たばこ由来の化学物質の曝露状況の標準的な測定法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201439016A
報告書区分
総括
研究課題名
たばこ由来の化学物質の曝露状況の標準的な測定法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
稲葉 洋平(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 欅田 尚樹(国立保健医療科学院 生活環境研究部 )
  • 緒方 裕光(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター)
  • 伊藤 加奈江(戸次 加奈江)(国立保健医療科学院 生活環境研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2005年にWHOたばこ規制枠組条約(FCTC)が発効し,これを受け我が国では,健康日本21(第二次),健康増進法,がん対策基本法に基づいてたばこ対策を進めている。たばこ製品には,約8000種類の化学物質と70種類の発がん関連物質が含まれており,海外では,化学物質の含有量規制,情報開示の義務化をたばこ産業自らに求める枠組みが定着してきている。一方で,我が国では,最新の科学的証拠に基づいたたばこ製品の規制対策は遅れている。この課題を解決する方法として,FCTC第9,10条はたばこ製品の有害化学物質の規制・情報開示の実行が求められている。本研究は,これまで我が国で未実施のFCTC第9,10条に基づいたWHO たばこ研究室ネットワーク(TobLabNet)との共同研究を行うことによって,たばこ煙中の有害化学物質分析法の標準作業手順書(SOP)を作成する。国産たばこ銘柄にも一部適用することによって,我が国のたばこ製品規制とその情報開示政策の資料として提示することを目的とした。
研究方法
(1)たばこ葉中アンモニアのラウンドロビン研究:5種類のたばこ試料の前処理を行い,イオンクロマトグラフィーでアンモニア分析を行った。また,アンモニア分析用試薬を利用し,簡便なアンモニア分析法の確立も行った。
(2)たばこ主流煙中「カルボニル類・揮発性有機化合物」の分析法開発のために,カートリッジホルダーの試作を行った。
(3)たばこ製品中のニコチン,たばこ主流煙中の揮発性ニトロソアミン分析法の確立を行った。
(4)紙巻きたばこのフィルター通気率の分析を行い,低タール低ニコチンたばこの調査を行った。
結果と考察
(1)たばこ葉中アンモニアのラウンドロビン研究を行い,分析結果をWHO TobLabNetへ送付した。今後,世界各国のデータをもとに分析法の評価が実施され,SOPとして発表される計画である。また,簡便なアンモニア分析法の開発も同時に行った。この分析法とイオンクロマトグラフィーの分析結果を比較したところ,相関係数が0.987であり,傾き(回帰係数)が0.966と良好な結果が得られた。(2)たばこ主流煙の「カルボニル類・揮発性有機化合物」の分析法開発を行っており,今年度はこれら化学物質を捕集するカートリッジを喫煙装置に設置するためのカートリッジホルダーを試作した。開発したホルダーはTobLabNetに採用され,2015年4月からプレバリデーションテストで確認されることになった。(3)手巻きたばこの材料となる刻みたばこ成分(たばこ葉中のニコチン)の分析結果が、「平成26年度税制改正(租税特別措置)要望事項」No.6 国民の健康の観点からたばこの消費を抑制することを目的とした、たばこ税の税率の引上げの根拠として利用された。(4)喫煙者に誤解を招く低タール・低ニコチンたばこの原因は,吸い口部フィルターに設けられた通気孔であると報告されているが,国産たばこ製品の通気孔の調査はこれまでに実施されてはなかった。そこで低タール・低ニコチンたばこ56銘柄のフィルター通気率を分析したところ,通気率は73.1~90.5%であった。ニコチン量が高いSeven Stars(1.2 mg)は、通気率が0.5%であったことを考慮すると低タール・低ニコチンたばこのフィルター通気孔が主流煙を希釈する根拠の一因であると考えられた。(5)2014年10月に第6回の会議(COP6)がロシア,モスクワで開催され,FCTC第9,10条に関する新たなたばこ製品規制研究の必要性が求められた。今後は,次の事項を測定するための標準化された試験方法の開発はTobLabNetが優先されるべきであるとされた。a) カドミウムおよび鉛の含有量,b) 水たばこの煙中のニコチン,c) 無煙たばこ製品中のニコチン,TSNA,ベンゾ[a]ピレンが挙げられた。また,上記課題に加えて魅惑性により間違った誘導や人を欺くような印象を増加させる観点から,特殊なたばこ製品の特徴(スリム/スーパースリムデザインのたばこ,フィルター通気率,フィルター中にメンソールカプセルを封入した新規フィルターデザイン)について調査が必要である。
結論
本研究は,WHO TobLabNetと共にたばこ製品の有害化学物質の分析法を開発し,その有害性を明らかにしている。また,SOPをもとに我が国においてFCTC第9,10条に基づいたたばこ製品の規制を中心としたたばこ政策を実施するためには,国産たばこ銘柄の有害化学物質の分析結果を広く公開し,その重要性を訴える必要がある。たばこ産業は,毎年,新しいたばこ製品を次々と市場に発表している。国内で最大の健康阻害要因であるたばこに関して,その有害性成分の調査研究を継続して積み重ねていくことが必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201439016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
我が国では、最新の科学的証拠に基づいたたばこ製品の規制対策は遅れていた。本研究は、WHOたばこ研究室ネットワーク(TobLabNet)に参画し、各有害化学物質の分析法を開発し、標準作業手順書を作成している。当該年度は、たばこ葉中アンモニア量のラウンドロビン研究を実施した。さらに、ニコチン表示量が低いたばこの吸い口フィルター通気率の実態調査を行ったところ、71.1~90.5%であった。よってニコチン表示の低いたばこは、主流煙がフィルター通気孔で希釈されていた。
臨床的観点からの成果
喫煙による健康影響を引き起こす最大の要因は,たばこ製品に含有される有害化学物質と喫煙時に発生する有害化学物質である。この有害化学物質の分析法を開発し、これら化学物質を規制することによって、たばこが原因である疾病と早死を減少させられる。同時にたばこ製品の「依存性」と「魅惑性」も規制することでより効果的になる。
ガイドライン等の開発
現在、WHO TobLabNetと開発している各種有害化学物質の標準法が、FCTC第9,10条のガイドライン作成に貢献する。我が国におけるガイドライン等の開発はありません。
その他行政的観点からの成果
本研究班で確立された分析法をもとに電子たばこ製品の有害化学物質の調査が行われた(厚生科学審議会・地域保健健康増進栄養部会「たばこの健康影響評価専門委員会」に報告)。
本研究成果をもとに喫煙の健康影響に関する検討会編「喫煙と健康 -喫煙の健康影響に関する検討会報告書–」第2節 たばこ煙の成分と生体影響のメカニズム 1.たばこ煙の成分が作成された。
その他のインパクト
特にありません。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
伊豆 里奈, 内山 茂久, 戸次 加奈江 他
固体捕集管を用いた国産タバコ主流煙中の揮発性有機化合物,カルボニル化合物の同時捕集とGC/MS,HPLC分析
分析化学 , 63 (11) , 885-893  (2014)
原著論文2
稲葉 洋平, 大久保 忠利, 内山 茂久 他
個人輸入たばこ及び同銘柄の国産たばこに含まれるタール・ニコチン・一酸化炭素及びたばこ特異的ニトロソアミンの分析
日本衛生学雑誌 , 69 (3) , 205-210  (2014)
原著論文3
稲葉 洋平, 内山 茂久,欅田尚樹
我が国におけるたばこ規制枠組み条約第9,10条「たばこ製品の成分規制とたばこ製品の情報開示関する規制」に基づいたたばこ対策の必要性
日本衛生学雑誌 , 70 (1) , 15-23  (2015)
原著論文4
稲葉洋平,内山茂久,戸次加奈江,欅田尚樹
「FCTC第9,10条 たばこ成分規制と情報開示」の実施
保健医療科学 , 64 (5) , 448-459  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
2018-06-12

収支報告書

文献番号
201439016Z