口腔がんに対する磁性抗がん治療薬の実用化

文献情報

文献番号
201438125A
報告書区分
総括
研究課題名
口腔がんに対する磁性抗がん治療薬の実用化
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
石川 義弘(横浜市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 藤内 祝(横浜市立大学 医学部 顎額面口腔機能制御学)
  • 青木伊知男(放射線医学総合研究所 分子イメージングセンター)
  • 江口 晴樹(横浜市立大学大学院医学研究科)
  • 浦野 勉(横浜市立大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
重工業における汎用技術を医療転用し、先進的ながん治療技術として再開発する。磁性の評価技術はIHI(株)では長年にわたり、ジェットエンジン材料の開発に利用してきた。その評価対象を金属から、医薬品化合物に転用して開発されたのがEI236である。EI236は、化合物自身が磁性体であり、抗がん剤である。シスプラチンと同等の抗腫瘍効果を持ち、磁場誘導によって、少量で強力な抗がん作用を示す。この技術は、これまでに多数の特許として申請され、我が国独自の強力な特許技術である。舌は突出した数センチの構造物であるため、磁石で挟み込むことが容易である。ウサギ舌癌モデルでは、耳介静脈から投与したEI236を舌に集積可能である。同じ投与量で、舌に電磁石を当てて、治療効果が顕著に増強することが推測された。これはEI236が電磁石によって舌に集められたことにより、局所の薬剤濃度が上昇したためと考えられる。先行する研究成果では、EI236の磁性構造をタキソールに転移する事に成功した。これは結晶構造解析によって明らかとなったEI236の磁性中心をタキソール側鎖に修飾した磁性タキソールである。市販の永久磁石で集積が可能であり、EI236と同様にMRIで可視化できる。そこでEI236を磁性抗がん剤として用いて、舌癌に応用可能な治療法を確立するとともに、タキソールのより強力な磁性化を進め、磁場誘導とMRIによる可視化が可能な薬剤として開発することを目的とした。
研究方法
 重工業であるIHI(株)の材料技術の医療転用により、EI236をはじめとする磁性薬剤化合物が開発された。EI236は、強い抗がん作用を持つだけでなく、マグネタイトに匹敵する強磁性を持ち、磁石で誘導が可能であり、交流磁場印加によって発熱する。さらにMRIの造影剤となることから、悪性黒色腫、骨肉種、扁平上皮癌などの動物癌モデルにおいて有効性が実証されている。本申請においては、EI236の誘導体である磁性タキソールを用いて、集めて(磁場誘導)、確認する(MRI)抗がん治療として開発することを試みた。これまでに舌癌治療に汎用されてきたタキソールの誘導体(磁性タキソール)を用いることにより、実用化を加速させる検討を行った。舌癌モデルにおいては先行化合物であるEI236を用いてウサギ舌癌モデルでの治療を検討した。また磁性化タキソールにおいては、細胞実験でタキソールとの比較を行った。さらにMRIにおける撮像実験では、EI236における撮像効果と磁性タキソールにおける撮像効果を比較検討した。さらに磁性タキソールの臨床開発を考えるうえでの課題検討をおこなった。
結果と考察
舌癌細胞に対してEI236自身がが高い抗がん活性を示すこと、動物モデルでも高い治療効果を示すことがわかった。MRIによる画像解析が可能であること、市販の電磁石による磁場誘導が可能であることも示された。一方でEI236の磁性構造を取り入れることによって磁性タキソールが合成された。磁性化タキソールはタキソールでありながら磁石につく特性を有する。このことは磁性タキソールによってもEI236と同様の舌癌治療ができる可能性を示唆する。我々はまず、磁性化タキソールは、タキソールとしての抗がん活性を有していることが細胞培養実験から確認した。これはがん細胞を培養したうえで、細胞殺傷効果を比較したものである。この比較において、両者の細胞殺傷に必要な薬剤濃度はほぼ同一であった。これから、磁性タキソールはタキソールと同程度の抗がん作用を有すると考えられた。さらにタキソールに特徴的な細胞周期依存性を検討したところ、細胞周期特性に極めて類似性を持つことが分かった。これは、両者の細胞殺傷メカニズムは同様と考えられた。磁性タキソールは、MRIでの撮像が可能であり、市販磁石に容易に吸着可能であることから、抗がん剤としての特性をそのまま有しながら、磁性化したタキソールが合成された。磁場による誘導に関しては、磁場強度がEI236に比べて少ないためヒトにおける誘導では、移動距離が長く最適化が必要である。さらに実用化に向けて、臨床試験の最適化に向けた条件検討を行った結果、磁性タキソールの検討においては、タキソールを参考にしながら、新薬としての申請することが確認された。このことは完全な新薬ではなくとも、磁性化により新規特性を獲得した薬剤として前臨床試験および臨床試験を検討する必要がある。
結論
 磁性タキソールはEI236の磁性特性を活用することにより、既存のタキソールを磁性化することによって得られた新規抗がん剤である。磁性特性などの改良と実用化が可能であり、今後口腔がん治療に大きな進歩をもたらす可能性があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-09-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201438125C

収支報告書

文献番号
201438125Z