確にするとともに、医療経済的な観点からも比較することによって、社会と適合した健全な移植医療の発展が期待される。
その他のインパクト
2017年5月10日読売新聞夕刊でハプロ移植について紹介。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
79件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
28件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Y Kanda et al.
Changes in the Clinical Impact of High-Risk Human Leukocyte Antigen Allele Mismatch Combinations on the Outcome of Unrelated Bone Marrow Transplantation
Biol Blood Marrow Transplant , 20 , 526-535  (2014)
doi: 10.1016/j.bbmt.2014.01.003.
原著論文2
S Fuji, A Atsuta, Y Kanda et al.
Impact of HLA allele mismatch on the clinical outcome in serologically matched related hematopoietic SCT
Bone Marrow Transplantation , 49 , 1187-1192  (2014)
doi: 10.1038/bmt.2014.141.
原著論文3
H Nakasone, Y Kanda et al.
Single-cell T-cell receptor-b analysis of HLA-A*2402-restricted CMV- pp65-specific cytotoxic T-cells in allogeneic hematopoietic SCT
Bone Marrow Transplantation , 49 , 87-94  (2014)
doi: 10.1038/bmt.2013.122.
原著論文4
S Mizuta, A Astuta, J Tanaka et al.
Pretransplant administration of imatinib for allo-HSCT in patients with BCR-ABL–positive acute lymphoblastic leukemia
BLOOD , 123 (15) , 2325-2332  (2014)
doi: 10.1182/blood-2013-11-538728.
原著論文5
K Takeda, S Morita.
Incorporating Historical Data in Bayesian Phase I Trial Design: The Caucasian-to-Asian Toxicity Tolerability Problem
Therapeutic Innovation & Regulatory Science  (2015)
原著論文6
Kako S, et al.
HLA-mismatched haploidentical transplantation using low-dose anti-thymocyte globulin (ATG: thymoglobulin).
Hematology , in press , in press-  (2017)
原著論文7
Ikegame K, et al.
Unmanipulated haploidentical RIST using fludarabine, busulphan, a low dose ATG and steroid for patients in non-CR or high risk of relapse: a prospective multicenter phase I/II study in Japan.
Biol Blood Marrow Transplant , 21 , 1495-1505  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-06-12
更新日
2018-06-06

収支報告書

文献番号
201441014Z